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エネルギーミックスとは?「S+3E」と日本の問題を解説

火力や原子力、再生可能エネルギーなど、いろいろな発電方法があります。エネルギーミックスとは、どれか一つのエネルギー源に依存することなく、さまざまな発電方法を組み合わせて発電することです。政府は、2030年のベストミックスを目指し、さまざまなエネルギー政策を進めています。

本記事では、エネルギーミックスとは何か、基本方針となる「S+3E」、エネルギー源の種類や特徴、日本が抱えているエネルギー問題について解説します。

 

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エネルギーミックスとは

さまざまなエネルギー源をバランスよく組み合わせて発電することを、「エネルギーミックス」といいます。

現在の日本は、化石燃料による火力発電に大きく依存している状態です。「2050年カーボンニュートラル(※)」を目指していますが、これを実現するためには、二酸化炭素の排出量が多い火力発電が占める割合を、小さくしていかなければなりません。また現在の日本は、石油・石炭・液化天然ガスといった化石燃料の多くを、海外からの輸入に頼っており、安定供給の面でもリスクを抱えています。

これらの課題を解決するために、電源構成の最適な状態として、政府が示したものが、エネルギーミックスです。どのような状態が「最適」なのか、それが示されているのが、2021年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画(※)」です。さまざまな施策に野心的に取り組むことで、2030年度には下図のような電力構成が実現するとしています。



出典:2030年度におけるエネルギー需給の見通し(関連資料)|経済産業省 資源エネルギー庁(PDF)

省エネを徹底して発電量自体を抑えること、化石燃料の割合を小さくして再生エネルギーを主力電源とすることが示されています。

※カーボンニュートラルとは
二酸化炭素などの温室効果ガスの「排出量」 から、植林、森林管理などによる「吸収量」を差し引いて均衡させ、温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにすることです。
※エネルギー基本計画とは
エネルギー基本法に基づき政府が策定する、エネルギー政策の中長期的な基本方針です。少なくとも3年ごとに検討が行われ、必要があれば変更されます。
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エネルギーミックスの基本方針「S+3E」とは

前項で紹介した2030年の電力構成は、「S+3E」を重視して決定されました。日本のエネルギー政策の基本方針である「S+3E」とは、以下の4つの頭文字をとったものです。

出典:発電方法の組み合わせって? | マンガでわかる 電気はあってあたりまえ? |広報パンフレット|資源エネルギー庁

  • 安全性(Safety)
  • エネルギーの安定供給(Energy Security)
  • 経済効率性の向上(Economic Efficiency)
  • 環境への適合(Environment)

まず、安全性の「S」を大前提としたうえで、安定してエネルギーをつくり供給すること、電気料金を可能な限り低下させること、環境に配慮すること、 という「3つのE」を考えていく必要があります。

第5次エネルギー基本計画(2018年7月策定)までは、「3E+S」と表記されていました。しかし、第6次エネルギー基本計画では、大前提となるS(安全性)が前に置かれて「S+3E」と表記され、何よりも安全性を最優先すべきであることが、改めて強調されています

エネルギー資源に乏しい日本には、これらの要素をすべて満たしているエネルギーはありません。そのため、複数のエネルギー源をバランスよく組み合わせて活用していかなければならないのです。
ここからは、「S+3E」の4つの要素を、それぞれ解説します。

安全性(Safety)

大前提となるのが、安全性です。特に原子力については、いかなる事情よりも安全性を最優先にしなければなりません。

2011年に起こった東日本大震災の影響で、原子力発電の割合は大きく減少し、日本のエネルギー自給率も低下しました。原子力に対してはさまざまな意見がありますが、政府は、日本が抱えているエネルギー問題を解決するためには、原子力は欠かせないエネルギー源であると考えています。何よりも安全性を最優先とし、「新規制基準」に適合することを条件に、再稼働を進めていく方針です。

また、少子高齢化による人材不足、自然災害の頻発、サイバー攻撃など、あらゆる面において安全性確保への取り組みが求められています。

エネルギーの安定供給(Energy Security)

3つのEのなかで第一とされているのが、エネルギーの安定供給です。
2018年度の日本のエネルギー自給率は、11.8%となっています。これは、世界的に見てもかなり低い水準です。日本はエネルギー資源に乏しく、自然エネルギーを活用する条件も海外とは異なります。そのため、海外からのエネルギー源の輸入に頼らざるを得ないのです。しかし、このような状態は、国際情勢などの影響を受けやすく、安定的にエネルギー源を確保できなくなる可能性も考えられます。この課題を解決するためには、エネルギー自給率を向上させることと、エネルギー源の輸入先を分散させることが重要です。

第6次エネルギー基本計画では、野心的なエネルギーミックスにより、2030年にはエネルギー自給率30%が実現するとしています。

また、近年は自然災害が頻発・激甚化しており、インフラ設備へのサイバー攻撃のリスクも高まっています。平時だけでなく、危機時にあっても安定してエネルギーを供給できるような、強靭性も求められています。

経済効率性の向上(Economic Efficiency)

