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パッシブデザインとは?具体例、メリットと注意点を解説

これから注文住宅を建てるなら、地球にやさしい「パッシブデザイン」を選択してみてはいかがでしょうか。パッシブデザインとは、自然のエネルギーを活かして、「夏は涼しく、冬は暖かく」を実現する、建物の設計手法です。

今回は、パッシブデザインと「パッシブハウス」や「アクティブデザイン」との違い、パッシブデザインで住宅を設計する際の5つのポイントと具体例、メリットと注意点、SDGsとの関係について解説します

 

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パッシブデザインとは

パッシブデザインとは、自然のエネルギー(太陽の光・熱、風など)を活かして快適な住空間をつくることを目指す、建物の設計手法のことです。

たとえば、夏はどうすれば強い日差しを遮れるか、風通しが良くなるか、夜間の冷気効果的に取り入れられるか。冬はどうずれば暖かい日差しを取り込めるか、暖かい空気を建物内に蓄えられるか、冷たい風を遮れるかといったことを考えて、設計を工夫し、デザインします。エアコンなどの機械に頼りすぎるのではなく、自然エネルギーを上手に活用して「夏は涼しく、冬は暖かい」住空間をつくることで、省エネ・快適・健康が両立した暮らしを実現しようというものです。

建物を取り巻く自然環境は、地域や立地、季節によっても異なります。自然エネルギーを最大限活用するためには、まずは建物を建てる地域の自然環境特性を理解することが大切です。

パッシブハウスとの違い

パッシブハウスとは、1991年にドイツの物理学者・ファスト博士が提唱した住宅の省エネ基準をクリアした住宅のことです。ファスト博士が設立したパッシブハウス研究所(Passive House Institute)のホームページでは、パッシブハウスの基準が公表されています。

参考:Passive House requirements – Passivhaous Institut

日本で建物を建てる場合も、この基準さえクリアしていれば良いのかというと、そうではありません。先ほども述べたように、自然環境は地域によって異なるので、ヨーロッパならヨーロッパの、日本なら日本の風土気候に合わせて設計する必要があります。

パッシブハウスとパッシブデザインの違いは、基準があるかないかです。パッシブデザインは、パッシブハウスの考え方や理念から生まれた設計手法ではありますが、明確な基準は設けられていません。

建物の省エネ基準は、パッシブハウス以外にもいくつかあります。たとえば、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)です。ZEHについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

関連記事:「ネット ゼロ エネルギーハウス」へのリンク

アクティブデザインとの違い

アクティブデザインも、パッシブデザイン同様に、環境負荷を抑えながら快適な住空間をつくることを目的とした設計手法ですが、異なるのは、それを実現するために何を活用するかという点ですパッシブデザインは「自然エネルギー」を、アクティブデザインは「先進技術」を活用して、エネルギー利用を最適化します。アクティブデザインを実現するための先進技術は、アクティブシステムとも呼ばれており、次のようなものがあります。

  • エコキュート(自然冷媒(CO2)ヒートポンプ給湯器)
  • エネファーム(家庭用燃料電池)
  • 太陽光発電システム
  • 全館空調システム
  • 太陽熱温水器

ちなみに、英単語のパッシブ(passive)には、「受け身な」「受動的な」の意味があり、アクティブ(active)には、「積極的な」「能動的な」の意味があります。

パッシブデザインの具体例を5つの項目別に紹介

パッシブデザインで住宅を設計する際のポイントは、以下の5つです。

  1. 断熱性
  2. 日射遮蔽
  3. 自然風利用
  4. 昼光利用
  5. 日射熱利用暖房

どれか一つに特化するのではなく、これらの要素をバランスよく取り入れ、快適な住空間を設計します。具体的にどういった工夫ができるのか、例を交えながら、一つずつ解説します。

1.断熱性

断熱性は、冬の暖かさを実現するために欠かせない性能です。断熱性が低い建物は外気温の影響を受けやすいため、暖房をつけていない部屋や、廊下、お風呂場などは、どんどん寒くなっていきます。断熱性を高めることで、暖房をつけている部屋とつけていない部屋の温度差が小さくなり、冬でも快適に過ごせるようになるのです。

断熱性能を示す値として、UA値(外皮平均熱貫流率)という指標があります。UA値は、数値が小さいほど断熱性が高いことを示しています。国の住宅・建築物の省エネ基準にも、地域ごとにUA値の基準が定められています。

【工夫の例】

  • 断熱材の材質、外壁材の種類、サッシの種類を工夫する

2.日射遮蔽

日射遮蔽は、夏の涼しさを実現するために欠かせない性能です。夏の日差しを強く受ける建物では、快適な室温を保つために多くの電気エネルギーが必要になります。しかし、日差しを遮りすぎると、昼間でも照明が必要なほど部屋が暗くなってしまったり、冬に暖かい日差しを取り込めなくなったりするので、バランスを考えて設計することが大切です。

