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ダイベストメントとは?企業や個人にできること、銀行の取り組み事例を紹介

 

気候変動に対する危機感の高まりとともに、世界で「ダイベストメント」という運動が活発になっています。本記事では、ダイベストメントとは一体何なのか、世界と日本の現状、広まっている背景を、わかりやすく解説します。あわせて、ESG投資を呼び込むために日本企業がすべきこと、個人でできるダイベストメントも紹介します。

 

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ダイベストメントとは

ダイベスメント(divestment)とは、ESGを重視しない企業から資金を引き揚げる動きのことです。インベストメント(investment:投資)の反対語で、日本語では「投資撤退」や「投融資引き揚げ」などと呼ばれています

ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの頭文字を取ったものです。気候変動問題やさまざまな社会問題に対する世界の関心は高まっており、従来の財務情報だけでなく、このような非財務情報も企業の評価に影響する時代となっています。また、ESGの要素を考慮した投資のことを「ESG投資」といい、日本でも広がりを見せています。

ダイベストメントにはさまざまな手法がありますが、たとえば、SRI(※)の規範的排除基準や業種別排除基準などが挙げられます。規範的排除基準は、国際規範に反する企業を投資対象から外すというもの、種別排除基準は、たばこやアルコールなどの特定の産業を投資対象から外すというものです。

過去には、アパルトヘイトや対人地雷・クラスター弾の製造に対する抗議なども、このような手法で行われてきた歴史があります。近年急速に広がっているのは、気候変動へのアクションとしてのダイベストメントです。化石燃料産業から投資を引き揚げる動きが、世界中で広がっています。

※SRIとは
Socially Responsible Investmentの略称で、日本語では「社会的責任投資」と呼ばれています。財務情報だけでなく、企業としての社会的責任(Social)を果たしているかという点も重視して投資先を選ぶことをいいます。ESG投資は、これに環境(Environment)とガバナンス(Governance)を加え、より幅広い課題を投資判断に組み入れています。

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世界で加速するダイベストメント

近年世界で広がりを見せている化石燃料産業からのダイベストメントは、アメリカのペンシルバニア州にあるスワスモア大学の学生たちから始まりました。2011年、大学への寄付金が石炭採掘事業に投資されていたことを知った学生たちが、大学に投資撤退を訴えたのです。

その後ダイベストメントは、教育施設、宗教組織、慈善財団だけでなく、地方自治体や年金基金、金融業界にまで拡大しました。具体的な事例としては、たとえば2015年には、ノルウェー政府年金基金が石炭関連産業に投資しない方針を決め、投資を引き揚げる59社のリストを公表しています。引き揚げリストには、日本の電力会社も含まれていました。

参考:ノルウェー基金、日本企業から引き揚げ: 日本経済新聞

また、2021年には、オランダの大手年金基金ABPが化石燃料に関連する企業への投資をやめることを発表し、大きなニュースとなりました。関連資産の売却額は150億ユーロ(約2兆円)を超すと見られています。

参考:オランダ年金ABP、化石燃料から投資撤退 2兆円売却へ: 日本経済新聞

2022年1月時点で、世界で1500を超える年金基金や大学、自治体などがダイベストメントを表明しており、運用資産額は約40兆ドル(約4600兆円)と、その規模は5年で2倍になりました。

参考:化石燃料からの投資撤退、世界1500団体表明 5年で倍増: 日本経済新聞

日本のダイベストメントの現状

ドイツの環境NGOウルゲワルドと、フランスのリクレイム・ファイナンス、国際環境NGO 350.org Japanらが公表した調査報告書によると、2019年1月~2021年10月にかけて石炭産業に融資した金融機関のうち、融資総額が最も多かったのがみずほフィナンシャルグループ、次いで三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループと、ワースト3を日本のメガバンクが独占しています。

  1. みずほフィナンシャルグループ:約336億米ドル(約3.8兆円)
  2. 三菱UFJフィナンシャル・グループ:約231億米ドル(約2.6兆円)
  3. 三井住友フィナンシャルグループ:約204億米ドル(約2.3兆円)