日々の暮らしや事業活動は、エネルギー無しでは成り立ちません。エネルギーは、すべての人々が利用できる安価なものである必要があります。

また、今後の日本の経済成長を考えるうえ上でも、エネルギーの経済効率性というのは重要な部分です。エネルギー供給の安定性とコストは、「事業拠点をどこに置くか」という事業戦略にも影響します。国内産業の空洞化に歯止めをかけるためには、エネルギーを低コストで安定的に供給していくことが前提条件となるのです。

しかし、再生可能エネルギー電力の電気料金は、着実に下がってきてはいるものの、まだまだ高い状況が続いています。さらに、カーボンニュートラルを実現するためには、ある程度負担が増加することが想定されます。今後は、脱炭素技術の低コスト化のための研究開発、省エネの徹底、先端技術の活用などにより、コストをできるだけ低下させていかなければなりません。

第6次エネルギー基本計画では、野心的なエネルギーミックスにより、2030年までに電力コスト全体を8.6~8.8兆円程度まで、kWh当たり9.9~10.2円まで抑えることが可能としています。

環境への適合(Environment)

エネルギーは、日本の温室効果ガス排出量の8割以上を占めています。カーボンニュートラルを実現するためには、エネルギーの脱炭素化が不可欠なのです。

温室効果ガスが排出されるのは、発電時だけではありません。発電所建設時の掘削や建設機械の使用などに加え、太陽光パネルや蓄電池などの製造・輸送・設置の各プロセスにおいても、温室効果ガスが排出されます。サプライチェーン全体での環境への影響を考慮しながら、脱炭素化を進めていかなければなりません。

第6次エネルギー基本計画では、野心的なエネルギーミックスにより、2030年度までに温室効果ガスを46%削減が実現し、さらに50%の高みを目指すとしています。

また、気候変動だけでなく、周辺地域の環境との調和・共生も十分に検討していく必要があります。

出典:第6次エネルギー基本計画|経済産業省 資源エネルギー庁(PDF)

エネルギーミックスにおける各エネルギー源の位置づけ

どのエネルギー源にも、メリットとデメリットがあります。エネルギーミックスにより安定した電源構成を確立するためには、各エネルギー源の強みを活かし、弱みを補完していかなければなりません。そのためにはまず、各エネルギー源の特性を理解しておく必要があります。

図引用

出典:エネルギー供給対策における取組|経済産業省

政府は、第5次エネルギー基本計画のなかで、さまざまなエネルギー源を「ベースロード電源」「ミドル電源」「ピーク電源」の3つに分け、エネルギー源ごとの位置づけを明確にしています。それぞれのエネルギー源の特性を紹介します。

ベースロード電源

ベースロード電源とは、発電(運転)コストが比較的低く、昼夜を問わず安定的に発電することができるエネルギー源のことです。地熱、一般水力(流れ込み式)、原子力、石炭が、ベースロード電源に分類されます。

地熱

地熱発電は、発電コストが低く、自然エネルギーのなかでは安定性にも優れています。地熱資源の豊富な日本に適した発電方法です。しかし、開発には時間的・経済的コストがかかること、自然環境への影響から地域の理解を得にくいことなどの課題があり、まだまだ普及しているとはいえない状況です。

一般水力(流れ込み式)

水力発電は、枯渇の問題を除けば安定性に優れており、一般水力(流れ込み式)については、運転コストが低いこともメリットです。近年は、3万kW未満の中小水力が増えてきています。課題としては、建設コストが高くなってしまうこと、流量調査や環境への影響などの調査に時間がかかることなどが挙げられます。

原子力

原子力発電は、燃料投入量に対してのエネルギー出力が大きく、安定性・経済性にも優れています。また、運転時には温室効果ガスを排出しません。しかし、やはり不安が残るのが安全性です。政府は、いかなる事情よりも安全性を最優先し、国民の懸念解消に全力を挙げるとしています。

石炭

石炭は、化石燃料のなかで熱量当たりの単価が最も安く、安定性にも優れています。しかし、温室効果ガスの排出量が多いため、今後は環境負荷を低減しつつ活用していかなければなりません。

出典:水力発電は安定供給性にすぐれた再生可能エネルギー|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁

ミドル電源

ミドル電源とは、発電(運転)コストがベースロード電源の次に安く、需要に応じて出力を機動的に調整できるエネルギー源のことです。天然ガスとLPガスが、ミドル電源に分類されます。

天然ガス

天然ガスは、熱源としての効率性が高く、ミドル電源の中心的な役割を果たしています。地政学的リスク(戦争やテロ、財政破綻などにより経済の先行きが不透明になること)も石油に比べて低く、化石燃料のなかでは温室効果ガスの排出量が最も少ないエネルギー源です。

LPガス

LPガスは、化石燃料のなかで温室効果ガスの排出も比較的低いエネルギー源です。約4割の家庭に供給されており、緊急時の備蓄体制も整備されています。今後は、備蓄の着実な実施と中核充填所の強靭化、コスト抑制などに取り組むとしています。

