「SDGsは“SD”を実現するための想像力を膨らませるツール」札幌市環境局・佐竹 輝洋

札幌市環境局 佐竹輝洋
業 種
自治体
札幌市環境局 佐竹輝洋

今回は札幌市環境局にてSDGsを推進なさっている佐竹様に、経緯やこれまでの取組などについてインタビューをさせていただきました。

札幌市SDGsリーフレット|札幌市(PDF)

札幌市は20086月に「環境首都・札幌」宣言をおこない、2018年に策定した第2次札幌市環境基本計画において「次世代の子どもたちが笑顔で暮らせる持続可能な都市『環境首都・SAPP‿RO』」2030年に向けた環境の将来像として設定しました。

初年度にあたる2018年度にはSDGs未来都市に選定され、201961日には国内5番目のフェアトレードタウンに認定されています。全国でも有数のSDGs推進都市としての役割を担うなかで、寒冷地における環境都市の世界モデルになるまちづくりを目指しています。

※SDGs未来都市:優れたSDGsの取組を提案する地方自治体が、内閣府により「SDGs未来都市」として選定される制度で、毎年約30の都市が全国から選定されています。
※フェアトレードタウン:市民や企業、大学、行政など、街全体でフェアトレード(公平・公正な貿易)を応援する自治体がフェアトレードタウンに認定される制度で、世界全体で2,000都市以上、国内では6都市が認定されています。

※「フェアトレードタウン認定式」のご様子

札幌市がSDGsに取り組みはじめた経緯

佐竹様のご経歴とSDGsに取り組みはじめた経緯についてお聞かせください。

 

佐竹様

札幌市環境局 環境都市推進部 環境政策課の佐竹と申します。現在(20235月時点)はSDGsに関する気候変動対策や水素エネルギー活用などのさまざまな取組を推進しています。

札幌市役所に入職したのは2004年で、その後2008年に現在の環境政策課に配属になりました。2012年に環境省の地球環境局に出向し、2014年に環境政策課に戻ります。2015年に第2次札幌市環境基本計画を作成する業務を担当することに決まったことがSDGsに取り組みはじめたきっかけです。SDGs20159月の国連サミットにて加盟国の全会一致で採択されています。

2次札幌市環境基本計画では、札幌の将来像や推進体制などに関する2018年から2030年までの計画が記載されています。最初の札幌市環境基本計画は1998年に30年間の計画が定められており、私はその後継となる2018年以降の計画を作成する業務を担当しました。

2017年以降の札幌市環境局におけるSDGs の取組

これまでに実施なさったSDGsの取組についてお聞かせください。

 

佐竹様

2017年頃から、まずは行政機関や大学などと共同で、SDGsを普及啓発するためのシンポジウムなどのイベントを実施したり、年間80件ほどの講演会や勉強会に講師として登壇したりすることからはじめました。

日本経済団体連合会が201711月に 企業行動憲章を改定し、「経団連としてSDGs に取り組む」ということを公表しました。その頃から大企業を中心にSDGsに取り組む動きが見られはじめ、中小企業がそのあとに続く流れがあり、 2018年から2019年の2年間は企業や団体、学校などから講演会や勉強会の依頼を多くいただきました。

新型コロナウイルスの感染拡大がはじまった20201月頃から講演会や勉強会がオンライン開催に移行していきましたが、その頃から札幌市は対話を重視したワークショップの取組をはじめています。SDGsについて学びながら、自分たちに何ができるかを考え、行動につなげるための場作りをする取組です。具体的には、2019年度から気候変動やSDGsをテーマにしたワークショップ「気候変動・SDGsゼミ・ワークショップ」「気候変動・SDGsアクションLabo」、企業とユース(中高大学生)によるSDGs協働ワークショップ「SD コン」などの取組を行っています。

※「気候変動・SDGsゼミ・ワークショップ」のご様子

企業はサプライチェーンの観点からも影響力が大きく、社会を変える力があります。また、Z 世代はデジタルネイティブ世代で、サステナビリティ(持続可能性)への関心が高いことが特徴です。Z世代はSDGsに取り組む企業を高く評価する傾向があり、札幌市の企業が SDGs に取り組んでこれから社会に出ていく世代に選ばれることで、街の発展にもつながると期待できます。

SDGsに取り組むうえで浸透させるために苦労したこと

SDGsに取り組むにあたって職員からの理解を得たり、全体に浸透させたりする際に苦労したことをお聞かせください。

 

佐竹様

2016年 にSDGsに取り組みはじめる際、当初はたしかに理解されづらさを感じたことはありました。SDGsは環境分野に限らず経済や社会の問題も含まれており、国連の目標に対して自治体が取り組むことをイメージしづらかったのだと思います。

