「SDGsへの取組みが自社の存在意義」損害保険ジャパン株式会社 サステナビリティ推進部・岡本 かなえ・冨樫 朋美

損保ジャパン株式会社
サステナビリティ推進部 岡本かなえ・冨樫朋美
業 種
保険業
損保ジャパン株式会社 岡本かなえ・冨樫朋美

全国に拠点網をもつ損害保険ジャパン株式会社。

気候変動に向けた取組み、防災・減災費用保険の提供、防災ジャパンダプロジェクト、SAVE JAPANプロジェクト、SDGs推進ツールとして「The Action!~SDGsカードゲーム~」の開発など、SDGsに関わる事業を積極的に展開しています。

 

今回は、そんな損害保険ジャパン株式会社・サステナビリティ推進部所属・岡本様と冨樫様にSDGsの取組み内容や導入背景について詳しくお伺いしました。

本業イコール、SDGsへの取組み

−SDGsに関してさまざまな取組みをされていますが、全体的な内容や、力を入れている部分について教えてください。

 

(岡本様)

弊社は今年度4月からの中期経営計画で経営基盤にSDGsを位置付けました。経営の根幹としてSDGsの取組みを積極的に行っていく方針が弊社の大前提になっています。

 

私たちは、損保事業自体がSDGsに貢献すると考えています。たとえば、災害や事故に遭った際、保険のご契約に入っていただいていたら保険金をお支払いすることができます。そのこと自体が経済面をお支えするという社会課題の解決になりますので、本業=SDGsと言い換えることができると考えます。

例を挙げると、自治体向けに「防災・減災費用保険」という商品があります。災害発生時に、自治体は住民に避難指示を出しますが、仮に災害の度合いが一定のボーダーを超えなかった場合は、避難所の設置や避難指示に関わる費用についてはすべて自治体が負担しなければなりません。そのため自治体がなかなか避難指示を出せないという実態に対して、そういった場合の費用について弊社で補償をしています。それによって自治体が避難指示を出すことに躊躇せず住民の避難を進めることができるような社会課題に取り組む保険も取り扱っています。

他にも子どもたちとその保護者を対象に「防災人形劇」および「体験型防災ワークショップ」を実施する「防災ジャパンダプロジェクト」や、保険証券を紙ではなくWEB版で提供した場合に割引を設けて、捻出した費用の一部で市民参加型の生物多様性保全活動を行う「SAVE  JAPAN プロジェクト」に充てたり、環境団体やNPOと一緒に地域の清掃や車いす清掃活動を行うなど社会貢献活動も積極的に実施しています。

このように事業全体がSDGsに結びつくことがあると考えてます。

SAVEJAPANプロジェクト 赤谷川の生き物探し・観察会(福井県)

 

SAVEJAPANプロジェクト ツキノワグマと人間の共生~里山ぼうけんin長岡~

 

(冨樫様)

SOMPOグループには損害保険事業や、生命保険事業、また介護・シニア事業等があります。SDGsの重点取組領域には「健康と福祉」や、「まちづくり」等がありますが、損害保険事業と親和性が高いのが「気候変動」になります。

保険金の支払いは、損害保険事業の持続性に直結するということもあり、気候変動は保険事業と非常に関連が強い項目になります。また損害保険事業において、弊社の場合は全国に拠点がありますので、地域で永続的に生活できるようにという観点でのまちづくりもSDGsに親和性が高いと言えます。

先ほどの「防災ジャパンダプロジェクト」のように地域をまたいで行うことができる取組みもありますし、AIを使った「防災・減災システム」等のテクノロジーを使った取組みも行っていますので、様々な方面で気候変動への取組みを加速させています。

防災ジャパンダプロジェクト

 

−なるほど。損害保険事業そのものがSDGsというのは納得です。色んな事業・地域と絡めてSDGsに関わっていると思うのですが、他所と提携する場合はどういった関わり方をしているのでしょうか?

 

(冨樫様)

関わり方は多様です。先ほどの「防災・減災システム」であれば、我々はシステム関連の専門ではありませんが、防災・減災のシステムがきちんと機能しなければ事業に直結してしまうということもあります。具体的にそのテクノロジーを持っている会社と一緒に実証実験する場所などを、我々の持っているネットワークを駆使して提供したり、あとはテクノロジーだけではなく、例えばデータを保有している会社とも連携するなど、我々が役割を発揮する場は多数あります。

防災・減災も領域が広く、災害の前なのか直前なのか後なのか、そのフェーズによっても提携先が変わってくるので、連携を効果的に活かすために何社かと一緒にパートナーシップを結んで取り組む必要があり、その調整役の位置づけかと思っています。

 

SDGs推進ツール「The Action!~SDGsカードゲーム~

−御社で開発されたSDGsのカードゲームについて非常に興味深いものなのですが、どういった経緯でできたものなのでしょうか?

