社会

企業防災とは?BCP・マニュアルの策定や防災訓練、備蓄の方法を紹介

地震や豪雨などの災害は、企業や従業員に大きな被害をもたらします。災害が多い日本の企業にとって、防災・減災対策は不可欠ですが、事業継続計画(BCPBusiness Continuity Plan)の策定率は全国で2割弱(2022年、帝国データバンク調査)。20113月の東日本大震災以後、防災マニュアル作りや訓練、備蓄など、企業にも防災対策が求められるようになっています。

本記事では、企業防災とは何か、災害の種類、防災対策(防災マニュアル・BCP・訓練など)、被災時の対応方法や復旧のポイント、BCPの策定手順・運用方法まで網羅的に解説します

 

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企業防災とは


企業防災は、地震などの災害に備えて企業が行う防災対策のことです個人の防災と異なり、従業員や顧客の命と安全を守る「防災」と、事業復旧をスムーズに進める「事業継続」の観点があります

「防災」には、まず命を守り、二次災害を防ぐこと、帰宅困難者の発生防止、飲料や食料品の備蓄、防災訓練、建物の耐震補強などが含まれます

「事業継続」では、BCPに基づいて対策を立て、災害時にも重要な業務をできるだけ早く再開することで、事業縮小や廃業を避け、従業員の雇用を守ります。企業価値の向上にもつながる取り組みです

しかし、BCPを策定しようと思っても方法がわからなかったり、手が回らなかったりする企業も少なくありません。

企業が防災に取り組むべき理由

そもそも、なぜ企業が防災に取り組む必要があるのでしょうか。主な理由として下記の5つがあげられます。

  • 従業員や顧客、地域住民などの命を守る責任
  • 災害リスクの高まり
  • 災害に伴う損失の抑制
  • 取引先への被害拡大の抑制
  • 顧客からの信頼獲得

近年の日本では、南海トラフ地震や首都直下地震が懸念され、豪雨災害も目立ちます。他にも、火災、新型コロナウイルスのような感染症のまん延(パンデミック)、サイバー攻撃など、様々なリスクが存在します。

災害が起こった時、企業には従業員や顧客、地域住民などの命を守る責任があります。

また、企業が被害を受け、大きな損失がでて事業の継続が困難になると、被災地以外の顧客・取引先企業にも影響が広がります。災害時にも通常どおり業務を行うことができれば、顧客や取引先から大きな信頼が得られます。

「労働者の安全への配慮」は義務

日本の企業には、労働契約法第5条で「労働者の安全への配慮」が義務づけられています。経営者側がこの義務を怠ると、損害賠償を請求される可能性もあります。

東日本大震災の際、宮城県山元町の自動車教習所で、津波により、教習生25人、アルバイト従業員1名が犠牲になり、遺族たちが教習所に損賠賠償を求めて訴訟を起こしました。仙台地裁の第一審判決では、教習所側の責任を認め、約191千万円の賠償を命じました(後に和解)。

参照:津波避難で教習所に賠償命令 「命救う責任」厳格に|日本経済新聞

日本で想定される災害の種類

日本で想定される災害には、地震、水害・土砂災害、噴火、火災、感染症のまん延、サイバー攻撃などさまざまあり、いずれも対策を考えておく必要があります。

対策を考える際には、企業の立地によって、想定する災害や被害の内容が異なることを意識しましょう。

例えば、沿岸部にある企業では、津波を想定した対策が必要です。台風の場合は堤防の整備状況や海抜を考慮しておく必要があるでしょう。災害による被害を予測した「ハザードマップ」を理解しておくことが重要です。

