「漁師さんとの共存共栄を目指して」くら寿司株式会社広報・黒見 繭
広報 黒見繭
大阪府に本社を置く回転寿司チェーン、くら寿司株式会社。
漁業創生や食品ロス削減への取り組み、一船買い、天然魚魚育プロジェクト、新会社「KURAおさかなファーム」でのAIやIoTを駆使した「スマート養殖」の導入による人手不足解消や労働環境の改善、国内初のオーガニックフィッシュの生産など、漁師さんとの共存共栄を目指した、SDGsに関わる事業を積極的に展開しています。
今回は、そんなくら寿司株式会社の広報・黒見様に、SDGsの取り組み内容や導入背景について詳しくお伺いしました。
漁業の未来を考えたSDGsへの取り組み
−SDGsに関してさまざまな取り組みをされていますが、このような取り組みを始めたきっかけを教えてください。
(黒見様)SDGsという言葉がない頃からそういった取り組みを行っていました。
お寿司の命ともいえるお魚をいつまでも美味しく食べられる未来を作りたいというところで、漁業創生や食品ロスの削減につながる取り組みというのをさせていただいています。
日本の漁獲量は、1984年をピークに約1/3まで減少している課題があり、漁師さんの数も年々減ってきて、将来的にはお魚が身近に食べられなくなってしまうとも言われています。
やはり、お魚が獲れなくなってしまうと会社の存続にも関わりますから、漁師さんと協力しながら、仕入れた魚を無駄なく活用し、未来を見据えた活動をしています。
−SDGsという言葉がない頃から漁業の未来を見据えて活動していたのですね。それが結果的にSDGsに繋がっていたと。
上から下まで伝わる想い
−くら寿司さんのそのような想いや活動は社内にどれくらい浸透しているものなのでしょうか?
(黒見様)そうですね。子や孫の代まで日本のおいしい魚を食べられるようにしたいという社長の想いが強くあります。そのため、魚食文化を継続していきたいというのが風土として根付いています。
社員はもちろん、パートさんやアルバイトさんにも業務的なことだけではなく、くら寿司の「もったいないを最小限に」する文化や、漁師さんとの絆というところは研修で伝えているため、くら寿司の想いというところは全体に浸透していると思います。また、新しい取り組みについては社内報で発信することで、定期的に意識付けを行っています。
−社長の想いがしっかりと全体に伝わっているのですね。
「一船買い」と「天然魚魚育プロジェクト」について
−今取り組んでいる活動で最も力を入れている取り組みについて教えてください。
(黒見様)たくさんあるのですが、一通り説明させていただきますね。
大きくは仕入れ時と加工時の取り組みになります。
まず、仕入れ時の取り組みでは、2010年から全国のお客様に日本の美味しい天然魚を食べていただきたいという思いで、「天然魚プロジェクト」というものをスタートしています。
発足当初は、社員が漁港に行って直接目利きをして、仕入れ交渉を行っていました。現在では全国110の漁港・漁協さんとお取引をさせていただいております。この直接の買い付けによってできた独自のルートで仕入れることで、新鮮でおいしいお魚をお客様にご提供できています。
この全国110の港から仕入れている中で、3ヶ所だけ「一船買い」という買い取り方法を行っています。こちらは定置網という漁法で獲れたお魚をすべて丸ごと買い取るものです。
漁業の課題として、漁師さんの高齢化ですとか、あとは若い方の新規参入の減少があります。この若い方が参入しづらい要因の一つに、漁獲量の変動による収入の不安定さがあります。
定置網は様々な魚が獲れるのですが、例えば市場価値が付かない稚魚が獲れてしまうことや、高値が付く魚がたくさん獲れたとしても、過剰に獲れすぎた場合は値崩れしてしまうなど収入の安定が難しいんです。
それをカバーできるように、獲れた魚は種類問わず、当社の方で全量買い取る「一船買い」で漁師さんの収入の安定にも繋がればなと思っております。
−しかし、「一船買い」をした場合に損してしまうのではないでしょうか?
