産官学連携とは?メリットや事例、導入ステップを解説
知の創造と活用を図ることに重きを置く「知識社会」の本格的な到来により、企業と大学などの教育・研究機関、行政が連携して研究開発を行う「産官学連携」が重視されています。2016年には経済産業省と文部科学省が「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」を策定し、さらに2020年にはその追補版が公表されました。なぜ今、産官学連携が必要とされているのでしょうか。この記事では、産官学連携の概要とメリット、導入ステップ、成功へと導くポイントを、成功事例を交えながら解説します。
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産官学連携とは?
産官学連携とは、民間企業(産)と政府や地方公共団体(官)、大学などの教育・研究機関(学)が連携して、新しい技術の研究開発や新事業の創出、新しい製品の開発などを行うことを指します。
産学官連携のやり方に明確な決まりはありません。企業、大学・研究機関、行政の三者が連携して行う共同研究のスタイルや、企業と大学を行政が結びつけるケースなどがあります。
ちなみに「産学官連携」と呼ぶこともありますが、順番が変わっても意味は同じです。また、企業と教育・研究機関が連携して研究などを行う場合は「官」を省いて「産学連携」といいます。大学の研究成果を事業に活かして起業する「大学発ベンチャー」も産学連携の一種です。
産官学連携の背景
IT(情報技術)化やグローバリゼーションなどを背景に、国際競争が激化するなか、日本企業は大きな転換期を迎えています。各企業は生き残りをかけて、変化に迅速に対応し、付加価値の高い新製品・サービスを生み出す力が求められるようになりました。
企業(産)が自社のリソースだけで、新しい技術や製品・サービスの研究開発を行うのは限界があります。不足する部分は、大学や公的研究機関の専門家(学)、さらには国や自治体(官)の助けを借りることにより、自社だけでは成し遂げられない成果を得ることが重要です。
新市場を開拓してビジネスを飛躍させるためには、産官学の連携が不可欠であり、その重要性について三者それぞれが共通認識を深める必要があります。
参照:1.産学官連携の意義~「知」の時代における大学等と社会の発展のための産学官連携:文部科学省
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産官学連携のメリット
産官学連携の取り組みを進めることで、企業・大学・行政ともにさまざまな恩恵を受けられます。それぞれの立場にとってのメリットをみていきましょう。
参照:産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン【追補版】(PDF)|文部科学省・経済産業省
企業にとってのメリット
大学教員や研究者とビジネスパートナーになれる
企業がグローバル市場で生き残るためには、常に自社の技術を高め、新たな製品・サービスの開発に取り組む必要があります。そこで欠かせないのが「人材」です。プロジェクトを推進するにあたり、知識や経験を備えた優秀な人材を確保できなければ、コストも時間も無尽蔵にかさんでしまいます。大学教員や研究者といった専門分野のスペシャリストとビジネスパートナーになれるのは、産官学連携の大きなメリットです。
教育機関・研究機関の設備を低コストで利用できる
企業が独自に新たな製品を開発したり、新規事業を創出したりする場合、研究設備の確保は課題の一つです。産官学連携により、教育機関・研究機関にある設備を低コストで利用できるのは、企業にとって魅力的なポイントといえます。大学や公設試験研究機関が保有する設備を活用することで、より一層大きな成果を上げられるでしょう。
大学にとってのメリット
研究の成果を社会に還元できる
大学単独の研究成果はいくら優れていても、実用化(商品化)につながりにくいのが実情です。しかし、民間企業とチームを組めば「新商品の開発」などの形で、研究成果を社会に還元できる可能性が高まります。自分たちの研究が世の中でどのように役立つのかを肌で感じられる貴重な機会を得られるでしょう。
新たな着想を得られる
大学の研究にビジネスの視点が加わる、国が目指す社会のあり方を知るなど、外部の価値観や目的意識に触れることで、発想が柔軟になり、そこから新たなアイデアや研究が生まれる可能性があります。
公的資金を活用できる
先駆的な学術研究には多くの費用がかかります。いかに資金を捻出するかというテーマは、予算が限られた研究者にとって切実な問題です。企業と大学が連携する場合、助成金などの制度が活用できることがあります。企業や公的機関から研究費を調達できれば、経済的な心配がなく、研究に没頭することが可能です。
行政にとってのメリット
国際競争力を強化できる
日本では少子高齢化が進んでおり、労働力の減少が懸念されています。グローバル競争が激化するなか、日本の国際競争力を高めるためには、量から質への転換が重要です。企業・大学とタッグを組むことで、競争力の源泉となる持続的・発展的なイノベーション創出が可能になります。
経済・社会の持続的発展につながる