日本は地理的・気候的な問題もあり、世界に比べて再生可能エネルギーが普及していません。政府は、エネルギー安定供給の面からも、今後もある程度化石燃料を使い続ける姿勢を見せています。このような背景もあり、日本は世界に比べるとダイベストメントが活発とはいえないのが現状です。

参考:【共同プレスリリース】日本の3メガバンクが石炭産業への融資総額で未だ世界のワースト3を独占 | 国際環境NGO 350 Japan

ダイベストメントが広まっている背景

ダイベストメントが世界で急速に広がっているのはなぜなのでしょうか。その背景には、2つのリスクの存在があります。

気候変動のリスク

1つめは、気候変動のリスクです。化石燃料産業からのダイベストメントを表明する動きは、パリ協定締結後により加速しています。パリ協定とは、2015年12月にフランス・パリで開催された国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択された、2020年以降の気候変動問題に関する国際枠組みです。産業革命前よりも地球の平均気温を2℃低く保ち、1.5℃に抑える努力をするという世界共通の目標を掲げています。

また、パリ協定が採択された年の9月には、SDGsも採択されています。SDGs(Sustainable Development:持続可能な開発目標)は、ニューヨークの国連サミットで加盟国の全会一致で採択された、2030年までに持続可能でより良い世界の実現を目指す国際目標です。17の目標と169のターゲットで構成されており、目標13は「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」とされています。

パリ協定やSDGsといった枠組みが整備されたことで、世界の気候変動に対する危機感も高まっており、ダイベストメントに向けた動きも加速しているのです。

座礁資産のリスク

2つめは、座礁資産のリスクです。座礁資産とは、環境が変化することで価値が失われてしまう資産のことで、英語では「Stranded Assets」と呼ばれています。

前項で紹介したパリ協定やSDGsが掲げる目標を達成するために、世界中の企業に二酸化炭素(CO2)を含む温室効果ガスの排出量削減が求められており、化石燃料を使用した火力発電から再生可能エネルギーへと移行する動きが加速しています。化石燃料を使用した火力発電所がすべて廃止されれば化石燃料を活用できなくなるため、資産としての価値が下がる、もしくは失われると考えられています。

座礁資産を抱えるリスクを回避するために、世界の投資家や金融機関の間で、ダイベストメントの動きが広がっているのです。

ESG投資を呼び込むために日本企業がすべきこと

先ほども述べたように、世界中でESG投資が広がっています。世界持続的投資連合(GSIA)によると、2020年の世界のESG投資額は35.3兆ドル(約3,900兆円)で、2018年から15%増加しました。日本においても、2015年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が国連責任投資原則(※)に署名して以降、ESG投資が拡大しています。

近年は見せかけのESGを規制するため、海外ではESGの基準を見直すなど規制強化が進められています。こうした流れのなかで、企業がESG投資を呼び込むためには、「ESG経営」もしくは「SDGs経営」が必要です

※国連責任投資原則とは
機関投資家の投資減速で、「Principles for Responsible Investment」を略して「PRI」と呼ばれています。投資にESGの視点を組み入れることや、投資対象に対してESGに関する情報開示を求めることなどを掲げています。

「ESG経営」・「SDGs経営」とは

「ESG経営」とは、業績や利益だけでなく、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)の3つの要素を重視した経営のことです。また、「SDGs経営」とは、SDGsを企業経営に組み込むことをいい、ESG投資の呼び込みを後押しするものとして、政府もこれを推進しています。

ESG経営やSDGs経営を実践することで、金融機関や投資家からの評価が得られ、資金調達の面で有利になるだけでなく、社会課題への取り組みから新たなビジネスチャンスが生まれる可能性もあります。また、就職先を選ぶ際に企業の社会課題への姿勢を重視する人も増えているため、採用活動においても強力なアピールポイントになると考えられます。

経済産業省の「SDGs経営ガイド」や、GRI、国連グローバル・コンパクト、持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)が共同開発した「SDG Compass」など、2030年のSDGs達成に向けて、SDGs経営を推進するためのガイドブックも多数公表されていますので、参考にしてみてはいかがでしょうか。

参照:SDGs経営ガイド経済産業省(PDF)

