パーマカルチャーとは?倫理と原則、世界と日本の事例を紹介
限りある地球の資源を守り、持続可能な社会を実現するための方法の一つとして、近年「パーマカルチャー」が注目を集めています。
今回は、パーマカルチャーの意味や、誕生した背景、基準となる「3つの倫理」と「12の原則」、代表的な手法を、わかりやすく解説します。また、事例として、パーマカルチャーを実践する世界のエコビレッジや、パーマカルチャーを学べる日本の施設も紹介します。
SDGsのはじめの一歩を実現する「SDGsの社内浸透方法」とは?
\SDGsイベント・研修向け体験型アクティビティの資料はこちら/
パーマカルチャーとは
パーマカルチャーとは、permanent(同じ状態を保つ、永続的な など)、agriculture(農業、農耕)、culture(文化、文明)を組み合わせた言葉です。永続的な循環型の農業のもとに、人と自然が共に豊かになれるよう、自らの生活や、地域社会をデザインしていくことを意味します。
デザインといっても、見た目に美しいものをつくるということではありません。パーマカルチャーのデザインとは、自然を知り、持続可能な暮らし方や、社会の仕組みをつくっていくことをいいます。
人がこれまで大量生産・大量消費・大量廃棄の暮らしを続けてきたために、環境破壊や気候変動、エネルギー問題、ごみ問題など、さまざまな問題が深刻化しています。そんな中で、持続可能な社会を実現するための方法の一つとして、パーマカルチャーが注目を集めているのです。
もともと、持続可能な農業(パーマネントアグリカルチャー)という発想がありました。これが農業だけでなく、林業、建築、教育、文化、経済、地域社会など、より広い分野を対象とするようになり、パーマカルチャーという概念になったと考えられています。
パーマカルチャーが生まれた背景
パーマカルチャーは、1970年代にオーストラリアで生まれた概念です。提唱者は、ビル・モリソンとデビッド・ホルムグレンの二人。当時は、ビル・モリソンがタスマニア大学の教師、デビッド・ホルムグレンは大学院の教え子でした。
1978年に、二人の共著で「パーマカルチャー1」という本が出版され、その後ビル・モリソンがパーマカルチャーを世界に広めるための活動を精力的に行ったことで、パーマカルチャーの考え方が世界中に広がりました。デビッド・ホルムグレンは、パーマカルチャーの事例をつくるために、30年に渡りガーデニングや農業、建築や森林に関する技術を学び、実績を積んできました。2002年には、それまでの成果をまとめた本も出版されています。
パーマカルチャーの倫理と原則
パーマカルチャーには、デザイン・実践する際の基準となる「3つの倫理」と「12の原則」があります。
3つの倫理
倫理とは、わかりやすく言うと「善悪の判断基準」「法的な縛りはないが人として守るべきルール」のことです。
自分の欲望のみを重視した行動は、時に他の人の自由や権利、自然環境の豊かさを侵害することがあります。パーマカルチャーは、社会全体や自然が望むものは何なのかを知り、それを実現するために自分にできることを考え実践するものです。
パーマカルチャーの倫理は、以下の3つです。
- 地球に対する配慮
私たちの暮らしは、地球が存在し、その地球に生きる多くの生きものがいるからこそ成り立つ。そのことを理解し、地球に対して配慮する。 - 人に対する配慮
生きていくための要求を満たせるよう、人にも配慮する。 - 余剰物の共有
自然界の生きものたちは、生存に必要な要素を供給し合って生きている。人も自然同様に、他から奪うのではなく、与え合うことで、持続可能な社会が生まれる。
パーマカルチャーに関するさまざまな普及活動を行っているパーマカルチャー・センター・ジャパン(PCCJ)では、上記3つの倫理に「自己に対する配慮」(自らを知り、コントロールする)を加えて、「4つの倫理」としています。
12の原則
パーマカルチャーの「12の原則」は、パーマカルチャーの提唱者の一人であるビル・モリソンが、山の猟師、海の漁師として過ごす中で見つけた、自然の中に存在している、自らを持続可能にするあり方を表したものです。
- 観察と相互作用
- エネルギーを獲得して蓄える
- 収穫
- 自立とフィードバックの活用
- 再生可能な資源・サービスを利用し、価値を高める
- ごみを出さない
- 全体から細部までデザイン
- 分離ではなく統合する
- ゆっくり、小さな解決を