大学の研究とビジネスを結びつけて、わが国が抱えるさまざまな課題を解決できれば、社会の発展につながります。その実現に向けて、文部科学省傘下の科学技術振興機構(JST)などの国立の研究開発法人が、具体的な課題を提案し、研究に参加できる大学や企業を募集するプロジェクトも盛んです。
産官学連携の導入ステップ
それではここで、産官学連携の導入ステップを紹介します。
1.自社の経営戦略における課題を明確にする
企業にとって産官学連携は、自社に足りない部分を大学や公設試験 研究機関といった外部の専門家の力を借りて、期待する成果を出していくプロセスと位置付けられます。産官学連携を始めるにあたり、まずは自社の強み・弱みを認識しておかなければなりません。
そのうえで、産官学連携における具体的な目標と実施内容を考えることが重要です。「自社がどんな分野に、どんな形で、どんなタイミングで進出し、どれくらいの売り上げをあげたいのか」「自社のどの部分を、どの程度まで強化したいのか」「研究開発のためにどの程度の費用・人材を投資できるのか」を明確にしましょう。
自社の現状を分析する手法として、SWOT分析があります。SWOT分析とは、強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の頭文字から命名されたフレームワークです。自社の状況を、4つのカテゴリーに整理して分析することで、事業の戦略方針が明確になります。
2.自社のニーズに合った研究機関・人材を探す
次のステップでは、自社の目標を達成するために、必要な知識や情報を得られそうな研究者や研究機関を探してみましょう。現在、さまざまな大学や公設試験研究機関では、保有する技術シーズや研究者の情報を冊子やデータベース、Webサイトなどで公表しています。これらを閲覧・検索すれば、自社の目的に関連する研究者や技術シーズを見つけ出すことが可能です。
技術シーズに関する情報は、必ずしもすべてが公開されているとは限らないので、大学や公設試験研究機関などの産官学連携窓口を通じて情報収集してみましょう。
自社の課題や産官学連携の希望について、産官学連携の窓口に配されているコーディネーターやアドバイザーに相談してみるのも一つの手です。
3.パートナー候補に連携の相談をする
パートナー候補となる研究者が見つかったら、対話の場を準備して、産官学連携の実施に向けた可能性を確認し、具体的な話を進めていきます。
確認すべき事項としては、以下が挙げられます。
- 他社との共同研究の有無と状況
- 事業化までに解決すべき課題
- 他の技術と比較した優位性
- 特許の有無(出願中か取得済みか、特許権者) など
ここで大切なのは、研究内容だけでなく、研究者側の産官学連携に対する希望や取り組み姿勢なども確認することです。やりとりをスムーズにするために、産官学連携に関する知識や経験が豊富なコーディネーターに支援してもらうことをおすすめします。
産官学連携を成功させるポイント
ここからは、産官学連携を成功させるポイントをご紹介します。
1.企業が主体的に取り組む
教育機関や研究機関は、アイデアを製品化して販売するという経験が乏しいため、その点を期待すると事業化に苦戦してしまうかもしれません。企業が主体的に取り組み、連携先を誘導していくことが、産学連携の事業化を成功させるポイントです。連携先には「いつまでに」「何をしたいか」「必要なものは何か」などの事業内容を明確に伝えましょう。
2.連携相手としっかり話し合う
産官学連携の仕方に正解があるわけではありません。企業が実現しようとする目的や連携先に応じて、フレキシブルな対応が求められます。産学連携の事業化に成功している企業は、プロジェクトの進捗段階ごとに、共同研究の実施目標や知財の取り扱いについて、双方が納得のいくまで話し合い、取り組みを進めています。大学などの研究者に遠慮しがちな企業も少なくありませんが、それぞれが得意分野での能力を発揮して、お互いを尊重し、協力し合える関係を作ることが重要です。
3.第三機関に相談する
第三者からのアドバイスにより、産官学連携の話がまとまることも少なくありません。産業支援機関などに在籍するコーディネーターに相談すれば、事業内容に見合う連携先を紹介してくれるほか、研究成果の配分や知財の取り扱いについても中立的な立場で仲介し、スムーズに合意できるようサポートしてくれます。産学連携の導入に不安を感じたら、第三者機関に相談してみましょう。
4.公的支援を活用する
国や自治体は、企業と教育機関または研究機関の連携による新産業の創出促進をサポートしています。公的支援には、産学連携に関する情報提供や相談のほか、補助金の交付も含まれており、それを利用しない手はありません。補助金の交付を受ければ、産学連携の費用負担を抑えることが可能です。産学連携の補助金は、自治体が交付していることが多いので確認してみましょう。
産官学連携の成功事例
ここからは、産官学連携の成功事例をご紹介します。
1.株式会社グリラス×徳島大学「コオロギせんべい」
来たる世界の食糧危機への備えとして、昆虫食が注目を集めています。栄養価が高く、温室効果ガスの排出といった環境への負荷も少ないことから、国連食糧農業機関(FAO)も昆虫を食用とすることを推奨しています。とはいえ、抵抗感を抱く人もまだまだ多いでしょう。
そこで、徳島大学発のベンチャー企業である株式会社グリラスは、生活雑貨店「無印良品」を展開する良品計画と共同で、コオロギ粉末入りの菓子を開発・生産しました。無印良品から2020年に「コオロギせんべい」、2021年に「コオロギチョコ」を売り出して大ヒットし、生産が追いつかない状況に。これを機に、苦手意識を持たれやすかった虫食の捉え方も大きく変わりました。
