ウェルビーイングとは?意味や構成要素、企業の取り組み4選を紹介
「ウェルビーイング」という言葉を聞いたことはありますか? 近年、ビジネスシーンでも注目されている概念です。社員のウェルビーイングの実現を目指す経営は「ウェルビーイング経営」とも呼ばれており、日本でも取り組む企業が見られるようになりました。
本記事では、ウェルビーイングの意味や、注目されている理由、構成要素について、わかりやすく解説します。あわせて、ウェルビーイングの実現に向けて取り組む企業の事例も紹介します。
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目次
ウェルビーイングとは?
ウェルビーイング(well-being)とは、直訳すると「幸福」や「健全性」の意味があります。どのような状態を「幸福」や「健全」と感じるかは人それぞれです。そのため、ウェルビーイングに決まった定義はありませんが、よく知られているのは、世界保健機関(WHO)の考え方です。
1946年、ニューヨークで開催された国際保健会議で世界保健憲章が採択され、WHOが設立されました。この世界保健憲章の前文には、肉体的にも、精神的にも、社会的にも満たされた状態が「健康」であるということが書かれています。病気にかかっていない、または弱っていないというだけでは、健康な状態にあるとはいえないという考え方です。
また、厚生労働省は、ウェルビーイングを「個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念」としています。心身の健康状態だけでなく、以下のような点も、欠かせないポイントです。
- 安心して暮らせる家がある
- 収入が安定している
- 仕事とプライベートのバランスが取れている
つまり、ウェルビーイングとは、「心身ともに健康で社会的にも満たされており、その状態を維持できること」を指す言葉であるといえるでしょう。
ウェルビーイングとウェルフェアとの違い
同じく「幸福」の意味を持つ英単語に、ウェルフェア(welfare)があります。ウェルフェアは、どちらかというと「福祉」の意味で使われることが多い言葉です。
「福祉」は、貧困状態にある人や、障がいのある人、重い病気を患っている人など、弱い立場にある人を救済するという保護的な意味合いで使われてきました。すべての人の生活レベルを一定のラインまで引き上げるといったイメージです。しかし、先ほども述べたとおり、どのような状態が「幸福」や「健全」なのかは、人によって異なります。そのため、社会福祉やソーシャルワークにおいても、一人ひとりがそれぞれにとって「よりよい状態」になれることを目指すウェルビーイングの概念が浸透しつつあるようです。
また、ウェルフェアは、ビジネスシーンでは「福利厚生」の意味で使われることもあります。そのため、ウェルビーイングは「目的」、ウェルフェアはそれを実現するための「手段」であるという考え方もあります。
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ウェルビーイングの実現に必要な要素
では、具体的にどういった要素が満たされれば「ウェルビーイングが実現した」といえるのでしょうか。ウェルビーイングに決まった定義はなく、ウェルビーイングの構成要素も複数提唱されています。ここでは、特に広く知られている2つの考え方を紹介します。
セリグマン博士による5つの要素
ポジティブ心理学を創設したアメリカの心理学者、マーティン・セリグマン博士は、2011年に、幸せは次の5つの要素が関係していると提唱しました。
- Positive emotion(ポジティブな感情)……嬉しい、楽しい、面白い、感動する、わくわくする、希望を感じる など
- Engagement(没頭する)……時間を忘れるほど何かに夢中になる、積極的に取り組む
- Relationship(人間関係)……助ける、助けてもらう
- Meaning(人生の意味)……自分が存在している意味
- Accomplishment(達成)……何かを達成する、または熟練していく感覚
この考え方は、それぞれの頭文字を取って、「PERMAモデル」と呼ばれています。
セリグマン博士が創設したポジティブ心理学とは、持続的な幸福(フラリッシュ)を研究する学問です。この5つの要素を高めることでウェルビーイング全体が高まり、幸福が近づくと考えられています。
2016年には、バトラー博士とカーン博士により、この5つの要素を計測できる「PERMA-Profiler」という心理検査も開発されています。
ギャラップ社による5つの要素
ギャラップ社は、アメリカに本社を置き、世論調査や人材コンサルティングなどを行っている企業です。ギャラップ社は、次の5つの要素を包含するものがウェルビーイングであると定義しています。
- Career wellbeing(キャリアウェルビーイング)……仕事だけでなく、家事や育児、勉強など、毎日していることに対して満足している状態ウェルビーイングの実現に向けて取り組む
- Social wellbeing(社会福祉)……友達、上司・部下、近所の人など、周囲の人と良好な関係を築けている状態
- Financial wellbeing(経済的幸福)……安定した収入があり、そのお金をしっかり管理できている状態
- Physical wellbeing(身体的健康)……身体が健康で、やるべきことを実行できるエネルギーがある状態
- Community wellbeing(コミュニティウェルビーイング)……住んでいる場所、勤めている会社など、自身を取り巻く環境に満足している状態
社員のウェルビーイングの実現を目指す企業は、これらの要素を参考に経営に取り組むとよいでしょう。
ウェルビーイング経営とは?