都道府県や市区町村では地域防災計画を策定している所が多いため、ホームページなどで調べておくとよいでしょう。

企業における防災対策

具体的は、企業はどのようにして有事に備えればよいのでしょうか。防災マニュアルやBCPを策定し、訓練を続けることが大切です。

備蓄品も忘れず準備しましょう。平常時に耐震診断を受け、必要に応じて補強することも、建物の倒壊を防ぐために大切です。

マニュアルの作成

災害発生時、従業員や顧客を守り、施設や設備のダメージを最小限に抑えるために防災マニュアルを作成し、各自の行動指針や役割を明確にしておきましょう。従業員は平常時からその内容を把握し、自分はどう行動すればよいのか、頭に入れておかなければなりません。

防災マニュアルを作成する時は、5W2Hを意識し、簡潔に伝えましょう。5W2Hは、目的(Why)、何をするか(What)、順序(When)、誰が(Who)、どこで(Where)、どうやって(How to)、数量(How much)です

作成したマニュアルをもとに訓練を実施し、改善点を見つけ、内容を更新します。訓練の都度、内容を見直し、改訂していくことが大切です。

災害時の組織体制の例

  • リーダー(現場の指揮を担当する)
  • 総務(対策本部の設立)
  • 情報(インターネットや災害用伝言サービスで情報収集、連絡)
  • 消火(火災発生時に消火を担当)
  • 救護(負傷者を手当する)
  • 重要員ケア(安否確認、従業員の支援を行う)

BCP(事業継続計画)の策定

防災マニュアルと混同しやすいものに、BCPがあります。BCPは被災した際に事業資産の損害を抑え、早期復旧を可能にする事業継続のための方法・手段などを取り決めておく計画です。従業員や顧客の安全確保だけではなく、重要な事業を中断させないこと、事業をスムーズに復旧することを目的にして作成します。

BCPは、直接の被災だけを想定するのではなく、災害でほとんどの従業員が出社できなかったり、ライフラインやITシステムに制限が生じたり、仕入先や取引先に仕事を依頼することができない時、どのようにすればスムーズに事業を再開できるかを考えて作ります。

防災マニュアルとは車の両輪ともいえる関係にありますが、異なる点もあることを覚えておきましょう。

なお、BCPの策定・運用については「BCPの策定手順・運用方法」の章で説明します。

 

BCP

防災

目的

事業の継続・早期復旧

従業員や自社設備の保全

備えるべき事態

災害の他、感染症のまん延なども含む

地震や津波、豪雨による洪水などの災害

防災訓練の実施

BCPを策定したら、防災訓練を必ず行いましょう。様々な災害を想定してシミュレーションすることが、従業員や顧客の命を守ることにつながります。

災害が起きると、想像しなかったことが次々起こります。同じシナリオを使い回すなど、何が起きるか予測できる訓練を繰り返しても、災害時に役に立たないかもしれません。臨機応変な対応が必要である点を防災訓練を受ける従業員に理解してもらえるよう、内容を工夫しましょう。

なかには安否確認システムを導入している企業もあります。訓練はシステムを実際に使うことができるか、検証する良い機会です。どれほど優れたシステムでも、平時に使い方を学んでいないと、いざという時に使いこなすことができません。

マニュアルやBCPは、最初から完全なものを作らなくてよいのです。訓練によって更新し、従業員の理解を深めることが大切です。地震、台風、火災、テロ行為など、災害別のシナリオを作って訓練するとよいでしょう。

備蓄品の用意

災害の発生時に帰宅困難者が発生した場合に備えて、オフィスに備蓄品を用意しておくと安心です。

東京都が2013年に施行した「東京都帰宅困難者対策条例」では、事業者に対して3日分の飲料水や食料品、毛布の備蓄を努力義務としています。従業員の人数×3日分が必要ということです。

災害後は大勢の人が店に殺到し、あっという間に商品がなくなることもあります。水は13リットル、3日で9リットルを目安に、従業員の数だけ用意しておきましょう。長期保存できるミネラルウォーターだと、510年ほど持つとされています。食料品は、加熱や調理の必要がほとんどない乾パンやアルファ米など、13食、3日で9食を、従業員の数だけ用意しましょう。栄養のバランスも考えて、魚や肉の缶詰、野菜ジュースなどもあるとよいでしょう。