 

(岡本様)

私が現場である営業部署に所属していた頃に、取引先よりSDGsに関して「何か取り組みたいけれど、何をやったら良いか分からない」という相談がありました。

弊社が一緒に何ができるか、どう支援できるかを考えたのですが、取引先の方々も社員全員がSDGsに関して興味を持っているわけではないという状況であり、興味のない方に座学で説明しても、取組みとしては効果が薄いと感じていました。

そこでSDGsのカードゲームを通じて、楽しくSDGsや弊社の取組みについて理解をしていただく案を考え、社内新規事業提案制度に応募したところ採択されました。

SDGsカードゲーム

 

−こちらのカードゲームは御社で販売しているんですか?それとも体験自体を御社が提供しているものなのでしょうか?

 

(岡本様)

後者です。カードゲームを含めたオリジナルのワークショップを提供しています。弊社の社員にカードゲームの運営をするファシリテーターの資格を持たせて、社内や取引先等社外のお客さまに対して、無償でワークショップを開催しています。

SDGsカードゲームの様子

 

−カードゲームの開催やそのファシリテーターをするとなると難易度が高い印象がありますが、そのあたりはどうクリアされましたか?

 

(岡本様)

ファシリテートとなると、やはり経験したことがある者が少なく、なおかつSDGsの本質について参加者の理解度や気づきを一定にしなければならないので、実際に難易度は高いと考えています。

そこで弊社では、マニュアルの使用のみでファシリテーターをするのではなく、ファシリテーター養成講座を用意しています。実際のゲーム体験と合計1時間ほどの動画を視聴することで、ファシリテーターの資格を取得できるという仕組みにしています。カードゲームの共同開発会社にも意見をいただきながら制作しており、ファシリテーターとしての不安軽減につながっていると考えています。

 

−実際に社内の反応としてファシリテーターを希望する方はどれくらいいるのでしょうか?

 

(岡本様)

現物のカードゲームは参加者が1つの会場に集合したうえで実施するものであり、コロナの影響で、「開発したにもかかわらず、展開ができない」という状況が続いていました。そこで、参加の場所を問わないオンライン版も開発しました。オンライン版を用いて今年の1月から全国の社員向けに体験会を開催し、その参加者が次はファシリテーターになり、自らの職場で開催していくという展開方法としています。

ただ、全国といっても弊社は社員数が多いので、営業部門に限ったうえでそれぞれの部署から上限2名で募集することにし、結果、体験会には合計200名程度が参加をしました。

体験会中も、各部署で上限の2名を超えて参加したいという声や営業部門以外の部署からも参加を希望する声があがっていました。自身がファシリテーターとなり社内外でSDGsの理解浸透を図るという先を見据えて取り組んでいる社員は多いと思っています。

 

−この参加率の高さというのは、御社の中で浸透しているSDGsに対する関心・理解度の高さが付随しているということでしょうか。

 

(岡本様)

肌感覚ではありますが、SDGsに関心のある社員は多いと思います。また、今回開催したカードゲームの体験会にて、営業部門の社員を参加対象にした理由にもなりますが、SDGsに関して取引先と協業したいと具体的に考えている営業社員が多いです。そのきっかけづくりのコンテンツの一つとしてSDGsカードゲームを活用することを考えているようです。

 

(冨樫様)

私も感覚的には一緒です。保険の商品は目に見えないものですが、カードゲームは具体的な物として見えるので営業の際に話がしやすいとも思います。

もちろん、提案した上で結果的にカードゲームは不向きだと断られることもあるかもしれませんが、SDGsの話の土台を作っていく上でドアノックツールのような、対話のきっかけになれば良いと思います。

 

1992年から踏み出したSDGsの第一歩

−御社は多くのSDGsと関連していると思いますが、たとえば「サステナビリティ推進部」も以前は「CSR室」という部署名だったとお伺いしています。そういった部署が立ち上がった最初の一歩の部分についてお伺いできますでしょうか

 

(冨樫様)

弊社のCSRや環境の取組みの歴史は非常に長くて、遡ると1992年からとなります。

この年に開催されたリオの地球サミットに、弊社社長が経団連ミッションの団長として現地に赴き、その際「これからは環境の時代だ」と感化され、日本に戻ってきてすぐに「地球環境室」という部署を作りました。これが第一歩になります。

金融機関の中でもこのような専門部署の設立は早い方です。NPO団体との市民向けの環境公開講座の開催や財団の設立など様々な取組みが続いていく中で、部署名も主に「環境」から「CSR」、その後も社会においてSDGs、サステナビリティという考え方が浸透してきた背景もあり、昨年の4月に「サステナビリティ推進部」に名前が変わりました。

