社会

ダイバーシティ経営のメリットや注意点、成功例と失敗例を紹介

経済のグローバル化、女性の社会進出、少子高齢化による人材不足など、企業を取り巻く環境や課題は、めまぐるしく変化しています。そんな今、大きな注目を集めているのが「ダイバーシティ経営」です。「言葉は聞いたことがあるけれど、よくわからない」と感じる人も、少なくないのではないでしょうか。

本記事では、ダイバーシティ経営とは何か、導入するメリットや注意点、経済産業省による事例集「経営企業100選」と、成功例・失敗例を紹介します。

 

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ダイバーシティ経営とは?

ダイバーシティ(diversity)は、「多様性」という意味を持つ英単語です。経済産業省では、「ダイバーシティ経営」を以下のように定義しています。

“多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営”(引用元:ダイバーシティ経営の推進 (METI/経済産業省)

簡単に言うと、経営戦略として多様な人材を受け入れ、企業の競争力を高めていくことです。

1965年、米国雇用機会均等委員会(EEOC)が設置され、「ダイバーシティとは、ジェンダー、人種・民族、年齢における違いのことを指す」と明文化されました。ダイバーシティという言葉がビジネス分野で用いられるようになったのは、ここからです。1980年代には、アメリカの大手企業を中心に、企業の競争力を高めるために人材の多様性を活かそうという「ダイバーシティ・マネジメント」の動きが見られるようになっていきました。

多様な人種が共に暮らすアメリカだけでなく、ダイバーシティ経営は今、世界中で求められています。「経済の中心=男性」という固定概念から脱却し、女性をはじめとする多様な人材が活躍できる環境をつくることが、持続的な経済成長には不可欠だからです。

近年、ダイバーシティ経営が多くの注目を集めている理由のひとつに、SDGs(※)の存在があります。ダイバーシティ経営は、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」や、目標8「働きがいも経済成長も」への直接的な貢献につながるほか、視点を変えれば他の目標にアプローチすることもできます。また、「誰一人取り残さない」というスローガンは、まさしくダイバーシティ&インクルージョンの考え方であると言えるでしょう。

SDGsとは
Sustainable Development Goals
の略称です。日本語では、「持続可能な開発目標」と訳されます。20159月の国連サミットで採択された2030年までの国際目標で、17の目標と169のターゲットが設定されています。

ダイバーシティの種類

ダイバーシティは、「デモグラフィー型」と「タスク型」の2種類に分けることができます。

「デモグラフィー型」は、性別、年齢、国や人種、障害の有無などの、目に見えやすい部分の多様性のことです。対して「タスク型」は、能力、知識、キャリア、価値観などの、目に見えない部分の多様性を指します。

また、多様なものの見方のことは、「オピニオン・ダイバーシティ」とも言われています。

出典:中小企業のためのダイバーシティ推進ガイドブックー東京商工会議所(PDF)

必要なのは「ダイバーシティ&インクルージョン」

「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。ダイバーシティ経営では、多様な人材をただ集めるだけでなく、インクルージョン(inclusion:包括)が重要なのです。

インクルージョンとは、多様な人材が互いに認め合い、それぞれが十分に活躍できる状態のことを指します。

例えば、輪の中に多様な人材が存在していても、その能力を求められていない、または発揮できない環境である場合や、能力は求められているものの、仲間として認められておらず、輪の中に入ることができていない場合などは、良い状態とはいえません。

一人ひとりが個性や能力を発揮できるような企業風土をつくっていかなければ、新たな価値を創造することはできないのです。

 

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ダイバーシティ経営のメリット

ダイバーシティ経営を実践することで、どのような効果があるのでしょうか。期待できる5つのメリットについて解説します。

1. 業務効率化・コスト削減

ダイバーシティの「多様性」には、勤務時間や勤務形態などの働き方が多様であることも含まれます。育児や介護と両立したい、通勤ラッシュを避けたい、資格試験の勉強時間を確保したいなど、働く人のニーズはさまざまです。それぞれが自身の能力を十分に発揮することができるような多様な働き方を追求することで、優秀な人材の確保と離職率の低下が期待できるでしょう。また、業務を効率化することで、コスト削減につなげることもできます。

