ジニ係数とは?日本と世界の比較や計算方法をわかりやすく解説
近年、所得の差、貧富の差が世界的に広がっているといわれています。格差(不平等)の是正はSDGsの重要なテーマです。日本でも格差が広がり、生活や仕事に不安を抱える人が増えています。問題解決に向けた最初の一歩として、まずは現状を知ることが大切です。各家庭の所得格差がどのくらいあるのかを視覚化する指標として、ジニ係数があります。この記事では、ジニ係数の概要や計算方法、日本と世界との比較についてわかりやすく解説します。
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SDGsがめざす貧困・格差のない社会
SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)とは、世界のさまざまな問題を根本的に解決し、持続可能でより良い社会をめざす世界共通の目標です。「誰一人取り残さない」ことを理念に掲げ、17のゴールと169のターゲット(具体的な目標)が設定されています。
世界的な問題となっているのが、貧富の格差です。近年、多くの国でかつてないほどの格差が広がっています。フランスの経済学者トマ・ピケティ氏らが運営する「世界不平等研究所」が2021年に実施した調査によると、世界の上位1%の富裕層が世界全体の個人資産の約37%を独占しており、下位50%の資産は全体のわずか2%にすぎないことがわかりました。このように所得格差が拡大すればするほど2極化は強まり、富裕層は富む一方で、貧困層はますます困窮することになります。
貧困の解決と格差を是正することは、SDGsの大きなテーマの一つです。SDGsの目標10では「人や国の不平等をなくそう」というゴールを設定し、以下のようなターゲットを示しています。
“2030年までに、各国のなかで所得の低いほうから40%の人びとの所得の増え方が、国全体の平均を上回るようにして、そのペースを保つ。”
“財政、賃金、社会保障などに関する政策をとることによって、だんだんと、より大きな平等を達成していく。”
SDGsの目標を達成するためには、国や行政はもちろん、私たち一人ひとりの取り組みが重要です。
参照:10.人や国の不平等をなくそう|SDGsクラブ|日本ユニセフ協会(ユニセフ日本委員会)
参照:世界の超富裕層1%、資産の37%独占 コロナで格差拡大|日本経済新聞
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ジニ係数とは?
ジニ係数とは、国全体の所得や資産が各家庭にどれくらい平等に分けられているかを示す指標です。1936年にイタリアの統計学者コンラッド・ジニによって考案されたことから、ジニ係数と呼ばれるようになりました。
ジニ係数の利点は、手元に統計データさえあれば、誰でも格差の度合いが求められるところです。簡単に計算できるので、所得格差などを分析する際に重宝されています。
ジニ係数と「ローレンツ曲線」
ジニ係数は、世帯を所得の低い順に並べて、横軸に世帯数の累積比、縦軸に所得の累積比をとり、その関係性をグラフ化した「ローレンツ曲線」を用いて求められます。
所得格差がまったくなく、所得が均等に配分されている場合、ローレンツ曲線は原点0を通る45度の直線を示します。これを均等分布線といいます。たとえば、すべての世帯の所得が400万円の場合、世帯数と所得額が同じ割合で増えるので、グラフの傾きに変化は生じません。その曲線は均等分布線と一致します。しかし、限られた少数の世帯に富が集中している場合、グラフの曲線は均等分布線よりも下方にカーブしていきます。
「当初所得」と「再分配所得」
ジニ係数には、「当初所得ジニ係数」と「再分配所得ジニ係数」の2種類があります。
当初所得ジニ係数とは、税金や社会保険料を差し引く前の所得をもとに計算したジニ係数です。公的年金や失業給付、児童手当といった社会保障による現金給付額は含みません。それに対して、当初所得から税金や社会保険料を差し引き、社会保障給付を加えたものが、再分配所得ジニ係数です。
この2種類のジニ係数を利用すれば、所得の再分配によってジニ係数が改善されたかどうかを確認できます。
ジニ係数の計算方法
ジニ係数の値は、ローレンツ曲線と均等分布線で囲まれた部分面積を(a)、均等分布線より下の三角形の面積を(b)として(a)÷(b)の計算式で値を求められます。