【工夫の例】

  • 日照りシミュレーションのデータをもとに庇の長さを検討する
  • 庇の先にすだれを取りつける
  • 窓にシェードや可動式のルーパーをつける
  • 屋根や外壁に日差しをはじきやすい仕上げ材を使う
  • 植栽や外構を工夫する

3.自然風利用

暖かい空気は上に、冷たい空気は下にたまりやすいという特性があります。この空気の特性と、自然の風の力を利用することで、エアコンをつけなくても快適に過ごせる時期が長くなります。また、室内に風の通り道をつくることで、効率的に空気を循環させたり、空気中のほこりや熱を外に排出したりすることもできます。

【工夫の例】

  • 窓の位置にこだわる
    ・低い位置の窓:冷たい空気を取り込むため
    ・高い位置の窓:暖かい空気を排出するため
  • シーリングファンを取り付ける
    ・冬に暖かい空気を下に流すため
  • リビングを吹き抜けにする
    ・空気を循環しやすくするため

4.昼光利用

太陽の「光」を十分に取り込めるように設計することで、照明をつけなくても室内の明るさを確保できます。照明を使用する時間が短くなれば、その分電気代も節約できるので、昼光利用は省エネの観点からも重要なポイントです。

太陽の光を最大限に活用するためには、日照シミュレーションが欠かせません。季節ごとの太陽の動き、周囲の建物との位置関係なども考慮しながら設計します。特に、リビングやダイニングは生活の中心となる場所なので、明るい空間になるよう工夫しましょう。

【工夫の例】

  • トップライトや吹き抜けを設ける
  • 窓の位置・サイズを工夫する
  • 光が奥まで届くような間取りにする

5.日射熱利用暖房

太陽の「光」だけでなく「熱」も取り入れられるように設計することで、冬でも暖かく過ごせるようになります。また、あわせて断熱性能にもこだわることで、取り入れた熱が室内から逃げにくくなり、夜間でも暖房効果が持続しやすくなるため、消費するエネルギーの量も削減できます。前項の「昼光利用」同様、「日射熱利用暖房」も日照シミュレーションが欠かせません。

【工夫の例】

  • 窓の位置・サイズを工夫する
  • 蓄熱暖房を導入する
    ・太陽の熱をコンクリートに蓄え、それを放熱することで部屋を暖める暖房器具

パッシブデザインのメリット

ここからは、住宅を建てる際にパッシブデザインを選択することで得られる3つのメリットについて解説します。

1.一年中快適に過ごせる

パッシブデザインで設計することで、「夏は涼しく、冬は暖かい」住空間をつくることができます。

過ごしやすい室温を保つことは、快適なだけでなく、健康を維持するためにも重要です。寒さが続く部屋で過ごしていると、血圧の上昇や、肺の抵抗力の弱体化、動脈硬化などを引き起こす可能性が高まるともいわれています。イギリスやドイツ、フランス、スウェーデンなど、室温を法令で規定している国もあるほどです。

また、部屋間の温度差が大きいとヒートショックが起こりやすくなり、建物の断熱性能が低いと、窓や壁の結露により、アレルギーを誘発しやすくなるともいわれています。

パッシブデザインで快適な住空間をつくることで、家族の健康も守ることができるのです。

2.地球に優しい

家庭のエネルギー消費の約30%を占めているのが、冷暖房です。パッシブデザインで設計された住宅は、一般的な住宅に比べて冷暖房にかかるエネルギーが少なくて済みます。冷暖房の使用に伴い排出される二酸化炭素(CO2)の量も抑えられるので、地球温暖化防止に貢献できるというメリットがあります。

また、パッシブデザインの住宅は一般の住宅に比べて建築費はかかりますが、冷暖房や照明にかかる光熱費が少なくなるため、長い目で見ると経済的であるともいえます。

省エネ効果を得るためには、パッシブデザインで設計した住宅を、暮らしの中でしっかり活用することが大切です。たとえば、太陽の日差しを多く取り込める窓を設けたにもかかわらず、日中もずっと遮光性の高いカーテンを引きっぱなしにしていては、効果は得られません。住宅を建てる際は、地球にやさしい暮らし方もイメージしながら設計しましょう。

3.さまざまな補助制度や優遇措置がある

一定の省エネ基準をクリアした住宅は、さまざまな補助制度や優遇措置が受けられる場合があります。たとえば、以下のようなものが挙げられます。

  • 住宅ローン減税制度
    住宅の取得を支援するために、年末の住宅ローンの残高の0.7%を、最大13年間所得税から控除する制度です。環境性能が高い住宅程、借入限度額が増額される仕組みになっています(2023年3月時点)。
    参考:住宅ローン減税 – 国土交通省
  • フラット35
    全期間固定金利の住宅ローンです。住宅の性能に応じて一定期間金利が引き下げられる【フラット35】Sがあります(2023年3月時点)。
    参考:【フラット35】S:全期間固定金利の住宅ローン 【フラット35】
  • 登録免許税
    土地や建物の登記手続きの際に納める税金です。軽減税率は、一般的な住宅の場合0.15%、特定認定長期優良住宅、認定低炭素住宅の場合は0.1%となっています(2024年3月31日までに取得した場合)。
    参考:No.7191 登録免許税の税額表|国税庁
  • こどもエコすまい支援事業
    ZEH基準を満たす新築住宅の取得、または住宅の省エネ改修等を行う子育て世帯や若者夫婦世帯を補助する制度です。交付申請期間は2023年3月31日からで、予算が上限に達し次第終了します。
    参考:こどもエコすまい支援事業【公式】

