社会

分散型社会とは?都市集中型からの移行によるメリットや取り組み事例を解説

近年、日本では都市部一極化を防ぎ、都市と地方の共存を目指す取り組みが進められています。これまで日本は、経済が急成長していく中で効率化を求め、人や資源・情報などを都市部に集中させていました。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行によって都市集中型のさまざまな問題点が顕在化したことで、新しい経済システムや生活様式への転換が求められています。

そこで注目を浴びているものが、都市部に集中している資源や人材などを地方に分散することで都市部型のデメリットを軽減し、より効率的な社会の形を実現する「分散型社会」への取り組みです。

本記事では、分散型社会のメリットや移行に必要なもの、取り組み事例について解説します

 

SDGsのはじめの一歩を実現する「SDGsの社内浸透方法」とは?

⇒解説資料のダウンロードはこちらから

 

SDGsイベント・研修向け体験型アクティビティの資料はこちら/

SDGsイベントの資料をダウンロードする

 

分散型社会とは?

分散型社会とは、経済活動や人材・資源・情報などが一か所にまとまらず、均一に分散されている社会のことです。日本では、高度経済成長期から都市部に人口や資源が集中しており、いびつな状態が続いています。都市集中型の社会が長く続いてきたなかで、都市部と地方ではそれぞれ違った課題を抱えており、「分散型社会」への取り組みが、課題解決策として期待されています。

都市部と地方の現状

東京都では、地方から東京へと移り住む人々が多いため、転入超過の状態が進んでおり、人口が増加し続けています。新型コロナウイルス感染症などをきっかけにテレワークが普及したことで、一時期は転出超過の傾向にありました。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響が薄れ始め、現在は転入超過傾向に戻っており、2022年には前年の7倍に人口が増加しています

引用:統計局ホームページ/住民基本台帳人口移動報告 2022年(令和4年)結果 (stat.go.jp)

一方、都市部への転入者が増加していることで、地方の人口は大幅に減少しており、人手不足が大きな問題になっています。特に、都市部への転出者の多くは若者であるため、地方経済の次世代を担う人材が不足しており、地方の衰退化が進み始めています。このような地方の抱える課題を解決するためには、地域経済の活性化に向けた取り組みが必要です。日本では、分散型社会の実現に向けて、「地域活性化」への取り組みも推進しています

「地域活性化」の内容や取り組み事例について詳しく知りたい方は、次の記事をご覧ください。

地域活性化につながる事業の例と、地域活性化で得られる効果を解説

都市集中型のリスク

日本は、都市集中型を進め効率化を図ることで、大きな経済成長を果たしました。さまざまなメリットがあり、経済成長に大きく貢献してきた都市集中型ですが、一方でデメリットも存在していることを忘れてはなりません。このまま都市集中型の状態が続けば、日本の持続性を保つことが困難になる危険性があります。ここでは、都市集中型のデメリットである「資源の集中による不均衡」「緊急時のリスク増加」「人口の減少」の3つのリスクについて見ていきましょう。

資源の集中による不均衡

人材や情報・資金などの資源が都市部に集中することで、地方の衰退が加速してしまいます。人や資源が集まる場所には、さまざまな仕事が生まれ雇用が増加しますが、人が流出してしまった地方では雇用が減少するため、さらに若者が都市部に流出するといった悪循環が生まれてしまい、都市と地方の格差は拡大していきます。地方にある資源を活用できなくなることは、地方だけの問題ではなく、日本全体の損害であり、地方の衰退は日本自体の衰退です。

緊急時のリスク増加

現在の日本は、経済や政治・行政など国の根幹となるシステムがすべて東京に集中している状態です。首都圏で災害などが起これば、国のさまざまな運営機能が停止し、日本全体に大きな被害が及ぶ危険性があります。都市部のみで国を動かしている都市集中型は、都市の機能がストップすることで、国全体の動きが止まってしまうため、非常に危うい状況にあるといえるでしょう。

人口の減少

多くの若者が転入してくる一方で、東京の出生率は全国最下位です。東京に若者が流出する一極化が続くことで、人口の減少が進む可能性があります。都市部には、便利な反面、物価高や土地の狭さなどから、子育ての環境に向いていないと感じる人も少なくありません。都市部の人口増加が進み続けることで、物価はより上がり、土地は狭くなってしまうため、都市集中型には人口減少を悪化させてしまうリスクもあるといえるでしょう。

