ブルーカーボンとは?脱炭素社会に向けた世界と日本の取り組み事例も紹介
「2050年カーボンニュートラル」に向けた取り組みが、世界中で広がっています。脱炭素社会を実現するためには、二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガスの排出量を抑えるとともに、吸収量を確保していかなければなりません。そこで、現在注目されているのが「ブルーカーボン」です。
本記事では、ブルーカーボンとは何か、注目されている理由と、ブルーカーボン生態系の種類ごとのメカニズムについて、詳しく解説します。また、ブルーカーボン生態系が危機的な状況にあることや、ブルーカーボン・オフセット・クレジットとは何か、ブルーカーボンに関する海外と日本の取り組み事例も紹介します。
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目次
ブルーカーボンとは
ブルーカーボンとは、湿地・干潟、海藻の藻場、海藻、マングローブ林などの、沿岸および海洋生態系に取り込まれた炭素(カーボン)のことです。ブルーカーボンは、国連環境計画(UNEP)が2009年に発表した報告書「Blue Carbon」の中で、新たな炭素吸収源として提唱されました。
脱炭素社会の実現や、SDGsの目標13「気候変動に具体的な」の達成に向けた取り組みが世界で広がっていますが、現段階では地球温暖化を食い止めることはできていません。このままでは、2100年には地球の平均気温が最大で4℃も上昇するともいわれています。このような中で、ブルーカーボンの気候変動対策への活用が期待されているのです。
カーボンの種類
ブルーカーボンと名付けられていますが、実際に炭素に色がついているわけではありません。現在炭素は、ブルーを含む以下の6色で考えられています。
地球温暖化を抑えるカーボン | ブルーカーボン | 湿地・干潟、海藻の藻場、海藻、マングローブ林などの、沿岸および海洋生態系に取り込まれる炭素 |
グリーンカーボン | 森林や草原など、陸上の植物に取り込まれる炭素 | |
ティールカーボン | 湖沼や湿原など、淡水湿地帯の生態系に取り込まれる炭素 | |
地球温暖化を加速させるカーボン | ブラックカーボン | 主に化石燃料やバイオマス燃料を燃焼した際に発生する、炭素を含む微粒子(炭素性エアロゾル)。 |
ブラウンカーボン | 主に化石燃料やバイオマス燃料を燃焼した際に発生する、ブラックカーボン以外の炭素を含む微粒子(有機炭素性エアロゾル)。 | |
レッドカーボン | 氷河に生息する氷雪藻の色から名づけられた。氷雪藻の色素は、緑色光や青色光を吸収すると、周りの雪や氷を溶かすため、温暖化の影響も進む。 |
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ブルーカーボンが注目されている理由
ここからは、現在ブルーカーボンが大きな注目を集めている2つの理由について解説します。
ブルーカーボンはグリーンカーボンよりも炭素吸収量が多い
一つめは、冒頭でも述べたように、ブルーカーボンの気候変動対策への活用が期待されているからです。
国土交通省の資料によると、陸域での炭素吸収量(グリーンカーボン)が年間約19億トンなのに対し、海域での炭素吸収量(ブルーカーボン)は年間約25憶トンとなっています。CO2は水に溶けやすいという性質があるため、陸よりも海のほうが、炭素吸収量が多いのです。
人間の活動により排出されている炭素は、年間約94億トン。陸域・海域での吸収量を差し引くと、約51億トンが大気中に残っていることになります。ブルーカーボンを活用することで、この部分の炭素をもっと吸収できるようになるのではないかと、注目を集めているのです。
「ブルーカーボンにより年間総排出量のおよそ0.5%を吸収・隔離できる」(※1)、「温暖化を1.5℃に抑えるために必要な削減量の2.5%は、ブルーカーボン生態系による吸収源対策で達成可能」(※2)といった報告もあります。特に、島国である日本は海洋の炭素吸収源のポテンシャルが大きいため、ブルーカーボンの活用が期待されています。
ブルーカーボンはコベネフィットをもたらす
二つめは、ブルーカーボンによるコベネフィットです。コベネフィットとは、一つの活動が複数のベネフィット(利益、恩恵、便益)につながっていくことをいいます。
