「誰もが生まれてきて良かったと思える社会を共に作る」 かものはしプロジェクト 日本事業担当・五井渕 利明 ソーシャルコミュニケーション事業担当・草薙 直基

認定NPO法人 かものはしプロジェクト 五井渕利明・草薙直基
業 種
認定NPO法人 かものはしプロジェクト 五井渕利明・草薙直基

「子どもが売られない世界をつくる」、認定NPO法人かものはしプロジェクト

カンボジアでは現地の女性に雇用と学びの場を提供するコミュニティファクトリーの経営や警察支援、インドではサバイバー(人身売買被害者)に寄りそう活動や社会の仕組みを作る活動、2018年にはカンボジア事業の自立の目標を達成するなど、SDGsに関わる事業を積極的に展開しています。

今回は、そんなかものはしプロジェクト・日本事業担当の五井渕様と、ソーシャルコミュニケーション事業担当の草薙様に活動内容や導入背景について詳しくお伺いしました。

カンボジア、インド、日本、3つの国での活動

−人権問題というところで、子どもや女性を人権侵害から守る活動をされているかと思います。活動がスタートしたきっかけや、各国での活動のきっかけをお聞きしてもよいでしょうか?

 

草薙様

もともとは共同創業者である村田という女性が大学生時代に「子どもが売られる問題」を授業で知ったのが最初のきっかけになります。

当時は学生のためできることは限られていたのですが、有識者に話を聞きにいくなどの行動をしていく中で「かものはしプロジェクト」をともに立ち上げる共同創業者の本木、青木と出会い、活動がスタートしました。

共同創業者3人の写真

 

最初は、カンボジアで活動を開始しました。東南アジアは「子どもが売られる問題」が映画などで取り上げられていたりするので深刻なイメージを持たれている方が多いかもしれません。ただ、カンボジアにおいては我々だけでなく、国による取り組みなどもあって2000年代に入ってからは、比較的問題も防げるような状況になってきました

 

2010年頃にはカンボジアの状況もだいぶ良くなってきたこともあり、他国展開を考え出しました。そうして世界の状況を調べていったところ、インドでの、被害者の母数が多いことがわかりました

インドでの打ち合わせの様子

 

被害者の母数が多いことに加えて文化的な問題もあります。例えば、仮にレスキューされた子がいたとしても、村に戻ってからも差別的な扱いを受けることがありますし、女性であるだけで生きづらいという社会の風潮もあるので、村に戻ってからも社会復帰が非常に難しいのです。そういった深刻さが調査でわかったので、2012年からインドでの活動をスタートしています。

 

五井渕様

日本での活動の話は私の方からさせていただきます。

全世界で見たときに人権侵害がまだまだ起きている現状にコミットし続けながらも、足元のこの我々の地面、日本社会の中で起きていることを見過ごせないという想いが出てきました。何とかしたい、我々に何かできないかと模索し始めたのが3、4年くらい前です。

 

子ども虐待を主な課題として活動しているのですが、当事者の方の話を聞き、社会の構造を学べば学ぶほど、単純ではないなということを思います。

たとえば、働く労働環境の問題が親たちに降りかかっていった時に、やりどころのない怒りが目の前にいる子どもに向いてしまう。その結果が「虐待」だとして、これをどこから解決するのかというと「この方法で全部解決します!」とは言い切れません

それでも、たくさんのプレイヤーと協力しながら、この構造を紐解いて、少しずつ社会の傷を癒していくことを目指しています

 

−ありがとうございます。続けて質問となりますが、カンボジア、インド、そして日本で事業や活動をしてきているかと思います。こちらの実際の取り組みをお聞きしてもよろしいですか?

