「まずはすべての人がSDGsについて知ることから」株式会社Drop・齋藤汐帆
アソシエイト 齋藤汐帆
今回は、SDGsや防災などの社会課題を解決することを目的としたソーシャルアクティビティ事業部のプロジェクトリーダーである五十里(いそり)が、株式会社Dropでサービス企画・開発、コンサルティングなどを通してSDGs達成に向けた社会課題の解決を目指す齋藤さまに、サービス開発の経緯、SDGsの取り組みを社内に浸透させることの重要性などを詳しく伺いました。
企業や自治体などでSDGs推進に関わっているご担当者必見のインタビューとなっていますので、ぜひ最後までお読みください。
■齋藤さまプロフィール
株式会社Drop 齋藤 汐帆(Saito Shiho)
アソシエイト
大手ブライダル会社勤務後、教育関連のNPO法人で教育現場を体感する。現在は、社会課題解決を目指すコンサルティング会社Dropで、教育事業とSDGs事業を推進中。責任者として、学校向けSDGs教材「iina(いいな)」を企画・開発し、全国の中学高校にSDGsを学ぶ手段を提供している。これまで、一部上場企業から、中小企業までさまざまな企業規模、事業領域の方針策定ならびに社内浸透のコンサルティングに携わる。
コーポレートサイト:https://drop.ne.jp/
情報発信サイト:https://sdgs.media/
YouTube:https://www.youtube.com/c/SDGsmedia
Voicy:https://voicy.jp/channel/1641
目次
自己紹介
【五十里】本日はお時間をいただきましてありがとうございます。まずは自己紹介からお聞かせください。
【齋藤さま】よろしくお願いいたします。株式会社Drop(以下、Drop)には2021年4月に入社しました。Dropでは責任者としてiina(いいな)の企画・開発、中学校や高校へのiinaの販売・提供、企業へのコンサルティングや研修の実施などを担当しています。
学校向けSDGs教材「iina」
iinaは、中学校・高校向けのSDGs教育プログラムです。スライド教材、学校の先生用の指導案、生徒が使うワークシートを3点セットにした教材が18種類あります。SDGsの17目標と、「SDGsとは」というイントロダクションで、計18種類です。
スライド教材は、生徒が自分用のiPadで閲覧したり、先生がホワイトボードに投影したりして使用します。
指導案は、30ページほどのスライド教材を使用する際の時間配分や、授業をする際の留意点など、先生が授業をおこなううえで押さえるポイントをまとめたものです。
ワークシートは、授業のなかで生徒に配布して使います。
先生が1時間準備をすれば、ゼロから授業ができるということをコンセプトにした教材です。
iinaサービスサイト:SDGs学校用教材 iina|中学/高校でSDGsの授業ができる
【五十里】齋藤さまが教育分野に関心を持った経緯をお聞かせください。
【齋藤さま】10代の頃は、ブライダル業界に関心を持っていました。高校生の頃に陸上部のマネージャーをしていたときに「人を支えることが気質にあっている」と感じていて、人生一度の機会をサポートできるブライダル業界に興味を持つようになりました。
しかし、高校卒業後、ブライダル業界の会社で営業職・プランナーとして多くの新郎新婦とお話をさせていただく中で、自分が社会のことをほとんど知らないと実感しました。また、世の中には「お医者さん」「看護師さん」のように子どもの頃から知っている職業以外にもたくさんの仕事があることを知り、プランナーとして働くことに迷いを感じました。そのときに一度立ち止まり、「きちんと社会のことを学んでから、改めて自分が何をしたいのかを決めてもよいのではないか」と考えました。
ちょうどその頃、上海にいって勉強をしてみることにしました。上海には日本人向けの学習塾が多数あります。私も入塾したいとお願いしたのですが、どこかの教育機関に所属している学生でないと受け入れられないということで全部断られてしまったんですね。そのときに、「熱意があっても思うように学ぶことができないこともある」ということを経験しました。
そのような背景から、自分のペースやタイミングでなにかを頑張りたいと思っている10代をサポートしたいと思うようになり、教育分野に関心を持ちました。
SDGs教材「iina」を企画・開発した経緯
【五十里】iinaを企画・開発した経緯についてお聞かせください。
【齋藤さま】iinaは、2021年7月にリリースしました。経緯としては、2020年度に小学校、2021年度に中学校、2022年度に高校の学習指導要領が改定されて、SDGsについて学校の授業で指導することが盛り込まれたというのが大きく社会的な背景としてあります。
また、教員免許を取得した大学でSDGsについて学んだことのある先生ばかりではないため「ギャップが生じている」ということを周囲から耳にしていました。
「学ぶ意欲のある生徒に対応できない」を解決したい
【齋藤さま】その一方で、生徒の方は、SNSや動画サイトなどでインフルエンサーなどが発信している情報に触れ、SDGsについて知っていることが少なくありません。
そのような実態があるなかで、生徒が学びたいと思っていても、先生が十分に対応できないことが起こりうると感じ、それを解決したいと考えました。
DropはSDGsに関するコンサルティングや研修をおこなっているので、その知見を活用して、先生たちが多忙のなかでも1時間の準備で授業ができるiinaを開発しました。
【五十里】生徒がSDGsについて学びたいと思っていることを、どのようにキャッチしましたか?