個人でできるダイベストメント

ダイベストメントは、個人でもできるアクションです。ここからは、具体的にできることを2つ紹介します。

ESGの視点で銀行や金融機関を選ぶ

銀行や金融機関は、私たちが預けているお金をさまざまな事業に投融資し、運用しています。もしかしたら、化石燃料事業に投資されている可能性もあるのです。そうなると、私たちも間接的に化石燃料事業を支援していることになります。

そこで私たちにできるのは、まず自分がお金を預けている銀行や金融機関がどのような事業に投融資しているのかを知ることです。そして、化石燃料事業に投融資しているなどESGに配慮していないことがわかったなら、預け先を乗り換えることです。こうすることで、預金者・顧客として「サステナブルな事業を支援しない銀行・金融機関は支持しない」という意思を表明することができます。

350.orgは、「化石燃料」や「原発」に投融資が確認されなかった金融機関を「COOL BANK(クールバンク)」と呼んでいます。これについては、後ほど詳しく紹介します。

預金者・顧客として声を届ける

実際に預金先の乗り換えが難しい場合でも、銀行や金融機関に意思を表明する手段はほかにもあります。電話やお問い合わせフォームなどから、化石燃料事業からの投融資撤退を求める声を直接届けるというのも1つの方法です。

350.orgは、銀行や金融機関に預金者・顧客としての声を届けるためのさまざまなキャンペーンも実施しています。たとえば、みずほフィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループの3つのメガバンクに対して環境に配慮した取り組みを求める「ダイベスト宣言」や、同銀行に脱化石宣言を求める署名などが実施されています(2022年11月末時点)。

地球にやさしい取り組みを行う銀行の事例3選

350.orgは、“「化石燃料」や持続可能でない「原発」に投融資が確認されなかった金融機関”を「COOL BANK(クールバンク)」と定義し、ホームページで銀行名や取り組みなどを紹介しています。

金融機関はすべての投融資の実態を公表しているわけではないため、COOL BANKであっても「化石燃料」や「原発」に1円も投融資していないとは言い切れません。しかし、「化石燃料」や「原発」への投融資が確認された金融機関に比べれば、これらを支援している可能性は低いと考えられます。

350.orgがCOOL BANKとして認めているのは、日本の金融機関190社のうち60社です。このなかから、3つの金融機関の環境負荷軽減に向けた取り組みを紹介します。

参考:【COOL BANK】地球にやさしい「ネット銀行」を徹底比較 | 350 Action

auじぶん銀行

auじぶん銀行には、預金額の0.01%相当額が環境団体に寄付される定期預金があります。「ブルー円定期預金」への預け入れは、珊瑚養殖家の金城浩二さんが代表を務める珊瑚養殖事業「有限会社海の種 Sea Seed Inc.」へ、「グリーン円定期預金」への預け入れは、音楽家の坂本龍一さんが代表を務める森林保全団体「一般社団法人more trees」に、それぞれ寄付されます。

また、「未来を創る」というテーマのもと、SDGsにも多方面から取り組んでいます。上記2種類の円定期預金も、SDGsの取り組みの1つです。そのほかにも、ESG投資の推進、30by30アライアンス(※)へ加盟など、環境負荷軽減に取り組んでいます。

※30by30アライアンスとは
生物多様性の損失を食い止め、回復させるために環境省などが立ち上げたもので、2030年までに国土の30%以上を自然環境エリアとして保全することを目標としています。

参考:ブルー円定期預金、グリーン円定期預金| auじぶん銀行

ソニー銀行

ソニー銀行では、2012年から「スマトラ島森林保全プロジェクト」を実施しています。口座を開設すると、1口座につき10円が公益財団法人世界自然保護基金(WWF)ジャパンの「インドネシア・スマトラ島の森林保全プロジェクト」に寄付されるというものです。

また、「グリーン電力証明書」や「J-クレジット制度」、「グリーン(熱)証明書システム」、RE100が認定する非化石証明書などを活用し、業務委託分を除くすべての使用電力にかかるCO2を100%オフセットしています。

ほかにも、社内でのレスペーパー活動、省エネ、ソニーグループ全体で実施している海洋プラスチック汚染対策「One Blue Ocean Project」への参加など、環境負荷軽減に取り組んでいます。

