持続可能な開発のための教育とは?その目的や取り組み事例について紹介
現在、世界では「環境」「社会」「経済」などについて、さまざまな社会的課題があります。このような課題を解決し、持続可能な社会の実現を目指す取り組みが、昨今大きな注目を浴びている「SDGs(持続可能な開発目標)」です。
2030年に目標達成を目指す「SDGs」ですが、社会の持続性を保ち続けるためには、SDGsマインドを持つ次世代を育成する必要があります。そこで、いま世界的に取り組まれているのが、次世代を担う若者の育成施策である「持続可能な開発のための教育(ESD)」です。
本記事では、「持続可能な開発のための教育」の目的や、SDGsとの関連性、取り組み事例について解説します。
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持続可能な開発のための教育(ESD)とは?
「ESD」とは「Education for Sustainable Development」の略称であり、日本語では「持続可能な開発のための教育」と訳されています。文部科学省によると、「持続可能な開発のための教育」は以下のように定義されています。
- これらの現代社会の問題を自らの問題として主体的に捉え、人類が将来の世代にわたり恵み豊かな生活を確保できるよう、身近なところから取り組む(think globally, act locally)ことで、問題の解決につながる新たな価値観や行動等の変容をもたらし、持続可能な社会を実現していくことを目指して行う学習・教育活動
いま世界には、「気候変動」「生物多様性の喪失」「資源枯渇」「貧困」など、人々の安心した暮らしを脅かす、さまざまな問題があります。人々の生活を続けていくためには、このような問題の解決に取り組む若者の育成が必要です。つまり、「持続可能な開発のための教育」とは、これからの社会を担う「持続可能な社会の創り手」の育成を目的としています。
引用:持続可能な開発のための教育(ESD:Education for Sustainable Development):文部科学省 (mext.go.jp)
持続可能な開発のための教育の目的
持続可能な社会は、以下の「6つの視点」から構成されており、まずはこれらの考え方を理解することが、持続可能な開発のための教育の第一歩となります。
1. 多様性(いろいろある) | 世界にはさまざまな考え方を持っている人がおり、文化や生活習慣も異なっています。多くの立場から物事を考えることが大切です。 |
2. 相互性(関わりあっている) | 人々の暮らしは、人同士の関係や自然・生物との繋がりなど、さまざまなものが関わり合っていることを理解しましょう。 |
3. 有限性(限りがある) | 食料やエネルギー資源は有限であるため、有効的に活用する方法を考えることが必要です。 |
4. 公平性(一人一人大切に) | 国籍・性別・年齢などの違いに関わらず、すべての人が幸福に暮らす権利を持っていることを忘れてはなりません。 |
5. 連携性(力合わせて) | 多くの人々が互いに協力することで、個人では実現できない大きな成果を上げることができます。 |
6. 責任制(責任を持って) | 自身ができることは、他人に任せるのではなく、積極的に取り組む姿勢を持ちましょう。 |
持続可能な開発のための教育では、「6つの視点」を基に、持続可能な社会を実現するための以下の「7つの能力・態度」を学習し、課題解決力を育てます。
1. 批判的に考える力 | 客観的な視点や正しい情報を基に、ものごとの本質を理解し、合理的な判断を行う力 |
2. 未来像を予測して計画を立てる力 | 過去や現在の状況を知り、あるべき未来の形を計画する力 |
3. 多面的・総合的に考える力 | 人や社会・自然などの繋がりを理解し、さまざまな立場から総合的に考える力 |
4. コミュニケーションを行う力 | 自身の意見や考えを相手に伝えたうえで、相手の気持ちや考えを尊重できる力 |
5. 他者と協力する力 | 他者の考えや立場を理解し、互いに協力しながらものごとに取り組む力 |
6. つながりを尊重する態度 | 人や社会、自然などの繋がりに関心を持ち、尊重する態度をとる |