 

草薙様

まずカンボジアの問題の構造からお伝えさせていただくと、貧しい家庭の子を親が売るような認識を持たれることがあるのですが、そうではなくて子ども自らが家族の力になりたくて出稼ぎに行くケースがあります。

そうして仕事を探しに行くと良い人だけでなく、悪い仲介業者のような人もいます。そういう人が「レストランの仕事があるんだ」等と騙して子どもを売春宿に連れて行ってしまい、売られてしまっているという状況がありました。

このようなビジネスモデルが成り立ってしまっていることが問題の一つとしてあり、このビジネスモデルが機能しないようにするという活動をカンボジアではスタートしています。

 

具体的な活動は大きく二つあり、出稼ぎに出る子たちがそもそも家を出なくて済むような体制を作ることが一つです。コミュニティファクトリーという雑貨商品の工房を作って、家計が苦しいお母さんや、被害にあうリスクがある女性をその環境で雇用して、収入を得てもらっています。

収入をちゃんと得てもらうことで出稼ぎに行く必要をなくし、結果的に彼女たちを守る活動を行なっています。

 

もう一つは警察の支援に関わってきました。警察の法律を勉強する研修費の支援などを国や他のNGOと一緒に実施し、活動を経て状況は改善されたと思います。

 

次にインドでの活動です。

インドには子どもや女性を誘拐して、売春宿に売る人たちがいて、トラフィッカーと呼んでいます。そのトラフィッカーの人たちが州をまたいで移動をするため、特定が難しく、証拠品不十分で、基本的に有罪判決が下りないという状況になっていました。そのため、この有罪判決率を上げていくことを活動のスタートとしました

インドの女の子たち

 

現地のインド人が運営しているいくつかのNGOと共働して、レスキューした被害者たちの心の回復を行った上で裁判支援をして、裁判で証言できるような状況までサポートをしています

 

−日本での活動はどういったものでしょうか?

 

五井渕様

虐待という問題にフォーカスすると、虐待を受けた後の子ども達は児童養護施設で生活をしたり、里親さんのところで育てられたり、あるいは児童相談所に保護されたけれど元の家族のところに戻っていたりと、色々なケースがあります。

様々な形で、社会で子ども達を育てていきましょうという「社会的養護」「社会的養育」が、この20年の日本社会では強化されてきました。

 

そういった「社会で子どもを育てていく」と言ったときに、かものはしプロジェクトとしては、市民社会としてより多くの人たちが、子育てや、虐待の予防などに関わっていくことが必要だと考えています

活動として始めつつあるのが、地域とのつながりを通じて親や子どもが孤立しなくて済むような暮らしを実現していく、それによって虐待が起きずに済む社会を作っていくという、予防領域での活動です。

 

他にも、児童養護施設を卒業した後の、アフターケアの活動を模索中です。卒業後、残念ながら退学や離職の確率も高いという現状があり、自立を支えていけるような事業を考えています。

 

−なるほど、ありがとうございます。カンボジア、インド、日本、それぞれの活動をお聞きしましたが、同じやり方をするのではなく、問題に合ったやり方で活動をしているということですね。

 

自身を変え、構造を変え、世界を変えていく

−それぞれの状況と活動内容をお伺いしましたが、いずれも根本解決を目指すスタンスが見受けられました。行動の戦略や問題の発見の仕方について具体的にお聞きしたいです。

 

五井渕様

やはり行動していくうちに「これを続けることで本当に解決に繋がるのか」というジレンマや葛藤があり、「じゃあ、どうすれば根本解決に向かえるのか」ということに立ち返ったり、思考し続けたりすることが組織のカルチャーとしてあると思います。

 

そうやって考え続けていくと、複雑に起きている問題をちゃんと俯瞰して、システム構造として見てどんなことが起きているのか、どんな相関関係なのかということを明らかにする視点を持つようになります。そういった思考パターンを身につけていって、より解像度も精度も高く読み解いて、なるべく「問題はここなんだ」ということを見出していこうとする。そういったカルチャーを身につけて、今の私たちがあります。

 

もう一つは、被害を受けていたり、サバイブしてきた当事者の方々がどのような歴史をもって、また何を感じてきたのか、その人たちの視点からどう見えているのか、しっかりと受け取って、それを反映して事業を組み立てていく努力をすることを大切にしています。

 

−このようなソーシャルセクターへの取り組みは難しい印象があるのですが、実際に実行する人というのはどういった人で、こうあるべき等の人物像はあるのでしょうか?