- 多様性を利用し、価値を高める
- 接点の活用と辺境の価値
- 変化を創造的に利用して対応する
パーマカルチャー・センター・ジャパンは、この12の原則を、循環性・多重性・多様性・合理性の大きく4つに分けて捉えています。
循環性
自然界には、循環性という永続的な仕組みがあります。たとえば、人間などの動物は、空気中の酸素を取り込み、呼吸により二酸化炭素を排出します。そして植物は、この二酸化炭素と太陽エネルギーを使って、酸素を発生させます(光合成)。動物たちは、植物が生み出した酸素で、また呼吸をすることができます。このように、炭素は自然界を循環しているのです。
また、枯れた枝や葉、生きものの死骸は、時間をかけて土に還ります。そして、それを栄養として植物は成長し、その植物がまた、生きものたちに食料や住処などのさまざまな恵みを与えてくれます。
このように、あるシステムから不要なものとして排出されたものは、別のシステムにとっては資源となります。そのため、ごみが出ないというのも循環性の大きな特徴です。
多重性
多重性とは、文字通り複数のものを重ね合わせることを意味します。同じものばかりではなく、異なるものを複数重ね合わせることで、豊かさと安定性、持続性を確保できるという考え方です。
空間・時間・機能という3つの視点から、多重性について詳しく見てみましょう。
- 空間の多重性
生態学では、植物を自生している場所ごとに、地衣類、草類、低潅木類、亜高木類、高木類という5層に分類しています。このように、自然界では生きもの同士が棲み分けを行い、共存している姿が見られます。 - 時間の多重性
落ち葉には、ほかの植物の栄養分となるために土に還るという役割のほかに、落ちた種を守るという役割もあります。落ち葉の下にすでに新しい芽が出ていることがあるように、この二つの役割は、ある瞬間に切り替わるのではなく、時間が重なる部分ができるのです。 - 機能の多重性
生きものたちは、それぞれが多くの機能を持っています。たとえばニワトリならば、卵を産む、虫を食べる、糞をして土を肥やすなどです。個々が多様な機能を持っていることで、より多くのいきものが生きられるような多様な環境が生まれます。また、安定した生活を営んでいくためには、生きていく上で欠かせない重要機能(水や食料、職など)について、複数のバックアップを持っておくことも大切です。
多様性
多様性とは、ただ外見が異なる存在が集まっている状態を指すのではなく、機能のような内的な多様性と、環境の多様性が結びついている状態を指します。先ほど「機能の多重性」でもご説明したように、生きものたちはそれぞれが多くの機能を持っています。パーマカルチャーでは、その場所に存在するすべての生きものが持つ機能を把握して、それらが十分に働くような環境を整備し、多様性を生み出します。
たとえば、湿地を思い浮かべてみてください。水の環境と陸の環境が交じり合う湿地には、水の生きもの、陸の生きもの、湿地でしか生きられない生きものなど、非常に多様な生きものが生息しています。この湿地のように、異なる環境を隣り合わせに整備することで、予想以上に多様な生きものが住める環境をつくりだせることがあるのです。このような効果を「エッジ効果」と呼んでいます。
合理性
パーマカルチャーでは、多くの生命を育みながら、どうすれば無駄を省けるかということも考えます。具体的な手法としては、「ゾーニング」と「自然資源の利用」の2つが挙げられます。
「ゾーニング」とは、人が生活している場所から自然に向けて、人の介入度を基準にゾーン分けしていくというものです。たとえば、
- 第1ゾーン:家
- 第2ゾーン:菜園
- 第3ゾーン:水田、果樹など
- 第4ゾーン:人工林
- 第5ゾーン:天然林
というような具合です。これにより、人が自然に介入しすぎることがなくなり、野生動物たちの住処も守られるため、菜園の動物被害も抑えられます。また、人の移動時間やエネルギーも節約できるので、無駄なく効率的に生産活動を行えるようになります。
もう一つ、「自然資源の利用」とは、自然界の生きものの力を人のために利用しようという考え方です。利用といっても、生きものたちの力や機能を奪うわけではありません。人と自然の生きもの、双方にとって良い形を考えます。たとえば、ニワトリを移動式の小屋で飼育し、そのニワトリに畑の除草や除虫をしてもらう「チキントラクター」も、自然資源を利用したパーマカルチャーの手法の一つです。
