責任投資原則(PRI)とは?注目されるその背景や6つの原則、SDGsとの関連性について解説

近年、SDGs(持続可能な開発目標)が話題となっているなかで、投資に対しても持続可能な社会を実現するために、ESG(環境・社会・ガバナンス)を考慮した、責任ある投資が求められています。ESGを考慮した6つの原則から成る責任投資原則(PRI)は、世界中で数多くの企業が署名を行い推進。現代社会において、サステナビリティ(持続可能性)に貢献する、環境や社会、ガバナンスを考慮したうえでの投資決定は、非常に重要な行いであると考えられています。
本記事では、責任投資原則の背景や6原則の内容、そのメリットやデメリット、SDGsとの関係性について解説します。
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責任投資原則(PRI)とは?
PRI(責任投資原則)とは、Principles for Responsible Investmentの略であり、2006年4月に国際連合が公表した、持続可能な社会を実現するために必要な投資に対する6つの行動原則です。この原則に署名した機関投資家は、環境・社会・ガバナンスの3つの要因に対して責任のある投資行動を宣言することになり、意思決定プロセスにESGを反映させる必要があります。
出典:PRI(Principles for Responsible Investment 責任投資原則)|用語集|企業年金連合会 (pfa.or.jp)
ESGとは?
では、責任投資原則で必要とされているESGとは、どのようなものなのでしょうか。ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を表す言葉で、持続可能な社会を実現するために必要な観点です。SDGs(持続可能な開発目標)が大きな注目を浴びている昨今、気象問題や労働条件などの社会的課題に対応していない企業への投資は、大きなリスクが存在すると考えられています。
そこで、ESGへの考慮を評価基準とし行う投資(ESG投資)は、SDGsと共に企業を評価する基準として大きな関心が集まっており、世界中で市場が拡大しています。
以下のグラフのように、世界におけるESG市場規模は、2016年では22.8兆ドルでしたが、2018年には30.7兆ドルと急速に拡大していることが分かります。
ESG市場の拡大(2016~2018年)
策定された背景
2006年、国連事務総長が世界の大手機関投資家に対して、責任投資原則の策定作業への参画を要請したことが責任投資原則策定の始まりです。環境・社会・コーポレートガバナンス問題など、投資の関連性が高まっていることを背景に、この国連からの要請を受け、投資家の国際的なグループが策定に参画。ESG投資の市場が大幅に拡大します。
一方、日本においては、責任投資原則策定後も、諸外国と比べESG要因に基づく投資といった考えは浸透していませんでした。しかし、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2015年に責任投資原則に署名したことで、その重要性が投資家の間で一斉に認識され、ESG投資の市場拡大へと繋がりました。
責任投資原則が求められている3つの要因
倫理的な投資や社会的責任のある投資などとの違いが、責任投資が求められている要因です。責任投資は、リターンと倫理的・道徳的な配慮を組み合わせた投資ではなく、リターンのみを追求する投資家に対してもアプローチ出来る点が大きなメリットです。ESGに配慮した責任投資は、あくまでも利益を追求できる投資活動であり、大きなリターンを生み出します。責任投資原則は、下記の3つの要因により投資家から必要とされています。
1. マテリアリティ(重要性)
現在の社会において、投資先のESGへの取り組み状況が、投資のリスクとリターンに直結しています。責任投資原則に則った投資活動の重要性は非常に高く、直接利益へと結びつきます。
2. 市場の需要
投資活動に当たり、自身の資金活用について、その透明性を追求することが求められています。責任投資原則に基づいた投資は、透明性が高いことにより、市場からの需要が伸びています。
3. 規制
ESG問題に対する取り組みを実施している企業への投資を、受託者責任(※)の中に組み込むといった規制がなされることで、よりリスクとリターンが明確になる仕組みへと繋がり、投資家に大きなメリットを生み出します。
出典:責任投資原則 国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)と国連グローバル・コンパクトと連携した投資家イニシアティブ(PDF)
年々増加する署名数
責任投資原則に賛同する投資機関は、PRIへの署名を行い投資状況を開示し報告することで、環境・社会・ガバナンスに対して責任を持った投資行動を行っていることを証明しています。
世界における責任投資原則の署名機関は年々増加しており、署名機関は2,000以上、2018年時点での運用規模は80兆ドルを超えており、市場規模は莫大です。日本では年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)をはじめとする、63の機関(DBJ、保険会社、AM等)が2018年時点で署名しており、今後更なる市場の拡大が見込まれています。
また、日本で最初に責任投資原則への署名を行った年金積立金管理運用独立行政法人では、2017年に国内株式を対象として、ESG指数に基づいた投資を1兆円程度実施しており、日本における市場拡大の足掛かりとなりました。
PRI署名機関数の推移