【齋藤さま】大きく2つあります。
1つは、Dropが所有している「Study Room」という個別指導塾で、各科目のテストで出題された問題にSDGsに関する内容が含まれているのを知ったことです。そのなかで、生徒たちがSDGsに対して興味を持っていることを感じました。
もう1つは、「カタリバ」という教育に関わるNPO法人にいた際に、自分が関心を持っているテーマの探求学習をすることをサポートする教育プログラムに触れ、地域に根ざしたことや、環境のことなど、いわゆるSDGsに関するテーマを選ぶ高校生が多いと感じたことです。
iinaのコンセプト決定にあたって
【五十里】私はサービス開発にあたり、コンセプト決定の難しさを感じたことがあるのですが、サービスを開発する際にコンセプトをどのように決めましたか?
【齋藤さま】SDGsをどのように学べるようにするかを考えたときに、先生が学習することに時間をとれていないことが課題としてあるのはわかっていました。また、「何事もまずは知ることからしか始まらない」と感じていたことなどもあり、いきなり考えたりアクションをしたりするような設計よりも、「SDGsについて知る」という第一歩に重点を置いた教材にしようと思いました。
また、開発をする際に1つ違和感を持ちました。それは、SDGsを学んだことのない大人が教える視点でつくる教材は果たして10代にとって興味がわく内容になるのか、ということです。
そのため、開発は知見のある大人だけでなく、高校生や大学生など10代の視点を取り入れることも大切にしました。北は福島、南は長崎まで30人ほどの学生をオンラインでつなぎ、学生の素朴な疑問をヒアリングし、教材の内容に盛り込んでいます。
たとえば、「食べ物が足りたら飢餓はなくなるの?」、「そもそもなぜ異常気象になっているのか」などの10代の等身大な疑問から解消し、知識を得られる内容です。
多くのSDGsに関する知識がないと授業をすることができない内容ではなく、「誰一人取り残さない」というSDGsのコンセプトの通り「まずはSDGsについて知ってみる」という誰もが学びはじめられる内容にすることを意識した教材だと思っています。
開発で苦労したこと
【五十里】サービス開発を進めるなかで、苦労したことなどはありますか?
【齋藤さま】iinaの開発を進めるなかで、高校生や大学生の方々に、関心のあるSDGsの目標1つを決め、教材の構成を考えていただくことをした際に、調整やコミュニケーションに苦労した面はあります。
先程もお話したとおり、実際に学ぶ生徒たちの心に響くものであることが重要だと考えていたため、iinaを開発する際には、高校生や大学生の方々にも積極的に携わっていただきました。そのなかで、高校生や大学生の方々から提出していただくアウトプットの質を上げ、ブラッシュアップしていく過程には、想定していた以上に時間を要しました。
SDGs教材「iina」のご利用シーン
【五十里】iinaはどのような先生にご利用いただくことが多いですか?
【齋藤さま】先生が担当している教科は、英語や数学が多いです。その次に家庭科の先生が多いですね。SDGsには生活に紐づいた目標も多く、授業のテーマとして扱いやすいのだと思います。
ご利用の流れとしては、SDGsに関する教材を探している先生がまず問い合わせをしてくださり、一部の無償提供している教材を実際にご自身の授業でお使いいただいてから、学校全体ですべての教材をご利用いただくようなパターンが多いです。
他には、SDGs指導の担当になった先生から、「何からはじめればよいかわからない」とお問い合わせをいただくこともあります。
【五十里】先生個人からお問い合わせをいただいてから、学校全体に広がるのですか?
【齋藤さま】そうですね。iinaは学校全体で使用できる教材ですので、有償版をご利用いただければすべての教材を全学年・全クラスが利用できます。
予算の充て方は学校によってさまざまです。3学年それぞれの予算の一部をiinaに充てたり、予算を決める時期に先生から学校に提案して予算を確保したりするなど、さまざまなパターンがあります。
iinaを利用した授業を受けた生徒の声
【五十里】生徒さんからはどのようなお声をいただくことが多いですか?