こういった社会の潮流に合わせて、我々の部署のミッションや名称も変化をしています。

 

−1992年からというのは本当に早いですね。ただ、1992年から「これからは環境の時代だ」と社長が言ったとしても従業員の反応や、社内の浸透は薄いものだったのではないかと憶測してしまうのですが、当時はどのようなものだったのでしょうか。

 

(冨樫様)

当時は決して関心が高かったとは言えないのではないかと推察します。

「地球環境室」という名前からスタートしたこの部署の当時のメンバーは3人でした。

ただ、例えば任意の社員の給与から毎月100円以上を天引きして、それを社員のボランティア事業等に充てる「SOMPOちきゅう倶楽部」という取組みを開始したり、歴史を積み重ねていく中で各職場に一人、サステナビリティ推進担当者を定めたり、徐々に社員を巻き込む方法を取っていました。また、一年間の社会貢献への取組みを毎年度初めに経営計画と一緒に提出して、そちらを中期、年度終了時に、その計画が達成できたか否かを職場ごとに振り返るISO14001の仕組みも導入しました。そのように、職場の中でPDCAを回す仕組みを作り、あの手この手で取り組んでいます。

 

こうして少しずつ理解が増えてきているとは思いますが、先に説明した毎月の給与から寄付金を天引きする「SOMPOちきゅう倶楽部」に取り組んでいる社員も全社員のうち約3割ですので、現在も含めて全ての社員がすごく関心が高いというわけではないかなと。

ただ、同時にサステナビリティに興味がある人も一定数います。わたしたちサステナビリティ推進部のメンバーは、そのような感度が高い社員とともに、色々な事業に一緒に取り組んでいます。弊社には社内副業制度があるので、現場部署を含めた他の部署の社員が一週間の20%の時間を我々の「サステナビリティ推進部」の仕事に費やして一緒にプロジェクトに取り組んでいます。手を挙げてくれた他部署の社員と、社会価値を発揮するような取組みを一緒に考えています。

このように現場の社員をどんどん巻き込んでいきたいというのはありますね。

 

−サステナビリティ推進部の人材に選ばれる方の採用基準というものはあるのでしょうか?

 

(冨樫様)

現状では、サステナビリティ推進部は、元々当部を希望していたメンバーと、そうでないメンバーがミックスされています。

社内の関連する部署を巻き込む力や現場の感覚を持つメンバーをミックスし、お互いの強みを活かしていくことで部として目指す姿に近づけると思います。

 

−KPIについてはいかがでしょうか。営業としての数字や、社会への貢献度等をどのように設定していますか。

 

(冨樫様)

グループとしてマテリアリティKPIを設定しています。KPIは現実的な数値目標を置いています。例えば、保険の普及への貢献という趣旨で保険料の売上を目標値として定めていますし、環境人材が直接数字を売り上げるわけではなくとも社会的インパクトではどうか、みたいなところも見ます。経済的な成果と、社会的インパクトの両方をバランス良く置いていますね。

 

−現実的な路線をとっているのですね。

 

(冨樫様)

そうですね。現実的とは言いますが、経済価値と社会価値をどちらも追っていくというのがSDGsとしてのあるべき姿だと思っています。社会価値を追うことで、経済価値も発揮できているという姿勢を示すためにも良いKPIかと思います。

 

−ボランティア感覚だけではダメですし、経済的を含めたこのバランス部分が大事ですね。

 

 

呼びかけと、気づきを与える小さな一歩

−SDGsに関連する新規事業を作っていく過程の部分は、サステナビリティ推進部の方々から提案して全社的に浸透しているパターンなのか、現場から「お客さんからこういうニーズがあります」とサステナビリティ推進部の方に声がかかるパターンなのか、どちらになりますでしょうか。

 

 

(岡本様)

その両方があると思っています。

先ほども申し上げた通り、現場の部署は、取引先から「SDGsに取り組みたいけれど、何をやれば良いのかわからない」という声をいただいて、当部に相談が入ることも多いので、一つずつ相談に乗ったり、実際に協業するには何ができるか、という点で良い事例があれば、それを横展開したりしています。

 

また、弊社は今、水災害に関するこの取組みを注力したいと考えています。先ほど説明した社内副業制度を利用して、プロジェクトに参加するメンバーを10名から15名程度募集しました。そして、一緒に「水災害について何ができるか」というテーマで、思いのある社内メンバーと一緒にプロジェクトに取り組んでいます。こちらは当部からの呼びかけになりますので、やはり両方の側面がありますね。

 

−なるほど、ありがとうございます。両方の側面で言うと、SDGsを社内に広めていく上で苦労したことはありますでしょうか?

