ブルーエコノミーとは?世界と日本の取り組み事例を紹介
地球温暖化によるものと思われる海面上昇や海水の酸性化、プラスチックごみによる海洋汚染、魚の乱獲など、海に関する問題が取り上げられることも多くなりました。私たちにたくさんの恩恵を与えてくれる海が、現在危機的な状況にあります。そんな中で注目を集めているのが、「ブルーエコノミー」という概念です。
本記事では、ブルーエコノミーとは何か、注目されている理由と、ブルーエコノミーに関する日本の取り組みや事例を紹介します。
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ブルーエコノミーとは
ブルーエコノミーとは、水資源にかかわる経済活動を指す言葉です。「ブルー」は海、川、湖などの水資源を、「エコノミー」は経済を意味しています。
ブルーエコノミーという概念の提唱者は、起業家で著作家のグンター・パウリ氏だといわれていますが、世界的に広く知られるようになったのは、2012年に開催された国連持続可能な開発会議(リオ+20)で取り上げられたことがきっかけです。この時は、「ブルー」は「水資源」ではなく、「自然エネルギーを効率的に利用する経済」の意味で用いられていました。その後、国際機関や世界銀行などによりブルーエコノミーの考え方が整理されていき、現在は水資源(特に海)にかかわる経済活動を指す言葉として用いられるようになっています。
また、ブルーエコノミーの中でも、海の持続可能性を向上させる経済活動を、「サステナブル・ブルーエコノミー」と区別して呼ぶこともあります。
ブルーエコノミーの定義と分類
前項でご紹介したように、ブルーエコノミーは水資源にかかわる経済活動を表す言葉ですが、その定義や範囲、どこまで持続可能性を考慮するかは、国や団体によってさまざまです。たとえば、以下のような定義があります。
- EU:海洋に基づくもしくは海洋に関連するすべての活動を含む
- アメリカ:海洋の経済的、社会的、生態学的持続可能性の相互作用を捉える原則であり、一般的に、商業と貿易にまたがる部門と活動で構成される
- 中国標準局:海洋資源の開発、利用、保護、およびそれに関連する活動
また、ブルーエコノミーは、「既存セクター」と「新興セクター」の大きく2つに分けられます。
既存セクター | 海洋生物資源(捕獲漁業、養殖業、水産加工業、水産品の小売業) 海洋非生物資源(オイル・ガス、ミネラル) 港湾活動 造船・船舶の修理 海上輸送 海洋・沿岸地域の観光業 |
新興セクター | 海洋再生可能エネルギー(洋上風力発電、波力・潮力発電、浮体式太陽光発電) 海洋鉱物 海洋バイオテクノロジー インフラ(海底ケーブル、ロボットなど) 廃棄物処理(廃棄物リサイクル、無排水処理、海中廃棄物処理) 脱塩 |
なお、分類は国や地域によって異なります。たとえば、EUでは洋上風力発電は既存セクターとして扱われています。
ブルーエコノミーの経済価値
豊富な資源を有する海は、経済を成長させ、新たな雇用やイノベーションを生み出す可能性を秘めています。OECD(経済開発協力機構)は、2016年に発表した「The Ocean Economy in 2030」の中で、2030年までに海洋関連の経済規模は3兆ドルを超える可能性があるとしています。特に、養殖業や水産加工業、洋上風力、造船・船舶の修理は高い伸びが見込まれ、2030年には海洋関連の雇用者数が常勤従業員換算で約4,000万人になるとも予想しています。
参考:The Ocean Economy in 2030 – Summary in Japanese | OECD iLibrary(PDF)
特に日本は、排他的経済水域(EEZ)と領海を合わせた面積が約447万平方キロメートルと、世界第6位のポテンシャルを持っています。さらに近年は、石油や天然ガス、メタンハイドレート、海底熱水鉱床などのエネルギーや鉱物資源も発見されています。さまざまな課題はありますが、これらを生かすことができれば資源大国になる可能性もあり、ブルーエコノミーの発展が期待されています。
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ブルーエコノミーが注目されている理由
近年、ブルーエコノミーが注目されるようになったのは、経済に大きなプラスの影響をもたらす可能性があるからというだけではありません。そのほかにも、主に3つの理由が挙げられます。
1.海洋環境の悪化
地球温暖化により、海水温度の上昇、海水の酸性化など、海にさまざまな変化が起きています。それだけでなく、魚の乱獲やプラスチックによる海洋汚染など、人間の活動により海の生態系が危機的な状況にあるのです。
特にニュースなどで取り上げられることが多いのが、プラスチックによる海洋汚染の問題です。プラスチックは安価で丈夫なため、日本でもあらゆる製品に使われていますが、自然に分解されないため、環境にさまざまな影響をもたらしています。
プラスチックの中でも、5ミリ以下の非常に小さなプラスチックを「マイクロプラスチック」といいます。マイクロプラスチックが環境へ与える負荷、人体への影響などについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
マイクロプラスチック問題とは?原因と与える影響、国際的な取り組みについて解説