内部の理解を得ることを目的の1つとして、2017年6月に北海道大学とシンポジウムを開催し、当時の北海道大学の総長と札幌市長に登壇していただきました。シンポジウムでは専門家を招いてパネルディスカッションもおこなっています。専門家から知識を得られ、市長や総長が登壇して講話する姿を目にすることで、「SDGsは札幌市として取り組まなければいけないこと」と実感する機会になり、職員にも理解してもらえたかと思います。

その後、環境基本計画を策定した初年度の2018年度にSDGs未来都市に選ばれたことも大きかったと思います。「SDGs未来都市に選ばれたからには札幌市全体として取り組んでいこう」と職員が思うきっかけになりました。2019年にはまちづくり全体の計画の中でも札幌市全体でSDGsに取り組むことが位置づけられ、それ以降は環境に限らず、さまざまな部局が行政で作成する計画に必ずSDGsの視点が入るようになっています。

これからおこなっていきたいSDGsの取組

これからの目標や、おこなっていきたい取組についてお聞かせください。

 

佐竹様

環境問題でいえば、札幌市は市内から排出される温室効果ガスを2050年にゼロにすることを宣言しています。すでにその計画を立てて取り組んでいますが、推進していくには市民や札幌市内の企業の理解が必要です。

たとえば、北海道は積雪寒冷地のため、冬場のエネルギー消費量が非常に多いという特徴があります。家庭の暖房に由来して消費するエネルギー量は本州の約3倍で、省エネルギーや再生可能エネルギーに関するさらなる取組が必要です。また、持続可能なまちづくりをするためには、環境問題を解決しつつ、社会問題や経済の発展を実現することも大きな目標に据えています。

その目標の達成に向けて、企業も行政も世代や立場などが分断されているなかで、それぞれの理解がまだまだ進んでいないと個人的には感じています。垣根を超えてSDGsに取り組む理由や必要性を理解し、持続可能なまちづくりに向けて一緒に取り組んでいくことが必要です。

また、北海道の全体がサステナビリティな街になる必要があるとも感じています。北海道は人口の減少が進んでいます。昨年、札幌市は市となって100周年を迎えたのですが、これまで増加していた人口が減少に転じました。この人口減少時代の中で、北海道で生活することに市民が魅力を感じられるまちづくりを目指さなければいけません。

そのためには企業やユースなどが自主的に動けるようにすることが重要だと考えています。SDGsに関する取組を自治体がおこなっていなければ、札幌市にある企業がSDGsに取り組むのがもう少し遅かったかもしれません。札幌市がSDGs未来都市になり、持続可能なまちづくりをすると発信したからこそ、企業の取組を推進することにつながりました。

札幌市の企業のSDGsに関する取組について、商工会議所のホームページに特集ページを作成して発信していますが、そのようにして旗を振る役割を自治体や経済団体が担うことが重要です。自治体は企業の取組をサポートすることもできます。今後はより一層、持続可能なまちづくりをする自治体が増えていくことを期待しています。

佐竹様にとってSDGsとは

佐竹様にとって、SDGsとはどのようなものでしょうか。

 

佐竹様

SDGsにおいて大事なのは「SD(Sustainable Development)」にあたる持続可能な開発・発展であり、「Gs(Goals)」はあくまで2030年にこのような姿を目指すというマイルストーン(中間目標)です。SDGsには具体的なターゲットが書かれていますが、「Gs」を達成したら 「SD」 が達成されるのかというと、そうではありません。

サステナブルの概念は1980年代からあり、環境と開発に関する世界委員会(ブルントラント委員会)が1987年に公表した「Our Common Future」の中心的な考え方として取り上げられています。現代のニーズを満たしつつ、将来のニーズも満たすことが「SDです。そのニーズとは人々が健康でいられる夜になったら安心して眠れるきちんとご飯が食べられる病気になったら病院に行けるなど、よい状態の普通の生活が送れるということです。しかし世界全体に目を向けると、飢餓状態の人が世界 に約8億2800万人(2021年時点※)もいます。

世界中の人々が「SD」を理解し、どのように行動していく必要があるのかを考えることが非常に大切です。人口が2050年には約97億人まで増加すると予想されるなかで、全人類が地球1つで持続可能な暮らしを実現する方法を考える必要があります。SD」を実現するための想像力を膨らませるツール として、SDGsが役立ってほしいと思います。

 

ゴールに向けての「SD」ではなく、50年後、100年後の未来に向けての「SD」を実現していくためにも、まずはより多くの人がSDGsに関心を持ち、「はじめの一歩」を踏み出すことが大切だと感じます。このような貴重な機会をいただき、誠にありがとうございました

ともしど

この記事を書いた人

ともしど

SDGsコンパス編集長。デジタルマーケティング事業部ディレクター。飲食業界の経験からフードロス問題に関心があり家庭内の食材廃棄ゼロ。子どもたちが豊かに成長できるダイバーシティ社会の実現を願う。

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