【齋藤さま】「イラストがあってわかりやすかった」、「自分たちで自由に考えられて面白かった」、「興味や関心を持って取り組めて楽しかった」などのお声をいただくことが多いです。
SDGsを学びに結びつけるのは難しいことだと思うのですが、楽しかった、興味や関心を持って考えられたという体験を生むことができていると実感しています。
株式会社Dropが提供する価値について
【五十里】会社が提供する価値についてお聞かせください。
【齋藤さま】社会の仕組みに対してアプローチし、社会課題に対して向き合い続けていることがDropの価値だと常々思っています。
Dropは、「社会の仕組みをよりよい姿に変え、ビジネスによって好循環を生み出す」というミッションを掲げています。会社として教育に携わることは、子どもたち自身に限らず、社会や地球に対しても大きな投資になると考えています。
ニュージーランドでは牛のゲップに税金がかかるようになる可能性があるという話もありますが、サステナブルな社会で生きていくなかで、SDGsに関する知識やスキルが当たり前に必要になります。
関心をもてたり、心が動いたりする課題は、一人ひとり違うと思っています。心が動くものに対して、強い関心を持って取り組める人を育てるという点においても、教育はとても重要な役割を担っていて、その教育自体が、Dropのミッションでいうところの「仕組み」になるのかなと思っています。
難しいことをわかりやすく伝えることに価値がある
【齋藤さま】また、国連や研究所などが公的に発信しているSDGsに関する情報を、わかりやすく伝えられることもDropの価値の1つだと思っています。
SDGsを推進するなかで「誰一人取り残さない」ためには、まずはすべての人に理解してもらうことが必要です。SDGsについてわかりやすく伝えることでまずは一歩を踏み出せるように、今後もさらに発信していきたいと考えています。
会社が提供するサービスに関するお客さまの声
【五十里】 Dropが提供しているiinaや、コンサルティング・研修サービスに対するお客さまの感想や反応について教えてください。
【齋藤さま】iinaをご利用いただいた先生からは、「iinaを取り入れたことで自分も生徒と一緒に学べて面白い」、「自分も学ぶ姿勢を持てた」などの言葉をよくいただきます。
コンサルティングや研修サービスをご利用いただいたお客さまからは、「SDGsに対してきれいごとだと少し思っていたけれど、自分の会社にとって重要だということがわかり、今後は積極的に取り組んでいきたい」など、ご担当者の心に火がつくきっかけになったと感じられるようなお声をいただくことが多いです。
SDGsにおける社内浸透の重要性
【五十里】SDGsに関する取り組みを推進するには社内浸透が重要だと感じています。社内浸透の課題について教えてください。
【齋藤さま】会社としてマテリアリティ(重要課題)が決まっていても、社員の理解を得られずにアクションが遅れることは少なくありません。社員のアクションが遅れることが、企業内で取り組みを推進するうえでの大きな課題だと実感しています。
たとえば、「排出する二酸化炭素を減らすこと」がマテリアリティであれば、まずは排出量を算定して目標を設定するところからはじめます。この目標を設定する過程では、経理部や総務部の方々が、自社が営業車をどれくらい使用しているのかのデータ入力を何年分もおこなう……というような作業が必要になることもあります。そのような作業が通常業務に加わるのは大変なことですよね。
しかしマテリアリティが決まったあとも、SDG推進のご担当者の方々は目標設定から、部内へのアクションの落とし込みなどやることがたくさんあります。そして、それらを1つ1つ進める際には社内の多くの人を巻き込んでいく必要があります。
会社としてSDGsに関する取り組みをおこなうことの重要性を社員が理解し、共感していれば、自分たちの重要な役割だと認識してコミュニケーションをとりながら前向きにおこなうようになっていきます。
そういう観点で、SDGsの社内浸透は全社で推進していく際の土台づくりになると考えています。
SDGsについての知識が企業活動のリスクヘッジに
【齋藤さま】また、SDGsの重要性の1つとして、SDGsについて学ぶことが企業活動をおこなううえでのリスクヘッジになる点も挙げられます。
たとえば、アイスコーヒーを機内に持ち込める航空会社で働く社員が、乗客が持っている紙コップを見てホットコーヒーだと誤って認識し、指摘したことがクレームにつながったとします。
SDGsに関する知識があり、コーヒーショップがおこなっている廃プラスチックの取り組みについて知っていれば、そのようなクレームに至ることを防げたかもしれません。
社員がSDGsに関する知識を保有していないことが、会社のリスクになる場合もあるということです。
社内浸透を進める際の課題
【五十里】SDGsの取り組みを社内に浸透させるうえで、企業が抱えている課題について教えてください。
【齋藤さま】社員のSDGsに対する理解が及んでいないことが一番の課題です。それはSDGsそのものと、自社のマテリアリティへの理解が及んでいないことの両方です。SDGsについて知るところからはじめないとマテリアリティへの理解が進まないことが少なくありません。
社内浸透を進めるためのアプローチ
【五十里】社員の理解が及んでいない場合に、どのように解決なさるのですか?
