バックキャスティング思考とは?SDGs達成に向けて知るべきこと
2015年にSDGs(持続可能な開発目標)が策定されてから、持続可能な社会の実現に向けた取り組みが数多く実施されています。しかし、現状から考えた取り組みでは、あらゆる社会的課題の解決を目標としているSDGsを達成することは困難ともいわれています。
そこで必要とされている考え方が、未来のあるべき姿を考え、そこから今すべきことを逆算して考える「バックキャスティング思考」です。
困難な目標への達成方法を考えるバックキャスティング思考は、現在から劇的な変化を必要とする課題の解決において、非常に高い効果を生み出します。そこで本記事では、「バックキャスティング思考」の特徴や、SDGsとの関係性、導入事例について解説します。
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バックキャスティング思考とは?
バックキャスティング思考とは、1970年代頃からエネルギー政策や環境政策などに使用されてきた手法で、「望ましい未来の姿」を目標に設定し、そこから今できることを始める考え方です。この手法は、現状の改善では達成不可能な「高い目標」を持つ課題に対して、高い効果を発揮します。
エネルギー問題や環境の問題など、SDGsに関連するような社会的課題は、10年後20年後の変化を予測することが非常に困難です。そのため、未来から今やるべき課題を見つけ出す「バックキャスティング思考」が必要と言われています。
「バックキャスティング思考」が未来から現状を考える手法である一方、現状から未来を予測する「フォアキャスティング思考」という正反対の手法も存在します。
参考:バックキャスティングとは:パーパス・戦略策定における活用方法 | コラム | コンサルティング | 公益財団法人日本生産性本部 (jpc-net.jp)
「フォアキャスティング思考」とは
今あるものを改善するなど、現状でも達成可能な範囲での目標を設定する方法が「フォアキャスティング」です。企業の経営などによく使われている手法であり、昨年のデータを基として今年の目標を設定するなど、短い期間での数値的な目標を設定する際に高い効果を発揮します。その他にも、マネジメントやビジネスモデルの改善など、今あるものをより良くするために使用されています。
現在を起点としているフォアキャスティングは、現状抱えている課題などに気付きやすいといったメリットがあります。一方で、直近のデータや手法を使うため、将来的な目標の設定には向かず、大きな環境の変化には対応できない点がフォアキャスティングのデメリットです。
フォアキャスティングを取り入れる際は、「そもそも現状からの改善が、正しい未来の姿であるかは分からない」という点に注意が必要です。
フォアキャスティング思考とバックキャスティング思考は、どちらかが優れているものではなく、状況によって使い分けることで、より高い効果を発揮します。
バックキャスティング思考のメリット・デメリット
バックキャスティングの手法は、今あるものを改善するのではなく、全く新しいものを創造するため、革新的なアイデアが生まれやすい点が大きなメリットです。また、現状にとらわれず自由な思考で、「あるべき未来の姿」や「なりたい未来の姿」を考えるため、多くのアイディアや選択肢が生まれます。このように、バックキャスティング思考は、未来から現在にベクトルが向いているため、長期的な目標を定める際に高い効果を発揮します。
自由な発想がバックキャスティングの強みですが、その一方で、想像する未来の姿が抽象的では、「現実とはかけ離れた目標になる」といった点が大きなデメリットです。また、現在を軸にしていないバックキャスティング思考によって掲げられた目標は、どうしても達成するためのハードルが高くなってしまうため、計画が失敗に終わるリスクが大きくなります。
バックキャスティング思考によって計画を立てる場合は、常に現状を把握しながら、細かな修正や見直しを行っていくことが重要です。
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SDGsとバックキャスティング思考の関係
SDGs(持続可能な開発目標)は、2030年までに「あるべき未来の社会の形」を実現することを目的としています。SDGsで掲げられている「望ましい未来の姿」に向けた目標は、達成するためのハードルが非常に高く、現状の思考や方法のままでは実現が困難です。このように未来から現状を逆算し、今やるべき課題を導き出しているSDGsは、バックキャスティング思考が色濃く感じられます。
ただし、SDGsには、2015年に期限を迎えたMDGs(※)で解決に至らなかった課題も含まれており、MDGsを改善した目標を取り入れているといった側面もあります。そのため、MDGsで取り組んだ現状を考え、よりよい目標を定めているSDGsは、「フォアキャスティング思考」によって作られているともいえるでしょう。
参考:(ODA) ミレニアム開発目標(MDGs) | 外務省 (mofa.go.jp)
このように、SDGsは「バックキャスティング思考」と「フォアキャスティング思考」の両方の特徴を含んでおり、2つの思考を掛け合わせることで、よりよい世界の実現に向けた目標を定めているのです。
なお、SDGsはバックキャスティング思考のデメリットである「現実とかけ離れた目標になりやすい」といった点への配慮がされています。曖昧な「よりよい未来の姿」を目指すのではなく、目標を細分化し、より明確な未来の姿を示しています。それがSDGsの掲げている17目標と169のターゲットです。