7. 進んで参加する態度 | 自身の発言や行動に責任を持ち、自身の役割や関係するものごとに対して、主体的に取り組む態度 |
持続可能な開発のための教育(ESD)の目的は、「6つの視点」を理解し「7つの能力・態度」を身に付けた次世代の若者が、持続可能な社会の実現へ向け、積極的な行動を起こすことです。
持続可能な開発のための教育とSDGsの関係性
持続可能な開発のための教育(ESD)は、2002年に行われた「持続可能な開発に関する世界首脳会議」にて、日本が提唱した考えです。日本の提唱がきっかけで、以下のような施策が世界的に掲げられました。
- 国連持続可能な開発のための教育の10年(2005-2014年)
- 持続可能な開発のための教育(ESD)に関するグローバル・アクション・プログラム(GAP)(2015-2019年)
今では、ユネスコを主導機関として「持続可能な開発のための教育」が国際的な取り組みになっています。
「持続可能な開発のための教育」が目指す持続可能な社会を実現するためには、SDGs(持続可能な開発目標)を達成する必要があります。SDGsとは、国連主導で取り組みが行われている、2015年の国連サミットで決められた国際的な目標です。2030年までに「誰一人取り残さない」社会の実現を目指し、17の目標と169のターゲットから構成されています。
引用:SDGsポスター
SDGsにおいて、「持続可能な開発のための教育」は、「目標4.質の高い教育をみんなに」のターゲット4.7に位置付けられています。
- ターゲット4.7:2030年までに、教育を受けるすべての人が、持続可能な社会をつくっていくために必要な知識や技術を身につけられるようにする。そのために、たとえば、持続可能な社会をつくるための教育や、持続可能な生活のしかた、人権や男女の平等、平和や暴力を使わないこと、世界市民としての意識、さまざまな文化があることなどを理解できる教育をすすめる。
参考:4.質の高い教育をみんなに | SDGsクラブ | 日本ユニセフ協会(ユニセフ日本委員会) (unicef.or.jp)
SDGsの17目標を達成し、持続可能な社会を実現するためには、「持続可能な開発のための教育」が不可欠です。「持続可能な開発のための教育」は、SDGsのターゲットのひとつであるとともに、17目標すべてを実現するための施策として位置づけられています。
持続可能な開発のための教育への取り組み事例
「持続可能な開発のための教育」に向けて、さまざまな取り組みが世界的に行われています。ここでは、日本の政府や自治体などが行っている、取り組み内容について、詳しく見ていきましょう。
持続可能な開発のための教育:SDGs実現に向けて(ESD for 2030)
SDGsは、2030年までに持続可能な社会を実現することを目的としているため、「持続可能な開発のための教育」への取り組みを加速させていく必要があります。その中で、2019年の国連総会で「ESD for 2030」が採択されました。
「持続可能な開発のための教育」は、幼児教育から高等教育・遠隔教育(※)・職業技術教育(※)など、すべての教育段階に取り入れていく必要があり、世界中で進められています。2015年の段階で、2,600万人がカリキュラムを学び、200万人の教育者が研修を受けました。「ESD for 2030」は「持続可能な開発のための教育」への取り組みを強化することで、質の高い教育ができる環境づくりを目的としています。
参考:「持続可能な開発のための教育:SDGs実現に向けて(ESD for 2030)」について ~第74回国連総会における決議採択~:文部科学省 (mext.go.jp)
「我が国における「持続可能な開発のための教育(ESD)」に関する実施計画」(文部科学省・環境省)
日本国内での「持続可能な開発のための教育」を進めながら、世界をリードしていくために作られた計画が「第2期ESD国内実施計画」です。この計画では、「ESD for 2030」の考え方を取り入れており、「持続可能な開発のための教育」がSDGs達成に貢献することをはっきりと示しています。「第2期ESD国内実施計画」では、「持続可能な開発のための教育」を実現するため、5つの優先分野ごとに具体的な取り組みを定めています。