(黒見様)そうですね。毎日何が取れるかわからない、様々な魚を扱うことの難しさが今までどこも大手ができなかったハードルとしてあるのですが、当社は天然魚用の自社加工センターを立ち上げ、加工方法などを試行錯誤することで、さまざまな種類の魚が提供できるメリットに代わるように工夫しています。
加工センターの設置と商品開発の連携により、この「一船買い」の取り組みを進める中で、低利用魚の活用も可能になりました。
低利用魚というのは、実は美味しいのに知名度がなく、一般のスーパーに並ぶことがあまりないようなものです。そういった魚も美味しく食べられる工夫をして寿司ネタとして出せるようにしています。また、仕入れた魚は、寿司ネタになる部分以外も、切り落としや中落部分は、海鮮丼の具材や、すり身にして活用したり、骨や皮など食べられない部分は、魚粉にし、自社で養殖する魚の餌の一部として活用するなど魚の付加価値を高め、漁師さんに還元するような取り組みも行っています。
また低利用魚以外にも、寿司ネタにならないような小さい子供の魚がかかるのですが、市場に出しても価値が付かないことや、一度獲ってしまうと逃がしても弱ってすぐに死んでしまうという課題がありました。
これも専用の養殖の生簀で小さな魚を育てるという「天然魚魚育プロジェクト」という取り組みさせて頂いております。寿司ネタにできるサイズまで育ててから出荷して、お客さまに食べてもらうような取り組みになります。
2019年の10月に第一弾として畜養を開始しまして、一年ほどかけて大体2キロ位まで育て、「魚育はまち」として2020年の11月に試験的に販売させていただきました。
このように、当社としても漁師さんとWin-Winの関係を築けていると思います。
2021年11月に立ち上げた新会社「KURAおさかなファーム」
−新会社では具体的に何をしているのでしょうか?
(黒見様)これも漁業創生に関わる部分なのですが2021年の11月に回転寿司チェーン初の水産専門会社「KURAおさかなファーム」という新会社を設立致しました。
この会社が何をするのかというと1つ目は自社養殖です。
最近は、オーガニック食品の需要が海外で主流になってきていて、国内でも徐々にそういうオーガニックというものが浸透してきています。
これまで、水産物のオーガニック基準がはっきりしていなかったのですが、「株式会社オーガニック認定機構(略称:OCO)」さんがEUなどのオーガニックが進んでいる国の管理基準を基に新たな基準を策定されました。その基準にのっとった形で、ハマチの自社養殖を開始し、日本で初めてオーガニック水産物として認証取得をしました。そして、昨年の12月に「オーガニックはまち」として、全国のくら寿司で販売させていただきました。
2つ目は委託養殖になります。「ウミトロン株式会社」さんが開発した、AIやIoTを活用した「スマート給餌機」による“スマート養殖”を行っています。
養殖事業で一番大変なのが餌やりです。力仕事で、天候が悪くても給餌しないといけないので、危険が伴ったりもするのですが、「スマート給餌機」を導入することで、AIにより魚の食欲を解析し、自動で適切な量とタイミングの給餌が可能になります。
また、スマートフォンを活用することで遠く離れた場所からも給餌の様子が確認できるため、漁師さんの負担を軽減したり、餌のロスを減らすことにも貢献することが期待できます。2021年4月から、愛媛県内でこの「スマート養殖」の実証実験を行い、大手回転寿司チェーンで初めて「AI桜鯛」として商品化しました。
また、この実験結果を受け、このほど愛媛県宇和島市内の養殖業者様3社と契約を結ぶ運びとなりました。そして、今年6月頃から、スマート給餌機を使った、真鯛の委託養殖事業を本格始動します。2024年秋頃に初出荷予定で、くら寿司で扱う養殖真鯛の全体の使用量の約3分の1を充てる計画です。この委託養殖事業は、新規の養殖業者さんにお願いして、お魚を育てていただくという取り組みですが、必要な種苗やスマート給餌機も全て当社でご用意して、養殖業者さんには養殖にだけ力を入れていただきます。そして、育った魚は全て当社で買い取ることで養殖業者さんの収入の安定にも繋がればと思っております。
また、3つ目は卸売りです。オーガニックはまちの卸売りを一部のスーパーでも実施しました。ゆくゆくは魚種も増やし、全国のスーパーへ広げていきたいと思っています。
このような自社養殖や委託養殖で、自社のグループ内で生産から販売まで一気通貫の体制を構築することで、安定した供給量の確保やコスト管理を実現し、お客様により高品質でリーズナブルなお寿司の提供を目指していきたいと思っております。
−新会社ということでチャレンジ精神あふれる、非常に大きいプロジェクトですね。今後の活動もとても楽しみです。
SDGsと、共存共栄を
−最後の質問です。黒見様にとって、これらの「SDGs」の活動の一番のポイントはどのようなものでしょうか?
(黒見様)継続して日本のおいしいお魚を食べていただくために、自社としては漁師さんとの共存共栄が一番ポイントになります。その貴重な水産資源を無駄なく有効活用することで、未来でもお寿司が食べられるようになればいいなと思っています。
−そうですよね。人と人との繋がりがあって自分たちの仕事があります。共存共栄の姿勢について私たちも取り組んでいきたいと思います。
本日は現場の生の声を聞くことができ、とても学びになりました。ありがとうございました。
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SDGsコンパス編集部
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