ピーク電源

ピーク電源とは、発電(運転)コストは高いものの、需要に応じて出力を機動的に調整できるエネルギー源のことです。石油と揚水式水力が、ピーク電源に分類されます。

石油

石油は、運輸・民生・電源など幅広く活用できるということが強みです。特に運輸部門の依存が大きく、製造業においては材料としても重要な役割を果たしています。地政学的リスクが大きいというデメリットはありますが、供給網も整備されており、備蓄も豊富であることから、ピーク電源および調整電源として一定の機能を担っています。

揚水式水力

揚水式水力も、一般水力同様に安定性に優れた発電方法です。発電量の調整が容易であり、ピーク電源としての役割を担っています。

その他

現時点では、「ベースロード電源」「ミドル電源」「ピーク電源」のいずれにも分類されていないものとして、太陽光、風力、バイオマスがあります。それぞれの持つ課題をクリアできれば、今後いずれかの電源として位置づけられることも考えられるでしょう。

太陽光

太陽光発電は、大規模開発だけでなく、一般個人でも導入しやすく、非常電源として活用することも可能です。一方、発電量が気象条件に左右されることや、発電コストが高いことなどの課題があります。

風力

風力発電は、大規模に開発できれば、火力並みの発電コストでの利用が期待できる発電方法です。一方、発電量が風量に左右されることや、国内に適地が少ないことなどの課題があります。

バイオマス

バイオマス発電・熱利用などは、地域活性化や災害時のレジリエンスの向上につながるというメリットがあります。一方、エネルギー利用可能なバイオマス資源が限られていることや、発電コストが高いことなどの課題があります。

日本のエネルギー問題

カーボンニュートラルやSDGs(持続可能な開発目標)を達成するために、世界中でエネルギー政策が進められています。しかし、日本がエネルギー政策に取り組まなければならない理由は、それだけではありません。

日本ならではのエネルギー問題について、解説します。

エネルギー自給率は世界34位

日本は世界と比較しても、エネルギー自給率がとても低い国です。2018年の日本のエネルギー自給率は11.8%で、OECD(経済協力開発機構)諸国35ヵ国中34位となっています。

2010年のエネルギー自給率は、20.3%でした。しかし、2011年に起こった東日本大震災の影響で、原子力発電所が停止したことで、2012年には6.7%まで低下し、近年は徐々に持ち直してきているものの、まだまだ低い水準が続いています。

日本のエネルギー自給率が低い最大の原因は、国内のエネルギー資源が乏しいことです。日本は、原油の約9割を政情が不安定な中東から、LNG(液化天然ガス)や石炭はアジアやオセアニアからの輸入に頼っています。輸入先の地域を分散させていくことも、日本の課題の1一つです。

また、再生可能エネルギーの普及がなかなか進まないことも、エネルギー自給率が低い原因として挙げられます。平地面積が少ない、天候が安定しないなど地理的・気候的な問題のほか、世界第3位の地熱資源大国であるにもかかわらず、規制や反対運動などにより活かしきれていないこと、日本ならではの難題があるのです。

出典:資源エネルギー庁がお答えします!~再エネについてよくある3つの質問|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁

化石燃料への依存が大きい

昔から日本は、化石燃料への依存が大きい国でした。変わるきっかけとなったのが、1970年代の「オイルショック」です。以降は、エネルギー源の分散が進み、一次エネルギー供給構成で見る化石燃料への依存度は94%(1973年度)から81.2%(2010年度)まで下がりました。しかし、2011年に起こった東日本大震災の影響で、原子力発電所が停止したことで、火力発電が再び増加し、2018年度の依存度は85.5%となっています。

世界中でエネルギーの脱炭素化に向けた動きが加速していますが、エネルギー資源に乏しい日本は、今後も火力発電をある程度活用し続けていく必要があります。できる限り環境負荷を減らし、より効率化するために、国内では新たな火力発電所の建設も計画されていますが、こうした日本の動きに、世界からは厳しい目が向けられています。2021年11月に開催された国連の気候変動会議COP26では、日本は「化石賞」(地球温暖化対策に消極的な国に与えられるもの)という不名誉な賞を贈られてしまいました。

出典:なぜ、日本は石炭火力発電の活用をつづけているのか?~2030年度のエネルギーミックスとCO2削減を達成するための取り組み|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁

出典:【COP26】日本が化石賞を受賞しました |WWFジャパン

 

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まとめ

どのエネルギー源にも、メリット・デメリットがあります。S(安全性)と3E(安定供給・経済効率性・環境)を満たせるエネルギー源は、日本には存在していません。化石燃料への依存から脱却し、エネルギー自給率を向上させていくためには、さまざまなエネルギー源をうまく組み合わせていく必要があります。

世界とともにカーボンニュートラルの実現、SDGsの達成を目指すことはもちろんですが、日本ならではのエネルギー問題を解決するためにも、エネルギーミックスを実現させていかなければなりません。

 

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あらたこまち

この記事を書いた人

あらたこまち

雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。
不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。
猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。

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