「SDGsのその先へ」関西大学副学長・高橋智幸
副学長 高橋智幸
今回は、関西大学の副学長、高橋智幸教授に関西大学のSDGsの取り組み内容や背景について詳しくお伺いしました。
高橋教授は津波や高潮、洪水などの水災害に関する防災・減災の研究を専門にされており、ご自身の研究とSDGsとの関係についても貴重なお話をお伺いすることができました。
SDGsの取り組みを始めたきっかけ
―関西大学では、既に様々なSDGsの取り組みがされていますが、SDGsに取り組み始めたきっかけをまずお伺いしてもよろしいでしょうか?
(高橋教授)
関西大学ではSDGsができる以前から、環境問題や人権問題に取り組んでいました。ですが2018年から正式に、芝井学長によってSDGsに関するプロジェクトがスタートしました。芝井学長は現在理事長で、その思いは現在の前田学長にも引き継がれています。「関西大学も社会の一員としてSDGsに取り組んでいく」ということをトップが率先して示していくことで、全学でも取り組んでいく雰囲気が出来上がりました。そして、以前から続けてきた取り組みを引き継ぎつつ、SDGsに合わせて刷新していこうという流れになりました。環境問題や人権問題に関する取り組みはこれまでも行ってきましたが、SDGsは、それらを改めて考えるきっかけになりました。学生にとってSDGsについて学びやすい環境を整えるということが私の仕事と自覚しています。
MDGs※を取り組んでいた時に達成できなかった目標を引き継ぎながらSDGsに取り組んでいますが、SDGsの達成目標の年である2030年の先にも新たな目標が立ち上がっていくと思います。そういった未来のためにも現在できうる限りのことをしていきたいという思いで、私たちはSDGsについて取り組んでいます。
―ありがとうございます。ではSDGs活動の根幹となった、そもそもの環境問題や人権問題に対する取り組みのきっかけについてもお伺いしてよろしいでしょうか?
(高橋教授)
本学では多様な分野の教育研究を行っており、学生の関心と共にその学ぶ対象も広がっています。様々な分野で教育研究を行っていると、実践の中で“なんとか問題を解決したいな”と問題解決意識を持つのは当然かと思います。さらにその問題を解決するときに、学生自身が成長できること。そして、ただ論文を書くだけに留まらず、我々の研究と社会との繋がりを意識しながら、社会に貢献していくということを大切にしています。そのような姿勢が、課題解決への取り組みへとつながっているのではないかと思います。
本学のSDGsの取り組みの中で特徴的なのは、“学生が変わっていく”ということですかね。例えば、教授が自分の研究に関連するSDGsを取り組んでいる時でも、学生を巻き込んでいくことを大切にしています。それは学生にとって、知識を使いこなす訓練にもなるので。
現在では、様々な知識を入手しやすくなっていますが、ただ知識を持っているだけでなく、それをよりうまく使っていくという能力がとても大事です。この能力は実践で身についていくものであると思いますので、そういった面でもSDGsをうまく活用できているのが本学の特徴です。
当然、社会の一員として責任を持ってSDGsに取り組んでいます。それは教員だけではなく、職員も学生も同じです。
―サイトで拝見しましたが、職員さんが集まって2030SDGs※をプレイされていましたよね。
はい。実際、職員が大学の中の潤滑油となって、大学を様々な所でうまく動かしてくれるから、教員もうまく学生と一緒に活動をできているのだと思います。大学の方針だから取り組むじゃなくてSDGsを面白いと思ってやっていただいているというのが、良い点だと思っています。
また、学生は毎年入れ替わっていくものなので、SDGsに関する授業を全学部共通で受講できるようにしています。最近は、SDGsに取り組んでいる高校が増えてきていますが、触れたことがなかったという学生ももちろんいるわけです。そういった学生たちのためにも、授業でしっかりSDGsの基礎を学んだ上で、自分たちにできる取り組みを考えてほしいと思います。昨年度の例ですと、入門の授業でも1000名を超える学生が受講していました。
―ありがとうございます。学生さんたちのSDGsへの関心も高まっているのですね。
関西大学SDGsパートナー制度とは
―関西大学のパートナー制度についてもお聞かせいただいてよろしいですか?
