「SDGsは道しるべ」ホットマン株式会社代表取締役社長・坂本将之
代表取締役 坂本将之
東京都青梅市にある老舗のタオルメーカー、ホットマン株式会社。日本のタオル業界で唯一、すべての製造工程から直営店での販売まで一貫して自社で行うことができる仕組みを確立しています。
塩素系薬剤や柔軟剤、吸水剤を使用せず、綿本来の力を引き出す独自製法で開発した『1秒タオル』は、その名の通り「水面に浮かべた時、1秒以内に沈み始める圧倒的に高い吸水性」を持ち、環境にも肌にも優しい商品として注目されています。
また、国内初となる日本製フェアトレードコットンタオルの製造・販売、タオルリサイクルプロジェクト等に取り組み、それらの取組みを社会教育の場で発信することで、SDGsの重要性を伝える活動をしています。
今回は、そんなホットマン株式会社の代表取締役社長・坂本様にSDGsへの取組やそのきっかけ・社内の反応についてお話を伺ってきました。
「理念に沿ったものを提供したい」という思いから始まったSDGs
―現在様々な取り組みを展開されていますが、SDGsに取り組み始めたきっかけを教えてください。
(坂本様)「SDGs自体に取り組み始めた」というとあまり明確なものはないですが、2018年に受賞した「第19回グリーン購入大賞」に応募したことがきっかけになりました。
私たちは「創造の精神で商品とサービスを革新し続け、タオル製品を通して一人でも多くのお客様の快適で心豊かな生活に貢献する」という経営理念に沿った企業活動を徹底しています。また、「快適で心豊か」を実現するためには単に機能性が優れているだけじゃなく、安心・安全やエコであることも必要だと考えており、事業をやっていく中で「これってもったいないよね」とか「これって何かに使えるんじゃないか」という風に、自然とやれることをやってきました。
私たちにとっては企業理念に沿って当たり前に取り組んできたことだったのですが、ある方から「それって凄いことじゃないですか、こういう賞があるから応募してみたら?」とグリーン購入大賞を教えてもらいました。そこで募集要項を調べた時に初めて「SDGs」というワードに出会いました。これがきっかけです。
最初は「SDGs」の読み方もわからず、最後のエスだけ小文字なのは、誤植なのかと思いました(笑)
―SDGsが先というより、企業理念に通ずる活動が、SDGsに繋がっていたということなんですね。
(坂本様)そうですね。フェアトレードには2013年に出会いました。当時、私は製造の責任者で、糸の仕入れも担当していました。フェアトレードって、バナナとかコーヒーとかのイメージが強く、自分たちが日々扱っているコットンにも公正でない取引により搾取されている現実があるということにすごくショックを受けました。
そこで当時の経営者に「こんな話があります。我々にもできることだからやりたいです!」と言ったところから、フェアトレードへの取り組みがスタートしました。
―そうだったんですね。しかし、事業として「なるべく安く仕入れる」というのはとても重要です。フェアトレードは手間もコストもかかりますよね。
(坂本様)はい。ただ、私たちは「製販一貫」で商品を提供しています。簡単に言うと、自分たちで作って自分たちで売るという仕組みです。この業界では珍しく、私たちはすべての製造工程を自社で持っており、販売も直営店という形で自社のスタッフが販売しています。
しかも、直営店で販売している商品の8割くらいが定番商品で、ブラッシュアップしながら販売を続け10年を超えている商品もあります。そのためシーズンごとに一斉に商品を入れ替えて、売れ残ったら撤収するといったことがありません。
製販一貫のため、売れたらその分だけ自分たちで補充するという方法で無駄を出さず、ずっと回していくという考え方を適用できるのです。この仕組みによる直営店での販売が中心ですので、本当に価値のある商品、自分たちの理念に沿った商品を提供していこうという考えが強かったです。しかも、フェアトレードは継続的に取り組むことが重要ですので、この点も当社のこの仕組みであれば実現できると思いました。
難しいことを噛み砕いて伝え、自分事として捉えてもらう
―そうした活動の中で周りからの反対はなかったのですか?
(坂本様)フェアトレードへの取り組みに関しては、大きな反対はなかったです。ただ「そんなに数は売れないよ」という意見はもちろんありましたが、元々、数を売るというよりは、まずは取り組むべきだという気持ちでした。
しかしお店を運営する店舗のスタッフからすると「限られた空間に何を置くのか」というのは重要です。商品はたくさんあり、全商品が全店舗に入るわけではありません。そこで「フェアトレード商品を絶対に置きなさい」となると、そのスペースが奪われてしまうと考える人も中にはいたかもしれません。
ただそれ以上になぜ必要なのかというのを伝えていったので、それに対して反対する意見はなかったですね。
―フェアトレードやSDGsを広める上で苦労したことはありますか?
(坂本様)お店は全国にあり、すぐに全員とは対面で話す機会を持てないことです。社内報やメールで発信していますが、やっぱり面と向かって話しをするのとは全然違うんです。ひょっとしたら見ていない人や、流し読みで終わっている人もいるかもしれません。実際に私もこの会社に就職してからみんなと同じ立場にいたので、会社が発信する文章の内容が全部頭に入っているかと言うと……。対面で話すと表情もよく伝わるのですが、全国のお店にいるスタッフとはなかなかそういったコミュニケーションがとれません。本当のところをうまく伝えられたかなという不安がありました。
本社にいるスタッフには、パートさんも含めて全員を多くても10人単位に分けて「SDGsってなに?」という話をしていきました。そんな堅い話じゃなくて、「SDGsって読める?」というところから、どういう意味があるのか、なぜこれが必要なのかというのを説明しました。
―なぜ少人数単位に分けて説明する機会を作ったのですか?