商品・サービスを開発、製造、販売するための手段を新たに開発したり、改良を加えたりすることで生まれるイノベーションを「プロセス・イノベーション」といいます。例えば、以下のようなものが挙げられます。

  • お問い合わせの電話対応に自動音声案内を導入し、お客様の待ち時間が短縮された
  • 配送ルートの見直しを行い、コスト削減につながった
  • 生産工場の最終検査機器を改良し、不良品の発見率が上昇した

2. 新しい発想が生まれやすくなる

企業がグローバル化に対応していくためには、前項のプロセス・イノベーションにより、既存のビジネスの質を向上させていくだけでなく、新たなビジネスを生み出し展開していくことが求められます。多様な人材が、知識や経験、価値観を持ち寄ることで、これまでになかった新しい発想が生まれやすくなるのです。

商品・サービス自体を新たに開発したり、改良を加えたりすることで生まれるイノベーションを「プロダクト・イノベーション」といいます。例えば、以下のようなものが挙げられます。

  • カメラフィルムの技術を活用し、液晶ディスプレイの保護フィルムをつくった
  • ネットに接続できる携帯型音楽プレイヤーを開発した
  • 自社で扱う家電製品の省エネモデルを開発した

3. 優秀な人材を獲得できる

少子高齢化により、人材の確保競争が厳しさを増しています。優秀な人材を安定的に確保するためは、採用基準を改定したり、これまでよりも対象を広げたりして、人材獲得力を強化していかなければなりません。

認定NPO法人ReBitは、2020年、Z世代と呼ばれる若者(1825歳)を対象に、就職・就労に関する意識調査を行いました。これによると、新型コロナウイルス感染拡大の前後で、働き方・キャリアに関する考え方が変化したと回答した人の割合は75.7%。このうちの65.2%が、働き方や社員の多様性などのダイバーシティ&インクルージョンを、より重要視するようになったと回答しています。

また、経済産業省の調査では、ダイバーシティ経営を有する企業の経営者の約9割が、多様性の需要によって得られた恩恵として「人材の獲得」と回答するなど、実際に効果として感じている企業も多いようです。

出典:【新型コロナ拡大以降のD&I意識調査】Z世代の65%がダイバーシティ&インクルージョンをより重要視するように。多様な人財が活躍できる風土や、働き方の多様性を推進する制度を求める声も。|認定NPO法人 ReBitのプレスリリース

出典:ダイバーシティ2.0 一歩先の競争戦略へ|経済産業省(PDF)

4. 企業の評価につながる

ダイバーシティ経営は、企業イメージの向上や外的評価にもつながります。近年は、投資家もダイバーシティ経営を進める企業を評価する傾向が強く、特に女性を経営陣に登用するよう求める声が大きくなっています。

女性の活躍を推進するため、経済産業省が東京証券取引所と共同で毎年実施しているのが、「なでしこ銘柄」です。女性活躍推進に優れた上場企業を、投資家にとって魅力ある銘柄として選定・公表しています。企業への投資を促進し、各社の取り組みを加速させることが狙いです。過去に「なでしこ銘柄」に選定された企業は、財務面や採用活動において優位な傾向にあると、経済産業省と東京証券取引所は分析しています。

また、海外投資家は、日本企業のガバナンス(企業統治体制)上の課題に注目しており、業績が好調な企業であっても、投資対象とされないケースも出てきているようです。

出典:女性生かす企業に高評価 業績との相関、投資家注目: 日本経済新聞

出典:女性活躍に優れた上場企業を選定「なでしこ銘柄」 (METI/経済産業省)

5. 社員のモチベーションが向上する

1.業務効率化・コスト削減」でも触れたように、働く人にはさまざまなニーズがあります。それぞれの個性や能力が十分に発揮できる職場環境が整備されることで、働きがいを感じることができ、個々のモチベーションアップにもつながるでしょう。モチベーションが上がれば、生産性の向上も期待できます

経済産業省の資料によると、育児・介護の支援や、柔軟に働ける職場づくりを実践している企業は、何もしていない企業よりも生産性が2倍以上であることが分かっています。

出典:なぜ“多様性”で会社は強くなるのか|経済産業省(PDF)