しかし、署名機関が増加している一方で、最低履行要件を満たしていないとの指摘を受け、除名処分となった機関も存在しています。責任投資原則への署名は、署名機関として社会的な信用を獲得出来るため、その評判を利用する目的があることも事実です。責任投資原則より除名を受けた機関は5機関で、その他にも2018年度中に自主的な脱退が53機関、レポーティングミスを理由にした除名は10機関にも及びます。PRIでは、責任投資原則が形骸化しないため、署名機関の調査を実施し、責任投資原則の拡大に努めています。
6つの原則
ESG課題を取り込んだ投資活動を行うことに関して、責任投資原則には下記の6原則が記載されています。ここでは、6つの原則とそれに対する行動の例を紹介します。
1. 投資分析と意思決定のプロセスにESGの視点を組み入れる
行動の例
- ESG要因を考慮したうえで、投資の施策や方針を決定する
- ESG要因を正確に判断するために、測定基準の作成や情報解析などのツール開発への支援を行う
- 投資専門家に対して、ESGへの理解度を高める研修を実施する
2. 株式の所有方針と所有監修にESGの視点を組み入れる
行動の例
- ESGに関する方針や規制の策定に参加する
- 長期的なESGへの取り組みに対する決議を提出する
3. 投資対象に対し、ESGに関する情報の開示を求める
行動の例
- 年次会計報告書にESGの項目を記載するように求める
- ESGの開示を求める株主の決議を支援する
4. 資産運用業界において本原則が広まるよう、働きかけを行う
行動の例
- RFP(提案依頼書※)に、本原則と関連を持つ項目を含めるように依頼する
- 投資サービスに対して、求めているESG問題への取り組み内容を共有する
- ESG問題に対して、期待を満たしていない投資サービスとの関係を見直す
5. 本原則の実施効果を高めるために協働する
行動の例
- ESGを学ぶためのネットワークや情報プラットフォームを支援し、活動に参加する
- 新たに発生したESG課題に対して、協力し解決を目指す
6. 本原則に関する活動状況や進捗状況を報告する
行動の例
- ESG課題への取り組みが、実務レベルでどのように実施されているのかを開示する
- ESG 問題や本原則に関して、受益者と意見を交換する
- 本原則がどのような影響を与えているのか、効果を測ることに努める
- このような報告を行うことで、より広範囲のステークホルダー(※)から関心を集める
出典:責任投資原則 国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)と国連グローバル・コンパクトと連携した投資家イニシアティブ(PDF)
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責任投資原則に則った投資におけるメリットとデメリット
ESGに考慮し、責任投資原則に則ったうえでの投資には、大きなメリットがある反面、投資の目的によってはデメリットも存在します。ここでは、ESGの視点をもって活動・対策を行っている企業への投資における、メリットとデメリットについて解説します。
メリット
長期的な投資に向いている
環境・社会問題や労働条件などに意識がある企業は、短期的な業績に左右されず価値が変動されにくい傾向にあります。なぜならば、持続可能な社会の実現が求められている現代社会では、環境問題などに基づく法改正や規制による事業悪化リスクなど、社会的課題によってさまざまなリスクが発生する可能性がありますが、ESGに考慮している企業であれば、このようなリスクへの素早い対応が期待でき、事業の長期的な継続が望めるためです。長期的な事業継続が望める企業に対しての投資は、長期的なリターンの獲得期待へと繋がり、リスクの低い安定した投資と言えるでしょう。
社会貢献に繋がる
ESGへの意識の高さは社会問題解決に直結するため、そのような企業への投資は、利益の確保だけでなく社会貢献としての価値が見込めます。企業による投資においては、社会課題解決への取り組みを積極的に行っている企業を投資先に選ぶことで、安定したリターンの獲得のみでなく、企業自体のブランドイメージ向上という大きなメリットをもたらしてくれるでしょう。
デメリット
短期的な投資には不向き
長期的な安定したリターンが期待できるといったメリットの反面、ESGに配慮した投資には、短期的に大きなリターンは期待できないといったデメリットが存在します。ESG自体が長期的な社会課題解決を目指すといった特徴を持っており、短いスパンで結果を出し、大きな利益を生み出すことが困難なため、短期的な投資であれば、利益に繋がらない可能性が考えられます。
ESGについての深い知識が必要である
従来の投資であれば、財務諸表や決算書などから判断できますが、ESGに基づく投資では、企業がどのような取り組みを実施しており、どういった効果があるのかなど、数値以外の部分をチェックする必要があります。取り組みによる利益や企業価値の向上を目に見えない情報から見極める必要があり、ESGに対する深い知識がなければ、投資先の選定が非常に困難です。
SDGsとの関係性
「向こう10 年間の私達の目標 は、責任ある投資家と共に、すべての人々のための真の豊かな世界の実現に向けた持続可能な市場を目指し、協働してもらうことです。」
これは、PRIにおける責任投資のビジョンです。ビジョンのひとつである「すべての人々のための真の豊かな世界の実現」とは、持続可能な社会の実現と同義といえます。責任投資原則に署名する機関をより拡大していくことで、SDGsが達成される未来を目指しています。ここでは、SDGsの内容やESGと関連のあるSDGs17目標について解説します。
出典:責任投資原則 国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)と国連グローバル・コンパクトと連携した投資家イニシアティブ(PDF)
SDGs(持続可能な開発目標)とは?