「ウェルビーイング経営」とは、社員のウェルビーイングの実現を目指す経営のことです。これまでにも日本では、「健康経営」や「働き方改革」が推進されてきましたが、近年はこれらに加えてウェルビーイング経営が求められるようになっています。
健康経営とは、社員の健康管理を経営課題の一つとして戦略的に取り組むこと。働き方改革とは、働く人が個々の事情に応じて多様な働き方を選択できるようにするための取り組みを指します。厚生労働省は、少子高齢化や技術革新といった変化の中で経済力を維持・発展させていくためには、「就業面からのウェルビーイングの向上」を図っていく必要があるとしています。
ウェルビーイング経営では、健康経営や働き方改革のための取り組みに加えて、社員一人ひとりが望む人生を送れるようなサポートを行います。具体的な例としては、社員のキャリア形成を支援する制度を設ける、個々の希望や特性に合わせた雇用管理を促進するなどです。
ウェルビーイング経営を実践することで、社員一人ひとりの仕事に対するモチベーションや、エンゲージメントの向上が期待できます。結果、生産性の向上や、離職防止、採用力強化などのメリットが得られると考えられます。
参考:人口減少・社会構造の変化の中で、ウェル・ビーイングの向上と生産性向上の好循環、多様な活躍に向けて - 厚生労働省(PDF)
企業経営でウェルビーイングが注目されている3つの理由
ウェルビーイング経営は、世界のスタンダードな経営手法となりつつあり、日本でも広がりを見せています。なぜ、ウェルビーイングが注目されるようになったのでしょうか。考えられる3つの理由を紹介します。
1.ダイバーシティの推進
ダイバーシティ(diversity)とは、「多様性」の意味を持つ英単語です。多様な人材を活かし、価値創造につなげる経営は「ダイバーシティ経営」と呼ばれており、日本でも実践する企業が増えています。「多様な人材」とは、性別年齢、人種や国籍、障がいの有無といった、表から見えやすい多様性だけでなく、キャリア、経験、働き方など、表からは見えにくい多様性も含まれます。
具体的なダイバーシティ経営の実践例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 働き方改革を推進する
- 採用の間口を広げて、女性、シニア世代、障がい者、外国人などが活躍できる環境を整える
- 多様性を理解するための研修会やセミナーを実施する
経済産業省は、ダイバーシティ経営を実践することで、人手不足解消、生産性向上、競争力強化などの効果が期待できるとしています。しかし、多様な人材をただ集めるだけでは、このような効果は得られません。多様な人材が、それぞれの能力を最大限に活かせる環境を整えることが重要です。そのためには、多様な人材の働き方のニーズやキャリア観などを理解する必要があります。
ウェルビーイングは、企業がダイバーシティ経営を確実に推進するために欠かせない考え方なのです。
2.採用難の時代の到来
少子化の影響で、日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年(8,716万人)をピークに年々減少しており、人材の採用に苦戦する企業が増えています。2021年の生産年齢人口は7,450万人で、今後は少子化がさらに進み、2050年には5,275万人にまで減少すると見込まれています。
また、以前の日本は終身雇用が一般的でしたが、時代とともにライフスタイルが変化したことで、働き方のニーズや、仕事に対する価値観も多様化しています。採用難の時代に優秀な人材を確保するためには、働く人のニーズや価値観を理解し、一人ひとりがウェルビーイングを実現できる職場環境を整えていく必要があるのです。
3.SDGsの登場
近年世界中で取り組みが広がるSDGsも、ウェルビーイングが注目されるようになった理由の一つといえるでしょう。SDGs(Sustainable Development Goals)は、2015年9月に開催された国連サミットで採択された、2030年までに持続可能な世界の実現を目指す国際目標です。日本語では「持続可能な開発目標」と呼ばれています。
SDGsは、さまざまな社会課題に対する17の目標と169のターゲットで構成されており、目標3には、「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する(Ensure healthy lives and promote well-being for all at all ages)」が掲げられています。
また、ウェルビーイングは心身の健康だけでなく、社会的にも満たされた状態を指しますので、企業がウェルビーイング経営に取り組むことで、目標8「働きがいも 経済成長も」にも貢献できると考えられます。
このように、ウェルビーイングはSDGsを達成するための重要なキーワードでもあるのです。
SDGsとは
ウェルビーイングに取り組む日本企業の事例4選
ウェルビーイングの考え方は、日本企業の間にも広まりつつあり、ウェルビーイング経営に取り組む企業も増えています。最後に、社員のウェルビーイングの実現に取り組む企業の事例を4つ紹介します。
1.株式会社イトーキ
株式会社イトーキは、ワークプレイス事業、設備機器・パブリック事業などを展開している企業です。東京にある本社オフィス「XORK」では、2019年よりABW(Activity Based Working)を実践しています。