参考:環境|サステナビリティ|企業情報|ソニー銀行(ネット銀行)

東日本銀行

東日本銀行では、預金者や顧客とともに社会課題の解決に取り組むための「寄付型SDGs推進ローン」を取り扱っています。この商品では、融資実行額の0.1%相当額がSDGs推進につながる団体へ寄付されます。寄付先は、東京都環境局の「花と緑の東京募金」、子供の未来応援募金、茨城県森林湖沼環境基金の3つです。

また、東日本銀行は2019年に環境省が創設した「地域ESG融資促進利子補給事業」の指定金融機関でもあり、特別融資を取り扱っています。本事業は、最大3年間、省エネや再エネ設備投資に向けた融資の利息を最大1%補給するというものです。

そのほかにも、地域の海岸や河川の清掃といったボランティア活動への参加など、親会社である株式会社コンコルディア・フィナンシャルグループの「グループ環境方針」に基づいて、地球温暖化対策や環境保全に取り組んでいます。

 

SDGs研修・体験型SDGsイベント

SDGs研修】ワールドリーダーズ(企業・労働組合向け)

 

概要

  • SDGs社会に合わせた企業経営の疑似体験ができるSDGsビジネスゲーム
  • 各チームが1つの企業として戦略を立てて交渉し、労働力や資金を使って利益最大化を目指す
  • オプションとして「SDGsマッピング」を行うことで学びの定着・自分ごと化

特徴

  • 自分達の利益を追求しつつも、世界の環境・社会・経済も気にしなければならず、ビジネス視点からSDGsを感じ、考えることができる
  • チームで戦略を練り様々な可能性を話し合う必要があるため、深いチームビルディングに繋がる
  • 様々な選択肢の中から取捨選択して最適解を導く考え方を身につけることができる

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【親子参加型職業体験イベント】キッズタウンビルダーズ(商業施設・企業・労働組合向け)

概要

  • 体験を通じてSDGs目標の「質の高い教育」を学べる親子参加型ワークショップ
  • 子どもが楽しみながらも本気で学べる、複数の職業体験を実施
  • 会議室やホールなど企業様のイベントとしても開催可能

特徴

  • あえて「映える」職業ではなくありふれた職業を選定している
  • 合計で就業人口の7割を占める上位5つの職業をピックアップし、本質的な学びが得られる職業体験
  • ファミリーが高い関心を持つテーマ性のあるイベントで集客・施設周遊を促進

サービスの詳細をまとめた資料はこちらから

 

【親子・子ども向け地域イベント】SDGsアドベンチャー(商業施設・自治体向け)

概要

  • 体験を通じてSDGsを学べる親子・子ども向けワークショップ
  • 子どもが本気で楽しめる複数の体験型アクティビティを実施
  • すべてクリアした方にSDGs缶バッチをプレゼント

特徴

  • ハッピーワールドの世界観を演出することで参加者が没入感をもって取り組める
  • 海の環境やゴミの分別・再利用など、参加者は身近なことからSDGsを学べる
  • ファミリーが高い関心を持つテーマ性のあるイベントで集客・施設周遊を促進

サービスの詳細をまとめた資料はこちらから

 

まとめ

世界中で拡大しているダイベストメントについて解説しました。数名の学生から始まった運動ですが、気候変動問題への危機感の高まりと、近い将来化石燃料が座礁資産となるリスクがあることから、今では世界中の地方自治体や年金基金、金融業界にまで拡大しています。

日本は特有のエネルギー問題があるため、世界に比べるとダイベストメントを含め環境への取り組みが少々遅れていますが、日本経済と企業の持続的な成長のためにも、もう少し世界と歩調を合わせていかなければならないのかもしれません。

パリ協定やSDGsが掲げる目標を達成するためには、国や自治体、企業だけでなく、私たち一人ひとりに行動が求められます。ダイベストメントは、個人でもできるアクションです。まずは、今お金を預けている銀行や金融機関の見直しから始めてみましょう。

 

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あらたこまち

この記事を書いた人

あらたこまち

雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。
不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。
猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。

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