ダイバーシティ経営の注意点

ダイバーシティ経営は、メリットばかりではありません。多様な考え方や価値観が集まれば、同質性の高い集団よりも、誤解やトラブルが生じやすくなります。また、違いにストレスを感じることもあるでしょう。その結果、生産性やパフォーマンスが低下してしまう可能性があるのです。

ダイバーシティ経営で重要となるのは、「インクルージョン」です。多様な人材をただ集めるだけでなく、それぞれが活躍できるための取り組みをセットで進めていく必要があります。これをしなかった場合、メリットが得られないばかりか、かえってデメリットをもたらす結果となりかねません。

そうならないためには、多様性を受け入れる企業風土を築く必要があります。社員の教育・意識改革に取り組み、ダイバーシティ経営を全社に浸透させましょう

出典:ダイバーシティのメリットと課題 – アパショナータ

「ダイバーシティ経営企業100選」も参考にしてみよう

経済産業省は、ダイバーシティ経営に取り組み、価値創造につなげている企業を表彰するという事業を実施してきました。表彰には、以下の2種類があります。

  • 新・ダイバーシティ経営企業100
    ダイバーシティ経営に取り組む企業のすそ野拡大を目的に、平成24年度からスタートしたものです。これまでに282社が選定されました。
  • 100選プライム
    「ダイバーシティ0(※)」に取り組む企業を対象としたものです。平成29年度から始まり、各年度それぞれ2社ずつ選定されています。

これらの事業は令和2年度で終了となりましたが、これまでに表彰された企業の事例は、ホームページで今も公開されています。ダイバーシティ経営の導入を検討している方は、参考にしてみてはいかがでしょうか。(リンク:新・ダイバーシティ経営企業100選 ‐経済産業省

※ダイバーシティ2.0とは
中長期的に企業価値を生み出し続ける経営上の取り組みです。経済産業省は、企業が取るべきアクションをまとめた「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」を取りまとめ、ホームページで公開しています。(リンク:競争戦略としてのダイバーシティ経営(ダイバーシティ2.0)の在り方に関する検討会-報告書(METI/経済産業省)

ダイバーシティ経営の成功例

ダイバーシティ経営の好事例として、カシオ計算機株式会社の取り組みを紹介します。

カシオ計算機株式会社では、長年「職種別採用」を実施しています。職種別採用とは、担当業務を特定して採用することです。分野ごとに優秀な人材を確保できることに加え、入社後のキャリアプランがイメージしやすく、個々のモチベーションや定着率の向上も期待できます。

また、国内外でグローバルに事業を展開するカシオ計算機株式会社では、多くの外国人社員が活躍しています。文化や価値観もさまざまな外国人社員が、安心して長く働き続けることができるよう、以下のような取り組みを実施しています。

  • 食堂メニューを英語表記にし、宗教上の食事制限に対応するため、肉の種類のイラストを掲載した。
  • 外国人社員の帰郷を推進するために、有給休暇とは別の「母国帰郷休暇」を創設した。
  • 宗教を信仰する外国人社員のための「お祈り部屋」を設置した。
  • 海外拠点における積極的な現地雇用の実施。

国内外従業員のグローバル比率を見ると、国内33%、アジア57%、欧州6%、北中南米3%(2020年度)と、さまざまな拠点で多様な人材が活躍しています。

その他にも、女性や高齢者、障がい者の活躍支援にも積極的に取り組み、働きやすい環境づくりに努めています。

出典:人材活用と職場環境の整備 | CASIO

出典:外国人労働者 好事例集-厚生労働省(PDF)

ダイバーシティ経営の失敗例

ダイバーシティ経営は、必ずうまくいくとは限りません。よくある失敗例を紹介します。

A社は、「女性管理職が少ないのでは」という株主からの指摘を受け、「女性管理職を〇〇人増やす」という具体的な数値目標を立て、勤続年数が長い数名の女性社員を管理職に登用しました。ところがしばらくして、「元の職場に戻りたい」と希望する女性社員が出始めたのです。さらに、最も期待していた優秀な1名がうつ病を発症してしまい、休職することになってしまいました。

失敗例を踏まえて企業ができること

男女が共に活躍できる職場を目指したつもりが、このような結果になってしまったのはなぜなのでしょうか。この失敗例を踏まえて、ダイバーシティ経営で価値を生み出すためのポイントを解説します。