(高橋教授)
関西大学SDGsパートナー制度は2021年に作った制度です。※
企業や自治体などが連携する包括連携の動きは進んではいますが、実際には連携を行いたいと思っても、包括連携協定の手続きにとても時間がかかってしまいます。そのスピードをもっと早められないかと思い、本制度を制定しました。
今では40くらいの企業が連携・協力してくれています。企業だけでなく、市町村や大学等も対象です。全国規模の企業もあれば、地元に根ざした企業もあり、業種も本当に多様です。卒業生のいる会社が入ってきてくれることもあってとても嬉しいですね。
パートナー制度では、私たちの考えだけでは足りないところをパートナーの皆さんが応援してくれて、逆にパートナーの皆さんが困っているところを我々も応援ができます。そして、交流会でしっかりと自分達が何をやりたいのかということを話し合ってもらいます。次の新しい取り組みが見えてきた時には、パートナー制度として考えることが本当にうまくいったなと実感できます。
パートナー制度登録していただくときには、どういった取り組みをしたいのかを教えていただいています。そうすることで、我々のほうでも『そのテーマだったら、この学部のこの先生のゼミがいいよ』と具体的な紹介も出来ますからね。企業さんは関西大学のことを知っていただいているけれど、その中でどの先生がマッチするか分からないので、我々がご紹介させていただいています。
今後のSDGsの活動の目標について
―関西大学のSDGsの取り組みの目標についてお伺いしてよろしいですか?
(高橋教授)
大学として今後重要だと思っているのは2025年の大阪万博です。SDGsの取り組みというのは結構地道なもので、1つ1つに派手な事をするのではなく、始めたことを着実に進み続けていくということ、これが実はSDGsにとっては大事なことなのだと思います。大阪万博ではSDGsが1つのコンセプトになっていますので、そこで我々もぜひご協力させていただきたいですね。万博のパビリオンで研究成果を活用していただくことも考えていますし、学生がボランティアとして参加するなどして、SDGsに取り組んできたということを示していきたいですね。
また、SDGsで重要なものの1つに環境問題があります。社会の一員として、カーボンニュートラルは避けられないわけですよね。我々の持っている研究成果を使って、社会のカーボンニュートラルを進めていくことも目指しています。
そして、SDGsの授業で学生たちの実際の声を聞いていると、『取り組みたいけども、取り組み方が分からない』という学生がすごく多いんですよ。本当にそれはもったいないと思っていて、みんなやる気やモチベーションがあるし、しかもいろんなことを勉強しているから、やり始めればできるのに、やるきっかけがない学生が結構いて。ポテンシャルは高いけれど、踏み出していない学生が多くいます。一緒に一歩踏み出せるような仕組みづくりが重要かなと思っています。
―ありがとうございます。最後に、高橋教授にとってのSDGsについてお伺いしてよろしいでしょうか?
(高橋教授)
私個人としては、防災や環境問題について研究しているので、目標の11※・13※や、海の研究では目標14※に取り組みたいと思っています。
今、海の中で電気を作る研究をしています。それを何に使うのかと言うと“珊瑚礁”です。生態系の観点からも、経済的にも珊瑚礁を地球温暖化から守っていくことは重要なので、珊瑚を守る研究と水の中で発電する研究をリンクした研究を行っています。実は、珊瑚に微弱な電流を流すと、成長率が上がるのです。
この研究は1人でやっているわけではなくて、他の3つの学部の先生と合同で研究しています。4つの学部の先生が集まって共同研究しているというのは、実はすごいことなんです。学部を横断した研究というのは難しいのですが、これができている理由がSDGsです。普段は全然違う分野の研究をしているけれど、目標として“SDGsの~番目の目標がある”となると、そこに皆が繋がることができます。しかも、4人の教員がいると、その4学部の学生も集まって研究していくことになり、多様性が活きてきます。それこそがSDGsの特徴であり、コンセプトなのかなと思いますね。
―SDGsを取り入れたうえで、より良い学びに活かしているということに感銘を受けました。また、高橋教授を始め、教職員の皆様がSDGsについて深い見識を持っているというのが、関西大学ならではの学びのあり方に繋がっているのでしょう。このような貴重な機会をいただき、誠にありがとうございました。
この記事を書いた人
SDGsコンパス編集部
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