参考:Ethics and principles – パーマカルチャーセンタージャパン22
パーマカルチャーの手法
パーマカルチャーには、決まった農法や手法はありません。実践する地域の特性と、そこに生きる生きものたちが持つ機能を知り、それらに適した手法を選択することが大切です。ここからは、パーマカルチャーとは一体どんなものなのかをよりイメージしやすくするために、具体的な4つの手法を紹介します。
1.スパイラルハーブガーデン
スパイラルハーブガーデンとは、一つの庭に異なる環境をつくりだして、複数の植物を育てる手法です。
庭の底面の直径を2m程度として、真ん中が一番高くなるように、そこから石を螺旋型に積み上げていきます。こうすることで、方向、高さ、日照り、湿度もさまざまな環境が出来上がるので、直径2mの同じ庭の中で、異なる種類の複数の植物を一緒に育てることができるのです。さまざまなハーブを植えたスパイラルガーデンを台所の近くに設置すれば、料理の際に新鮮なハーブを気軽に採取できます。
レンガでスパイラルハーブガーデンをつくっている事例もありますが、自然石のほうが水はけがよく、熱も蓄えられるのでおすすめです。
地形や日当たりなどの条件により、その地域の本来の気象とは異なる気象が部分的に発生することを「微気象」といいます。スパイラルガーデンは、この微気象を発生させるための代表的な手法の一つです。
2.キーホールガーデン
キーホールガーデンとは、庭の中に足を踏み入れなくても植物の世話ができるよう、人が作業するためのスペースが設けられた、円形の庭のことです。作業スペースの形が鍵穴に似ていることから、キーホールガーデンと呼ばれています。
ガーデンベッドの大きさに決まりはありませんが、あまり大きいと作業スペースを設けても植物の世話が大変になるので、直径は2mほどがおすすめです。庭の周縁部に長さ30~40cmの切り枝で柵をつくり、水はけを良くすることもできます。
3.積層マルチ
積層マルチとは、植物を育てるための良い土を、「買う」のではなく「不要なものから作る」という手法です。
マルチとは、英単語のマルチング(mulching)の略称で、ビニールシートや藁などで畑のうねを覆うことをいいます。マルチの目的は、地温の調整と、土の乾燥・雑草の成長・肥料の流出・病気を防ぐなどです。
積層マルチでは、窒素比率の高い層(例:刈り取った草)と、炭素比率の高い層(例:新聞紙)を交互に重ねて4層にします。多くの材料が必要になるので、大規模の畑よりも家庭菜園などの小さな畑に向いています。
4.スウェイル
スウェイルとは、等高線に沿って掘る長い溝のことです。特に斜面地などの、雨水が流れ落ちるスピードが速い場所に畑を設ける際に、よく設置されます。スウェイルの主な役割は、以下のとおりです。
- 水とともに斜面の土が流出するのを防ぐ
- 水を滞留させて、ゆっくりと地下に浸透させる
- 水とともに、堆積した化学物質が直接川に流れ込まないようにする
- 下流部で水災害が起こらないよう、水が流れ落ちるスピードを遅くする
- 土壌に含まれる栄養分が、水とともに流失するのを防ぐ
- スウェイル内に土壌から流失した栄養分を留め、もとの地に戻す
パーマカルチャーの事例
世界には、パーマカルチャーを実践しているエコビレッジが複数あります。エコビレッジとは、持続可能な暮らしを追求した地域やコミュニティのことです。
- クリスタルウォーターズ(オーストラリア)
クリスタルウォーターズ(Crystal Waters)は、メアリー川の源流の640エーカーの低木地帯にある、パーマカルチャーの原則に基づいて設計された農村区画です。250人以上の人々が暮らすこの村には、カンガルーやワラビー、さまざまな種類の鳥や爬虫類など、多様な生きものが生息しています。
参考:Crystal Waters Permaculture Eco Village in Queensland - アースソング(ニュージーランド)
アースソング(Earthsong)は、オークランド西部にある、持続可能な地域づくりを進める共同住宅地区です。敷地や建物、水システム、造園など、さまざまなものがパーマカルチャーの原則に基づきデザインされています。
参考:Permaculture – Earthsong Eco-Neighbourhood
また日本にも、パーマカルチャーを学べる施設があります。
- パーマカルチャー・センター・ジャパン(神奈川県)
