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2030年エネルギーミックス実現に向けた政府の施策を解説

2021年10月22日に、「第6次エネルギー基本計画」が策定されました。エネルギー基本計画とは、政府が策定するエネルギー政策の基本方針で、少なくとも3年ごとに検討が行われます。今回のエネルギー基本計画では、「2050年カーボンニュートラル」を見据えた、2030年までの目標や政策対応が示されています。

2030年に向けた「エネルギーミックス」とは何か、実現に向けて政府が今後どのような取り組みを実施していくのかを、わかりやすく解説します。

 

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エネルギーミックスとは

再生可能エネルギー、火力、原子力など、さまざまなエネルギー源をバランスよく組み合わせて発電することを、「エネルギーミックス」といいます。

現在の日本は、化石燃料による火力発電に大きく依存している状態です。国内のエネルギー資源が乏しいため、原油の約9割を政情が不安定な中東から、LNG(液化天然ガス)や石炭は、アジアやオセアニアからの輸入に頼っています。発電方法やエネルギー源の輸入先に偏りがある状態では、国際情勢の影響を受けやすく、供給が不安定になってしまうリスクがあるのです。

10年ほど前に比べると、日本でも再生可能エネルギーの導入もかなり進みました。しかし、世界と比較するとまだまだ低い水準となっています。これは、再生可能エネルギーがほかのエネルギー源よりも発電コストが高いことに加え、日本ならではの気候的・地理的な難題があるためです。

日本が抱えるさまざまなエネルギー問題を解決するため、そして、「2050年カーボンニュートラル」を実現するために、目指すべき電源構成の最適な状態として政府が示したものが、エネルギーミックスです。

出典:資源エネルギー庁がお答えします!~再エネについてよくある3つの質問|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁

では、「最適」な電力構成とは、どのような状態のことを指すのでしょうか。次の項で解説していきます。

エネルギー政策の大原則「S+3E」

日本のエネルギー政策には、「S+3E」という大原則があります。

  • 安全性(Safety)
  • エネルギーの安定供給(Energy Security)
  • 経済効率性の向上(Economic Efficiency)
  • 環境への適合(Environment)

まずは、安全性の「S」を大前提としたうえで、安定してエネルギーを供給することを第一とし、電気料金を下げていくことと同時に、環境への適合を図ります

この「S+3E」の要素がすべて満たされている状態が、「最適」な電力構成といえるでしょう。

第5次エネルギー基本計画(2018年7月策定)までは、「3E+S」と表記されていましたが、第6次エネルギー基本計画では、大前提となるS(安全性)が前に置かれ、安全性がより強調された形となっています。

2030年の目標

第6次エネルギー基本計画で示された、2030年の電力構成を見てみましょう。さまざまな施策に野心的に取り組むことで、2030年には下図のようなエネルギー需給が実現するとしています。



(出典:2030年度におけるエネルギー需給の見通し(関連資料)|経済産業省 資源エネルギー庁(PDF)

省エネを徹底することで、電力需要と発電量自体が抑えられ、化石燃料に代わり再生可能エネルギーが主力電源となっています。再生可能エネルギーの内訳は、太陽光14~16%、風力5%、地熱1%、水力11%、バイオマス5%です。

また、前述したように、日本はエネルギー源を海外からの輸入に頼っており、エネルギー自給率が世界のなかでもかなり低い水準となっています。2018年のエネルギー自給率はわずか11.8%でしたが、エネルギーミックスにより上図のようなエネルギー需給が実現することで、2030年には30%程度まで向上するとしています。

経済性については、電気コスト全体を8.6~8.8兆円程度、kWh当たり9.9~10.2円程度まで低下させること、環境面については、エネルギー起源の二酸化炭素排出量を、2013年比で45%削減するとしています。

 

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2030年に向けた政府の取り組み

2030年までの目標を達成するために、政府は今後、どのような取り組みを実施していくのでしょうか。第6次エネルギー基本計画のなかで示されている政府の施策のポイントをまとめました。

1.再生可能エネルギーの主力電源化

1つめは、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた取り組みです。

再生可能エネルギーとは、温室効果ガスを排出しない環境にやさしいエネルギー源のことです。太陽光、風力、地熱、水力、バイオマスがこれに該当します。再生可能エネルギーの導入拡大を促すために、2022年4月からスタートしたのが、FIP制度です。

FIP制度の解説をする前に、まずはFIT制度についておさらいをしておきましょう。2012年にスタートしたFIT制度(固定価格買取制度)とは、再生可能エネルギーで発電した電気を一定期間買い取ることを、国が電力会社に義務付けた制度です。買取費用の一部は、「再生可能エネルギー発電促進賦課金」として、すべての電気利用者から徴収されています。

この制度が導入されて以降、再生エネルギー比率は、10%(2012年)から18%(2019年度)まで拡大しました。賦課金は、2021年度には2.7兆円に達する見込みです。再生可能エネルギーの導入をさらに拡大していくためには、このような負担を軽減させていくことが求められます。

