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バイオミミクリーとは?ものづくりの例9選を紹介

環境問題が深刻化する中で、近年「バイオミミクリー」という概念が注目を集めています。自然の中にあるメカニズムや、生きものが持つ優れた性質を、技術開発に活かそうという考え方です。本記事では、バイオミミクリーとは何か、注目されている理由と、身近にある具体例9選を紹介します。

 

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バイオミミクリーとは

バイオミミクリーとは、自然界の生きものが持つ優れた性質を模倣して、新たなテクノロジーや“もの”を生み出そうという考え方です。bio(生物)とmimicry(模倣)という2つの英単語を組み合わせた言葉で、日本語では「生物模倣」といわれています。具体例は記事の後半で詳しく紹介していますが、たとえば、「カワセミのくちばしの形を模倣した新幹線」「ハスの葉のように水や汚れをはじく化学合成繊維」などが挙げられます。

「バイオミミクリー」と命名したのは、サイエンスライターでイノベーションコンサルタントの、ジャニン・ベニュス(Janine Benyus)氏。1997年に出版された「自然と生体に学ぶバイオミミクリー」の著者です。ジャニン・ベニュス氏は、バイオミミクリーは持続可能なデザインを創造するために行うものであり、自然の形を模倣するだけでなく、自然のプロセスや生み出されるまでの過程を研究し、生態系自体を模倣することが大切だとしています。

バイオミミクリーとバイオミメティクス

バイオミメティクス(biomimetics)も、日本語では「生物模倣」と呼ばれていますバイオミミクリーが誕生するよりもずっと前から知られている概念です。バイオミメティクスという言葉が生まれたのは1950年代後半で、命名者は神経生理学者のオットー・シュミット氏といわれています。

バイオミミクリーとバイオミメティクスは、厳密には微妙にニュアンスの違いがありますが、近年はほぼ同語として用いられています。どちらも決まった定義はありませんが、バイオミミクリーのほうが、より「持続可能性」を重視しているでしょう。記事の後半で紹介しているバイオミミクリーの具体例の中には、バイオミメティクスの代表的な例として広く知られているものも含まれています。

バイオミミクリーが注目されている理由

1950年代後半に誕生した生物模倣(バイオミメティクス)という概念が、近年バイオミミクリーとして再び注目されるようになったのはなぜなのでしょうか。その2つの理由を解説します。

1.環境問題への意識の高まり

産業革命以降、人は地球の資源を消費しながら経済、社会を発展させてきました。これにより、地球温暖化や生物多様性の喪失、大気汚染など、さまざまな環境問題が深刻化しています。美しい地球と未来の人々の暮らしを守るために、循環型社会を構築することが世界の課題となっています。

2015年には、SDGsやパリ協定といった国際的な枠組みが整備されたこともあり、環境問題に対する人々の意識は世界的に高まっています。このような流れを受けて、科学技術にも持続可能性が求められるようになってきたため、バイオミミクリーが注目されているのです。

地球に生命が誕生したのは、約38億年前と言われています。それ以降、生きものたちは環境の変化に合わせて進化し続けてきました。自然の中にある優れた性質を模倣することで、石油や石炭などに依存しない、環境にやさしい新たなテクノロジーが生まれるのではないかと期待されているのです。

※SDGsとは……Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)。2030年まで持続可能な世界の実現を目指す国際目標。17の目標と169のターゲットで構成されている。2015年9月の国連サミットで採択。

参考:SDGsとは? | JAPAN SDGs Action Platform | 外務省

※パリ協定とは……2020年以降の気候変動対策に関する国際的な枠組み。平均気温の上昇を産業革命前より2℃より低く保ち、1.5℃に抑える努力をすることが世界共通の目標として掲げられている。2015年12月の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択。

参考:2020年以降の枠組み:パリ協定|外務省

バイオミミクリーで貢献できるSDGsの目標

バイオミミクリーでものづくりを行うことで、SDGsの17の目標のうち、どの目標の達成に貢献できるのでしょうか。

まずは、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」が挙げられるでしょう。クリーン技術や環境に配慮した技術・産業プロセスの導入を拡大すること(ターゲット9.4)や、科学研究を促進して技術能力を向上させること(ターゲット9.5)などが掲げられています。

また、環境にやさしい新たなテクノロジーを生み出し発展させることは、地球環境を守ることにもつながるので、目標13「気候変動に具体的な対策を」、目標14「海の豊かさを守ろう」、目標15「陸の豊かさも守ろう」にも貢献できると考えられます。

参考:SDGsの目標とターゲット – 農林水産省

2.ナノテクノロジーの進展

ナノテクノロジーとは、ナノメートル(nm)の領域で物質を研究開発するための技術のことです。1ナノメートルは、1メートルの10億分の1。超微細なため、肉眼ではもちろん、普通の顕微鏡でも見ることは困難です。

