社会

トリプルボトムラインとは?撤回の理由やSDGs・ESGとの関係性を解説

時代とともに企業の在り方は変わります。持続可能な社会を築くために、利益の追求だけでなく、環境や社会に対して責任を果たすことが求められるようになりました。企業価値を環境や社会との関わりから捉える際に、指針となるのが「トリプルボトムライン」という概念です。SDGsESGともリンクする考え方ですが、2018年には提唱者により撤回されました。この記事では、トリプルボトムラインが生まれた背景や事例、SDGsESGとの関係性、撤回の理由を解説します。

 

SDGsのはじめの一歩を実現する「SDGsの社内浸透方法」とは?

⇒解説資料のダウンロードはこちらから

 

SDGsイベント・研修向け体験型アクティビティの資料はこちら/

SDGsイベントの資料をダウンロードする

 

トリプルボトムライン(TBL)とは?

トリプルボトムラインとは、企業の活動を財務パフォーマンスだけではなく、「環境的側面」「社会的側面」「経済的側面」の3つの側面から評価すべきとする考え方のことです。英語では、TBLTriple bottom line)もしくは3BL3 bottom line)と略されます。

「ボトムライン」とは、本来は財務会計に関する用語であり、損益計算書の一番下に記載される項目です。純収益から仕入費用や原材料費、人件費など、すべての費用を差し引いた、企業活動の最終的な利益を指します。一方、一番上に記される売上高はトップラインと呼ばれています。

これまでは経済的なパフォーマンスのみが企業評価の対象でしたが、ここに新たに環境的側面と社会的側面が加わることで、企業の利益がより広い意味に定義されます。そのため、企業はトリプルボトムラインを意識し、短期的な視点だけでなく長期的な視点で持続可能な発展をめざすようになってきました。

社会・環境・経済のバランスを重視するトリプルボトムラインの考え方は、欧米企業ではすでに広く浸透しており、企業のCSRを促進する国際的なガイドライン「GRIスタンダード」にも反映されています。

トリプルボトムラインの提唱者

トリプルボトムラインは、1994年に起業家であり作家のジョン・エルキントンが、初めて提唱した言葉です。エルキントン氏は、英国で持続可能なイノベーションを提案する環境シンクタンクVolans社をはじめ、4つの企業を経営し、これまでに世界の70以上の役員会や諮問委員会のメンバーを務めてきました。著作は20冊に及び、長くCSR(企業の社会的責任)運動をけん引してきた識者として知られています。

トリプルボトムラインの3つの要素

ジョン・エルキントン氏は、トリプルボトムラインの3つの要素として、人、地球、利益を掲げています。それぞれについて詳しくみていきましょう。

人:企業の社会的側面でのボトムラインです。サプライチェーンにおける従業員の人権尊重や、安全で公正な労働環境の提供、企業が地域社会の人々に与える影響などを重視します。

地球:企業の環境的側面でのボトムラインです。リサイクル活動や環境への影響の軽減、再生可能エネルギーの活用など、サステナビリティ(持続可能性)に向けた企業の取り組みに着目します。

利益:企業の経済的側面のボトムラインで、企業の利益や損益を示します。持続可能な社会を実現するうえで、人と地球に注目が集まりがちですが、利益も企業を評価する重要な指標の1つです。

参照:英語で学ぶサステナビリティ(18)- オルタナ

 

SDGsの社内浸透にお困りですか? SDGsコンパスなら体験を通してSDGsを楽しく学べます!

⇒SDGsコンパスの資料を見てみたい

 

トリプルボトムラインがなぜ注目されているか?

トリプルボトムラインが提唱されたのは1994年ですが、近年になって再び注目されるようになりました。

その背景として、地球温暖化をはじめとする環境危機が現実になりつつあることが挙げられます。目先の経済的利益ばかりを追求する企業活動の結果、森林はどんどん伐採・破壊され、工場や車から排出される二酸化炭素(CO2)の量は増える一方です。それに伴い、世界各地で平均気温が上昇する地球温暖化や、干ばつや熱波、豪雨などの異常気象が引き起こされています。

また、国際社会のグローバル化が進むにつれ、人権問題やダイバーシティなど、社会的な問題への意識が高まったことも要因の1です。ダイバーシティーとは「多様性」と和訳される言葉で、企業経営においては国籍や人種・性別・年齢などを問わず、さまざまな人材活用して、組織の生産性や競争力を高めることを意味します。

