仮想水(バーチャルウォーター)とは?日本と世界の現状と問題点、解決策をわかりやすく解説
食べ物が食卓に上るまでには、どのくらいの水が使用されているのか考えたことはありますか。私たちが日常的に食べている肉や野菜を生産するために、目には見えない水が大量に使われています。この隠れた水資源の量を「見える化」するために用いる考え方が、仮想水(バーチャルウォーター)です。仮想水という視点から、日本と世界が抱える水問題を読み解くことができます。この記事では、バーチャルウォーターから見えてくる日本と世界の現状と問題点、解決策をわかりやすく解説します。
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目次
仮想水(バーチャルウォーター)とは?
仮想水(バーチャルウォーター)とは、食料を輸入し消費している国が、もしその輸入食料を自国で生産するとしたら、どの程度の水が必要になるかを推定したものです。ロンドン大学のアンソニー・アラン教授によって初めて紹介された概念で、食料を輸入することは仮想的に水を輸入していることに等しいと考えられています。
野菜や穀物などの農産物、牛や豚などの畜産物を生産するには、大量の水が必要です。たとえば1kg のトウモロコシを生産するために、1,800 リットルの水を使います。トウモロコシなどの穀物を大量に消費する牛を生産するとなると、さらに大量の水が必要です。牛肉1kg に対して、その約2万倍(約2万リットル)もの水量を要します。
こうした目に見えない水資源の使用量を「見える化」する考え方が、仮想水問題です。私たちは仮想水を通して、食料生産の背後にある水資源の存在を認識し、食料生産にかかる水の量を推し量ることができます。
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世界における仮想水の現状と課題
仮想水の輸入国は、先進国が多いのが特徴です。以下の表は、仮想水の主要な輸入国を示したもので、アメリカ、日本、ドイツがトップ3にランクインしています。
仮想水の取引を考えた場合、豊富な水資源に恵まれた国々と、そうでない国々との間で、需要と供給のバランスがとれている状態が理想的です。ところが実際は、そうなってはいません。
アメリカ、パキスタン、インド、オーストラリア、ウズベキスタン、中国、トルコだけで、世界の仮想水輸出量のほぼ半分(49%)を占めています。
輸出大国のアメリカや中国は、輸入国の上位にも登場した国ですが、インドやパキスタンなどは輸出のみが目立っており、水不足が深刻です。これらの国は、いずれも地理的に水資源に恵まれておらず、水不足によって日常生活に不便が生じています。
たとえば、インドは地下水の輸出量が世界第3位で、世界全体12%を占めています。その一方で、物理的に水が不足している地域に10億人もの人びとが過ごしており、全世帯の75%は敷地内で飲み水を入手できない状況です。多くの人びとが、毎日水汲みのために多くの時間と労力を費やしています。
日本は仮想水の輸入大国
これまでみてきたとおり、日本は仮想水の輸入量が多い国の一つです。日本の食料自給率は、カロリーベースで38%(2021年度) しかなく、先進国でも最低の水準となっています。食料や家畜のえさの多くを輸入に頼っている日本は、自ずと輸入する仮想水の量も多くなります。環境省と特別非営利活動法人日本水フォーラムの試算によると、2005 年に海外から日本に輸入された仮想水の量は約800億m3にのぼり、その大半は食料に起因しています。 これは、日本国内で使用される年間水使用量と同程度です。
出典:仮想水問題|富山県
日本における仮想水の問題点はこれだけではありません。同じく仮想水の輸入量が多いアメリカや中国は、輸出量も多いことが特徴です。しかしながら、日本は輸入量のみが突出しているため、仮想水の収支でいえば大幅なマイナスになっています。これは由々しき問題といえるでしょう。
1杯の牛丼に使う水の量はどれくらい?
