「SDGsの初めの一歩は、他者への思いやり」Think the Earth・笹尾 実和子

一般社団法人Think the Earth 笹尾実和子
業 種
NPO法人
一般社団法人Think the Earth 笹尾実和子

今回は一般社団法人Think the Earthの笹尾様に、SDGsに関するインタビューをさせていただきました。

 

Think the Earthは「エコロジーとエコノミーの共存」をテーマに活動を行うNPOです。持続可能な社会の実現に貢献するプロジェクトの立案や、企業や行政、教育機関等と連携したプロジェクトを行っており、「Think the Earthする人や企業(=地球的視野で考え行動する人や企業)を世界中に育て、増やしていくこと」をミッションとしています。

今の取り組みを始めたきっかけ

Think the Earth様では、これまでにどのように活動されてきたのか、お聞かせいただいてよろしいでしょうか?

 

笹尾様

Think the Earth2001年に立ち上げた団体で、これまで20年以上活動してきました。環境問題や社会問題を考えるきっかけづくりをテーマに30以上のプロジェクトを行ってきました。

最初のプロジェクト『地球時計(アースウォッチ)』は、24時間で一周するドーム型の地球が埋め込まれた、ちょっと変わった腕時計です。これは、「宇宙飛行士の視点を誰もが持つことができたら、かけがえのない地球は1つであることに気づき、平和な世界を願う気持ちがうまれるのではないか」といった思いをきっかけに、セイコーインスツル株式会社と共同開発。世界17カ国で多くの方に使っていただきました(現在は完売)。そして、ここから様々なプロジェクトが始まりました。

 

2002年に『百年の愚行』という写真集を作りました。その後はビジュアルブックを中心に数多くの書籍を制作してきました。「生物多様性」や「気候変動」といった、その時々で大切だと思うテーマで書籍をつくり、全国の小中高に1冊ずつ寄贈をするというプロジェクトをダイヤモンド社と共に行いました。NPOの活動なので書籍を作って終わりではなく、読者の行動につなげていきたいと考えていました。そのため学校に届けることができたことはよかったのですが、本を送った後にどう利用いただいたか分からなかった点は課題だと感じていました。

 

2013年に経済産業省が推進する「GREEN POWER プロジェクト」※で、再生可能エネルギーの本をつくり学校へ届ける機会を持つことができました。私たちは東日本大震災後、エネルギー教育の大切さを改めて実感しました。そこで再生可能エネルギーのメリット、デメリット両方を楽しく学べる書籍『グリーンパワーブック 再生可能エネルギー入門』を作り、それを希望する学校へ1クラス分、40冊を届ける活動を4年間実施してきました。書籍を送った後は、学校からフィードバックをお願いするだけでなく、実際の授業へ見学に行ったり、自ら学校で出張授業を行ったりすることで、先生たちと意見交換する機会が増えて、教育現場との接点をつくることができました。

 

GREEN POWER プロジェクト
2013年に発表された、経済産業省資源エネルギー庁による再生可能エネルギーの普及促進活動。

 

SDGsの活動において苦労したこと

SDGsの浸透のための活動において、苦労された点はありますか?

 

笹尾様

昔は環境や社会のことが大切だと伝えても、企業や個人を動かすことはとても大変でした。しかし、SDGsが採択されてからは、SDGs達成のために自社で貢献できることをしたい、という相談が増えました。そういった意味で、浸透させるために苦労した、というよりは、ものすごいスピードで浸透して驚いた、というのが正直な感想です。

 

Think the Earth設立当初は、環境問題、社会問題に対して「無関心な方にどのようにアプローチして、届けていくか」という点を課題にしていました。だからこそ難しい内容の本ではなく、絵やイラストを多く入れたビジュアルブックを制作したり、プラネタリウムの映像作品にしたりと、どんなアプローチをすれば興味を持ってもらえるのか、いつも考えています。現実の課題を正しく伝えることは大切ですが、悲観的な情報だけでなく、ポジティブな側面についても伝えることを意識しています

 

現在一番力を入れて行っているのが「SDGs for School※」プロジェクトです。書籍や学校で使える教材を届けるほか、社会のために動こうとしている学生のプロジェクトを応援したり、スタディーツアーや出張授業などを実施したりしています。現在の教育指導要領には「持続可能な社会の創り手」を育成していくということが記載されていますが、どのような授業を実践すればいいのか、その方法は書かれていません。その方法のひとつの選択肢としてSDGsを活用することができると思いますし、そういった情報を多くの教師の方々へお届けしたいと考えていますが、サポートが不十分なのが現状です。そのため、どうやって忙しい先生たちに必要な情報を届けられるのか、ということは試行錯誤しているところです。

 

―教師の方との連携が現在の課題点ということですね。また、実際の教育現場では、どのような頻度でSDGs教育が行われているのでしょうか?

