Society5.0とは?必要な技術、具体例、イノベーション事例について解説
「Society5.0(ソサエティ5.0)」という言葉をご存じでしょうか。新しい社会のあり方として、政府が提唱するコンセプトです。実現されれば、経済発展と社会課題の解決を両立することが可能となります。SDGs(持続可能な開発目標)と共通する部分も多く、今注目すべきキーワードのひとつといえるでしょう。
本記事では、Society5.0が目指す未来の姿、IoTやAIなどの先端技術、新たな価値により解決される社会課題について、わかりやすく解説します。
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目次
Society5.0(ソサエティ5.0)とは?
政府は、これまでの社会の発展を4段階に分け(Society1.0~4.0)、それに続く5番目の姿として「Society5.0」を提唱しています。それぞれの社会の姿と、SDGsとの関係性について、解説します。
Society5.0 とは「超スマート社会」
Society5.0は、第5期基本計画(平成28年度~32年度)のなかで、「超スマート社会」として示された未来社会の姿です。先端技術の力で実現する「超スマート社会」では、以下のようなことが可能になります。
出典:内閣府
- モノやサービスを、必要なときに確保することができる
例えば、これまでは何かを「知りたい」と思ったときに、必要な情報を自ら調べ、分析しなければならないという負担がありました。Society5.0では、AI等を活用することで、必要な情報を必要な時に受け取ることができるようになります。
- 社会のさまざまなニーズに対応できる
Society5.0では、先端技術が生み出すイノベーションにより、さまざまなニーズを先取りして支援サービスを提供することができるようになり、現代よりも便利で快適な暮らしが実現します。
- すべての人々が、活き活きと暮らすことができる
現代社会には、年齢や障害の有無などにより、労働や行動範囲などさまざまな制約があります。Society5.0では、ロボットや自動走行車などの技術を活用することで人の可能性を広げ、すべての人々が活き活きと活躍できる社会となります。
このようにSociety5.0では、先端技術を活用したイノベーションにより、「経済発展」と「社会課題の解決」の両立が可能となるのです。
Society5.0は、第5期科学技術基本計画(平成28年閣議決定)では、「経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」と示されていましたが、第6期科学技術・イノベーション基本計画(令和3年閣議決定)において、「持続可能性と強靭性を備え、国民の安全と安心を確保するとともに、一人ひとりの多様な幸せ(well-being)を実現できる社会」として、再定義されました。
参照:Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ<中間まとめ>
Society1.0~4.0 これまでの社会
政府は、これまでの社会の発展を4段階に分けています(Society1.0~4.0)。
出典:内閣府
- Society 1.0(狩猟社会)
野生動物や山菜などを狩り生活していた時代です。人類誕生から紀元前13,000年ごろまでを指しています。
- Society 2.0(農耕社会)
農作物や家畜を育て、人々が集団で生活をするようになった時代です。紀元前13000年から18世紀の中頃あたりまでの時代を指します。
- Society 3.0(工業社会)
工業化により、大量生産が可能となり、経済が大きく発展した時代です。18世紀末から20世紀中頃あたりまでを指します。
- Society 4.0(情報社会)
インターネット等の通信技術が急速に発達した、20世紀後半あたりから現代までの社会の姿です。
Society4.0(情報社会)で、人々の暮らしはより便利で快適なものになりました。しかし、知識や情報の共有、分野横断的な連携といった部分が不十分であることや、情報が多すぎて何を信じるべきかがわからないというような課題があります。また、情報化の流れに取り残された人々、貧富の差の拡大など、科学技術が発達したからこそ生まれた「格差」や、「社会の分断」、「将来への不安」などの存在もあります。
Society5.0では、あらゆる分野や領域に技術を広めることでこれらの課題を解決し、一人ひとりの多様な幸せ(well-being)を実現できる社会を目指します。
参照:第6期科学技術・イノベーション基本計画(本文)-内閣府(PDF)
SDGsの達成に大きく貢献する
SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)とは、2015年9月に開催された国連サミットで採択された、国際目標のことです。貧困・飢餓や人権問題、気候変動など、世界が直面しているさまざまな課題に対する17のゴールと169のターゲットが設定されています。達成期限を2030年とし、先進国・途上国のすべての国や地域において「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。
「経済発展」と「社会課題の解決」を両立するSociety5.0を実現することは、経済・社会・環境 という3つを並び立たせようとするSDGsを達成するための、1つのステップでもあります。
例えば、Society5.0の実現に向けて、ビッグデータやAI解析によるエネルギーの需要予測サービスを開発すれば、予測を踏まえた安定的なエネルギー供給、各家庭での省エネ、CO2排出量削減等に役立てることができます。これは、SDGsの17の目標のうち、目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」、目標9「産業と技術革新の基盤を作ろう」、目標13「気候変動に具体的な対策を」などに深くかかわる取り組みでもあるのです。