企業が長期にわたって生き残るためには、サスティナビリティが重要なテーマです。事業活動にトリプルボトムラインの観点を反映し、利益と社会貢献を両立することが求められます。

参照:ESGとは|簡単解説|野村アセットマネジメント

SDGsとトリプルボトムライン

トリプルボトムラインの考え方は、2015年の国連サミットで採択されたSDGsともリンクします。SDGs(持続可能な開発目標)とは、貧困や不平等、ジェンダー、気候変動による影響など、世界のさまざまな問題を根本的に解決し、地球上のすべての人たちにとって、より良い世界の実現をめざす世界共通の目標です。

SDGsの概念を表す構造モデルとして「ウェディングケーキ理論」があります。これは3段重ねのケーキになぞらえて、SDGsの目標を「経済」「社会」「生物圏」の3つの層に分類したものです。トリプルボトムラインも環境的・社会的・経済的な側面を評価する点が共通しています。

ESGとトリプルボトムライン

ESGとは、「環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)」の頭文字を取った言葉です。かつての投資は、キャッシュフローや利益率などの定量的な財務情報を中心に企業価値を測り、それをもとに投資先を決めるのが一般的でした。

しかし、現在では利益だけでなく、環境や社会との関わり、企業の持続的成長(サステナビリティ)を考慮した投資が徐々に拡大しつつあります。これがいわゆるESG投資です。企業にとって、ESG経営に取り組むことは、投資家からポジティブな評価を得られ、資金調達がしやすくなるメリットがあります。

投資家がESG投資を行う企業を決める際に、判断材料の1つにされるのがCSR報告書です。先にも述べたように、CSR報告書にはトリプルボトムラインを反映したGRIスタンダードが活用されています。こうしたことから、トリプルボトムラインを意識した企業経営が重視されるようになりました。

トリプルボトムラインの企業事例

ここからは、トリプルボトムラインの概念に基づいて経営を行う企業事例をご紹介します。

1.株式会社日立製作所

日立製作所は、早くからサステナビリティ経営に取り組んできた企業です。2019年5月に発表した「2021中期経営計画」では、モビリティ、ライフ、インダストリー、エネルギー、ITの5つの事業領域において、トリプルボトムラインの達成をめざしています。さらに、同年9月には、初のESG(環境・社会・ガバナンス)説明会を開き、トリプルボトムラインを重視する方針を打ち出しました。

説明会のなかで「社会・環境・経済」の3側面から企業価値を向上するためのソリューションとして、OT(社会インフラを動かす技術)と、ITプロダクトを組み合わせた「サイバー・フィジカル・システム」を紹介。これは、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させることで、経済発展と社会的課題の解決を両立し、より高度な社会の実現をめざすシステムです。

また、環境戦略としては「日立環境イノベーション2050」を策定し、2050年までの環境ロードマップをし、バリューチェーンを通じたCO2排出量を2050年度までに80%削減する、水・資源利用効率を50%改善するなど定量的な目標を設定しています。

参照: 日立が初のESG説明会、トリプルボトムライン強調 – オルタナ

2.パナソニック株式会社

パナソニックは、日本を代表する電機メーカーです。これまで多くの省エネ家電や設備を手掛けてきた強みや経験を生かし、スマートシティー事業を展開しています。2014年には神奈川県藤沢市で操業していた19ヘクタール(東京ドーム4個分の面積)の工場跡地に、約1,000戸の戸建て住宅及び商業施設と集合住宅、クリニック、保育所などを建設し、計画人口約3,000人のスマートタウン「Fujisawa SST」を誕生させました。

パナソニックがめざすのは、持続可能な社会への転換に向けた、再生可能エネルギーの活用とエネルギーの地産地消です。Fujisawa SSTでは「エコ&スマートなくらし」が持続する街づくりをコアコンセプトとして、エネルギー、セキュリティ、モビリティ、ウェルネス、コミュニティなど多角的なサービスを提供しています。

参照: Panasonicのスマートシティ事業 | FujisawaSST | Panasonic

3.ノボノルディスクファーマ株式会社

ノボノルディスクファーマは、デンマーク・コペンハーゲンに本社を置くグローバル製薬企業です。製品は約170カ国で販売され、80カ国に54,400人の社員を擁しています。同社の主な治療分野は糖尿病で、およそ100年にわたり研究開発を続けてきました。また、血友病成長ホルモン不全の領域でも貢献しています。