【齋藤さま】研修・教育に関するサービスをご提案することが多いです。
たとえばですが、マテリアリティを明確に定め、自社のSDGs方針の策定まで終えているお客さまであれば、SDGsについて社内で学べる教育環境を整える「e-ラーニング」、社内で一斉研修がおこなえる「研修サービス」、マテリアリティの浸透を促す「オリジナルの研修・動画の作成」などをご提案します。
【五十里】お客さまからはどのようなお声をいただいていますか?
【齋藤さま】受講した社員の方々からは、「シンプルに理解が深まった」、「なぜSDGsに取り組む必要があるのかがよくわかった」というお声をよくいただきます。
ご担当者からは、「社員の足並みを揃えられそうだ」、「SDGsに関するアクションをするときに各部署を巻き込んで取り組んでいけそうだ」といったお声をいただいています。
【五十里】もし何か具体的なエピソードがありましたら教えてください。
【齋藤さま】過去に、SDGsの方針策定のコンサルティング支援を担当させていただいた企業のご担当者から、プロジェクト終了後に、あるご連絡をいただきました。
その内容は、その方が退職することになったというものでした。
私は最初、すごく残念に感じたのですが、よく話を伺うと、「これまでの数ヵ月が自分にとって本当に大きかった。今後の人生を何に費やしたいかを改めて考え直し、もっとサステナビリティの観点で取り組める仕事がしたいと考えるようになった」とのことでした。
SDGsについて知ることで、企業だけでなく、個人の生き方についてもより前向きに考えるきっかけを届けられたのだと感じました。
SDGs達成への思い
【五十里】社会課題を解決することに対する思いをお聞かせください。
【齋藤さま】日々、SDGsに関われば関わるほど、決まった正解や答えがないことを感じています。
地球に暮らす77億人の考え方はそれぞれ違います。そのなかで、みんなが幸せに暮らすための正解は当たり前ですが、1つではありません。しかし、異常気象は深刻になり、食料や水不足の可能性が高まっていて、このままでは今後さらに苦しむ人が増える未来になることはわかっています。
そのなかで、どのようにすれば、社会課題を解決していくことができるのかを考えると、実際に対話をして一人ひとりの声に耳を傾けながら動くことだと現時点では考えています。
コンサルティングというと、何かを提案して導いていくというイメージがあると思いますが、Dropのコンサルティングはワークショップに近い部分があり、全員が対話をしながら考えられる時間をつくっています。
対話をすることから逃げずに向き合うことを、私自身も続けていきたいと強く思っています。
今後の展望
【五十里】最後に、会社の展望についてお聞かせください。
【齋藤さま】2030年まで、残された時間が少なくなっていると感じています。SDGsを軸にして事業を展開しているからには、SDGsのリミットについても考えて仕事に取り組んでいかなければならないと日々感じています。
そのなかで、SDGsに関する知識を得る人の数を大きく増やす取り組みをしていかなければならないと常々思います。対話をして向き合うことを続けていきつつ、手を伸ばせる範囲を広げていく取り組みにも力を注いでいくことが必要です。
今後はさらにYouTubeやオウンドメディア、音声配信メディアのVoicyなどのメディアを利用し、広く啓発していけるように取り組んでいきたいと考えています。
また、今後は社会的にこれまでよりもアクションが求められるフェーズに移行していくため、その際に活用できるツールの開発・提供をしていくことにも注力していきたいです。
【五十里】私も、まずは知ることが非常に大切だと感じています。知ることでその分野に興味を持ち、もっと学びたいと思うきっかけになります。
また、iinaについてお話しいただいた際に伺った「教育において、自分の心が動くものに対して、高い関心を持って取り組める人を育てる」という点も非常に共感しました。高い関心を持つことで、取り組みに対する熱量が高まると日々の業務からも感じています。
このような貴重な機会をいただき、誠にありがとうございました。
この記事を書いた人
SDGsコンパス編集部
SDGsコンパスは、SDGsに踏み出したい企業や自治体様の「はじめの一歩」を後押しするメディアです。SDGsの目標やSDGsの導入方法などのお役立ち情報を発信していきます。