参考:令和3年度 出生に関する統計の概況|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

分散型社会のメリット

しかし、新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけとして、リモートワークなどオフィスに出社しない働き方が見直されています。このような取り組みの拡大により、地方で暮らしていても都市部と同じような仕事ができる社会になりつつあります。働き方改革により、地方への人材や資源の分散化が行われることで、以下のようなさまざまなメリットが生まれるでしょう。

災害リスクの分散 

分散型社会では、人材や資源・情報などがより多くの場所で管理されています。都市部が被災した際にも、他の地域が都市部の役割を補うことができるため、災害によるリスクが大幅に軽減できるでしょう

自給率の向上

日本では、都市部に多くの人口が集中したことで、一次産業に従事する人が減り、食料自給率が減少傾向にあります。分散型社会では、地方産業の活性化が期待できるため、食料自給率が改善すると期待されています

伝統文化や観光業を守る

都市部への若者流出による後継者不足によって、伝統文化や地方の観光業などは衰退しつつあります。しかし、伝統文化や観光業は、地方にとってだけでなく、日本自体の大きな資源です。分散型社会では、多くの人材が地方に流れるため、伝統文化や観光業に従事する人が増加し、地方資源の活性化が見込めるでしょう

分散型社会への移行に必要なもの

さまざまなメリットが存在する分散型社会ですが、現状の都市集中型から移行し、分散型社会を実現するには、次のような環境の整備が必要です。

あらゆる場所で働ける環境づくり

地方に移住する人を増やすためには、あらゆる場所で働ける環境づくりを行い、インフラを整えなければなりません。テレワークによって東京からの転出が増えた例もあるように、どこでも働ける環境を実現することが地方への移住者を増やす第一歩です。

交通面での利便性の向上

地方では交通面での利便性が悪く、労働や生活に制限を受けることが大きな課題としてあげられています。交通手段を統合し、利便性を向上させる次世代のモビリティサービス「MaaS」(※)などの導入を進め、交通環境を整備することが、分散型社会への移行には必要です。

※MaaS……「Mobility as a Service」の略称。移動手段や事業者の異なる、さまざまなモビリティサービス(交通手段)を、ひとつのサービス上に統合することで、利用者の移動を便利にする仕組み

地域経済の活性化

インフラ整備や交通整備を行うだけでは分散型社会の実現はできません。テレワーク環境などによって得られる都心部からの仕事などには限界があり、交通面が便利であっても、地域での仕事がなければ移住者を増やすことは困難です。そのため、分散型社会を実現には、地方創生などへの取り組みによる、地域経済の活性化が必要であり、地方自体での仕事を生み出すことが大切です

「地域活性化」に必要なことや、成功のポイントなどを詳しく知りたい方は、次の記事をご覧ください。

地域活性化に必要な5つのことと、成功に導くポイントを解説

分散型社会実現に向けた取り組み

日本では、都市部への一極化を是正するため、地方の労働環境や生活環境の整備など、さまざまな取り組みを実施しています。ここでは、日本政府が行っている分散型社会の実現に向けた取り組みの詳しい内容について解説します。

「まち・ひと・しごと創生総合戦略」

日本政府は「将来にわたって活力ある地域社会の実現」を目指し、2014年に「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定しました。第1期(2015~2019年度)では、地方創生へのさまざまな取り組みを実施し、成果をあげています。第2期(2020年度~)では、目的をあげて施策の強化に取り組んでいます。

第1期

第2期

実施期間

2015~2019年度

2020年度~

実施内容・目的

  • 地方の若者就業率の上昇
  • インバウンド需要の拡大
  • 農林水産物・食品輸出額の拡大
  • 東京一極集中の是正に向けた取組の強化
  • 多様な人材の活躍を推進する
  • 新しい時代の流れを力にする

 

第2期における具体的な取り組み内容は、「地方創生テレワークの推進」「魅力ある地方大学の実現と地域産業の創出・振興」「企業版ふるさと納税(人材派遣型)」などです。それぞれ詳しく見ていきましょう。