優先行動分野1:政策の推進
教育機関やその関係者が「持続可能な開発のための教育」に取り組むためには、政策的な決まりが必要です。政府が先頭に立って政策を進めることで、「持続可能な開発のための教育」に取り組む環境づくりを行います。
優先行動分野2:学習環境の変革
持続可能な社会を実現するための変革を行う若者を育成するには、学習環境を変革していく必要があります。「学習指導要領に基づくESDの実施」や「ICT(※)化を通じた教育環境の充実」を行うことで、「持続可能な開発のための教育」の発展に取り組みます。
優先行動分野3:教育者の能力構築
教育者は、「持続可能な開発のための教育」を進めるために不可欠な存在です。学校や大学の教員だけでなく、教職を目指す学生など、教育の関わる幅広い人々に対して研修等を行うことで、学習者がよりよい学習環境を実現します。
優先行動分野4:ユースのエンパワーメントと参加の奨励
さまざまな問題が発生している現代社会では、若者が世界的な課題に強い興味を持つ傾向があります。このような若者が、互いに交流できるコミュニティの作成や、国際的な議論に参加できる環境づくりを行うことで、「持続可能な社会の創り手」を育成します。
優先行動分野5:地域レベルでの活動の促進
誰ひとり取り残さない社会を実現するためには、地域ならではの自然環境や文化の多様性によって得られた知識を活用する必要があります。教育機関と地域との積極的な協力関係を築くための、ネットワーク機能を作ることで、すべての人々にとって、よりよい地域になることを目指します。
参考:我が国における「持続可能な開発のための教育(ESD)」に関する実施計画(第2期ESD国内実施計画)の策定について:文部科学省 (mext.go.jp)
持続可能な開発のための教育推進会議(ESD-J)
ESD-Jとは、2003年に「持続可能な開発のための教育の10年」を進めるために発足した特定非営利活動法人(※)です。「環境・開発・人権・平和・ジェンダーなど、さまざまな社会的課題にたずさわる人々が集まり、共有すべき教育・学習のかたちを考え実現していくこと」を目的に活動しています。
- オンライン研修や講習会の実施
- 環境省・文部科学省など関係省庁への提言
- 海外との情報の相互発信と学び合い
上記のような活動を行うことで、「持続可能な開発のための教育」の発展に貢献しています。
※特定非営利活動法人……ボランティア活動など、市民の自由な社会貢献活動を行う団体
MOTTAINAI(もったいない)の松林を秋田方式で未来へ
このプロジェクトは、次世代の子ども達に「地域の恵みに気づき更にそれを守る心を育てること」「ふるさとを愛する心を育てること」を学んでもらうために実施されました。実際の取り組み内容としては、地域に昔から存在している「松林」に焦点を当て、以下のような学習を行いました。
- なぜ秋田の海岸には松が存在するのか?を学ぶ
- 松枯れの被害の現状と今後私達がすべきことを考える
- 松枯れ防除「秋田方式」を学び「炭やきで夕日の松原まもり隊」と一緒に活動する
これらの活動によって、ふるさとにある松林の恵みに気づき、大切にする心を育てることで、「持続可能な開発のための教育」と持続可能な地域の実現を繋げました。
参考:MOTTAINAI(もったいない)の松林を秋田方式で未来へ | 環境省制作学校向け教材「みんなで変える地球の未来~脱炭素社会をつくるために~」 (env.go.jp)
「歩くまち京都」学習
このプログラムは、小学生の全学年を対象として行われたもので、公共交通機関を効率よく活用することで、車の使用によるCO2排出量削減を目指しています。車は非常に便利なものであり、消防車やパトカー・身体の不自由な人の交通手段などとして、不可欠なものです。しかし、一方で大量のCO2を排出し、地球温暖化の原因ともなります。そのため、車と上手く付き合う方法を考えることが必要です。生徒は、学年ごとのテーマを決め、環境とクルマ社会の共存を目指し、さまざまな考え方を学びました。
参考:(京都)「 歩くまち京都」学習 | 環境省制作学校向け教材「みんなで変える地球の未来~脱炭素社会をつくるために~」 (env.go.jp)
「岡山ESDプロジェクト基本構想」