神奈川県相模原市緑区内の旧藤野町にある、パーマカルチャー・センター・ジャパン(PCCJ)。日本で唯一、パーマカルチャーデザイナーの資格を取得することができる施設です。パーマカルチャーを学べる講座やフェス、イベントの企画・運営など、パーマカルチャーを広めるためのさまざまな活動を行っています。
参考:About PCCJ – パーマカルチャーセンタージャパン22 - パーマカルチャーセンター上籾(岡山県)
岡山県久米郡久米南町上籾にある、パーマカルチャーセンター上籾。人口減少や環境破壊、気候変動など、世界のさまざまな問題を解決するために、まずはパーマカルチャーで里山を再生していこうと、さまざまな活動や研究に取り組んでいます。
参考:About – Permaculture Center Kamimomi
SDGs研修・体験型SDGsイベント
【SDGs研修】ワールドリーダーズ(企業・労働組合向け)
概要
- SDGs社会に合わせた企業経営の疑似体験ができるSDGsビジネスゲーム
- 各チームが1つの企業として戦略を立てて交渉し、労働力や資金を使って利益最大化を目指す
- オプションとして「SDGsマッピング」を行うことで学びの定着・自分ごと化
特徴
- 自分達の利益を追求しつつも、世界の環境・社会・経済も気にしなければならず、ビジネス視点からSDGsを感じ、考えることができる
- チームで戦略を練り様々な可能性を話し合う必要があるため、深いチームビルディングに繋がる
- 様々な選択肢の中から取捨選択して最適解を導く考え方を身につけることができる
【親子参加型職業体験イベント】キッズタウンビルダーズ(商業施設・企業・労働組合向け)
概要
- 体験を通じてSDGs目標の「質の高い教育」を学べる親子参加型ワークショップ
- 子どもが楽しみながらも本気で学べる、複数の職業体験を実施
- 会議室やホールなど企業様のイベントとしても開催可能
特徴
- あえて「映える」職業ではなくありふれた職業を選定している
- 合計で就業人口の7割を占める上位5つの職業をピックアップし、本質的な学びが得られる職業体験
- ファミリーが高い関心を持つテーマ性のあるイベントで集客・施設周遊を促進
【親子・子ども向け地域イベント】SDGsアドベンチャー(商業施設・自治体向け)
概要
- 体験を通じてSDGsを学べる親子・子ども向けワークショップ
- 子どもが本気で楽しめる複数の体験型アクティビティを実施
- すべてクリアした方にSDGs缶バッチをプレゼント
特徴
- ハッピーワールドの世界観を演出することで参加者が没入感をもって取り組める
- 海の環境やゴミの分別・再利用など、参加者は身近なことからSDGsを学べる
- ファミリーが高い関心を持つテーマ性のあるイベントで集客・施設周遊を促進
まとめ
パーマカルチャーとは、どうすれば人と自然が共に豊かになれるかを考え、自らの生活や、地域社会をデザインしていくことをいいます。パーマカルチャーに決まった手法はなく、実践する地域や場所、時期によっても、適した手法は異なるといえます。パーマカルチャーをデザイン・実践するには、まずはそれぞれの地域の特性と、生きものが持つ機能をしっかりと把握することが大切です。
パーマカルチャーは、さまざまな社会問題が深刻化する今、持続可能な社会を実現するための方法の一つとして注目されています。まだまだ日本での認知度は高いとは言えませんが、SDGsやサステナブルな暮らしに関心の高い人の間で広まりつつあります。
いきなりパーマカルチャーを実践するのはハードルが高いと感じる方も多いと思います。まずは、「できるだけごみを出さないようにするにはどうしたらいいか」「私たちの暮らしが環境にどのような影響を与えているのか」このような疑問を持ち、環境や暮らしに対する意識を変えていくことが第一歩ではないでしょうか。
SDGsのはじめの一歩を支援するSDGsイベント・研修とは?
SDGsのはじめの一歩を実現する「SDGsの社内浸透方法」とは?
進めるための具体的なステップを紹介!
自分ゴト化を促進!3分で分かるSDGs研修・イベントサービスの詳細動画
\SDGsイベント・研修向け体験型アクティビティの資料はこちら/
この記事を書いた人
SDGsコンパス編集部
SDGsコンパスは、SDGsに踏み出したい企業や自治体様の「はじめの一歩」を後押しするメディアです。SDGsの目標やSDGsの導入方法などのお役立ち情報を発信していきます。