FIP制度は、「フィードインプレミアム(Feed-in Premium)」の略称で、このFIT制度に「プレミアム」を上乗せする制度です。

(出典:再エネを日本の主力エネルギーに!「FIP制度」が2022年4月スタート|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁

FIP制度は、これまでのFIT制度のように固定価格で買い取るのではなく、市場価格にプレミアムを上乗せします。これにより、電力システム全体のコスト低減が期待できるのです。

FIP制度のほかにも、第6次エネルギー基本計画では、地域との共生する形で適地を確保すること、事業規律を強化すること、技術開発を推進していくことなど、再生可能エネルギーを主力電源化するための取り組みが示されています。

出典:もっと知りたい!エネルギー基本計画① 再生可能エネルギー(1)コスト低減、地域の理解を得てさらなる導入拡大へ|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁

2.原子力発電所の再稼働

2つめは、原子力発電所の再稼働に関することです。

2011年に起こった東日本大震災以降、国内の原子力発電所が停止し、20.3%だったエネルギー自給率は、2012年には6.7%まで低下しました。また、火力発電が再び増加し、化石燃料への依存度も高まっています。さまざまな意見がありますが、政府は、エネルギー資源に乏しい日本が安定してエネルギーを供給していくためには、原子力の活用は不可欠であると考えています。

第6次エネルギー基本計画では、まずは、東京電力福島第一原子力発電所事故を真摯に反省することが、原子力政策の出発点であるとしています。いかなる事情よりも安全性を最優先とし、国民の懸念解消に全力を挙げる前提で、世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、再稼働を進めていく方針です。

しかし、原子力発電所の新設や増設、建て替えなどの具体的な計画は、第6次エネルギー計画には盛り込まれていません。国内には現在、建設中を含めて36基の原発があります。このうち審査の申請をしているのは27基、そのなかで再稼働したのは10基です(2021年7月時点)。政府が示す2030年度の電力構成では、原子力は20%~22%となっていますが、これを達成するためには、少なくとも27基すべてが再稼働する必要があります。

また、原子力発電所の運転期間は原則40年でしたが、原子力規制委員会の審査をクリアすれば最長60年まで認められるようになるなど、既存の原発をできるだけ長く利用しようとする動きも見られます。2030年度の電力構成をどのように実現していくのか、具体的な施策が、今後検討されていくことでしょう。

3.火力発電の比率を下げる

3つめは、現在の主力電源である火力発電の比率を下げるための取り組みです。

第6次エネルギー基本計画では、安定供給を大前提に、火力発電が電力構成に占める比率をできる限り引き下げるとしています。具体的には、非効率な火力のフェードアウトに取り組むことや、水素・アンモニアなどの脱炭素燃料の混焼、二酸化炭素の排出量を削減する措置の促進などです。

2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、主力電源は再生可能エネルギーへと移行していく方針ですが、再生可能エネルギーの変動性を補う役割や、平時だけでなく緊急時の電力の安定供給という面からも、今後もある程度は火力発電を活用し続ける必要があります。

4.電力システムの改革

4つめは、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた電力システムの改革です。

政府は2015年から、「安定供給の確保」「料金の最大限の抑制」「需要家の選択肢や事業者の機会の拡大」の3つを目的とした電力システム改革を、3段階に分けて実施してきました。まずは、2015年の「広域的運営推進機関の創設」です。地域間の電気のやりとりを容易にし、広域的な運用を行うことを狙いとしたものでした。次に、2016年の「小売りの全面自由化」です。これにより、電気の小売業への新規参入が可能となり、消費者は電力会社や料金プランを自由に選択できるようになりました。そして、最後の「送配電部門の中立化」とは、新規参入事業者が不公平な扱いをされないよう、送配電部門を別会社化するというものです(法的分離)。

2022年4月からのガスの導管部門の法的分離により、予定されていた一連のシステム改革が完了しました。しかし、自然災害の頻発・激甚化や、パリ協定(※1)、SDGs(※2)など、ここ数年で電力システムを取り巻く環境は大きく変化し、新たな課題も見えてきました。さらなる改革を進め、安定的かつ持続可能な電力システムを構築していくことが求められます。

第6次エネルギー基本計画のなかで示されている具体的な施策としては、4年後の電力の供給力をオークションで確保する「容量市場」の着実な運用、トラッキング付き非化石証明書(※3)の増加や需要家による購入可能化、災害時の安定供給確保に向けた取り組みなどです。

出典:電力システム改革について|経済産業省 資源エネルギー庁(PDF)