 

笹尾様

私たちの教材を使って授業をしてくれた先生たちのアンケートを見ると、半分が総合学習の時間に活用し、残りの半数は理科や家庭科、英語、国語に社会などとても多様です。学校ごとの取り組み方は千差万別ですね。SDGsに力を入れている学校であれば、全学年の授業の中でSDGsの課題に取り組む3年間のプログラムを用意しているというケースもあります。学校の中だけではなく、地域の課題を見つけて、企業や行政の方と協働するような機会も以前より活発になったと感じます。

 

学校は公平性が大事なので、全生徒が同じ授業を受けられる仕組みでなければなりません。それ以外にもホームルームや保護者とのやり取りなど、教師のみなさんのお仕事は多岐に渡ります。私も先生たちがどれだけ忙しいのかをこの仕事をはじめてから知りました。そのような中で、生徒たちが自発的に学び行動者になるような授業を考える先生たちを尊敬します

 

SDGs for School
SDGs教育を実施する教育現場を支援するプロジェクト。
Think the Earth | SDGs for School

 

SDGsへの取り組みとしてこれから行っていきたいこと

Think the Earth様におけるこれからの目標や、行っていきたい取り組み等をお聞かせいただいてよろしいでしょうか。

 

笹尾様

コロナ禍の影響で、この2年間はリアルな現場にほとんど行くことができていませんでした。これからは時勢を考慮しながらも、学生のみなさんと直接会って話すことや、社会課題の現場にたくさん足を運びたいですね。

 

コロナ禍になる前は毎年『中高生ボルネオ島※スタディツアー』を先生たちと一緒に実施していました。ボルネオ島は環境問題と社会問題とが、まさに衝突している場所です。自然豊かで、ボルネオ島でしか生息しない貴重な生物たちも多数います。ここではパーム油の生産に伴う森林破壊が問題となっています。しかし、パーム油によって得られる利益は非常に大きくマレーシアの産業を支えています。私たちの生活の中でもパーム油は広く浸透していて、カップ麺や食品の揚げ油、洗剤、化粧品など知らず知らずのうちに日常の中でパーム油に触れているはずです。スタディーツアーでは、大人も解決できていないこの問題について向き合い、参加者全員が自分ごととして考えるようになります

 

※ボルネオ島
東南アジアにある島。インドネシア、マレーシア、ブルネイと3カ国の領土となっている。

 SDGsは「未来のことを考える種」

―御法人にとってSDGsとは?

笹尾様

SDGsは国連の加盟国が全会一致で取り組んでいこうと動き出した点では、歴史的にみてすごいことです。日本においても、SDGsは、多くの方の問題意識や活動のきっかけになったと思います。しかし一方でSDGsが完璧なものか、というとそうではありません。原子力発電所やLGBTについてなど、今のSDGsにはない課題もたくさんあります。

SDGsが掲げる「誰一人取り残さない」世界を実現するとなると、何をしていいかわからなくなってしまいますが、SDGsの初めの一歩は、自分以外の困っている人のことを思いやるというシンプルなことだと考えています

 

私にとって、SDGsは「未来のことを考える種」のようなものであると考えます。SDGsがあることで、学生や教師の方、企業の方などどんな立場の人でも対等に話し合う機会が本当に増えました。SDGsの効果を疑問視する意見も無いとは言いきれません。しかしSDGsによって、より多くの人が環境問題や自然問題に、問題意識を持つことができているということは事実です。そのような意味で、多くの人にとっての考えるきっかけの「種」となっていると私個人では思っています。

 

―ありがとうございます。SDGsは結局のところは手段であって、「他者のためにどれだけ思いやることができるのか」を考えるということ自体が大切ですよね。

 

笹尾様

ちょっとした思いやりの気持ちを持つことは、きっと誰にだってできるものだと思うんです。例えば、私自身がやっていることで言えば、ゴミが落ちているのを見つけたら拾うとか、ビッグイシュー※の販売員さんを見つけたら必ず買うようにしています。他にも、自分が応援したいNPOへ毎月少額でも寄付をするなど身近にできることは多くあります。こうした個人の小さな行動も大切ですが、一方で今ある世界の課題を解決するためには、大きなシステムチェンジも必要です。また、SDGs2030年までの目標ですが、そこで終わりということではなく、その次のことも考えていかなくてはいけません。そのための機会やプロジェクトをこれからもたくさんつくっていきたいです。

 

※ビッグイシュー
路上生活者の社会的な自立を目的とした雑誌。刊行している「ビッグイシュー」の路上販売の仕事を提供することで、自立をサポートしている。

 

このような貴重な機会をいただき、誠にありがとうございました。

SDGsコンパス編集部

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