人間の暮らしは、豊かな自然があってこそ成り立つものです。このままでは、いずれ海からの恩恵を受けられなくなるかもしれません。そのため、海にかかわる経済活動の在り方を持続可能な形に見直していくべきという認識が世界で広がっており、ブルーエコノミーが注目を集めています。
2.SDGsの登場
SDGsとは、Sustainable Development Goalsの略称で、日本語では「持続可能な開発目標」と訳されます。2015年9月に開催された国連サミットで採択された、持続可能な世界の実現を目指す国際目標です。現在世界が直面しているさまざまな課題に対する17の目標と169のターゲットで構成されており、2030年を達成期限としています。
目標14は「海の豊かさを守ろう」。正式には、「持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」です。海の豊かさを守りつつ、小島嶼開発途上国と後発途上国の経済的利益の増大させることが掲げられています。
また、SDGsの広まりとともに、環境問題に対する世の中の意識も高まっており、海だけでなくあらゆる分野において、持続可能性が求められる時代となっています。このような世の中の意識の変化も、ブルーエコノミーが注目されている理由の一つです。
参考:JAPAN SDGs Action Platform | 外務省
3.ブルーカーボンへの期待
「ブルーカーボン」とは、海草や海藻、湿地・干潟、マングローブ林などの沿岸および海洋生態系に取り込まれた炭素(カーボン)のことです。これに対して、陸上の植物が取り込む炭素のことを「グリーンカーボン」といいます。
地球温暖化の大きな原因である二酸化炭素(CO2)は、水に溶けやすいという性質を持っています。そのため、実は陸よりも海のほうが炭素吸収量は多いのです。国土交通省の資料「CO2の新たな吸収源」によると、グリーンカーボン(陸)は年間約19トン、ブルーカーボン(海)は年間約25トンとなっています。ブルーカーボン生態系は、気候変動を食い止める新たな炭素吸収源として期待されているのです。
また、ブルーカーボン生態系の再生・保全の取り組みは、漁業などの経済活動の活性化にもつながるため、ブルーエコノミーにも注目が集まっていると考えられます。
なお、ブルーカーボンについては詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
ブルーカーボンとは?脱炭素社会に向けた世界と日本の取り組み事例も紹介
ブルーエコノミーに関する日本の取り組み
日本でも、海洋環境保全やブルーエコノミーを後押しするためのさまざまな取り組みが進められています。
海洋基本計画
日本の海洋に関する取り組みは、「海洋基本計画」に基づいて進められています。海洋基本計画とは、政府が海洋基本法に基づきおおむね5年ごとに作成する、海洋に関する諸施策を示した計画です。
政府は、2018年5月15日に「第3期海洋基本計画」を策定しました。この中で、「海洋産業利用の促進」が主要政策の一つに掲げられています。具体的には、
- メタンハイドレート、海底熱水鉱床、レアアース泥などのエネルギー・資源の開発を推進する。
- 洋上風力発電に関する海域利用ルールなどの制度整備を加速させる
- 新しい活力を海洋産業に取り込んで市場を開拓する
- 資源調査の拡充、漁業取締能力の強化など、水産資源の適切な管理に取り組む
などが挙げられています。
参考:海洋基本計画の概要(第3期)その1 – 内閣府(PDF)
マリーン(MARINE)・イニシアティブ
「マリーン(MARINE)・イニシアティブ」は、2019年6月のG20大阪サミットで共有された「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」の実現に向けて、政府が世界全体の海洋プラスチック対策を後押しするために立ち上げたものです。「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」とは、2050年までに海洋プラスチックごみによる新たな汚染をゼロにするという目標です。
MARINEは、廃棄物管理(Management of wastes)、海洋ごみの回収(Recovery)、イノベーション(Innovation)、途上国の能力強化(Empowerment)の頭文字から名付けられました。「マリーン(MARINE)・イニシアティブ」では、この4つに焦点を当てた施策が示されています。
参考:大阪ブルー・オーシャン・ビジョン実現のための 日本の「マリーン(MARINE)・イニシアティブ」|外務省
ジャパンブルーエコノミー技術研究組合の設立
2020年7月、国土交通省が日本初のブルーカーボンなどに関する技術研究組合の設立を許可し、ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)が誕生しました。JBEでは、海洋の保全、再生、活用など、ブルーエコノミーの活性化につながる技術の研究開発を行っています。
また、JBEは独自のカーボン・クレジット、「Jブルークレジット®」の認証・発行・管理も行っています。カーボン・クレジットとは、新たに生み出されたCO2削減効果を取引可能な形にしたもののことで、これを購入することで、どうしても削減できなかったCO2排出量を埋め合わせる(オフセットする)ことができます。「Jブルークレジット®」は、ブルーカーボンを対象としたオフセット・クレジット制度です。これを活用し、CO2排出量削減に取り組む団体や自治体も増えています。
