「助けを求める声を拾い上げて」ファイン株式会社 代表・清水 直子
代表取締役 清水直子
歯ブラシの専門メーカーである、ファイン株式会社。
国内の竹の微粉末を使用したサスティナブルな歯ブラシを筆頭に、ゴミを極力出さないパッケージの簡素化や、全社で日常的に環境問題への取り組みを行うなど、SDGsに関わる活動を積極的に展開しています。
今回は、そんなファイン株式会社の代表・清水様に、SDGsの取り組み内容や導入背景について詳しくお伺いしました。
商品だけではなく、日常の取り組みまで
−御社でのSDGsの取り組みについてお聞きしてもよろしいでしょうか。
(清水様)
当社は「MEGURU」シリーズ「竹の歯ブラシ」を作っておりまして、この歯ブラシの最大の特徴は柄(え)の部分が生分解するPLAという植物性の樹脂に、柄の材料となる竹を自分たちで微粉末にして練り込んでいる点です。特許技術を生かし、サスティナブルな植物を使用することで、廃棄物を燃やしてもCO2排出量は少ないですし、埋めたとしても土に還ります。
この歯ブラシに竹の樹脂を使うようになったのは14年前、2008年になりますね。この「竹の歯ブラシ」を作るということが弊社のSDGsの半分以上を網羅していると言ってもいい商品になります。
パッケージについても、以前は石油を使っていたのですが、今は日本の竹を使った紙に変えて、志を同じくする企業さんと一緒に取り組んでいこうとしているところです。
−「竹の歯ブラシ」を主軸にされているのですね。他にSDGsの社内浸透として取り組んでいることはありますでしょうか。
最初は「SDGsは聞いたことがあるけれど、具体的にいったい何をしたらいいのか」という部分がありまして、外部の勉強会に参加しました。
そこから、社内に落とし込もうということで、SDGsの先生をお呼びして社内でも勉強会をやっています。
みんなでSDGsの17の項目を読み合わせることから始めて、「こういうことが書いてあるんだ」とみんなで理解するところから取り組んでみました。
製品以外では社内は女性が多く、やりたいことがあればチャレンジしてもらうことを意識しています。他にも営業車も廃止して、なるべく公共機関を使うことであったり、社内のキッチンの道具も買い替えなくて済むようフッ素を使わない鉄製のフライパンや、プラスチック不使用のフライ返しを使用しています。
−事業以外にもそこまで取り組んでおられるとは……驚きです。
(清水様)
そうですね。
私たちはどうしても廃棄物を出してしまいますから、お弁当の食べ残しやお茶がら等も全てコンポストして、生ゴミは出さないようにしています。小規模ですが屋上で菜園もやっていて、コンポストしたものを植え込みや植木の土に使って野菜を栽培しています。
自分自身が私生活でこういった取り組みをしていることも関係していますね。
そういう普段の日常から取り組んでいて、社員のみんなにも「SDGsって難しくないんだよ」とわかってもらえると良いなと思っています。
−事業だけではなく、社内整理のところからSDGsに関心が出ているのですね。
決意は助けを求める声から
−SDGsについて、事業だけでなく日常的に取り組んでいるとのことですが、清水様がもともとそういうことに関心があったのでしょうか。
(清水様)
私が20歳の頃に姪が生まれたんですが、アトピーだったんですね。
彼女のために食べ物を買うときには材料を確認するようになって、その時から意識するようにはなりました。
他にも歯ブラシは燃えないゴミとして埋め立てされていた状況などもあり、環境に負荷のかからない素材はないかを探すようになりました。それが25年前で、このときに今の竹の歯ブラシでも使用している「生分解性樹脂」を見つけたんですね。
ただ、当時は耐熱温度の問題などもあり、暑い日だとヘッド部が反り返って、毛が抜けてしまうなどの様々なトラブルがあって、同時期に始めた企業さんが撤退してしまうこともありました。歯ブラシって何気なくブラシが覆われているだけに思われるかもしれませんが、毛が抜けない条件や、柄が折れないための条件が色々あります。だから、技術面での難しさや、コスト・売り上げの問題、実際に機械トラブルが取引先様に起きたこともあり、一度は我々も撤退を視野に入れていました。
−そこから続けるきっかけのようなものがあったのでしょうか?