SDGsが掲げている目標とは
「2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標」であるSDGsは、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」といった未来の姿を目指しています。
SDGsが2030年のあるべき社会の姿から逆算して設定している目標は、下記の17項目です。
- 貧困をなくそう
- 飢餓をゼロに
- すべての人に健康と福祉を
- 質の高い教育をみんなに
- ジェンダー平等を実現しよう
- 安全な水とトイレを世界中に
- エネルギーをみんなに。そしてクリーンに
- 働きがいも経済成長も
- 産業と技術革新の基盤を作ろう
- 人や国の不平等をなくそう
- 住み続けられるまちづくりを
- つくる責任、つかう責任
- 気候変動に具体的な対策を
- 海の豊かさを守ろう
- 陸の豊かさも守ろう
- 平和と公正をすべての人に
- パートナーシップで目標を達成しよう
SDGsのより詳しい目的や内容、背景を知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
バックキャスティングの導入方法
バックキャスティング思考を事業に落とし込むためには、いくつかの段階を踏み、枠組みを整えていくことが必要です。ここでは、具体的なバックキャスティングの導入方法について4つのステップで解説します。
1. 未来を起点として目標を設定する
バックキャスティングを導入するためには、「あるべき未来」や「なりたい未来」などに基づいた、明確な目標を設定する必要があります。目標を設定する際は、現状のリソースや過去の実績などは一旦忘れ、理想の未来像に基づいて考えることが大切です。より具体的な未来の姿を想定しておくことで、「現実とかけ離れた目標」ではなく、「達成可能な目標」へと近づきます。
2. 課題と可能性を知る
未来を起点とした目標を達成するためには、現状では難しい多くの課題を解決する必要があります。なぜ現状では、目標の達成が難しいのか、その要因を書き出しましょう。資金や人材、時間など今抱えている問題を知ることで、取り組むべき課題が見えてきます。
また、現状の課題だけではなく、今ある可能性についても知っておく必要があります。「自社の可能性」や「他社の可能性」「ステークホルダーとの連携による可能性」などを知ることで、活かすべき自社の強みなどが見えてきます。
3. アイディアを出す
課題や可能性を確認した後は、それを解決するための方法や活かすための手段を考えます。このステップでも目標の設定と同様、現状で実現可能なアイディアにとらわれる必要はありません。思いついたアイディアが、技術的や時間的に不可能と思えるものであっても、すべて書き出すことが大切です。アイディアの創出は、さまざまな意見を聞くことで、新しい選択肢や、斬新なアイディアなどが生まれる可能性が高まります。グループワーク等の場を設けて、社内での対話を行うことがおすすめです。
4. スケジューリングを行う
目標を設定し、課題とアイディアが洗い出せれば、それらを時間軸に落とし込みましょう。課題解決に向けたアクションをスケジュール化することで、やるべきことがより明確化します。また、バックキャスティングによる計画は長期的なものになるため、一度スケジュール化して終わりではなく、随時修正や現状の確認をすることが大切です。
バックキャスティングを用いた事例
昨今、多くの企業がバックキャスティング思考に基づいた計画や事業を行っています。ここでは、実際に企業がバックキャスティングを用いた事例について紹介します。
トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車株式会社では、持続可能な社会の実現に向けたチャレンジとして、「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表しました。「気候変動」「水不足」「資源枯渇」「生物多様性の劣化」などの地球が抱えている環境問題に対して、クルマがマイナスを及ぼさない未来を目指し、社会のプラスになることを目標に掲げています。
具体的な施策として、「もっといいクルマ」「もっといいモノづくり」「いい町・いい社会」をテーマに、下記の6つのチャレンジを実施しています。
- チャレンジ1「新車CO2ゼロチャレンジ」
2050年までに、新車のCO2排出量を2010年比で90%削減する
- チャレンジ2「ライフサイクルCO2ゼロチャレンジ」
ライフサイクル(※)視点で、材料・部品・モノづくりを含めたトータルでのCO2排出ゼロを目指す
- チャレンジ3「工場CO2ゼロチャレンジ」
2050年までに、グローバル工場CO2排出ゼロを目標に
- チャレンジ4「水環境インパクト最小化チャレンジ」
各国地域事情に応じた水使用量の最小化と排水の管理
- チャレンジ5「循環型社会・システム構築チャレンジ」
日本の技術やシステムをグローバル展開する
- チャレンジ6「人と自然が共生する未来づくりへのチャレンジ」
自然保全活動として3つのプロジェクトを展開
参考:トヨタ自動車、「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表 | トヨタ自動車株式会社 公式企業サイト (global.toyota)