(坂本様)コミュニケーションが得意な人ばかりではありませんし、大人数だとどうしても散漫になってしまいます。伝言ゲームにならないように、全員と直接話した方が伝わると考えました。
―そのような中で、どのようにSDGsが重要だということを伝えていったのですか?
(坂本様)まず、横文字なだけで嫌じゃないですか。「SDGs」って。難しい言葉を自分なりに噛み砕いて、いかに伝えようかと考えることで自分の勉強にもなりました。
やはりSDGsは自分たちの未来に関わる重要なものなので、例えば環境面については「自分たちの子供の世代にひょっとしたら地球はなくなっているかもしれない」ということを話しました。自分と年齢が近い人には、小学生の時のプールの授業を例に挙げたりもしました。
私たちが小学生の頃は、気温が30度ある日にプールの授業があるとすごく喜んだものです。夏でも30度を超える日はそんなにしょっちゅうなかったんですよね。28度の日にプールに入ると、みんな唇が紫色でプルプル震えていましたからね。しかし、たった30年経った今では、最高気温が40度ということがごく普通にある世界になっています。
こういう実体験を掘り起こすと「そうだね、じゃあもう30年経つとどうなるんだろう」と伝わりやすいです。
CO2がいくつになってという話より、自分の子供や孫の時代に生きていけるのかなというように、できるだけわかりやすく、自分事に捉えられるように伝えていきました。
―SDGsを自分事と思えるように、工夫されたんですね。
(坂本様)そうですね。企業として当然利益を生んでいかなければならない中で、会社にとってプラスになったことを伝えていくのもすごく重要だと思います。
例えば、ある企業様がこれまで普通のノベルティを配っていたところを、「SDGsに貢献できるものに変えたい」と考え、弊社の製品をお求めいただき、売り上げにつながりました。
SDGsに懐疑的だった人から「コストがかかるなら、1円でもお給料に回してほしい」という意見も出ましたが、「これに取り組んでいたからこそご注文をいただけて、〇円の売り上げになったんだよ」と数字を出してプラスになったことを伝えると、将来的にはこれが売り上げを生んでいくなら「じゃあちょっとやってみよう」と思ってくれます。
―なるほど。実際にこれから企業として売上を生んでいかなければならないですよね。
(坂本様)当然ながら企業は売上を上げて利益を生んでいかなければいけません。でも、「売上」って売れないんですよ。売れるものは商品とサービスだけなので、そこにどれだけの価値を加えられるかが重要です。結果として売上が出てくるだけなんです。
私が入社した当時の社長からも、売り上げは取るものではなくいただくものなのだから、常に「お客様の快適で心豊かな生活ってなんだろう、自分たちはどうやってそれに貢献できるだろう」っていうのを考え続けなさいと言われてきました。こういった考えがもとからある会社ですね。
この青梅という場所は、鎌倉時代からずっと織物が盛んで、昭和20年代には700ほどの織物工場がありました。それが、繊維産業が廃れていき、今は私たちだけになりました。企業として継続することは、地場産業を伝えていくことや地域に貢献することに繋がります。そのためにも、独自の価値を積み上げていかなければいけません。
―そうした考えが根付いているからこそ、自然とやってきた取り組みが後からSDGsに紐づいたのですね。
SDGsは、判断の軸として機能する「道しるべ」
―御社にとってSDGsとは?
(坂本様)何かSDGsのためにこれやりましょうということも大事ですが、まずは判断の軸としています。何かを選択するとか何かを選ばなければならないことは、日々あると思います。その時にSDGsの視点から考えて、より良い方を選ぶようにしています。
もちろんお金が掛かることなど全てに取り組めるわけではありませんが、少しずつでも、「最終的にこっちに向かっていけばいい」という行動指針になります。SDGsは企業運営にとっても「道しるべ」となり、私たちが進む道を教えてくれているものだと思っています。
―そこまでSDGsを信じられるのにはきっかけがあったのでしょうか?
(坂本様)特別なことがあるわけではありません。ただ、企業は社会対応業だと思っています。例えば我々の生産品目だけでも150年の中で、着物の生地を作っていたところから、布団の生地や洋服の生地も作りました。そうした社会の変化に対応するのが企業だと思います。
社会対応ができない会社はどんな業種であり消えていきます。これからは社会課題の解決と企業価値の向上を同時に実現することが求められる時代です。その中で、それを実現するための世界共通の目標であるSDGsは間違いなく道しるべになります。
そうした社会に対応していかなければ未来は築けないですね。
―そうですね。社会の課題を解決することに企業の存在意義があるとしたら、SDGsに取り組まなければこの先の未来も明るいかはわからないということですね。今までは「SDGsに取り組んでいる会社はとてもすごい会社なんだ」と思っていましたが、今やただ取り組んでいるだけではだめなのだということを学ぶことができました。ありがとうございました。
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SDGsコンパス編集部
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