普段、何気なく食べている物がどこからやってきて、その生産にどれほどの水が必要であるか、一人ひとりが知ることは大切なことです。私たちが日頃口にしている料理には、どのくらいの水が投入されているのでしょうか。
環境省が公開している仮想水計算機を使うと、料理に使われているバーチャルウォーターを容易に算出することができます。
ここでは、牛丼に使用されている仮想水の量をみていきましょう。
- 牛肉70gの仮想水量は、1442リットル=ペットボトル×2884本
- たまねぎ20gの仮想水量は、15 リットル=ペットボトル×6本
- ごはん120gの仮想水量は、444リットル=ペットボトル×888本
合計1889リットルで、ペットボトル500ミリリットル×3780本に相当します。自分たちの食事に必要な水の量が、意外なほど多いことがわかるでしょう。
日々の生活のなかで使用する水として、真っ先に思い浮かべるものといえば、飲み水や炊事、洗濯、風呂、水洗トイレなどの生活用水ではないでしょうか。しかし、私たちが飲んだり洗ったりするために使用している水の量は、仮想水の使用量に比べると、じつはほんのわずかにすぎません。水問題を考えるとき、仮想水という視点が不可欠です。
仮想水から考える世界の水問題
国際NGOウォーターエイドが発表した「2020年世界の水の現状」 によると、世界の人口約80億人 のうち、安全な飲み水を確保できない人は約20億人。2050年には、世界人口の半数以上にあたる約50億人が水不足に苦しむであろうと予測されています。
水不足は特に開発途上国で深刻さを増しており、途上国の子どもたちの多くは、池や川、古井戸といった飲み水として適さない水源に頼るしかありません。これらは、泥や細菌、動物のふん尿などに汚染された水であることがほとんどです。国連児童基金(UNICEF)のデータによると、年間30万人以上の子どもたちが、汚れた水や不衛生な環境を原因とする下痢で死亡 しているといわれています。
また、水資源の取り合いが紛争に結び付く危険もあります。川が複数の国にまたがっている地域では、お互いの国ができるだけたくさんの水を獲得しようとして、実際に争いが起こっています。
水不足の深刻化は国際的な問題です。そうしたなか、バーチャルウォーターの移動の不均衡が指摘されるようになってきました。日本のように豊富な水に恵まれているにも関わらず、海外からバーチャルウォーターを得ている国がある一方で、先進国の食糧に自国の水資源を奪われ、水問題がさらに深刻化する国もあります。
国際社会共通の目標であるSDGsでは、目標6 に「安全な水とトイレを世界中に」を掲げ、具体的な目標として「2030年までに、だれもが安全な水を、安い値段で利用できるようにする」ことをめざしています 。SDGsの目標を達成するためにも、私たち一人ひとりに仮想水を減らす行動が求められます。
参照 :6.安全な水とトイレを世界中に|SDGsクラブ|日本ユニセフ協会(ユニセフ日本委員会)
参照:どんなに汚くてもこの水を飲むしかない…。|日本ユニセフ協会
水不足問題は日本も例外ではない
日本は雨が多い国で、年間の降水量は世界平均の約2倍です。この数字だけをみると水に恵まれた国と思われがちですが、山地が多く、河川が急勾配なので、降った雨はそのまま海へと流れ出てしまいます。実際に利用できる水の量は限られており、1人あたりの水資源の量は世界平均の半分以下にすぎません。
それにも関わらず、日本で「水不足」を感じないのは、大量のバーチャルウォーターを輸入しているからです。日本は仮想水の輸入を通じて海外とつながっており、世界で水の汚染が悪化していけば、私たちの食卓にも影響が出る恐れがあります。海外での水不足や水質汚濁などの水問題は、日本と決して無関係ではないことを頭に入れておきましょう。
仮想水を減らすために個人でできること
仮想水を減らすために、私たちに何ができるでしょうか。日常的に取り入れられる4つの例を紹介します。
参照 :食料自給率(しょくりょうじきゅうりつ)を上げるにはどうすればよいのでしょうか。:農林水産省
1.食品ロスを減らす
「食品ロス」とは、本来は食べられるはずなのに廃棄される食品(可食部分)のことです。日本では、年間約522万トン(農林水産省「令和2年度推計値」) の食品ロスが発生しており、このうち、約247万トンが家庭から発生する食品ロスとなっています。この数字を1人あたりに換算すると、年間約41kg、1人1日お茶碗1杯分の食べ物が毎日捨てられているのです。
食料の輸入は、輸入食料の生産に使用した水(仮想水)を間接的に輸入することを意味するため、食品ロスを削減すれば食料輸入量を減らすことにつながります。食糧は必要な分だけ購入し、まだ食べられる物は廃棄にしないようにしましょう。
2.地産地消の商品を選ぶ
地産地消とは、主に農産物や海産物などの食べ物に使われている言葉で、地元で生産されたものを地元で消費することを基本とした活動を指します。地産地消を進めることは、地域の農家の支援につながり、結果として食料自給率の向上に貢献します。