研修やセミナーを実施する

今回のケースは、管理職への登用基準が「勤続年数」だったことが、最も大きな失敗の原因と言えるでしょう。「管理職=男性」という固定観念を持っているのは、男性側だけではありません。女性側にそもそも「管理職」という選択肢がない場合も多いのです。できれば入社後の早い段階から、自身のキャリアプランをイメージできるような研修やセミナー実施していくことが望ましいでしょう。

本人の意思を確認し、尊重する

研修やセミナーを実施しても、キャリアアップを望まない人もいます。本人の意志を無視すれば、モチベーションが低下してしまったり、職場の雰囲気が悪化してしまったりすることも考えられます。具体的な数値目標を立てることも大切ですが、それに囚われすぎると、デメリットがもたらされてしまうこともあるのです

女性社員同士が交流できる場をつくる

管理職はまだまだ男性の割合が高く、女性は「居場所がない」「居心地が悪い」と感じやすく、また男性から敵視されることも少なくありません。女性社員が孤立しないよう、女性管理職の同期会や、女性社員が役職を超えて交流できる場を設けるなど、交流の場を提供するとよいでしょう。

出典:第6回 今度こそ女性活用に失敗しないために|人事戦略研究所(PDF)

 

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SDGs研修】ワールドリーダーズ(企業・労働組合向け)

 

概要

  • SDGs社会に合わせた企業経営の疑似体験ができるSDGsビジネスゲーム
  • 各チームが1つの企業として戦略を立てて交渉し、労働力や資金を使って利益最大化を目指す
  • オプションとして「SDGsマッピング」を行うことで学びの定着・自分ごと化

特徴

  • 自分達の利益を追求しつつも、世界の環境・社会・経済も気にしなければならず、ビジネス視点からSDGsを感じ、考えることができる
  • チームで戦略を練り様々な可能性を話し合う必要があるため、深いチームビルディングに繋がる
  • 様々な選択肢の中から取捨選択して最適解を導く考え方を身につけることができる

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【親子参加型職業体験イベント】キッズタウンビルダーズ(商業施設・企業・労働組合向け)

概要

  • 体験を通じてSDGs目標の「質の高い教育」を学べる親子参加型ワークショップ
  • 子どもが楽しみながらも本気で学べる、複数の職業体験を実施
  • 会議室やホールなど企業様のイベントとしても開催可能

特徴

  • あえて「映える」職業ではなくありふれた職業を選定している
  • 合計で就業人口の7割を占める上位5つの職業をピックアップし、本質的な学びが得られる職業体験
  • ファミリーが高い関心を持つテーマ性のあるイベントで集客・施設周遊を促進

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【親子・子ども向け地域イベント】SDGsアドベンチャー(商業施設・自治体向け)

概要

  • 体験を通じてSDGsを学べる親子・子ども向けワークショップ
  • 子どもが本気で楽しめる複数の体験型アクティビティを実施
  • すべてクリアした方にSDGs缶バッチをプレゼント

特徴

  • ハッピーワールドの世界観を演出することで参加者が没入感をもって取り組める
  • 海の環境やゴミの分別・再利用など、参加者は身近なことからSDGsを学べる
  • ファミリーが高い関心を持つテーマ性のあるイベントで集客・施設周遊を促進

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まとめ

ダイバーシティ経営で価値を生み出すためには、多様な人材をただ集めるだけでなく、その能力を十分に発揮できるような仕組みづくりを同時に進めていくことが大切です。

ダイバーシティ経営は、短期間で効果が表れるものではありません。しかし、今後日本経済が成長していくためには、多様な人材を活用していくことが不可欠となります。他企業の事例を参考に、中長期的な戦略として導入を検討してみてはいかがでしょうか。

出典:ダイバーシティ経営診断の手引き‐経済産業省(PDF)

出典:「イノベーション」に対する日独米の認識の違い | Science Portal – 科学技術の最新情報サイト「サイエンスポータル」

 

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SDGsとは

また、以下の記事でジェンダー平等、SDGsについてより詳しく解説しています。参考にぜひご覧ください。

ジェンダー平等に向けてできることを、個人・企業に分けて紹介

あらたこまち

この記事を書いた人

あらたこまち

雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。
不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。
猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。

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