岡山市では、2005年に「岡山ESDプロジェクト基本構想」を定めて、「持続可能な開発のための教育」に関係するさまざまな取り組みを行ってきました。また、2014年には「ESDに関するユネスコ世界会議」が岡山で開催されたことで、地域には「持続可能な開発のための教育」への意識が浸透しています。今回のプロジェクトでは、以下のような取り組みが行われました。
- 学校や地域コミュニティを中心とした市域全体でのESD推進
- あらゆる世代、多様な団体の参加
- 広域的な交流やESD活動による社会づくり
これらの取り組みにより、持続可能な社会の実現に向けて、市民の理解と行動が進むなどの成果が得られています。
参考:岡山ESDプロジェクト 2020-2030 基本構想 | 岡山市 (city.okayama.jp)
SDGs研修・体験型SDGsイベント
【SDGs研修】ワールドリーダーズ(企業・労働組合向け)
概要
- SDGs社会に合わせた企業経営の疑似体験ができるSDGsビジネスゲーム
- 各チームが1つの企業として戦略を立てて交渉し、労働力や資金を使って利益最大化を目指す
- オプションとして「SDGsマッピング」を行うことで学びの定着・自分ごと化
特徴
- 自分達の利益を追求しつつも、世界の環境・社会・経済も気にしなければならず、ビジネス視点からSDGsを感じ、考えることができる
- チームで戦略を練り様々な可能性を話し合う必要があるため、深いチームビルディングに繋がる
- 様々な選択肢の中から取捨選択して最適解を導く考え方を身につけることができる
【親子参加型職業体験イベント】キッズタウンビルダーズ(商業施設・企業・労働組合向け)
概要
- 体験を通じてSDGs目標の「質の高い教育」を学べる親子参加型ワークショップ
- 子どもが楽しみながらも本気で学べる、複数の職業体験を実施
- 会議室やホールなど企業様のイベントとしても開催可能
特徴
- あえて「映える」職業ではなくありふれた職業を選定している
- 合計で就業人口の7割を占める上位5つの職業をピックアップし、本質的な学びが得られる職業体験
- ファミリーが高い関心を持つテーマ性のあるイベントで集客・施設周遊を促進
【親子・子ども向け地域イベント】SDGsアドベンチャー(商業施設・自治体向け)
概要
- 体験を通じてSDGsを学べる親子・子ども向けワークショップ
- 子どもが本気で楽しめる複数の体験型アクティビティを実施
- すべてクリアした方にSDGs缶バッチをプレゼント
特徴
- ハッピーワールドの世界観を演出することで参加者が没入感をもって取り組める
- 海の環境やゴミの分別・再利用など、参加者は身近なことからSDGsを学べる
- ファミリーが高い関心を持つテーマ性のあるイベントで集客・施設周遊を促進
まとめ
「持続可能な開発のための教育(ESD)」は、SDGsの目的でもある「持続可能な社会」を実現するために、不可欠な取り組みです。SDGsを理解し、さまざまな社会的な問題に対して積極的に取り組む次世代を育成することで、人々が安心して暮らせる社会を目指しています。日本においても、「持続可能な開発のための教育」に関わる、取り組みが増えてきています。今回紹介した事例以外にも、さまざまな取り組みが行われているため、身近で行われている取り組みなどを一度調べてみると良いでしょう。
人々の暮らしを守るためにも、SDGsへの取り組みは続けていかなければなりません。「持続可能な開発のための教育」を進めることで、SDGsに向けた取り組みを一過性のものにするのではなく、次世代に引き継いでいくことが大切です。
SDGsのはじめの一歩を支援するSDGsイベント・研修とは?
SDGsのはじめの一歩を実現する「SDGsの社内浸透方法」とは?
進めるための具体的なステップを紹介!
自分ゴト化を促進!3分で分かるSDGs研修・イベントサービスの詳細動画
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この記事を書いた人
SDGsコンパス編集部
SDGsコンパスは、SDGsに踏み出したい企業や自治体様の「はじめの一歩」を後押しするメディアです。SDGsの目標やSDGsの導入方法などのお役立ち情報を発信していきます。