自治体、企業、漁業者、市民などさまざまな主体が協力して、ブルーカーボンの活用のために海の保全に取り組むことで、地球温暖化の防止や生物多様性の保全につながることはもちろん、以下のようなさまざまなメリットが生まれると期待されています。
- 地域のイメージが向上し、にぎわいが生まれる
- 漁業を次の世代に伝えられる
- 新たな教育・レジャーの場を提供できる
- 地域に愛着が湧く
- 企業イメージが向上する
ブルーカーボン生態系の種類とメカニズム
海の植物は、海水に溶けたCO2を光合成で吸収して隔離します。その後、食物連鎖や枯死した植物が海底に堆積することで、炭素が貯留されるのです。この一連の流れを「ブルーカーボン生態系」といいます。
日本には、大きく分けて4つのブルーカーボン生態系があります。
- 海草の藻場
- 海藻の藻場
- 湿地・干潟
- マングローブ林
ここからは、それぞれの生態系の特徴と、炭素貯留のメカニズムを解説します。
1.海草の藻場
海草(うみくさ)とは、砂泥質の海底に育つ種子植物のことで、根・茎・葉に分かれているのが特徴です。たとえば、アマモ、コアマモ、スガモなどが挙げられます。
このような海草や、次項で紹介している海藻が茂る場所を「藻場」といい、中でもアマモ類の藻場は「アマモ場」と呼ばれています。
海草は、海水に溶けたCO2を光合成で吸収・隔離して、自身を成長させます。海草が密生する藻場の海底には有機物が堆積しやすく、多くの炭素が貯留されています。瀬戸内海の海底では、3,000年前の層からもアマモ由来の炭素が見つかっているそうです。
2.海藻の藻場
海藻(うみも)とは、海の岩などに固着している植物のことで、海草と違って根・茎・葉の区別がないのが特徴です。たとえば、アオサ、コンブ、ワカメ、テングサなどが挙げられます。
海藻も海草と同じように、海水に溶けたCO2を光合成で吸収・隔離します。海藻は、栄養を根からではなく海水から得ているので、ちぎれてもすぐには枯れません。「流れ藻」として海面を漂い、遠くまで漂流したのちに深海に沈み堆積します。こうして、深海の海底にも海藻由来の炭素が貯留されていくのです。
3.湿地・干潟
湿地の定義はさまざまなものがありますが、ラムサール条約(特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)では、「沼沢地、湿原、泥炭地又は水域をいい、低潮時における水深が6メートルを超えない海域を含む」とされています。
干潟とは、沿岸部の、砂や泥が堆積した、水没と干出を繰り返す場所のことです。環境省では干潟を「干出幅100 m、干出面積1ha、移動しやすい基質(砂、礫、砂泥、泥)」と定義しています。
湿地や干潟に生息するヨシや塩生植物が、光合成によりCO2を吸収します。また、枯死した植物や、これらの植物を食べる海の生き物たちの遺骸が海底に溜まることでも、炭素が貯留されていきます。
4.マングローブ林
マングローブとは、熱帯や亜熱帯の、河川水と海水が混じりあう河口などに育つ樹木のことです。たとえば、オヒルギ、メヒルギ、ヤエヤマヒルギなどが挙げられます。マングローブ林は、日本では鹿児島県と沖縄県の沿岸に分布しています。
成長したマングローブ林は、大型植物として、光合成により多くのCO2を取り込みます。さらに、枯れた枝や根が堆積していく海底の泥の中にも、炭素が貯留されていきます。
ブルーカーボン生態系の危機
新たな炭素吸収源として、気候変動対策への活用が期待されているブルーカーボンですが、ブルーカーボン生態系は、現在消失の危機にあります。ブルーカーボンという概念が初めて提示されたUNEPの報告書「Blue Carbon」では、ブルーカーボン生態系が年間2~7%ずつ消失しているというデータも示されています。この消失率は、熱帯雨林の4倍です。
海に囲まれた日本も、例外ではありません。明治・大正時代には、全国に2110.62平方kmの湿地が存在していました。しかし、1999年には820.99平方kmと、明治・大正時代の湿地面積の61.1%にまで減少しています。
また、瀬戸内海では、1960年~1990年の30年間で7割のアマモ場が失われるなど、高度成長期以降は藻場も減少しています。藻場が減少する原因としては、埋め立て事業などの開発行為、透明度の低下、工場排水などによる化学物質の流入、磯焼けなどが挙げられます。
ブルーカーボン生態系が消失すれば、せっかく貯留されていた炭素も放出されてしまいます。美しい地球を守るために、現在ブルーカーボン生態系を保存・再生するための取り組みが、世界中で進められています。
ブルーカーボン・オフセット・クレジットとは?