 

(冨樫様)

少し過去の経緯も含めての話になります。

弊社はサステナビリティの歴史が長いだけに、多くの社員が入社したときからすでに自然と社会貢献と関わっている環境下なのですね。だから、「環境やCSR=ボランティア」というような、本業とは別物であるという考え方が非常に根深かったと思います。

そこを払拭するべく、全社員向けの研修等のインプットや本業を通じて社会価値を創出している事例を開示するなど、色々なやり方で着々と広めてきています。

職場でのSDGs勉強会の様子

やはり本業の中に自然と社会価値創造が入っていくのが最も持続可能であり、それこそサステナビリティだと考えます。

ここ12年くらいで社会からの後押しもあって広まった側面もあります。それまではなかなか脱却ができなくて、苦労した印象はあります

 

−これに関しては事例を見せながら、どんどん社内に呼びかけていくという形なんでしょうか?

 

(冨樫様)

例えば、「保険事業で言い換えると、こういう価値を生み出している」「保険金のお支払い自体がこういう社会価値創出につながる」と具体的な例や数字に言い換えることで納得してくれるケースがあると思います。

「そういうことなんだ」というふうに、そこで「ボランティアとは違う」と理解出来るので、そういう役割こそ我々のミッションであり、大事なポイントかもしれないですね。

 

−ありがとうございます。私たちも、まず自社の今の事業について一度見直して、「これがどう社会に役立っているのか」というのをグループワークで実施しているんですね。そうすることで一度、自分たちのやっていることがSDGsに関連していることをわかっていただくのが、はじめの一歩として非常に有効なんだというのが聞いていて非常によくわかりました。

 

(冨樫様)

おそらく新卒の方が多い会社ほど、事業内容や商品は理解しつつも、自社の強みや存在意義を理解するのが難しいと思います。弊社も歴史が長いため、「入社した時からそういう環境」という状況なので、自社の強みを改めて理解する機会がなかなかありません。他社の方々と交流をして、自社の強みとは何かを話し合う機会がないと気づかないというのは、最近の私の学びではあります。

 

−確かに気づきを与えるところが、小さな一歩というところですね。

 

 

世界を引っ張り、世界を変えていく

−今後のお二方の目標や、会社としてどういう方向に進んでいきたいかといった部分についてお伺いしてもよろしいでしょうか?

 

(岡本様)

社会価値の創出ですとか、SDGsの目標達成に関わる仕事に就いていることに気がつくと、やはり社員の業務に対するモチベーション向上にも繋がるのではないかと思っています。なので、そこに気がつける社員がどんどん増えていくと会社も元気になると考えます。

また、弊社の特徴として、ステークホルダーが多様で、かつ全国に拠点があり、関わる人も多いということがあります。SDGsに関しても高い評価をいただいているところもあるので、弊社がきっかけとなってアクションできる人を増やしていくことが、私の目標かなと考えています。

 

(冨樫様)

私も同じではありますが、改めて我々の強みは全国に拠点があって、色々な団体さんとネットワークを持っているというところです。弊社の社員は約24,000人ですが、24,000人全員がSDGsに向かった行動ができると世界は変わっていくのではないかと思っています。

だから、我々から何かを提供して世界が変わっていく。

また、変わった社員が更にその先まで行動してもらえるような計画や支援は、これからもっと必要になってくると思っています。

 

−では、最後の質問です。岡本様と冨樫様にとって、「SDGs」とはどのようなものでしょうか?

 

(冨樫様)

存在意義に近いかもしれないですね。

もともと保険会社は火事が起きた時にみんなで助け合って、火を消すというところから始まっていますし。

その「みんなで助け合う」というところが保険事業の成り立ちにも近く、SDGsもパートナーシップが重要という考え方です。SDGsの考え方イコール、弊社の存在意義と同じなのかなという気はしました。

 

(岡本様)

曖昧なものにはなってしまうのですが、毎日をワクワクして幸せに過ごすことのできるキーなのかなと思います。自分たちの力で何かを成せること、また少し手助けできるのが弊社なのかなと考えます。

 

(冨樫様)

そうですね。弊社で働きたいと思う人の想いの中には社会課題を解決して人々を幸せにしたいとか、社会課題の解決にに使命感やワクワク感を持っていると思いますので、存在意義とワクワク感は方向性として実は近しいものだと思います。

 

−真っすぐな想いを聞けて嬉しいです。SDGsに取り組む中でも、根本に置く想いはそういったものでありたいと私たちも思います。

本日は現場の生の声を聞くことができ、とても学びになりました。ありがとうございました。

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SDGsコンパス編集部

この記事を書いた人

SDGsコンパス編集部

SDGsコンパスは、SDGsに踏み出したい企業や自治体様の「はじめの一歩」を後押しするメディアです。SDGsの目標やSDGsの導入方法などのお役立ち情報を発信していきます。

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