ウォーターフットプリントとは?バーチャルウォーターとの違いや具体例、世界の水問題を解説
近年、世界中でさまざまな水問題が深刻化しています。そんな中で注目を集めているのが、「ウォーターフットプリント」という概念です。
本記事では、ウォーターフットプリントとは何か、バーチャルウォーターとの違いや、注目されている背景、ウォーターフットプリントを減らすために個人ができること、水使用量削減に取り組む企業の事例などを紹介します。
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ウォーターフットプリントとは
一つの製品やサービスがつくられ、処分されるまでの一連の流れ(材料の生産、製造、加工、輸送、流通、消費、廃棄、リサイクル)のことを、ライフサイクルといいます。ウォーターフットプリントとは、製品やサービスのライフサイクル全体を通して使用される水の量のことです。英語表記では「water footprint」。直訳すると、「水の足跡」となります。
ウォーターフットプリントは、製品やサービスが水環境に与えている負荷や、その国の水資源への依存度、水の汚染や枯渇のリスクの評価などに活用されています。
ウォーターフットプリントは3種類に分けられる
世界の水問題を解決するためにオランダで設立された非営利組織「ウォーターフットプリントネットワーク」(Water Footprint Network、以下「WFN」)では、ウォーターフットプリントを以下の3種類に分類しています。
- グリーンウォーターフットプリント
消費された雨水をグリーンウォーターフットプリントといいます。土壌から植物に取り込まれる、または蒸発、蒸散する水のことです。(例:育てている野菜が土壌から取り込む雨水) - ブルーウォーターフットプリント
消費された地表水または地下水資源をブルーウォーターフットプリントといいます。農産物や製品に取り込まれた水や、ある水域から採取されて戻ってこない水のことです。(例:農作物を育てるために、田んぼや畑に人工的に供給される水) - グレーウォーターフットプリント
水質汚濁物質を吸収するために必要な水をグレーウォーターフットプリントといいます。(例:肥料や農薬による水質汚濁物質を抑えるための水)
ウォーターフットプリントの具体例
たとえば、1キログラムの牛肉を生産するためには、約15,000リットルもの水が必要になるというデータがあります。ウォーターフットプリントの内訳は、グリーン93%、ブルー4%、グレー3%。牛が直接飲む水(ブルー)だけでなく、放牧地の草が取り込む水(ブルー)、飼料となる穀物が取り込む水(グリーン、ブルー)、飼料となる穀物を生産する際に施用した肥料や農薬による水質汚濁物質を吸収するための水(グレー)などがあります。なお、生産システムや牛の品種、飼料などの条件によってウォーターフットプリントは変わってきますので、これはあくまで一例です。
ほかにも、WFNのホームページでは、以下のような具体例が紹介されています。
- オランダで生産される150グラムの大豆ハンバーガーのウォーターフットプリントは約160リットル。ビーフバーガーならば約1000リットル。
- 日本の一人当たりのウォーターフットプリントは年間約1380立方メートル。
- 中国の一人当たりのウォーターフットプリントは年間約1070立方メートル。
参考:What is a water footprint? – Water Footprint Network
ウォーターフットプリントとバーチャルウォーターの違い
ウォーターフットプリントと混同しがちな言葉に、バーチャルウォーターがあります。バーチャルウォーター(virtual water)とは、食料を輸入している国が、その輸入食料を自国で生産するとしたらどのくらいの水が必要になるかを表したものです。日本語では「仮想水」とも呼ばれています。
たとえば、1キログラムのトウモロコシを生産するためには、約1,800リットルの灌漑用水が必要になるというデータがあります。トウモロコシを輸入している国は、この分の水を自国で消費せずに済んでいるのです。
ウォーターフットプリントとバーチャルウォーターは、どちらも水の使用量を表すものですが、計算の対象と範囲が異なります。ウォーターフットプリントは「一つの製品やサービスのライフサイクル全体」、バーチャルウォーターは「輸入食料の生産」に必要な水の量を表しています。つまりバーチャルウォーターも、ウォーターフットプリントの一部といえるでしょう。
なお、バーチャルウォーターについてはこちらの記事でも詳しく解説しています。
仮想水(バーチャルウォーター)とは?日本と世界の現状と問題点、解決策をわかりやすく解説
ウォーターフットプリントの算出方法
2014年8月に環境省が公表した「ウォーターフットプリント算出事例集」で、ウォーターフットプリントの主要な評価手順として紹介されているのが、「インベントリ分析」と「影響評価」です。
インベントリ分析
インベントリ分析では、特定プロセスにおける水利用によるインベントリデータを取得し、分析します。インベントリデータとは、水質汚染物質の排出量、濃度などの「水質変化」に関するデータと、水源からの取水量、排水量などの「水量変化」に関するデータのことです。
また、取水と排水で水質や地域、時間が異なる場合は、水量変化だけで評価することができないため、インベントリデータに加えて空間特性(利用した地点、排出した地点など)と、時間特性(利用した時間、排出にかかった期間など)も考慮する必要があります。
影響評価
ウォーターフットプリントで考慮すべき水への影響は、主に「水資源枯渇」と「水質汚染」の2つです。
水資源枯渇とは、ここでは水を消費することによる影響を指します。水利用可能量は地域によって異なりますので、水資源枯渇の影響を評価する際は、単純に水を使いすぎていないかどうかを測るだけでなく、地域特性や、事業活動による水質悪化に伴う水利用可能量減少の可能性なども考慮することが望ましいです。