※1パリ協定 とは
2015年の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択された、気候変動問題に対する2020年以降の国際的な枠組みです。世界の平均気温の上昇を、産業革命前と比較して2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をすること目標としています。
※2 SDGsとは
2015年の国連サミットで採択された国際目標、「Sustainable Development Goals」の略称です。日本語では「持続可能な開発目標」と訳されます。2030年までに解決すべき17のゴールと169のターゲットが設定されています。
※3非化石証明書とは
化石燃料を使わずに発電されたという「環境価値」の部分のみを切り離して証書としたものです。

5.水素・アンモニアの普及

5つめは、「水素社会」の実現に向けた取り組みです。

政府は、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、水素・アンモニアを新たな資源として位置付けています。2017年12月には、世界初の水素の国家戦略である「水素基本戦略」を策定し、水素社会実現に向けた取り組みを実施してきました。

第6次エネルギー基本計画で示された、水素の供給コストと供給量の目標は、以下のとおりです。

  • 供給コスト
    (現在)100円/N㎥ → (2030年)30円/N㎥ → (2050年)20円/N㎥以下
  • 供給量 
    (現在)約200万t/年 → (2030年)最大300万t/年 → (2050年)2,000万t年

このために、海外からの安価な水素と国内の資源を活用した水素の製造基盤を確立させること、革新的な水素製造技術の開発などに取り組むとしています。

また、需要サイドにおける水素利用を拡大するための取り組みも必要となります。部門ごとに、以下のような施策が検討されています。

  • 発電部門
    火力発電に水素やアンモニアの混焼・専焼を導入し普及させる
  • 運輸部門
    FCV(燃料電池自動車)やFCトラック(燃料電池トラック)の導入拡大、水素ステーションの戦略的整備 など
  • 産業部門
    水素還元製鉄などの製造プロセスの大規模転換、バーナーや大型・高機能ボイラーなどの技術開発 など
  • 民生部門
    家庭用燃料電池のさらなる普及、コスト低減のための技術開発 など

6.資源・燃料の確保

6つめは、エネルギー資源を将来にわたり安定して確保していくための取り組みです。
冒頭でも触れたように、日本は化石燃料への依存度が高い国です。2018年度の化石燃料への依存度は、85.5%(一次エネルギー供給構成)となっています。そして、その化石燃料の輸入先も一定の地域に偏っているため、国際情勢の影響を受けやすく、安定供給の面でリスクを抱えています。

再生可能エネルギーの導入を拡大し、エネルギー自給率を上げていくことはもちろんですが、前述したように、日本は今後もある程度は化石燃料を活用していく必要があります。また、カーボンニュートラルに必要な水素・アンモニアなどの脱炭素燃料や、技術の導入・拡大にあたっても、これまでの資源外交で培ってきた資源国とのネットワークが重要な基盤となるでしょう。化石燃料の安定供給確保と、カーボンニュートラルへの円滑な移行を実現するために、「包括的な資源外交」を新たに展開するとしています。

さらに、石油・天然ガス等の自主開発を推進し、自主開発比率を、2019年度の34.7%から2030年には50%以上、2040年には60%以上とする目標も掲げられました。

そのほか、石油やLPガスの備蓄機能の維持、地域SSの「総合エネルギー拠点」化や「地域コミュニティインフラ」化などを進め、平時だけでなく緊急時にも対応できる強靭な燃料供給体制の構築を進めるとともに、脱炭素化の取り組みを促進するとしています。

7.需給サイドの取り組み

七つめは、需給サイドの取り組みです。

まずは、徹底した省エネを追求するために、部門ごとに以下のような取り組みが示されています。

  • 産業部門
    ベンチマーク指標(事業者の省エネ状況を評価するための業種共通の指標)や目標値の見直し、省エネ技術開発・導入支援の強化 など
  • 業務・家庭部門
    2030年以降に新築される住宅や建築物の省エネ基準の引き上げ、既存住宅や建築物の改修・建て替え支援 など
  • 運輸部門
    電動車・インフラの導入拡大、電動車関連技術・サプライチェーンの強化、AI・IoTなどの新技術の導入支援 などに

需要サイドのエネルギー転換を後押しするために、省エネ法の改正も視野に検討を進めていくとしています。

出典:第6次エネルギー基本計画|経済産業省 資源エネルギー庁(PDF)

 

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まとめ

第6次エネルギー基本計画で示された、2030年度までの目標と、政府の取り組みのポイントを解説しました。

世界と歩調を合わせ、SDGsの達成やカーボンニュートラルの実現を目指すことはもちろんですが、日本ならではのエネルギー問題を解決するためにも、現状の電力構成を変えていかなければなりません。2030年のエネルギーミックスを実現するためには、政府や電力会社などの供給サイドの取り組みだけでなく、需要サイドの徹底した省エネ、サステナブルなライフスタイルへの移行が必要となります。2030年まで、あと10年もありません。一人ひとりがエネルギー問題に関心を持ち、行動を起こすことが求められます。

 

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あらたこまち

この記事を書いた人

あらたこまち

雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。
不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。
猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。

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