終売の話を聞いたお客様から「お願いだからやめないでください」という電話をたくさん頂きました。
その方は「化学物質過敏症」だったんですね。そういう方たちは石油系のプラスチックを受け付けないんですが、世に出ているものに石油由来のプラスチックは多いじゃないですか。
印刷物や香料とかも受け付けず、歯ブラシだってラバーが付いているものだと触ることは厳しい。薬剤にも反応してしまうので歯医者さんにも行けないという人がいます。
だから「歯磨きを頑張りたいのに、使える歯ブラシがファインさんのしかない」「100本でも200本でも在庫を全ていただきたい」と言われ、辞めるわけにはいかないと決意しました。
そこから10年以上続けてきて、今に至りますね。
SDGsを紐解いてみると「誰ひとり取り残さない」ということに、私たちの取り組みが当てはまるのではないかと実感しています。
竹の歯ブラシもそうですし、その他にも高齢者の寝たきりの方向けの歯ブラシや、転んでも怪我をしにくいベビー用の歯ブラシなど、誰一人取り残さないで誰もが口腔ケアを気軽にできるような商品を作ってきたと思います。
繋がる事業
−SDGsの勉強会の実施などで社員の方から反発はなかったのでしょうか。
(清水様)
最初こそ、私も言い出しにくかったのですが、言ってみたらみんな「いいですよ」という雰囲気でしたね。内容を知りたかったのでありがたいです、という声もありました。
それでも営業に出てしまっている人や、工場は忙しさに波があることもあって足並みをそろえる面では苦労がありました。「時間を作って欲しい」と言うことに葛藤もありましたしね。
勉強会自体は座学的な勉強の部分に加えて、体験談を聞いたり、SDGsのカードゲーム等で理解を深めていったりすることで、みんな「そういうことだったのか」と顔つきも変わってきていくようでした。
そうやってみんなでSDGsに向けてのベクトルが整ったと思います。
−浸透させる上で気をつけたことはありますか?
(清水様)
言い続けていくことは一つありました。日常的にやり続けないと意味がなく、終わりがないものですから。
だから情報共有として、他社さんではこういった取り組みをしているとか、メールでみんなに配信するなど発信し続けていますね。
解決したいという想い
−「竹の歯ブラシ」など、こういった取り組みを始めて業績的にはいかがだったのでしょうか。
(清水様)
この2年ぐらいは竹の歯ブラシ自体の売り上げは50倍ぐらいになっているかと思います。もとから大きい売り上げではないというところもありますが。
「これ一本で」とはまだまだ言えないですけど、時世もあり、各雑貨品が落ち込んでいる中で健闘してくれています。
業績面以外でも他業種や、同業者さんも興味を持ってくださって、思いがけない方たちとの交流ができるようにもなりましたね。
−取り組み始めた当初からビジネス的な勝算はありましたか。
(清水様)
長期的な見通しがあったわけではなく、ビジネス的な勝算よりはゴミ問題に注視していました。
一時期は依頼もあってアジアの方に歯ブラシの寄付をしていたのですが、よくよく聞いたら歯磨きしていない人たちは使わずに、その歯ブラシを売ってしまうということもあると聞きました。
結果として、現地で処理できないゴミを増やしてしまっているという懸念から最近はお受けしていませんでした。
もっと現地の状況に即した歯ブラシを提供できればよいのですが、難しい問題で、私も日々考えています。
−SDGsやエコ、ゴミ問題をどうにか解決しようという清水様の想いが事業化していったのでしょうか。
(清水様)
そうですね。ただ、竹の歯ブラシに関しては、商品開発段階で耐熱温度が低いことや割れてしまう可能性があると分かった際に商品化は難しいと考えていました。でも当時の経営者である私の母は、次の経営の柱にと考えたのか、正義感のようなものがあったのか、製品化に踏み切ったんですね。
今でも私にはそこまでの勇気はないと思うのですが、母はちゃんと製品として世に出してくれたんですよね。それがあって今の事業に繋がっているところもあると思います。
一人でも多くに伝えていく
−これから行っていきたい目標はありますでしょうか。
(清水様)
竹の歯ブラシはすごく大事にしたい事業ですが、これは本当に広がりを考えられる素材ですので、日本の環境をもっともっとよくできたらと考えています。
環境活動家の方から聞いた言葉ですが、「みんなが実情を知らないことが、実は希望になっている」ということがあります。
みんなが問題を知っていて取り組まないのであれば頭打ちとも言えてしまいますが、「知らなかった人」が実際には結構多いんです。そういう人たちに竹の歯ブラシを通じて、お話をする機会を提供し、一人でも多くの人が環境問題に関心を持って具体的に行動を変えていけたらいいなと考えています。
まだ具体化はできていないのですが、私たちはまだ講演や勉強会に参加する側ですけれど、いつかは私たちで主催した勉強会を開いて一人でも多くの人に伝えたいと思っています。
−ありがとうございます。最後の質問ですが、清水様にとってSDGsとはなんでしょう。
(清水様)
生活の基盤ですね。網羅されていて、何をしていてもSDGsに繋がるようにできています。
だから事業だけではなく、普段の消費活動から取り組むものだと思います。
私たち経営者も力をつけて様々な影響を与えられる仕事をしたいなと思っています。
−本当に気持ちのいいお話をお伺いすることができました。
本日は現場の生の声を聞くことができ、とても学びになりました。ありがとうございました。
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SDGsコンパス編集部
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