水質汚染とは、水質汚染物質を排出することによる影響を指します。目的に応じて影響領域を特定したうえで評価する必要があります。
参考:ウォーターフットプリント算出事例集 – 環境省(PDF)
ウォーターフットプリントの国際規格ISO14046
ウォーターフットプリントは、ISOにより国際規格化されています。ISO14046では、影響評価まで実施したものを「ウォーターフットプリント」、インベントリ分析のみ行い影響評価を実施しなかったものを「ウォーターフットプリントインベント分析」と区別しており、影響評価まで実施することが重要であることが強調されています。
日本のウォーターフットプリントを見てみよう
環境保全団体のWWFジャパンは、WFNが公表している原単位や農林水産物輸出入概況を基に、日本が輸入している食品や製品の生産に伴うウォーターフットプリント(バーチャルウォーター)を算出しました。それぞれのウォーターフットプリントは、以下のとおりです。なお、算出したのはグリーンウォーターフットとブルーウォーターのみで、グレーウォーターは含まれていません。
【産業別のウォーターフットプリント(2018年)】※立法メートル
| グリーンウォーターフットプリント | ブルーウォーターフットプリント |
主要輸入農産物 | 40,493 百万 | 1,974 百万 |
輸入家畜製品 | 14,739 百万 | 871 百万 |
テキスタイル | 5,384百万(グリーンとブルーの合計) |
これだけの量の水を、日本は自国で消費せずに済んでいるのです。また、WFNが公表しているデータによると、日本のウォーターフットプリントは約77%が国外にあります。これらのデータから、日本は海外の水資源への依存度が非常に高いことがわかります。世界のさまざまな水問題も、一人ひとりが身近な問題として考えていかなければなりません。
ウォーターフットプリントが注目されている背景
近年、ウォーターフットプリントが注目されるようになったのは、世界中でさまざまな水問題が深刻化しているからです。解決策を考えるためには、どこの水がどのように利用されているのか、人間の暮らしが水環境に与える影響や、産業が背負っている責任を明らかにする必要があります。そのために、ウォーターフットプリントを活用しようという動きが世界中で広がっているのです。
ここからは、世界が抱えている水問題について解説します。
水環境の悪化
WWFの「生きている地球レポート2022(Living Planet Report 2022)」によると、世界の淡水域の野生生物個体群のLPI(生物多様性を測る指標)は、1970年から2018年の間に平均83%減少しています。驚異的な速さで、生物多様性が失われ続けているのです。
水環境の悪化が特に深刻なのが、世界人口の約6割の人々が暮らすアジア太平洋地域です。自然環境の供給量以上の過剰な取水、水質汚染、野生生物の乱獲などにより、淡水種の生物多様性が脅かされています。
参考:生きている地球レポート2022 ー ネイチャー・ポジティブな社会を構築するために ー |WWFジャパン
水災害の増加
国連の「World Water Development Report 2019」では、以下のようなデータが紹介されています。
- 1995年から2015年の間に渇水の影響を受けた人々の数は11億人、犠牲者は2万2,000人、1,000億USドルの損害が生じた。
- 1995年から2015年の間に生じた自然災害のうち43%は洪水。被災者は23億人、犠牲者は15万7,000人、6,620億USドルの損害が生じた。
- 2050年までに降雨量はさらに減少し、世界人口の52%、世界の穀物生産の40%が水不足の危機に陥る可能性がある。
洪水に関しては、2050年には世界人口の16億人が洪水のリスクにさらされ、45兆USドルもの経済損失をもたらすことになると、OECD(経済協力開発機構)は予想しています。
これらの問題は地球温暖化による影響が大きいと考えられますが、それだけでなく、保水機能を持つ森林の減少、水資源の過剰な利用なども原因として挙げられます。
淡水資源をめぐる紛争
世界には国土が隣国と接している国が多くあり、水をめぐる問題や争いが各地で起こっています。たとえば、
- 国際河川の上中流部の開発の影響で、下流の水環境が悪化する。
- 水の所有権や配分をめぐって紛争が起きる。
- 戦争の影響で水の供給が止まってしまう。
などが挙げられます。
日本は島国であるため、あまりこのような問題を身近に感じられないかもしれませんが、日本は衣食住に必要なものの多くを海外からの輸入に頼っています。水をめぐる問題や争いが起こると、私たちの暮らしにも大きな影響が及ぶ可能性があるのです。
参考:1.3.2 水紛争から水協調の時代へ – 内閣府(PDF)
ウォーターフットプリントを減らすために
最後に、ウォーターフットプリントを減らすために私たち個人にできることと、水使用量削減に取り組む企業の事例を紹介します。
私たちにできること
まずは、ウォーターフットプリントを減らすために個人ができるアクションを紹介します。
お肉の消費量を減らす
畜産物の生産には、家畜が飲む水、放牧地の草が取り込む水、飼料となる穀物を生産するための灌漑用水など、多くの水が必要になります。また、飼料のとなる穀物の生産・輸送、ふん尿処理、牛のゲップなど、畜産物はライフサイクル全体で多くの温室効果ガスも排出するため、環境へ与える負荷が大きいといわれています。
お肉の需要が少なくなれば、それに合わせて生産量も減っていきます。お肉の消費量を減らすことが、環境保護のために個人ができることの一つなのです。
イギリスのロックバンド「ビートルズ」の元メンバーであるポールマッカートニーとその娘により、「ミートフリーマンデー」という取り組みも考案されています。環境を守るために、最低でも週に1日、月曜日だけでもお肉を食べるのをやめようというものです。無理のない範囲で、お肉の消費量を減らしてみませんか?