パッシブデザインで住宅を建てるときの注意点

人にも地球にも優しいパッシブデザインの住宅ですが、メリットばかりではありません。ここからは、パッシブデザインで住宅を建てるときの注意点を3つ紹介します。

1.予算を決める

パッシブデザインの一番のデメリットは、高性能であるために一般的な住宅よりも建築費が高くなるということです。あらかじめ予算を決めておき、コストをかけるべきところ・削減すべきところをしっかりと見極めましょう。

ドイツのパッシブハウス研究所の日本正式窓口である一般社団法人パッシブハウス・ジャパンによると、パッシブデザインで住宅を建てる場合の建築費は、一般的な住宅より15%から20%ほど高くなることが多いようです。

参考:よくあるご質問 | パッシブハウス・ジャパン

パッシブデザインが生まれたドイツでは、パッシブデザインの住宅と一般的な住宅との建築費の差が、徐々に小さくなってきています。そのため、日本でもパッシブデザインが普及すれば、今よりも安い建築費で建てられるようになるのではないかと考えられます。

また、先ほどもご説明したように、パッシブデザインの住宅は、一般的な住宅よりも冷暖房にかかる光熱費は少なくなります。そういった点も考慮して、予算を考えてみましょう。

2.土地選びから工務店と一緒に行う

自然エネルギーを最大限に活用するためには、土地選びも重要なポイントです。一般的な住宅が建てられる土地であれば、基本的にはどんな土地であってもパッシブデザインの住宅を建てることはできます。しかし、向き・不向きはあります。

たとえば、南側に大きな建物が建っているような土地の場合、日差しを取り入れるのが難しくなります。また、防火規制が厳しい地域の場合、希望する高性能の窓を取り付けられないという可能性も考えられます。

専門的な知識がなければ、パッシブデザインに向いている土地か否かの判断は難しいものです。土地を購入してからだと、希望するような住宅が建てられないこともあるので、パッシブデザインの設計・施工を行っている工務店と一緒に土地を選ぶことをおすすめします。

3.性能ばかりに気を取られないようにする

住宅の性能にコストをかけすぎるあまり、インテリア(家具)やエクステリア(外構)がおろそかにならないように気をつけましょう。

先ほどもご紹介したように、パッシブデザインの住宅は一般的な住宅に比べて建築費が高くなることが多いです。コスト削減のために「そのほかの部分を簡素にしよう」と考える方もおられるかもしれませんが、「快適さ」は、性能だけで実現できるものではありません。これから一生を過ごすかもしれない住宅なので、どんな空間が「快適」なのかを考え、バランスよく設計することが大切です。

パッシブデザインで貢献できるSDGsの目標

2015年9月の国連サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goals)。2030年までに持続可能な良い世界を実現するための世界共通の目標で、地球規模のさまざまな課題に対する17の目標と169のターゲットで構成されています。

パッシブデザインで貢献できるSDGsの目標には次のようなものがあります。

  • 目標3「すべての人に健康と福祉を」
  • 目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」
  • 目標11「住み続けられるまちづくりを」
  • 目標12「つかう責任 つくる責任」
  • 目標13「気候変動に具体的な対策を」

前述した通り、工務店や設計事務所は、パッシブデザインの住宅を提供すること自体が、目標3、目標7、目標11に対する取り組みになります。また、パッシブデザインにより建てられた住宅は、一般的な住宅よりも少ないエネルギーで快適な生活を送ることができるため、エネルギー起源のCO2排出量を抑えられます。よって、目標13の達成にも貢献できるでしょう。

目標12では、「2030年までに、持続可能な開発及び自然と調和したライフスタイルに関する情報と意識を持つようにする」というターゲットが掲げられています(ターゲット12.8)。住宅を建てる際に、パッシブデザインを取り入れている工務店や設計事務所を選ぶことで、消費者として間接的にこれらの目標に貢献できるのではないでしょうか。

 

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まとめ

パッシブデザインとは、自然エネルギーを活かし快適な住空間をつくることを目指す設計手法です。パッシブデザインで住宅を建てることで、一年を通して快適に過ごせるだけでなく、一般的な住宅よりも冷暖房を使わないため、地球にも優しいというメリットがあります。

パッシブデザインの住宅は、建築費は一般的な住宅よりも高くなることが多いですが、光熱費は抑えられるため、長い目で見ると損とは言い切れません。また、一定の省エネ基準を満たせば、さまざまな補助制度や優遇措置を受けられる場合もあります。これから注文住宅を検討している人は、パッシブデザインでの設計を考えてみてはいかがでしょうか。

 

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