ABWとは、社員が自ら働く時間や場所、相手を選択するというワークスタイルです。導入することで、社員満足度や生産性実感の向上が期待できるだけでなく、社員間でアイデアや知識を共有しやすくなるなどのメリットがあります。
ABWに似た取り組みに、「フリーアドレス」があります。フリーアドレスは、社員が固定の席を持たず、「オフィス内」の好きな場所で仕事ができるというものです。ABWでは、オフィス内だけでなく、自宅やカフェなど「オフィス外」も働く場所と捉えます。
また、ABWは、それぞれに与えられた仕事を「業務」ではなく「活動」として考えます。一人で集中したいとき、ほかの社員とアイデアを出したいときなど、さまざまな活動がスムーズに進められるよう、環境を整えてサポートするという点も、ABWの特徴です。
2.ロート製薬株式会社
ロート製薬株式会社は、医薬品や化粧品などの製造販売を行っている企業です。2030年に目指す姿として、「Connect for Well-bring」を掲げて、世界の人々がライフステージにかかわらず笑顔あふれる幸せな毎日を過ごせるよう、「つなげていく」をキーワードに、組織づくりに取り組んでいます。
ウェルビーイングの土台となる健康経営の取り組みとして、ロート製薬株式会社では、健康のベースとなる8つの指標を設定しています。
- メタボ脱出
- 貧血改善
- 健全年齢<実年齢
- 喫煙率0%
- 適正飲酒量
- 睡眠時間5時間以上
- 30分週2回以上の運動
- 8000歩早起き20分
具体的な取り組みとしては、ウォーキングイベントや健康に関するセミナーの開催、独自のオリジナルメソッドにより生活改善を行う「メタボ脱出チャレンジ」企画の実施などがあります。
3.株式会社BeBlock
株式会社BeBlock(ビブロック)は、アクリルグッズや缶・ピンバッジ制作事業、ライセンス事業、大判印刷事業など、幅広く事業を展開している企業です(2023年1月 株式会社シー・アール・エムより社名変更)。
経営理念の一つに「For Well-being ―人が幸せであり続けるために―」を掲げる株式会社BeBlockでは、社員のウェルビーイングを実現するために、一人ひとりが健康でイキイキと働ける職場環境づくりに取り組んでいます。
独自の制度であるフレックスタイム制「WEEK40」は、週40時間以内で自由な働き方ができるという制度で、「WEEK30」と「WEEK20」も選択可能です。株式会社BeBlockはこの取り組みで、SDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」、目標8「働きがいも 経済成長も」に貢献しています。
4.株式会社Phone Appli
株式会社Phone Appliは、クラウドサービスやアプリケーションの開発・販売、コンサルティングなど幅広く事業を展開している企業です。2019年からウェルビーイング経営を推進しており、さまざまな取り組みを行っています。
- PA Walking Cup
歩数計アプリ「RenoBody」を使って、チームや個人で運動量を競う企画です。健康増進だけでなく、社員同士のコミュニケーション活性化にもつながっています。 - PHONE APPLI THANKS
社員同士が自社開発アプリ「PHONE APPLI THANKS」で日々の感謝を伝えあうことで、エンゲージメントやモチベーションの向上を図っています。 - オフィス環境整備
社員が最大のパフォーマンスを発揮できるよう、オフィス内にテントやラウンジ、リラックスエリアなど多様な空間を設け、働く場所を自由に選択できるようにしています。
株式会社Phone Appliのウェルビーイング経営の取り組みは書籍にもなっていますので、気になる方はお手に取ってみてはいかがでしょうか(タイトル:『ウェルビーイング経営!社員の笑顔が会社を成長に導く』 出版社:小学館)。
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- ファミリーが高い関心を持つテーマ性のあるイベントで集客・施設周遊を促進
まとめ
ウィルビーイングに決まった定義はありませんが、心身ともに健康で、社会的にも満たされている状態を指す言葉として、日本にも浸透しつつあります。企業は、社員のウェルビーイングの実現を目指すことで、イノベーションの創出や生産性向上、離職率低下など、さまざまなプラスの効果が期待できます。ウェルビーイングの捉え方、取り組み方は企業によってさまざまです。まずは、自社にとってのウェルビーイングを定義するところから始めてみてはいかがでしょうか。
SDGsのはじめの一歩を支援するSDGsイベント・研修とは?
SDGsのはじめの一歩を実現する「SDGsの社内浸透方法」とは?
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この記事を書いた人
あらたこまち
雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。
不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。
猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。