ノボテルディスクファーマは、企業の経営方針をトリプルボトムラインとする、CSRの世界的リーダーです。2004年以来、同社の定款にもトリプルボトムラインが正式に明記されており、グループのビジョン・価値観・行動指針である「ノボノルディスク・ウェイ」にもその考えが組み込まれています。

ノボノルディスクファーマがめざすのは、患者中心の医療の実現です。そしてTBLを意識した経営が、企業のサステナビリティ(持続性)につながると考えています。

参照:イケアにあって、日本企業にはない経営哲学 | ここが変だよ!日本のCSR | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース

トリプルボトムラインが撤回された理由

SDGsESGが広がるなか、再び注目を集めていたトリプルボトムラインですが、その提唱者であるエルキントン氏によって2018年に撤回されました。

その理由の1として、多くの企業のトリプルボトムライン対策が形式的にとどまり、本質的な問題解決に至っていないことが挙げられます。加えて、時代の急激な変化に対応しきれなくなっているのも現状です。これまでの古い秩序が崩壊過程にあり、大きな変革が必要とされている今、トリプルボトムラインに替わる新たな経済秩序が求められています。

エルキントン氏は、大学院大学至善館(東京・中央区)が主催した氏の新たな著書『グリーンスワン』に関する講演で、今後はトリプルボトムラインの考え方だけでは不十分として、資本主義のシステムを再生・修復型(リジェネレーション)に変えていく必要があると主張しています。

グリーンスワンとブラックスワン

グリーンスワンは「ブラックスワン(黒い白鳥)」をもじった言葉です。ブラックスワンとは、マーケットにおいて誰もが「ありえなくて起こりえない」と思っていた事態が急に起こり、社会に強い衝撃・混乱を与えることをいいます。1987年のブラックマンデー(株価暴落)、2001年のアメリカ同時多発テロ事件、2008年のリーマンショックなどは、ブラックスワンの一例です。

一方、グリーンスワンは、社会や環境に良い影響を与える出来事が急激に現実化することを指します。グリーンスワンの例としては、太陽光発電の大幅なコストダウンや、シェアエコノミーや自動運転、電気自動車の普及などが挙げられ、いずれも少し前までは大袈裟な予想だとされていたことです。

エルキントン氏は、新著で「再生型資本主義の到来」という考え方を示しており、コロナ禍など従来の価値観や慣習をゆるがす未曾有の事態を経験した現在、古い秩序から持続可能な未来に向けて大きな変化が起こると予想しています。日本でも今後、グリーンスワンをビジネスチャンスへとつなげられるかどうかで、企業の命運が大きく左右されるかもしれません。

参照:トリプルボトムラインを提唱者が撤回、再生型資本主義への変革を | サステナブル・ブランドジャパン | Sustainable Brands Japan

大変革の時代に重要な3つのワード

大きな変革の時に必要される重要なキーワードとして、エルキントン氏は「責任」「レジリエンス」「リジェネレーション」の3つを挙げています。それぞれ詳しく見ていきましょう。

責任

企業が透明性をもって説明責任を持つことは、現在と同じく、今後も必要とされます。2015年に発表されたSDGs段階的な変化を起こすための目標、そして私たち人類に課された責任として、エルキントン氏は捉えています。

レジリエンス

レジリエンスは「復元力」「回復力」「弾力(しなやかさ)」と訳され、困難や脅威に直面しても、うまく適応していく過程や能力、適応した結果を意味する言葉です。ビジネスの場面でも逆境を乗り越える力として重視されています。エルキントン氏は、気候変動などで自然災害も多発しているなかで、企業、市民、サプライチェーンがいかにレジリエンスを高めバランスをとるかが非常に重要だと説いています。

参照:レジリエンスとは? 意味、具体例、高める方法、使い方 – カオナビ人事用語集

リジェネレーション

リジェネレーションとは、「再生」「繰り返し生み出す」といった意味を持つ言葉です。気候変動やプラスチック汚染など、さまざまな課題に対して修復・再生型の仕組みで対応しようとする考え方を指します。リジェネレーションは、環境問題だけに当てはまるものではありません。エルキントン氏は、社会、経済も含めた3つの側面でリジェネレーションを考えるべきだと唱えています。

変革の時代に企業はどうあるべきか?