SDGsは、2015年9月の国連サミットで採択された、持続可能でよりよい社会を実現するために、2030 年までにすべての国連加盟国が達成すべき国際目標です。社会課題解決に向け、17 の目標とそれを達成するための169 のターゲットから構成されており、あらゆる立場の人々が協力して目標達成に向け、行動する必要があります。
また、環境・社会・ガバナンスと関連する社会的課題は非常に多く、目標達成にはESGへの取り組みをより拡大する必要があります。企業や個人投資家など、投資に関わるあらゆる立場の人々がESGを考慮した投資行動を行うことが、SDGs17目標の達成に大きく貢献します。
出典:SDGsとは? | JAPAN SDGs Action Platform | 外務省 (mofa.go.jp)
ESG要因と関連のあるSDGs17目標
環境(Environment)
気候変動や温室効果ガス、エネルギーの枯渇(水を含む)、廃棄物などによる汚染問題への解決が目標に含まれています。
関連する17目標
- 「目標7:エネルギーをみんなに。そしてクリーンに」
- 「目標13:気候変動に具体的な対策を」
- 「目標14:海の豊かさを守ろう」
- 「目標15:陸の豊かさも守ろう」
社会(Social)
労働条件、差別問題、健康や安全、地域コミュニティの活性、従業員の多様性、教育問題などへの取り組みが必要とされています。SDGsの目標のなかでは、社会に関連する課題解決に向けた目標が数多く設定されています。
関連する17目標
- 「目標1:貧困をなくそう」
- 「目標2:飢餓をゼロに」
- 「目標3:すべての人に健康と福祉を」
- 「目標4:質の高い教育をみんなに」
- 「目標5:ジェンダー平等を実現しよう」
- 「目標6:安全な水とトイレを世界中に」
- 「目標8:働きがいも経済成長も」
- 「目標10:人や国の不平等をなくそう」
- 「目標11:住み続けられるまちづくりを」
ガバナンス(Governance)
法令や規則の遵守、贈賄および腐敗などの不正行為の排除、取締役会や理事会における多様性などが求められています。
関連する17目標
- 「目標16:平和と公正をすべての人に」
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概要
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- ファミリーが高い関心を持つテーマ性のあるイベントで集客・施設周遊を促進
まとめ
責任投資原則を基準とした投資活動は、持続可能な社会を実現するために重要です。世界中で数多くの企業が責任投資原則に賛同しており、日本でも拡大傾向にあります。また、社会・環境・ガバナンスに関わる社会的課題を解決していくことは、SDGsの観点からも必要です。ESGを評価基準とした責任投資原則は、SDGsの17目標を達成することに大きく貢献するでしょう。
今後、責任投資原則による投資の決定はさらに拡大を続け、投資活動の基準となっていきます。社会的課題解決に取り組む企業こそが成長する社会へと変わっていくはずです。
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この記事を書いた人
SDGsコンパス編集部
SDGsコンパスは、SDGsに踏み出したい企業や自治体様の「はじめの一歩」を後押しするメディアです。SDGsの目標やSDGsの導入方法などのお役立ち情報を発信していきます。
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