株式会社日立コンサルティング
株式会社日立コンサルティングでは、日本生活協同組合連合会が掲げる目標「2050年にCO2排出総量を2013年比90%削減」を、バックキャスティング思考を用いてサポートしました。
日本生協連では、今回の「CO2排出総量90%削減」計画の前に、「全国生協のCO2排出総量を、2020年に2005年度比で15%削減する」という計画を実行していました。しかし、この「15%CO2排出総量削減」計画は、フォアキャスティング思考に基づいて作成されたものであり、あくまで実現可能な範囲で設定されていた目標です。
この計画を達成後、新たに2050年に向けたCO2削減計画を作成するに当たり問題が発生。現状ベースを積み上げたフォアキャスティング思考では、削減計画への道のりが遠すぎ、達成できない目標のように感じられてしまったのです。そこで、日立コンサルティングは、バックキャスティング思考を用いた計画に転換することを提案。バックキャスティング思考を用いることで、明確な根拠を計画に与えることができ、組織内の合意形成に至りました。
参考:30年先を見据えてバックキャスティングの発想で温室効果ガス削減計画を策定(PDF)
「2050日本低炭素社会シナリオ」
国立環境研究所、京都大学、立命館大学、みずほ情報総研は共同で、「低炭素社会」を実現するためのシナリオ「2050日本低炭素社会シナリオ」を作成しました。このシナリオでは、2050年の日本における温室効果ガス(CO2)を、1990年比で70%削減する「低炭素社会の実現可能性」について発表しています。
日本が低炭素社会を目指すに当たっての軸となっているものが、国際政治課題である「2050年までに温室効果ガス排出量を50%削減」といった目標です。この世界の温室効果ガス排出量の目標数値を達成するためには、日本は2050年までに温室効果ガス排出量を60~80%削減する必要があります。このようにあるべき未来の姿を軸に、必要な数値を算出するため、「2050日本低炭素社会シナリオ」ではバックキャスティング思考が活用されています。
参考:低炭素社会2050研究プロジェクト – 日本シナリオ (nies.go.jp)
参考:日本低炭素社会シナリオ研究- 2050年温室効果ガス70%削減への道筋(PDF)
SDGs研修・体験型SDGsイベント
【SDGs研修】ワールドリーダーズ(企業・労働組合向け)
概要
- SDGs社会に合わせた企業経営の疑似体験ができるSDGsビジネスゲーム
- 各チームが1つの企業として戦略を立てて交渉し、労働力や資金を使って利益最大化を目指す
- オプションとして「SDGsマッピング」を行うことで学びの定着・自分ごと化
特徴
- 自分達の利益を追求しつつも、世界の環境・社会・経済も気にしなければならず、ビジネス視点からSDGsを感じ、考えることができる
- チームで戦略を練り様々な可能性を話し合う必要があるため、深いチームビルディングに繋がる
- 様々な選択肢の中から取捨選択して最適解を導く考え方を身につけることができる
【親子参加型職業体験イベント】キッズタウンビルダーズ(商業施設・企業・労働組合向け)
概要
- 体験を通じてSDGs目標の「質の高い教育」を学べる親子参加型ワークショップ
- 子どもが楽しみながらも本気で学べる、複数の職業体験を実施
- 会議室やホールなど企業様のイベントとしても開催可能
特徴
- あえて「映える」職業ではなくありふれた職業を選定している
- 合計で就業人口の7割を占める上位5つの職業をピックアップし、本質的な学びが得られる職業体験
- ファミリーが高い関心を持つテーマ性のあるイベントで集客・施設周遊を促進
【親子・子ども向け地域イベント】SDGsアドベンチャー(商業施設・自治体向け)
概要
- 体験を通じてSDGsを学べる親子・子ども向けワークショップ
- 子どもが本気で楽しめる複数の体験型アクティビティを実施
- すべてクリアした方にSDGs缶バッチをプレゼント
特徴
- ハッピーワールドの世界観を演出することで参加者が没入感をもって取り組める
- 海の環境やゴミの分別・再利用など、参加者は身近なことからSDGsを学べる
- ファミリーが高い関心を持つテーマ性のあるイベントで集客・施設周遊を促進
まとめ
バックキャスティング思考は、環境問題やエネルギー問題など、長期的な社会的課題の解決に有効で、SDGs達成に向けて必要とされている考え方です。いくつかの企業や団体は、バックキャスティング思考を用いて環境問題解決に向けた取り組みをすでに実施しており、一定の成果を上げている事例もあります。企業に社会的課題への取り組みが求められている社会において、バックキャスティング思考を理解しておくことは必須といえるでしょう。
望ましい未来の姿を目標に設定する「バックキャスティング思考」と、今あるものを改善していく「フォアキャスティング思考」を使い分けることで、世界が抱えているさまざまな問題を解決し、持続可能な社会の実現とへと近づきます。
SDGsのはじめの一歩を支援するSDGsイベント・研修とは?
SDGsのはじめの一歩を実現する「SDGsの社内浸透方法」とは?
進めるための具体的なステップを紹介!
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この記事を書いた人
SDGsコンパス編集部
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