参照:コオロギが地球を救う?|コオロギチョコ・コオロギせんべい|無印良品
2.常呂町産業振興公社×北見工業大学「循環型農業を目指したホタテ貝殻粉末の造粒技術の開発」
ホタテ貝の産地として有名な北海道の道東地区では、年間6.7万トンに及ぶホタテ貝殻がその副産物として廃棄されており、これらの有効活用が求められてきました。現在では、主に農業用資材や道路建材として利用されています。特に農業用資材としては、粉砕した貝殻を畑に撒くことで肥料効果が得られ、作物の品質向上や土壌改良などが見込めるなど、有機質土壌改良剤として優れた特性を有します。
しかし、ホタテ貝殻の粉末は一粒一粒の大きさや形が不ぞろいで、農業用機器で散布しにくいのが難点です。そこで、常呂町産業振興公社は、粉体工学を手がける北見工業大学の無機材料研究室と共同研究を実施し、農業用機器で散布しやすい粒状の土壌改良剤を開発しました。使い勝手が良くなったことで、農家の生産コスト削減・所得向上につながることが期待されています。
参照:ホタテ貝殻粉末を用いた造粒プロセスの開発 – 無機材料・無機物質工学研究室|北見工業大学
3.竹中工務店×芝浦工業大学「SDGsの実現を目指す新たな耐震補強技術の実用化」
地震の発生率が高い日本の住宅に、耐震性能は欠かせないものです。竹中工務店と芝浦工業大学は、北海道立総合研究機構・林産試験場および北海学園大学と共同研究を進め、新開発部材「CLTエストンブロック」による新たな耐震補強技術実用化に成功。三重県尾鷲市が2021年度に実施した、市役所本庁舎の耐震改修工事にて初適用されました。
CLTエストンブロックとは、多様な木材を使ったCLT(木質系材料)を蝶のような形に加工した部材です。CLTエストンブロックの重さは約4kgと、従来のコンクリート製品に比べて1/4程度。積み上げるだけで耐震補強壁を築くことができるため、工事材料をほとんど持ち込めない狭小スペースでも施工が可能です。化石燃料による資材に頼らず、国内森林資源を有効活用することで、地産地消やSDGsの実現に貢献しています。
参照:SDGs の実現を目指す新たな耐震補強技術が実用化されました | 芝浦工業大学
SDGs研修・体験型SDGsイベント
【SDGs研修】ワールドリーダーズ(企業・労働組合向け)
概要
- SDGs社会に合わせた企業経営の疑似体験ができるSDGsビジネスゲーム
- 各チームが1つの企業として戦略を立てて交渉し、労働力や資金を使って利益最大化を目指す
- オプションとして「SDGsマッピング」を行うことで学びの定着・自分ごと化
特徴
- 自分達の利益を追求しつつも、世界の環境・社会・経済も気にしなければならず、ビジネス視点からSDGsを感じ、考えることができる
- チームで戦略を練り様々な可能性を話し合う必要があるため、深いチームビルディングに繋がる
- 様々な選択肢の中から取捨選択して最適解を導く考え方を身につけることができる
【親子参加型職業体験イベント】キッズタウンビルダーズ(商業施設・企業・労働組合向け)
概要
- 体験を通じてSDGs目標の「質の高い教育」を学べる親子参加型ワークショップ
- 子どもが楽しみながらも本気で学べる、複数の職業体験を実施
- 会議室やホールなど企業様のイベントとしても開催可能
特徴
- あえて「映える」職業ではなくありふれた職業を選定している
- 合計で就業人口の7割を占める上位5つの職業をピックアップし、本質的な学びが得られる職業体験
- ファミリーが高い関心を持つテーマ性のあるイベントで集客・施設周遊を促進
【親子・子ども向け地域イベント】SDGsアドベンチャー(商業施設・自治体向け)
概要
- 体験を通じてSDGsを学べる親子・子ども向けワークショップ
- 子どもが本気で楽しめる複数の体験型アクティビティを実施
- すべてクリアした方にSDGs缶バッチをプレゼント
特徴
- ハッピーワールドの世界観を演出することで参加者が没入感をもって取り組める
- 海の環境やゴミの分別・再利用など、参加者は身近なことからSDGsを学べる
- ファミリーが高い関心を持つテーマ性のあるイベントで集客・施設周遊を促進
まとめ
大学、企業、さらには国・公的研究機関が、それぞれの強みを活かしながら研究開発を進める「産官学連携」の取り組みは、今後もますます拡大していくことでしょう。
わが国において、地方創生・地域活性化は大きな課題です。しかし、人口減少や高齢化など、多くのテーマが複雑に絡み合っているため、単独で問題の解決を図るのは容易ではありません。企業・行政・大学がそれぞれの強みを活かして共に取り組むことが重要です。
このような業界や組織の枠を超えた連携活動は、大きな可能性を秘めています。企業は取り組みを通じて、新たなサービスの創出や販路の拡大、自社のブランド力強化などを見込めるでしょう。この機会に、産官学連携の取り組みを検討してみてはいかがでしょうか。
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この記事を書いた人
正木友実子
福岡在住。大学を卒業後、大手食品メーカー勤務を経て、異業種のライターへ転身。求められている情報をわかりやすく伝えることがモットー