一般社団法人日本経済団体連合会は、このようにSociety5.0の実現を通じてSDGsに取り組む「Society 5.0 for SDGs」を推進しており、プラットフォームを立ち上げ、取り組み事例等を紹介しています。
参照:SDGsとは:農林水産省
参照:Society 5.0 新たな価値の事例(エネルギー) – 科学技術政策 – 内閣府
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Society5.0の実現に必要な技術
ICTとは、「Information and Communications Technology」の頭文字をとったもので、コンピュータやデータ通信に関する技術の総称です。ほかにも、IoTやビッグデータ、AIなど、情報通信用語は略語やカタカナが多く、「意味や違いがはっきり分からない」と感じている人も多いのではないでしょうか。Society5.0を実現するために必要な主な先端技術を、いくつか紹介します。
IoT
IoTとは、「Internet of Things」の略称で、日本語では「モノのインターネット」と呼ばれています。
パソコンやスマートフォンだけでなく、テレビや調理家電、ロボット掃除機など、さまざまなモノがインターネットにつながる時代となりました。これらのように、インターネットにつながるモノのことをIoTといいます。
参照:1-1:IoTとデータ利活用の全体像‐総務省(PDF)
ビッグデータ
ビッグデータとは、以下の「3つのV」のいずれかの特性を持つ、従来の技術では処理が難しいデータのことです。
- Variety(バラエティ):多様な情報とファイル形式
- Volume(ボリューム):膨大なデータ量
- Velocity(ベロシティ):リアルタイムで収集されるデータや、高頻度で更新されるデータ
具体的には、GPSから生じる位置情報、ソーシャルメディアのデータなどがあります。
参照:3‐1:ビッグデータの活用と分析に至るプロセス‐総務省(PDF)
AI
AIとは、「Artificial Intelligence」の頭文字をとったもので、「人工知能」のことです。「人工知能とは何か」という決まった定義はありませんが、大きく2つのタイプに分けることができます。
- 汎用人工知能
さまざまな分野に関して思考・検討を行うことができ、初めて直面する状況にも対応できる人工知能
- 特化型人工知能
特定の分野・内容に関して優れている人工知能
AIの身近な活用事例としては、Appleの「Siri」やAmazonの「Alexa」のような音声アシスタントや、翻訳機能、画像・音声認識、テキスト処理などがあります。
ロボット
経済産業省によると、ロボットとは、“「センサー」「知能・制御系」「駆動系」の3つの要素技術を有する、知能化した機械システム”であるとされています。
以前は、インターネットに接続できるロボットは一般的ではありませんでした。しかし通信技術の発達・普及により、「ロボットはIoTの1つ」という考え方が根付いてきています。
産業用ロボットや医療用ロボット、ソフトバンクロボティクス株式会社の「Pepper(ペッパー)」のようなコミュニケーションロボットなど、さまざまなロボットがあります。
参照:1‐4:現実世界へのフィードバックとロボット‐総務省(PDF)
5G(第5世代移動通信システム)
5G(第5世代通信移動システム)とは、1G~4Gに続く、次世代の通信規格です。
5Gには、超高速・超低遅延・多数同時接続 という3つの特徴があります。4Gと比較すると、通信速度は約20倍、遅延(タイムラグ)は10分の1、多数同時接続(基地局1台から同時に接続できる端末)は、100個程度まで可能となりました。5Gは、IoT時代のICT基盤であるといえます。
参照:5Gとは? – 次世代ネットワーク5G (第5世代移動通信システム) の特徴と役割・活用事例 | KDDI IoTポータル
Society5.0の具体例
Society5.0は、イノベーションにより新たな価値を創出し、経済発展と社会課題の解決の両立を目指すものです。現在の日本が抱えている主な社会課題を、新たな価値の事例とともに解説します。
温室効果ガス(GHG)の削減
脱炭素社会(カーボンニュートラル)の実現に向けた取り組みが、世界中で広がっています。日本も、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること、中間目標として、2030年までに46%削減すること(2013年度比)を掲げています。
Society5.0では、先端技術の活用により、エネルギー供給予測、水素製造や電気自動車、宅配ロボットの活用、交通渋滞の解消などが可能となり、温室効果ガスの削減に大きく貢献できると期待されています。
食品ロスの削減
食品ロスとは、食べ残しや賞味期限切れなどの理由で、まだ食べられるのに捨てられてしまっている食べ物のことです。令和元年度の日本の食品ロスは、年間570万t。これは、日本国民一人ひとりが、毎日お茶碗1杯分のご飯(約124g)を無駄にしているという計算になります。
日本のスーパーやコンビニには、毎日切らすことなくさまざまな食品が並べられていますが、Society5.0では、ビッグデータやAI解析でニーズを先取りすることで、生産量や発注量の調整、適切な在庫管理等が可能になり食品ロスの削減が期待できます。
参照:食品ロスとは:農林水産省
社会コストの抑制