ブルーエコノミーの事例
最後に、ブルーエコノミーの事例を紹介します。
中国政府
2011年1月、中国政府は山東省の「ブルーエコノミー特区」を承認しました。中国で初めての、海洋開発戦略です。ブルーエコノミー特区の戦略には、科学調査に基づく海洋資源の利用、海洋環境の保護・保全、海洋テクノロジーの発展・推進などが盛り込まれています。
取り組みの一つに、青島で行われている海藻類の養殖があります。近年、世界の海藻生産量は大きく増加しています。食用として用いられることが多い海藻ですが、製紙や繊維、化粧品、医薬品など幅広く利用が可能であることから、注目度が高まっているようです。今後も、海藻の需要は伸びていくと予想されています。
そんな海藻の世界最大の生産国であり、輸入国でもある中国は、海藻をブルーエコノミー促進の重要な資源と位置づけ、さらなる発展を図っています。
独立行政法人国際協力機構
独立行政法人国際協力機構(JICA)は、アフリカの水産分野の発展や、港湾の整備などに取り組んでいます。
アフリカ北西部沿岸のモロッコは、アフリカ最大規模の漁獲量・水産物輸出量を誇るまちです。水産資源には恵まれていますが、苦しい生活を送っている漁師も少なくありません。モロッコの持続可能な漁業と、漁師の安定した生活を実現するために、JICAは「水産開発行政アドバイザー」として専門員を派遣しています。
また、2016年3月に完成したアフリカ東海岸のモンバサ港の新コンテナターミナルの整備にも協力するなど、さまざまな形でアフリカのブルーエコノミーを支援しています。
参考:「ブルーエコノミー」にアフリカが期待 海洋資源を生かし経済成長 | 2018年度 | トピックス | ニュース – JICA
ニッスイグループ
漁業、養殖、水産物の加工、販売などを行っているニッスイグループでは、枯渇化が進む天然水産資源を持続的に利用していくために、さまざまな取り組みを実施しています。
ニュージーランドにあるグループ会社のシーロード社は、2005年、国内の大手水産会社などとともに、混獲を減らし、生物や環境にダメージの少ない新たな漁法を開発するためのプロジェクトを立ち上げました。混獲とは、目的としている魚以外の生物を獲ってしまうことをいいます。
プロジェクト発足から約10年間調査研究を繰り返し、2016年に「PSH漁法システム」を商業化(実用化)することに成功しました。このシステムの漁具は、海水が入ると筒状に広がるため、魚を生きたまま水揚げすることができます。また、混獲を減らすための工夫として、漁具に小型魚種やサイズの小さい魚が逃げられるように穴が設けられています。現在シーロード社は、このPSH漁法の普及活動に取り組んでいます。
このほかにもニッスイグループでは、取扱水産物の資源状態調査の実施、海鳥・海獣の混獲防止など、さまざまな取り組みを実施しています。
参考:天然水産資源の持続的な利用 | 環境 | サステナビリティ|ニッスイ企業情報サイト
シオノギヘルスケア株式会社
ヘルスケア商品の開発・製造販売を行っているシオノギヘルスケア株式会社は、北海道函館市、北海道立工業技術センターと連携して、天然ガゴメを保護・再生させる「昆布の森再生プロジェクト」を実施しています。
ガゴメ昆布とは、北海道の函館近海に生息する、世界的にも希少な昆布です。健康成分が多く含まれているため、近年注目度が高まっています。シオノギヘルスケア株式会社でも、このガゴメ昆布を使用した製品を扱っていますが、地球温暖化による海水温上昇、磯焼け、人間による乱獲などの影響で、ガゴメ昆布は産地消滅の危機に直面しているのです。かつては森のように生い茂っていた天然ガゴメですが、現在の生産量はピーク時の1%以下まで減少しています。
そこでシオノギヘルスケア株式会社は、2019年より使用するガゴメ昆布を天然から養殖へ切り替えを始めました。2024年までに、天然ガゴメ昆布の使用量をゼロにすることを目指しています。
また、天然ガゴメ昆布を守るためには、養殖ガゴメ昆布を普及させることが大切です。現状、ガゴメの養殖には、品櫃や生産工程、作業効率など多くの課題があります。シオノギヘルスケア株式会社では、産官連携によりこれらの課題の解決にも取り組んでいます。
参考:昆布の森再生プロジェクト – シオノギヘルスケア株式会社
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まとめ
ブルーエコノミーの定義や考え方は国や団体によっても異なりますが、近年は、より持続可能性が求められるようになってきています。
これまで人間は、豊かさを追求するあまり海に負担をかけすぎてきました。海は現在、これまでにないほど危機的な状況にあり、このままでは海からの恩恵を受けられなくなる可能性があります。未来の世代の暮らしのために、海をはじめとする水資源にかかわる経済活動の在り方を見直していかなければなりません。
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SDGsとは
この記事を書いた人
あらたこまち
雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。
不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。
猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。