しかし、電子顕微鏡が開発されたことで、この非常に小さな世界を観察・分析できるようになりました。ナノテクノロジーの進展により、これまで知られていなかった生きものの構造や機能が次々と明らかになり、新たにものづくりへ活用しようという動きが活発になっているのです。

バイオミミクリーの具体例9選

私たちの身近にも、自然の生きものたちの性質を模倣してつくられているものがたくさんあります。ここからは、バイオミミクリーの具体例を紹介します。

1.500系新幹線

500系新幹線(JR西日本)のパンダグラフと先頭部には、騒音を軽減するために、鳥の性能が活用されています。

フクロウの羽毛を模倣したパンタグラフ

パンタグラフとは、列車の屋根上に取り付ける、架線から電気を得るための装置のことです。走行中はこれが空気とぶつかるため、高速になればなるほど大きな騒音が発生します。

このパンタグラフの騒音を基準値以下にするために模倣したのが、フクロウの羽です。フクロウは、飛ぶときに羽からほとんど音を出しません。そのため、狩りのときは獲物に気づかれずに近づくことができます。

フクロウの風切羽には、ほかの鳥にはないようなセレーションと呼ばれる小さなギザギザがあります。この羽の構造が、フクロウの静穏飛行の秘密です。これを応用し、パンタグラフの支柱部にノコギリ歯上の溝をつけることで、パンダグラフからの騒音を30%削減することに成功しました。

ヴォルテックス・ジェネレーターと呼ばれるこの技術は、航空機や競技スケート選手の帽子・ブーツなど、さまざまな場面で用いられています。

カワセミのくちばしを模倣した先頭部

列車がトンネルに入るとき、急激な空気抵抗の変化により、トンネル出口付近で揺れと大きな音が発生します。トンネルドン(正確には「トンネル微気圧波」)と呼ばれる現象です。

この騒音を削減するために模倣したのが、カワセミ。カワセミは、小魚を捕らえるとき、ものすごいスピードで空中から水中に潜ります。急激な抵抗の変化を受けているにもかかわらず、ほとんど水しぶきをあげません。これは、カワセミのくちばしが空気抵抗を受けにくい形をしているからです。

カワセミの鋭いくちばしを模倣し、新幹線の先頭部を15メートルの流線型としたことで、500系新幹線は従来モデルと比べて、空気抵抗を3割減らすことに成功しました。また、走行スピードは上がったにもかかわらず、消費電力量は15%下回り、トンネル突入時の揺れも軽減されました。

2.構造発色繊維

帝人株式会社の「モルフォテックス®」は、モルフォチョウの羽の構造をヒントにして生まれた構造発色繊維です。

モルフォチョウは、中南米に生息する中~大型のチョウの仲間で、青く輝く美しい羽根を持っています。実は、モルフォチョウの羽自体は青ではなく褐色なのです。羽の表面に溝があり、その溝の中には細かいヒダがあります。ヒダの間隔が青色の波長のみを強調する長さとなっているため、光に当たると青く輝いて見えるのです。このモルフォチョウのように、色素ではなく構造で発色する現象を「構造発色」といいます。

「モルフォテックス®」は、モルフォチョウの羽の構造を模倣して、屈折率の異なるナイロンとポリエステルをナノレベルで張り合わせて層をつくることで、繊維を発色させています。層の厚みを調整して発色させたい色の波長に合わせることで、異なる色の繊維もつくりだしています。

3.ロータス効果のある化学合成繊維

ハスの葉の上に大きな水玉が出来ているのを見たことはありませんか? ハスの葉を電子顕微鏡で見てみると、表面には小さな凸凹がついています。この構造により水や汚れをよくはじくため、きれいな水玉ができるのです。このような効果は、ロータス効果と呼ばれています。

ハスの葉の構造を模倣して、繊維を凸凹に織ることで、撥水性の高い繊維が出来上がります。コーティング加工のように上から塗るものではないため、構造が保たれている限り撥水性は失われません。また、通常の撥水加工よりも耐久性が高いともいわれています。

このようなロータス効果のある化学合成繊維は、レインコート、帽子、テーブルクロスなどさまざまな商品に用いられています。

4.汚れにくい外装壁タイル

きれいな渦巻きの殻をもつカタツムリ。カタツムリの殻を電子顕微鏡で見てみると、表面に小さな凸凹の溝があります。この溝には常に水が溜まっており、薄い膜が張ったような状態になっているため、カタツムリの殻は汚れがつきにくく、いつもきれいなのです。

株式会社LIXILは、このカタツムリの殻をヒントに外装壁タイルを開発しました。一定の親水性を有する外壁材が、空気中の水分を吸収してタイル表面に水の膜をつくるため、汚れがつきにくく、水膜上についた汚れは雨とともに流れ落ちやすくなっています。