いずれも劣化を防ぐため、直射日光の当たらない場所で保管しておきます。

また、暖をとるため、毛布や、アルミ製の非常用防寒・保温シートを準備しましょう。毛布はフリースなど薄くて軽いものが便利です。

【必要な備蓄(1人分)】

 

1日分

3日分

3リットル

9リットル

食料品

3

9

毛布

1

1

この他、非常用トイレ、トイレットペーパー、マスク、歯ブラシ、生理用ナプキンなどの衛生用品も必要です。救急セットと医薬品、ラジオ、ヘッドライト、スマートフォン等を充電するための非常用発電機なども準備しておきましょう。

これらの備蓄品を用意する際は、必要な量や保管場所を明確にし、実際に使用する場面を想定するなど準備が大切です。ゴミの回収が止まる可能性もあるので、ゴミの保管方法についても考えておきましょう。

感染症リスク対策

防災対策をする際には、感染症のリスクを考慮する必要があります。

マスク、消毒用アルコールの用意の他、基本的な感染予防策の周知徹底、一部の業務をテレワーク化するなどの工夫が必要です。感染症拡大の場合、多数の従業員が出社できなくなる可能性があります。その場合も継続すべき業務は何かを明確にし、共有しておくとよいでしょう。

被災時の対応方法

実際に災害が発生した時は、どのように行動すればよいでしょうか。ポイントを紹介します。

初動対応がカギを握る

災害が発生すると、想定しなかった様々なことが起きます。初動対応が肝心です。

生死を分けるタイムリミットは72時間といわれています。まずは自分の安全を確保し、命を守ることです。

大地震が起きた時は、机の下などで身を守り、座布団などで頭部を守りましょう。キャビネットが倒れてガラスが砕け散ったり、棚の上の荷物や書籍、照明、パソコンが落下したりすることがあります。揺れが収まったら負傷者を確認し、応急手当をしてください。すぐ救急車が来ないこともありますので、医療機関への搬送についても、あらかじめ考えておきましょう。

火災を起こさないため、電気やガス等の安全確認も忘れずに。火災が起こっている場合は初期消火をしますが、鎮火が難しい場合は速やかに逃げてください。火災が広がったり、建物が倒壊する危険があったりする時は、ガラスの破片や落下物で怪我をしないよう注意して避難しましょう。

津波の被害が想定されている地区では、日頃からハザードマップを確認し、浸水地域や避難経路、避難場所をチェックしておきましょう。津波はすぐ到達するので、早く、高い所に避難することが重要です。

従業員の安否確認

災害の発生後、状況がある程度落ち着いてきたら、従業員の安否確認を行いましょう。

企業の建物や設備が無事でも、従業員がいなければ事業を復旧できません。BCPに従って復旧を進めるため、安否確認の方法や参集のルールを決めておきましょう。

安否確認の手段は、複数ある方が望ましいです。メール、チャット、SNSの他、従業員自身が入力する安否確認システムもよいでしょう。無事か、軽傷か、重傷か、何時間以内に参集できるかを入力してもらい、出勤できる人数が把握できたら、優先順位が高い業務から配置します。

安否確認は、全従業員に対して行う必要があります。参集できる従業員が足りない場合は、安全面を考えつつ、被災地以外の支社などから人を呼ぶことも検討しましょう。

復旧活動

状況がある程度把握できたら、対策本部を立ち上げ、復旧活動に取り掛かります。

社会全体の被害はどの程度か、電気、ガス、水道などは止まっているか、従業員や自社の建物・設備、取引先は大丈夫かなどを調べて情報共有することで、その後の行動が見えてきます。

ライフラインが止まる場合への備え

災害が起きると、電気、ガス、水道などのライフラインが止まる場合があります。その際、どのように対応するか検討しておきましょう。電気なら自家発電装置の整備、ガスならプロパンガスの準備、水道はペットボトルの備蓄や井戸水の活用が考えられます。