普段の生活や事業活動の中で、どうしても温室効果ガスは発生してしまいます。カーボン・オフセットとは、温室効果ガスの排出削減に取り組んだうえで、それでも削減できない分を、別の場所で温室効果ガス排出削減に取り組んだり、吸収量を確保したりすることで、「埋め合わせる(オフセット)」という考え方です。
たとえば、森林の管理・育成や、再生可能エネルギーの利用、省エネ機器の導入などにより、排出した温室効果ガスをオフセットします。
このような、別の場所での温室効果ガス削減活動や、新たに生み出された吸収量を、決められた方法で定量化し、取引できる形にしたものが「クレジット」です。このクレジットを購入することで、削減できなかった温室効果ガスをオフセットできます。クレジットの購入費用は、森づくりや再生可能エネルギーの利活用などといった、環境保全の活動に使われます。
参考:オフセット/ニュートラルとは?- カーボンオフセットフォーラム – 環境省
ブルーカーボンのオフセット・クレジットは、ジャパンブルーエコノミー技術研究組合が発行する「Jブルークレジット®」のほか、横浜市や福岡市のように、独自のクレジット制度を設けている自治体も見られます。
参考:Jブルークレジット │ ジャパンブルーエコノミー技術研究組合
ブルーカーボンに関する取り組み事例
新たな炭素吸収源として大きな注目を集めているブルーカーボン。消失の危機にあるブルーカーボン生態系の保全・再生に向けて、実際にどのような取り組みが進められているのでしょうか。最後に、ブルーカーボン生態系に関する、海外と日本の取り組み事例を紹介します。
海外の取り組み事例
まずは、海外の事例を2つ紹介します。
アメリカのアマモ再生プロジェクト
アメリカのバージニア海洋科学研究所(VIMS)では、1978年からアマモの再生に取り組んでいます。1970年代半ばから、チェサピーク湾のアマモが減少したことをきっかけに、プロジェクトをスタートさせたそうです。残念ながら、現在までにチェサピーク湾のアマモの再生には成功していませんが、さまざまな場所で成功事例をつくっています。
1999年、VIMSのロバート「JJ」オース教授は、サウス湾、スパイダークラブ湾、ホグアイランド湾にアマモの種子をまきました。当時は、ほとんどアマモは見られませんでしたが、現在では6,000エーカー(約24平方km)以上のアマモ藻場が広がっています。
また、これまでの研究で、成体のアマモを移植するよりも、アマモの種子をまくほうが、効率的かつ効果的であることや、水質が重要なポイントであることもわかっています。
参考:Seagrass Restoration – Virginia Institute of Marine Science
イギリスの「シーグラス・オーシャン・レスキュー」
「シーグラス・オーシャン・レスキュー」は、海洋保護慈善団体のプロジェクトシーグラスが、スカイオーシャンレスキュー、世界自然保護基金(WWF)、カーディフ大学など複数の組織とともに立ち上げたプロジェクトです。このプロジェクトでは、西ウェールズ地方で、地元の人々の協力を得て、2ヘクタールの実験エリアで海草の復元に取り組んでいます。
海草を復元する方法は、水中に種子を植えるという、非常にシンプルなものです。プロジェクトシーグラスのホームページでは、このプロジェクトは、前項で紹介したVIMSのロバート「JJ」オース教授の成功事例に触発された研究に基づくものであるとして紹介されています。
参考:Project Seagrass – Seagrass Ocean Rescue – Project Seagrass
日本の取り組み事例
次に、日本の事例を2つ紹介します。
神奈川県葉山町のアマモ場・カジメ群落の保全活動
2006年に、神奈川県葉山町で葉山アマモ協議会が発足しました。以降、葉山町では地域ぐるみでアマモ場とカジメ群落の保全に取り組んでいます。
- アマモ場保全活動
毎年葉山一色小学校で出前授業を行い、アマモ場の現状や課題、保全することの大切さなどを、子どもたちに伝えています。また、葉山一色小学校では、地元のアマモ種子を用いた種苗づくりも行っています。子どもたちに育てられた種苗は、地元の漁業者とダイバーにより海底に植え付けられています。 - カジメ群落保全活動
アイゴによる食害で一度は消滅してしまったカジメ群落でしたが、2018年にスポアバックを投入し、再生させることに成功しました。現在も、定期的なモニタリングや、ガンガゼ駆除などを行っています。
活動の様子は、葉山アマモ協議会のフェイスブックページで発信されています。
岡山県備前市日生町のアマモ場再生活動
岡山県備前市日生町では、35年以上前から藻場の再生に取り組んでいます。
日生町は、カキの養殖が盛んなまちです。そのカキ殻を使って底質改善を行うことで、1985年には12ヘクタールしかなかったアマモ場を、2015年には250ヘクタールまで回復させることに成功しています。アマモ場の更なる回復を目指し、カキ殻を使った取り組みは現在も続けられています。
また、アマモ場が再生したことで、流れ藻がスクリューに絡まるなど、航行を妨げることが増えました。この問題を解決するために、日生中学校と協力し、漁師の船に乗って流れ藻を回収するという体験学習を開始。現在では、アマモ場再生とカキ養殖の体験学習が、小学校や高校にも広がっています。
参考:岡山県日生町地先における アマモ場再生の取り組み – 水産庁(PDF)
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まとめ
海のブルーカーボンは、陸のグリーンカーボンよりも炭素吸収量が多いため、今後の気候変動対策への活用が期待されており、四方を海に囲まれた日本においても、大きな注目を集めています。しかし、地球温暖化や、人間の開発行為などにより、ブルーカーボン生態系は速いペースで失われ続けているのが現状です。美しい海と、持続可能な漁業や暮らしを守るために、世界中で保全・再生の取り組みが進められています。
また、気候変動対策としてだけでなく、ブルーカーボン生態系がもたらすコベネフィットも期待されています。すでにブルーカーボン生態系の保全・再生に取り組んでいる自治体や企業もありますが、今後はこうした活動が、より広がっていくのではないでしょうか。
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この記事を書いた人
あらたこまち
雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。
不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。
猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。