少子高齢化は世界中で進行していますが、なかでも日本は、特に深刻な状況です。2020年の日本の高齢化率は、28.8%でした。2位のドイツ(21.7%)に大きく差をつけ、世界1位となっています。今後も少子高齢化は加速すると予想されており、医療・介護の社会コストをどう抑えるかが大きな課題となっています。
Society5.0では、遠隔診療、ロボットによる生活・介護の支援、リアルタイム生理計測による健康チェック等が可能となります。社会コストの抑制だけでなく、人手不足の解消、健康寿命の延伸など効果も期待できるでしょう。
持続可能な産業化
少子高齢化により、多くの分野で人手不足、後継者不足が課題となっています。産業別に見ると、運輸業、医療・福祉、宿泊・サービス業、建設業は特に人手が足りていない状況で、大企業よりも中小企業で欠員率が高くなっています。
Society5.0では、AIやロボットを導入することで、少ない人数でも効率よく生産することが可能となります。また、建設業や農業は、きつい作業や危険な業務も多くあります。作業員の負担軽減や、安全対策といった観点からも、先端技術を活用していくべきであるといえるでしょう。
地域格差の是正
東京などの都市部では、多くの人々が行き交い、モノやサービスがあふれています。しかし一方で、過疎化が進む地域では、人口流出、後継者不足、インフラの維持管理などの多くの課題があり、地域間で格差が生じているというのが現状です。この格差を埋めるためには、地方創生を実現する必要があります。
先述したように、AIやロボット等の先端技術を「人の代わり」として導入すれば、その分雇用は減少するので、人手不足を解消することができます。しかし、「新たな価値」として導入すれば、その事業に対して人員が必要となるため、逆に雇用は増加します。人口流出の原因の1つは、「地域に働く場所がない」ということです。ICTを活用し新たな雇用を創出することで、定住人口増加や地域経済の活性化につながると考えられています。
参照:総務省|平成29年版 情報通信白書|ICTを活用した定住人口増加に資する取組事例
Society5.0によるイノベーションの事例
Society5.0に向けた取り組みは、すでに全国各地で始まっています。IoTやAI等を利活用することで、どのようなことが実現可能となるのでしょうか。具体的なイノベーションの事例として、政府が推進している2つの取り組みを紹介します。
事例1:スマートシティ
スマートシティとは、都市や地域のあらゆる分野に先端技術を取り入れ、機能やサービスを効率化・高度化することにより、人々の生活の質を向上させるとともに、諸課題の解決を図るものです。「Society5.0の先行的な実現の場」と定義されています。
内閣府・総務省・経済産業省・国土交通省が合同で作成した「スマートシティガイドブック」から、先行してスマートシティに取り組む地域の事例を紹介します。
- セキュリティ・見守りに関する事例
JR東日本、都営交通、東京メトロ等は、交通系ICカードデータ等を活用した見守りサービスを実施しています。子どもが交通系ICカード(SuicaまたはPASMO)で自動改札を通過すると、利用駅や通過時刻などが保護者へ通知されるというものです。
- まちづくりに関する事例
空き家問題も、現在の日本の大きな課題となっています。さいたま市では、市内の空き家の把握を把握するために、水道メーターデータ等を活用しています。1年以上契約のない水道メーターの存在する住宅、商業施設、工業施設等を空き家と判断し、分布状況データを作成するという取り組みです。
参照:別冊(1)スマートシティを通じて導入されるサービス(後半)-内閣府(PDF)(P.16、20)
事例2:スマート農業
スマート農業とは、AIやロボット、IoT等の先端技術を活用する農業のことです。
少子高齢化による人手不足や、技術の習得に年月がかかること、環境負荷の軽減など、農業分野は多くの課題を抱えています。これらの課題を解決するために開発された新技術製品やサービスの具体的な例を、農林水産省の「農業新技術 製品・サービス集」のなかから紹介します。
- 経営・生産管理システム
パソコンやスマートフォン等で、作業計画や実績を記録するシステムです。作業実績や生産コストを可視化することで、栽培計画・方法の改善や、収穫予測等に役立てることができます。
- アシストスーツ
アシストスーツは、モーターや人工筋肉等を活用し、中腰での作業、重量物の持ち上げ時などにおける負荷を軽減するものです。軽労化により、作業時間の短縮や、高齢者・女性の就労支援にもつながります。
そのほかにも、ロボットトラクター、農業用ドローン、水管理システムなど、さまざまな製品・サービスが開発されています。
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まとめ
Society5.0の未来社会の姿を、「非現実的だ」「うちの地域はまだまだ先の話だろう」と感じた方もおられるのではないでしょうか。しかし、本記事で紹介した「スマートシティ」や「スマート農業」をはじめ、Society5.0の実現に向けた取り組みは、すでに全国各地で始まっています。想像もできないようなことが当たり前になっている未来は、すぐそこまで来ているかもしれません。私たちの身近な課題を解決するSociety5.0について、さらに理解を深めてみてはいかがでしょうか。
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この記事を書いた人
あらたこまち
雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。
不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。
猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。