BCPの策定手順・運用方法

復旧を早く進め、事業を継続するために、BCPを策定・運用しましょう。ここからはBCPの基礎知識について説明します。

BCPとは

BCPとは、災害による被害を最小限にとどめ、事業の継続・早期復旧を可能にする計画です。地震などの災害や火事、感染症のまん延など、様々な緊急事態を想定し、カテゴリごとに必要な計画を検討します。

カテゴリには、①人的資源、②施設・設備、③資金、④情報・データ、⑤体制などの企業全体にかかわるものがあげられます。

例えば①人的資源の場合、従業員と家族に起こるリスク、リスク回避や安全確保に必要なもの、安全を確保するための行動や手段、業務遂行ができない従業員がいる場合の対応などについて考えてみましょう。

災害時、どのようなリスクがあり、どのような事態が想定されるか、どう行動すれば損害を抑えて事業を継続・復旧できるかをイメージしながら検討していきます。

BCPを策定する手順

策定する際は、下記の手順に沿っておこないます。

  1. BCPの方針の決定・体制構築
  2. 被害の想定(社会と自社の被害を知る)
  3. 事業インパクト分析(BIABusiness Impact Analysis
  4. 重要業務の把握
  5. 事業継続の具体的対策を考える

例えば、BCPの方針は、①人命を守る、②会社資産の保全・事業の継続、③地域社会への貢献、④ステークホルダーからの信用を守る、などの項目を入れるようにします。体制構築では、「従業員の安否確認や要因配置は人事部が行う」というように、平常時の業務と連動させて作るとよいでしょう。

また、自社が立地する地域では、どのような被害が想定されるか、国や地方自治体が出している資料を調べましょう。さらに、自社の建物、設備、従業員の被害、電気・ガス・水道などのライフライン途絶によって、どのような被害が発生するか想定します。

また、災害が発生すると、全ての業務をこなすことが難しくなるため、業務に優先順位をつけることが必要です。そのためBIAを行い、事業が中断した際の影響を考えます。売上や利益がどの程度減るか、取引は継続できるか、従業員の雇用は維持できるか、納期遅れや資金繰りは大丈夫かなどを検討します。

重要業務に必要なものが手に入らない時、どのように代替するのかも考え、具体的な対策をまとめておきましょう。

BCPの発動基準・体制を決める

災害が起きた時、BCPをどの段階で発動するか、明確な基準が必要です。基準がないと、初動が遅れる可能性があります。中核となる事業が被害を受ける可能性があるのはどのような状況下か、考えておきましょう。

発動後の体制も必要です。経営者をトップにし、復旧対応、外部対応、財務管理、後方支援などのチームを決めておくとよいでしょう。

住民との連携を進める

訓練は地元の消防署などと協力して行うことが多いですが、近隣住民との連携を忘れてはなりません。

災害は夜間、休日など、従業員が少ない時間帯に発生する可能性もあります。この際、近隣住民の協力が必要です。企業と地域が連携して訓練したり、日頃から親しく交流したりして、有事の際に協力できるようにしましょう。

 

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まとめ

東日本大震災という辛く悲しい出来事を経て、日本のみならず世界の人々が多くのことを学びました。

企業が防災に取り組むうえで何より重要なのは、従業員・顧客・取引先、地域住民など、自社に関わる人々の命を守ることです。防災マニュアルやBCPは最初から完全なものでなくて構いません。策定したら訓練を続け、更新することが大切です。

地震発生時の火災など、二次災害も食い止めなければいけません。この面でも、災害時の行動をマニュアル化しておくことが重要です。

企業に関係するすべての人々の命を守るために、企業防災に取り組みましょう。

 

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SDGsコンパス編集部

この記事を書いた人

SDGsコンパス編集部

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