地方創生テレワークの推進

テレワークがあれば都心と同じ仕事ができるとの認識が高まったことで、テレワーク環境の整備は地方創生に大きく貢献しています。政府は、交付金の創設やサテライトオフィス設置支援などを実施し、企業のテレワーク導入を推進することで、地方分散型の活力ある地域社会の実現を目指しています。

魅力ある地方大学の実現と地域産業の創出・振興

地域産業を活性化するためには、地域「ならでは」の人材を育成・定着させることが必要です。そのため、政府は、産業振興と若者雇用の促進に向けた、魅力のある地方大学の実現に取り組んでいます。「地方大学・地域産業創生交付金」や「地方公共団体と大学とのマッチング事業」などを実施し、特色のある研究開発や専門的な人材の育成を行うことで、都市部への人材流出を防いでいます。

企業版ふるさと納税(人材派遣型)

企業版ふるさと納税は、地方公共団体が行う地方創生の取り組みに対して、企業が寄附を行った場合、法人関係税を免除する仕組みです。この仕組みを活用し、企業が寄付と合わせて、専門的な知識やノウハウを持つ人材を、地方公共団体等に派遣することを推進し、地方創生の充実と強化を図っています。

参考:地方分散型の活力ある地域社会の実現に向けた地方創生の取組 (PDF)

気候変動×防災、適応復興の推進

他国と比較して災害の多い日本は、災害対策に関するさまざまなノウハウを有しています。特に、地域特有の生態系を活用した防災・減災技術である「Eco-DRR」や、自然が持つさまざまな機能を活用し、災害リスクの低減を図る「グリーンインフラ」などは、国際的にも大きな評価を受けている地方独自の技術です。このように、地方が持つ知識や技術を活用し、より安全で安心して暮らせる地域づくりを促進することが、地方の活性化へとつながっています。

参考:環境省_令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 状況第1部第2章第3節 分散型社会への移行 (env.go.jp)

自立・分散型エネルギーシステムの構築

東日本大震災以降、電力供給の安定性に関する懸念が生まれており、災害時に対応力の高い再生可能エネルギーに大きな注目が集まっています。地方には、まだまだ活用されていない再生可能エネルギーの資源が残っており、それらを有効的に活かすことで、エネルギーの地産地消が実現し、地域経済の活性化へと繋がります

また、日本政府は、地方公共団体を中心に取り組む、バイオマス・廃棄物等の地域資源を活用した地域エネルギー事業を支援する施策「分散型エネルギーインフラプロジェクト」を実施しています。このプロジェクトの支援内容は、「外部専門家の紹介や依頼費用の負担」「事業化への助言」「補助金制度」です。地域エネルギー事業を円滑に進める環境づくりを行うことで、地域の活性化に貢献しています。

参考:総務省|地域力の創造・地方の再生|分散型エネルギーインフラプロジェクトの推進について (soumu.go.jp)

国立公園の保護と利用の好循環の実現

日本政府は、2030年の訪日外国人旅行者数を6,000万人まで増やす計画「明日の日本を支える観光ビジョン」に取り組んでいます。この計画の柱のひとつが、国立公園の保護と利用好循環の実現を目指した取り組みである「国立公園満喫プロジェクト」です。国立公園には、優れた自然だけでなく、伝統的な文化や食事など、地域特有の暮らしに触れられるといった大きな特徴があります。「国立公園満喫プロジェクト」では、国立公園の持つ、地域ならではの観光資源を活用し、地域経済の活性化を目指しています。

取り組みの成果としては、2015年に約490万人であった、国立公園の訪日外国人利用者数を、2019年に約667万人まで増加させました。しかし、2020年の新型コロナウイルス感染症拡大により、訪日外国人や国内旅行者は大幅に減少し、国立公園の観光事業は大きな打撃を受けました。これらの問題を解決するため、政府は「ステップアッププログラム2025」を策定し、「国内向けの誘客を強化」「訪日外国人利用者の受入れの促進」「世界水準の国立公園づくり」に取り組むことで、地域の更なる活性化を図っています。

参考:環境省_国立公園満喫プロジェクト (env.go.jp)