参考:住宅外壁タイルスペシャルサイト | 性能:汚れにくい – LIXIL 

5.面ファスナー

面ファスナーとは、2枚の布を面的に自在に着脱できるファスナー(留め具)です。日本では、面ファスナーよりも「マジックテープ®」という名前のほうが、馴染みがあるのではないでしょうか。実は「マジックテープ®」は、クラレファスニング株式会社の登録商標で、そのものの名前は面ファスナーといいます。

面ファスナーのヒントになったのは、ひっつき虫(ゴボウやオナモミなどの植物の実や種)です。くっついてなかなか取れなくなってしまったという経験がある人も多いのではないでしょうか。ひっつき虫を拡大して見ると、先端がフック状に曲がっています。これが繊維に引っかかるため、くっつきやすく、取れにくいのです。面ファスナーは、特殊ナイロン糸で無数のフックと輪をつくりだすことで、ひっつき虫の構造を模倣しています。

クラレファスニング株式会社では、「マジックテープ®」以外にも、用途に合わせたさまざまな面ファスナーを開発しています。

参考:面ファスナーの歴史 – 「マジックテープ」について – クラレファスニング

6.吸着テープ

ヤモリは、垂直のガラスにもペタッとくっつき、自由自在に動き回ることができます。これは、ヤモリの足の裏に無数の小さな繊維が生えており、「ファンデルワールス力」という引力が働くためです。

日東電工は、大阪大学の中山喜萬教授と共同で、ヤモリの足の裏の構造を模倣した「ヤモリテープ」を開発しました。1平方センチメートルあたり100億本程度のカーボン・ナノチューブを並べることで、ヤモリの足の裏にある小さな繊維を再現しています。このヤモリテープは、1辺1センチメートルで500グラムほどのものを持ち上げられるそうです。

参考:日東電工グループ CSR & アニュアルレポート 2011 – Nitto 日東電工株式会社(PDF)

7.ハニカム構造

ハニカム(honeycomb)は、「ハチの巣」を意味する英単語です。ハニカム構造とは、ハチの巣のように、正六角形(または正六角柱)が隙間なく並んだ構造のことをいいます。

実は正六角形は、最も効率が良い高い形なのです。たとえば円形なら、並べたときに無駄な隙間ができてしまいます。隙間なく並べることができる正多角形は、正六角形のほかにも正三角形、正四角形がありますが、外周の長さが一定である場合、面積が最も大きくなるのは正六角形なのです。また、正六角形はあらゆる方向からの圧力を分散できるため強度も高く、かつ少ない材料でつくれるというメリットもあります。

航空機、音響機器、家具、サッカーのゴールネットなど、ハニカム構造はさまざまなものに用いられています。

8.無反射フィルム

昆虫の眼は「複眼」といって、数百から数千の個眼が集まってできています。さまざまな昆虫の中でも、さらに特徴的な眼を持っているのが、蛾です。蛾の眼の表面には、外部のわずかな光を神経細胞に伝えるための無数の突起があります。この突起があることで、蛾は夜間でも難なく行動できるのです。

この蛾の眼の構造を模倣して生まれたのが、無反射フィルムです。ガラスに無数の突起を設けたフィルムを貼ることで、ガラスと空気の界面の屈折率の変化が緩やかになり、光をほとんど反射しなくなります。

9.地球にやさしい船底塗料

日本ペイントマリン株式会社の「LF-SEA」は、マグロの皮膚からヒントを得て開発された低摩擦防汚塗料です。

マグロの皮膚の表面は、やわらかい粘膜で覆われています。その仕組みはまだ解明されていませんが、この粘膜が水の摩擦抵抗を減らしているため、マグロは時速100キロメートルものスピードで泳げるのではないかと考えられています。

日本ペイントマリン株式会社は、独自のヒドロゲルを配合することで、マグロ粘膜のような効果を生み出すウォータートラッピング技術の開発に成功。「LF-SEA」は、この技術を用いてつくられた塗料です。船体と海水との摩擦抵抗を少なくすることで、燃料消費量と二酸化炭素(CO2)排出量も削減できます。

参考:LF-SEA 150 HyB – 日本ペイントマリン 

 

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まとめ

環境問題への意識が世界的に高まる中で、1950年代後半にバイオミメティクスとして生まれた「生物模倣」という概念が、近年バイオミミクリーとして再び注目を集めています。

人はこれまで、経済や社会を発展させるために、地球の資源を消費し続けてきました。その結果、さまざまな環境問題が深刻化しています。持続可能な世界を実現するためには、地球の資源に依存しない新たなテクノロジーが必要です。今後は、自然界が持つ性質を模倣して「どんなに優れたものをつくるか」だけでなく、環境への影響や持続可能性といった点が、より重視されるようになっていくのではないでしょうか。

本記事で紹介した具体例以外にも、私たちの周りには、自然が持つ優れた機能をヒントに生み出されたものがたくさんあります。身近にあるさまざまな“もの”が、どのように開発されたのか調べてみてはいかがでしょうか。

参考:No.68「バイオミメティクスを超えて!」 – 東京農業大学(PDF) 

 

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