水問題を意識した消費行動を取る
お風呂に入るときや洗濯をするときなど、生活の中で節水を心がけることももちろん大切ですが、ウォーターフットプリントは農産物や畜産物の生産により生じる部分が大きいので、一人ひとりが消費行動を変えていくことが重要です。
具体的には、水使用量を公表している製品やサービスを選ぶ、買う前に本当に必要か考えるといったアクションが挙げられます。
水使用量削減に取り組む企業の事例
次に、水使用量削減の企業事例として、コカ・コーラシステムとライオン株式会社の取り組みを紹介します。
コカ・コーラシステム
清涼飲料の製造・販売を行っている日本コカ・コーラ株式会社と、全国5社のボトリング会社などで構成されるコカ・コーラシステムは、2020年までに「ウォーター・ニュートラリティー」を達成することを掲げ、2010年から水資源保護の取り組みを進めてきました。「ウォーター・ニュートラリティー」とは、製品の製造に使用する水の量と同等量の水を自然に還元し、水使用量を実質ゼロにすることです。これを、目標としていた2020年よりも4年早く、2016年に達成しました。
具体的な取り組みは、大きく3つに分けられます。
- Reduce(水使用量削減)
工場に独自のマネジメントシステム「KORE」や、殺菌システム「エレクトロン・ビーム」を導入し、製造時に使用する水の効率化や洗浄水の削減を進めています。 - Recycle(水の循環)
工場からの排水は、適正に処理をして一定の基準をクリアした上で下水道や河川に放流しています。具体的には、下水に放流する工場では浮遊物の除去やpHの調整など、河川に放流する工場では活性汚泥法などにより排水処理を行っています。 - Replenish(水資源保護)
国内の21ある工場の水源域で、その地域の特性に応じた水資源保護活動を行っています。
参考:コカ・コーラシステム 日本国内において「ウォーター・ニュートラリティー」を達成 | プレスセンター | 日本コカ・コーラ株式会社
ライオン株式会社
ハミガキや石けん、洗剤などの製造・販売を行っているライオン株式会社では、2019年よりサプライチェーン全体の水使用量の算出を開始。商品のライフサイクル全体の水使用量を把握し、水資料量の削減に取り組んでいます。
ライオン株式会社が取り扱っている商品は、多くが水で洗って使うものです。そのため、公式ホームページに公開されているデータを見ると、ライフサイクル全体で最も水使用量が多いのは、消費者が商品を使用する段階(76.2%)となっています。
これを削減するため、ライオン株式会社では、すすぎ1回の洗濯用液体洗剤や、ナノ洗浄の台所用洗剤など、節水型の環境フレンドリー製品の普及・開発を進めています。
参考:水使用量削減|循環型社会の実現|環境とともに|サステナビリティ | ライオン株式会社
SDGs研修・体験型SDGsイベント
【SDGs研修】ワールドリーダーズ(企業・労働組合向け)
概要
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- 自分達の利益を追求しつつも、世界の環境・社会・経済も気にしなければならず、ビジネス視点からSDGsを感じ、考えることができる
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概要
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- 海の環境やゴミの分別・再利用など、参加者は身近なことからSDGsを学べる
- ファミリーが高い関心を持つテーマ性のあるイベントで集客・施設周遊を促進
まとめ
製品やサービスのライフサイクル全体を通して使用される水の量を表す、ウォーターフットプリントについて解説しました。
貿易大国である日本は、海外の水資源への依存度が高い国です。水環境の悪化、水災害の増加、淡水資源をめぐる紛争など、世界のさまざまな水問題も、身近な問題として考えていかなければなりません。未来の世代の暮らしを守るために、まずは世界の現状を知り、できることからアクションを起こしてみませんか?
参考:日本が世界の水環境に及ぼす影響を明らかにする「ウォーターフットプリント」 |WWFジャパン
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この記事を書いた人
あらたこまち
雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。
不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。
猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。