新たな里地里山及び里海の創造

里地里山とは、「自然と都市との中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成される地域」です。地域特有の生態系や自然環境を有しており、「自然資源の供給」「良好な景観」「文化の伝承」などの点から、非常に重要な地域であり、今後も守り続けていくべき場所です。しかし、近年の人口減少や高齢化の進行などの影響を受け、人の手が入らなくなってしまった里地里山は、生物多様性が失われる危機にあります。日本政府では、里地里山を保全するための取り組みとして、「里地里山のブランド力を持つ地域野菜の生産」や、「山の生態系バランスを崩す鳥獣の保護管理」などを行っています。人と自然が共存する里地里山は、移住者の新しい暮らしや、地産地消型でリスクを軽減した社会への転換に不可欠な存在です。里地里山を守ることは、地域経済の活性化へと繋がっていきます。

参考:環境省 自然環境局 里地里山の保全・活用 (env.go.jp)

 

SDGs研修・体験型SDGsイベント

SDGs研修】ワールドリーダーズ(企業・労働組合向け)

 

概要

  • SDGs社会に合わせた企業経営の疑似体験ができるSDGsビジネスゲーム
  • 各チームが1つの企業として戦略を立てて交渉し、労働力や資金を使って利益最大化を目指す
  • オプションとして「SDGsマッピング」を行うことで学びの定着・自分ごと化

特徴

  • 自分達の利益を追求しつつも、世界の環境・社会・経済も気にしなければならず、ビジネス視点からSDGsを感じ、考えることができる
  • チームで戦略を練り様々な可能性を話し合う必要があるため、深いチームビルディングに繋がる
  • 様々な選択肢の中から取捨選択して最適解を導く考え方を身につけることができる

サービスの詳細をまとめた資料はこちらから

 

【親子参加型職業体験イベント】キッズタウンビルダーズ(商業施設・企業・労働組合向け)

概要

  • 体験を通じてSDGs目標の「質の高い教育」を学べる親子参加型ワークショップ
  • 子どもが楽しみながらも本気で学べる、複数の職業体験を実施
  • 会議室やホールなど企業様のイベントとしても開催可能

特徴

  • あえて「映える」職業ではなくありふれた職業を選定している
  • 合計で就業人口の7割を占める上位5つの職業をピックアップし、本質的な学びが得られる職業体験
  • ファミリーが高い関心を持つテーマ性のあるイベントで集客・施設周遊を促進

サービスの詳細をまとめた資料はこちらから

 

【親子・子ども向け地域イベント】SDGsアドベンチャー(商業施設・自治体向け)

概要

  • 体験を通じてSDGsを学べる親子・子ども向けワークショップ
  • 子どもが本気で楽しめる複数の体験型アクティビティを実施
  • すべてクリアした方にSDGs缶バッチをプレゼント

特徴

  • ハッピーワールドの世界観を演出することで参加者が没入感をもって取り組める
  • 海の環境やゴミの分別・再利用など、参加者は身近なことからSDGsを学べる
  • ファミリーが高い関心を持つテーマ性のあるイベントで集客・施設周遊を促進

サービスの詳細をまとめた資料はこちらから

 

まとめ

現状の都市集中型のままでは、いずれ限界が訪れる可能性があり、日本の持続性を維持していくことが非常に困難です。持続可能な社会を実現するためにも、「分散型社会」への移行は不可欠なものと言えるでしょう。また、分散型社会への移行には、まだまだ課題が残っており、大きな改革が必要です。そのため、日本政府は、分散型社会の実現を目指し、さまざまな取り組みを実施しています。

分散型社会への移行は、国の力だけでは難しく、企業や個人の協力がなければ実現できません。より多くの企業や人々が、都市部だけでなく地方にも目を向け、今後の方向性を考えていく必要があるでしょう。

 

SDGsのはじめの一歩を支援するSDGsイベント・研修とは?

サービス総合資料はこちらから

 

SDGsのはじめの一歩を実現する「SDGsの社内浸透方法」とは?

進めるための具体的なステップを紹介!

解説資料のダウンロードはこちらから

 

自分ゴト化を促進!3分で分かるSDGs研修・イベントサービスの詳細動画

 

SDGsイベント・研修向け体験型アクティビティの資料はこちら/

SDGsイベントの相談をする

SDGsコンパス編集部

この記事を書いた人

SDGsコンパス編集部

SDGsコンパスは、SDGsに踏み出したい企業や自治体様の「はじめの一歩」を後押しするメディアです。SDGsの目標やSDGsの導入方法などのお役立ち情報を発信していきます。

関連記事

新着記事