地域の農産物や海産物を使用することで、輸送コストのカットが可能です。食品の価格を安価に抑えられるので生産者だけでなく、購入者にとってもメリットは大きいといえるでしょう。さらに、車や船での輸送が減れば燃料の使用量も減り、環境負荷を低減できます。
3.肉を中心とした生活を見直す
食の欧米化により、日本でも肉を中心とした食生活が広まっていますが、牛・豚などの畜産物は生産のために穀物や野菜よりもはるかに多くの水を使います。
野菜中心の生活を選択することは、環境の面からみると家畜を育てる水の節約、ひいては水不足の緩和につながる行動です。肉を中心とした食生活を見直していくことで、生活に必要な水の量を減らすことができます。
4.自給率向上を図る取り組みを応援する
食糧自給率向上にチャレンジしている事業者・団体は多くいます。米粉を使ったパン・麺などの新しいメニュー、国産飼料を使った牛や豚、鶏などの肥育、地産地消地域ブランド、直接契約による生産など、多様な取り組みの一例です。こうしたさまざまな取り組みを知り、試しに味わってみるなどして、応援しましょう。
国の仮想水削減に向けた取り組み
仮想水を削減する主体は、個人だけではありません。むしろ取引単位の大きい国や自治体・企業の対応が求められています。まず、国の仮想水削減に向けた取り組み事例をみていきましょう。
わが国では、仮想水を生み出す原因の一つである食料自給率を令和12年度までにカロリーベースで45%に上げるほか、飼料自給率を25%から34%、食料国産率を46%から53%にする目標を掲げています。これらは、令和2年3月に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」 に定められた事項です。
また、環境省は、水環境の保全や水の大切さについて広める「ウォータープロジェクト」を官民連携で発足しました。このプロジェクトは、企業、団体、自治体の水の取り組みを紹介し、その重要性や正しい情報を発信するのを目的としたものです。2023年2月20日現在、366の企業・団体が参加しています。
「ウォータープロジェクト」の公式サイトでは、水の重要性や日本の水環境の保全に関わる情報を発信しているので、チェックしてみましょう。
企業・団体の取り組み事例
国だけでなく、企業・団体の取り組みが進めば、影響もより大きいものになります。その取り組み事例をご紹介します。
花王株式会社
シャンプー・リンス、洗濯用洗剤などを扱う花王株式会社は、自社の製品が生産から使用まであらゆる場面で水を必要とすることに着目し、ライフサイクルにおけるすべての段階で水の利用率を削減することをめざしています。
洗浄剤関連の製品の場合、水使用量が最も多いのは、髪を洗う、衣服を洗うといった「使用」の段階です。そこで、同社は節水型製品の開発に取り組んでいます。
2009年にすすぎが1度で済む衣料用洗剤を発売したのを皮切りに、すすぎ時の使用水量を従来品よりも約20%削減したシャンプー、すすぎ時の水量を約20%削減した食器用洗剤などを立て続けに発売しました。また、より少ない水で洗髪できる「エコシャンプー術」を開発し、消費者への啓蒙活動にも力を入れています。
参照:花王サステナビリティレポート2018(PDF)|花王株式会社
NPO法人ふぞろいプロジェクト
広島県にあるNPO法人「ふぞろいプロジェクト」は、規格外野菜や果物を毎日の家庭の食卓に届ける活動を行っている団体です。食糧自給率の向上を図るべく、生産農家を支援し、消費者と生産者をつなぐ架け橋となっています。
スーパーの店頭に並ぶ野菜や果物は、重量・長さ・見た目など、多くの規格で区分されています。この「規格」によって、農家で実際に育った野菜の2割~3割が、少し長いから、あるいは短いから、形が悪いからといった理由で捨てられているのが現状です。
ふぞろいプロジェクトでは、こうした規格外農産物を市場に流通させることで、食品ロスをなくす仕組みを生み出し、農家の増収を叶えながら、安心で安価な食品を消費者に届けることをめざしています。
参照:いまなぜ…? ふぞろいプロジェクト | 活動紹介 | NPO法人 ふぞろいプロジェクト
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- ファミリーが高い関心を持つテーマ性のあるイベントで集客・施設周遊を促進
まとめ
日本は食料自給率が低く、海外からの食料の輸入に頼っています。つまり、間接的に水を大量に輸入しており、海外の水不足問題は決して他人事ではありません。
世界的に水問題が深刻化するなか、仮想水の移動の不均衡が指摘されています。仮想水は単位が大きく、あまり意識しにくい概念ですが、私たち一人ひとりが普段の生活から水資源について理解を深めることで、現状の改善を図ることができます。
仮想水の問題を改善するために、当事者として何ができるか、どんなに小さいことからでもいいので考えてみましょう。それが仮想水の削減、ひいては地球全体の環境改善につながります。
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この記事を書いた人
正木友実子
福岡在住。大学を卒業後、大手食品メーカー勤務を経て、異業種のライターへ転身。求められている情報をわかりやすく伝えることがモットー