 

五井渕様

「ソーシャルセクターだからこうあるべき」ということはないと思っています。

 

個人的見解にはなりますが、大事なことは二つですね。

一つは学習意欲。新しいことや、まだ知らないことに好奇心を持って深く学びたいという欲求があることです。

やはり実際の現場では成功法則が必ず通じるわけではなく、びっくりするようなことが起きます。開拓し、作っていくことを楽しめる、少し重い言い方をすると自分の人生を持ち込めるかどうかが大切だと思います。

 

二つ目は内発的モチベーションがあるかどうかだと思っています。問題の外側の立場から「社会や世界を変えていこう」となるよりは、自分も含めて「この会社からまずは変えていこう」というモチベーションがあることが適切なんだと思います。

 

ひとりの人間としてそこにいることの意味

−SDGsに関して企業がどういうところから始めていくべきか、もしございましたらお聞きしたいです。

 

五井渕様

先ほども触れましたが、内発的なところが大事にされるといいなと思っています。

もちろんSDGsにはゴールもターゲットもあって、そこに向かっていく世界的目標ではありますが、その会社や社員の一人ひとりと繋がっていることが大事だと思っています。極論ですが、そのゴールが解決されても、根本的な在り方が変わっていなければ同じ課題が再生産されてしまいます

たとえば、「働くわたし自身」が、この会社組織の中で尊厳を大切にされているかどうか。そうした対話が出発点にあって、対外的な取り組みと地続きになっていることで、内外に納得感のあるものになるのではないでしょうか。

 

皆で変えていく世界

−最後に今後の「かものはしプロジェクト」の取り組みとして行っていきたいこと、また目標をお一人ずつお聞きしてもよろしいでしょうか?

 

五井渕様

仮ではありますが、日本での事業のミッションとして掲げているのは、「誰もが生まれてきて良かったと思える社会を共につくる」ことです。

 

具体的には子どもの虐待が予防されて、被害を受ける子どもが減っていくことでもありますし、そうならざるを得ないくらい追い詰められてしまう親を減らしていくということでもあると思っています。

もう一つは虐待や人権侵害が起きたあと、社会として回復できる力があるのかという点も同じぐらい大事だと思っています。虐待を受けてしまった、あるいは虐待してしまった、という後に適切なケアがあって、そこからしなやかに回復していって、幸せな人生を歩めて、生まれてきてよかったなと思えることが大事だなと思っています。

そのためには、周りの人から支えられて、誰かに頼れる状態がある世の中を作っていくことが大切だと思います。

 

草薙様

僕が所属しているのがソーシャルコミュニケーションという事業部で、広報や資金調達をメインにやってきています。ありがたいことに月々でご支援いただいているサポーター会員の方が15,000名以上の人数になりました。

支援者の方々

 

近年は活動を知ってもらう、支援してもらうといった枠組みだけではなくて、一人ひとりの支援者の方たちと対等な立場で対話などすることを通じて「社会問題をなくす」ということをともに考えていくことに力を入れています。

 

また、NPO業界の良いところとして、違う問題を扱っている他の団体との情報交換がしやすい点があります。うまくいっている団体の問題だけが解決されるのではなく、もっと溶け合って業界全体が活性化していけるといいなという思いがあります。

 

−誰かだけが頑張るのではなく、業界でSDGsに取り組んでいける世界に、我々も加わっていきたいと思います。

本日は現場の生の声を聞くことができ、とても学びになりました。ありがとうございました。

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SDGsコンパス編集部

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