エルキントン氏はトリプルボトムラインの撤回を発表しましたが、これは決して企業がトリプルボトムラインで求められた「環境」「社会」「経済」の3側面を無視してもいいということではありません。

エルキントン氏は撤回の理由として、企業がトリプルボトムラインに対して「これさえ守っておけばいい」という甘い考えを持ち、形だけクリアすることに終始していたからだと説明しています。

不確実性の非常に高い世のなかにおいて、企業や経営者は今後、多様な変化にしなやかに対応しながらも、トリプルボトムラインで示された3つの側面のバランスを念頭に置き、事業に取り組んでいく必要があります。

参照:トリプルボトムラインを提唱者が撤回、再生型資本主義への変革を | サステナブル・ブランドジャパン | Sustainable Brands Japan

 

SDGs研修・体験型SDGsイベント

SDGs研修】ワールドリーダーズ(企業・労働組合向け)

 

概要

  • SDGs社会に合わせた企業経営の疑似体験ができるSDGsビジネスゲーム
  • 各チームが1つの企業として戦略を立てて交渉し、労働力や資金を使って利益最大化を目指す
  • オプションとして「SDGsマッピング」を行うことで学びの定着・自分ごと化

特徴

  • 自分達の利益を追求しつつも、世界の環境・社会・経済も気にしなければならず、ビジネス視点からSDGsを感じ、考えることができる
  • チームで戦略を練り様々な可能性を話し合う必要があるため、深いチームビルディングに繋がる
  • 様々な選択肢の中から取捨選択して最適解を導く考え方を身につけることができる

サービスの詳細をまとめた資料はこちらから

 

【親子参加型職業体験イベント】キッズタウンビルダーズ(商業施設・企業・労働組合向け)

概要

  • 体験を通じてSDGs目標の「質の高い教育」を学べる親子参加型ワークショップ
  • 子どもが楽しみながらも本気で学べる、複数の職業体験を実施
  • 会議室やホールなど企業様のイベントとしても開催可能

特徴

  • あえて「映える」職業ではなくありふれた職業を選定している
  • 合計で就業人口の7割を占める上位5つの職業をピックアップし、本質的な学びが得られる職業体験
  • ファミリーが高い関心を持つテーマ性のあるイベントで集客・施設周遊を促進

サービスの詳細をまとめた資料はこちらから

 

【親子・子ども向け地域イベント】SDGsアドベンチャー(商業施設・自治体向け)

概要

  • 体験を通じてSDGsを学べる親子・子ども向けワークショップ
  • 子どもが本気で楽しめる複数の体験型アクティビティを実施
  • すべてクリアした方にSDGs缶バッチをプレゼント

特徴

  • ハッピーワールドの世界観を演出することで参加者が没入感をもって取り組める
  • 海の環境やゴミの分別・再利用など、参加者は身近なことからSDGsを学べる
  • ファミリーが高い関心を持つテーマ性のあるイベントで集客・施設周遊を促進

サービスの詳細をまとめた資料はこちらから

 

まとめ

トリプルボトムラインとは、組織活動を「経済的側面」「社会的側面」「環境的側面」の3つの軸で評価することをいいます。1994年にジョン・エルキントン氏によって提唱されましたが、2018年に撤回され、さらなる環境や社会に対する配慮が求められるようになりました。

しかし今後も、トリプルボトムラインの考え方が重要であることには変わりはありません。企業が持続的な成長を続けるためには、環境・社会・経済の調和のとれた発展が不可欠です。世界で注目を集めているESGSDGsの指標を踏まえながら、環境や社会に配慮した経済活動を実践することが求められます。

 

SDGsのはじめの一歩を支援するSDGsイベント・研修とは?

サービス総合資料はこちらから

 

SDGsのはじめの一歩を実現する「SDGsの社内浸透方法」とは?

進めるための具体的なステップを紹介!

解説資料のダウンロードはこちらから

 

自分ゴト化を促進!3分で分かるSDGs研修・イベントサービスの詳細動画

 

SDGsイベント・研修向け体験型アクティビティの資料はこちら/

SDGsイベントの相談をする

 

【関連記事】

こちらの記事では、ESG投資とSDGsの違いについて解説しています。ご興味のある方はぜひご覧ください。

ESG投資とは?SDGsとの違いやメリットをわかりやすく解説

ダイバーシティについて知りたい方はこちら。

ダイバーシティ経営のメリットや注意点、成功例と失敗例を紹介

サステナブルについて知りたい方はこちら。

サステナブルとは?SDGsとの関係性や企業の取り組みを紹介

正木友実子

この記事を書いた人

正木友実子

福岡在住。大学を卒業後、大手食品メーカー勤務を経て、異業種のライターへ転身。求められている情報をわかりやすく伝えることがモットー

関連記事

新着記事