ジニ係数の値は0から1の間を推移し、0に近づくほど格差が大きく、1に近いほど所得格差が大きい状態です。一般的に、ジニ係数が0.5を超えると所得格差がかなり大きい状態とされており、なんらかの是正が必要になります。
所得の再配分によるジニ係数の改善度を見たい場合は(当初所得ジニ係数 - 再分配所得ジニ係数)÷当初所得ジニ係数を算出して、100をかけて割合を出します。ジニ係数の改善度が大きいほど、所得の再分配により格差が是正されていると考えられます。
参照:ジニ係数|証券用語解説集|野村證券
ジニ係数による、日本と世界の格差
ここからは、ジニ係数を用いて、日本と世界の所得格差の現状をみていきましょう。
参照:子ども6人に1人が 極度の貧困で暮らす ユニセフと世界銀行による分析|日本ユニセフ協会
日本のジニ係数の推移
日本では、1990 年以降の推移を見ていくと、当初所得ジニ係数は右肩上がりで上昇傾向にあることがわかります。2017年のジニ指数は0.5594。格差は深刻になりつつあります。当初所得ジニ係数が上昇した理由として、非正規雇用者の拡大や高齢化、単独世帯の増加などによる世帯の小規模化が挙げられています。
その一方で、再分配所得ジニ係数は、1999年以降からほぼ横ばいです。2017年の再分配所得ジニ係数は0.3721まで改善され、所得の再分配によるジニ係数の改善度は33.5%となりました。このことから、公的年金をはじめとする社会保障による再分配が一定の効果をあげていることがわかります。しかし、経済格差は依然として存在しており、根本的な解決が求められています。
出典:図表1-8-9 所得再分配によるジニ係数の改善の推移|厚生労働省
日本と世界の所得格差
2017年にOECD(経済協力開発機構)のデータをもとに、厚生労働省が作成したグラフによれば、ジニ係数は全体的に見ると緩やかに上昇し、先進諸国でも所得格差は拡大傾向にあります。
アメリカのジニ係数は0.35以上となっており、世界の先進国のなかでは最も高い水準です。続いてイギリス、日本、イタリア、ニュージーランド、カナダはジニ係数0.3以上で、所得格差の大きい国といえるでしょう。日本はアメリカ、イギリス、カナダなどのアングロサクソン諸国に比べれば、格差の拡大は緩やかではあるものの、貧困が問題化しつつあることがわかります。
【OECD主要国のジニ係数の推移】
出典:図表1-3-1 OECD主要国のジニ係数の推移|平成29年版厚生労働省白書−社会保障と経済成長−|厚生労働省
世界では子どもの6人に1人(3億5600万人)が極度に貧しい生活を強いられ、満足に食事にありつけない状態に陥っています。特に貧しいとされるのが、サハラ砂漠以南のアフリカの子どもたちです。
下のグラフはアフリカ主要国のジニ係数の推移です。アフリカの多くの国ではジニ係数が高止まりになっています。特に南アフリカのジニ係数の高さが顕著で、2002年以降は0.6以上が続いている状態です。
ジニ係数は0.4以上が警戒ラインとされており、その数値を超えると騒乱や暴動が起きやすいといわれています。0.6以上である南アフリカはいつ暴動が起こってもおかしくない状況にあるといえるでしょう。一方、エチオピアでは、1997年以前のジニ係数は0.4を上回っていましたが、1999年以降は0.3台を維持しており、所得格差が縮小したことがわかります。
【アフリカ主要国のジニ係数推移】
出典:第Ⅰ-4-5-1-3図 アフリカ主要国のジニ係数推移|第5節 アフリカ:通商白書2017年版|経済産業省
ジニ係数を利用する際の注意点
ジニ係数やローレンツ曲線は、数値の比較によって格差の大小を判断できる便利な指標です。ただし、ジニ係数は相対的な変化しか表せないという欠点があります。
たとえば、所得が200万円のAさんと500万円のBさんがいるとしましょう。数年後に、2人の所得がそれぞれ2倍になり、Aさんは400万円、Bさんは1,000万円の所得を得ました。この場合、ジニ係数は変化しません。しかしながら、所得格差は300万円から600万円に広がっています。
ジニ係数は所得が同比率で変化したときには、格差の測定が難しくなります。こうしたジニ係数の性質を理解したうえで活用することが大切です。
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まとめ
経済的な格差や不平等は、現代社会が抱える大きな問題です。SDGsの目標にも掲げられており、世界各国が協力して早急に解決することが求められています。
所得格差を表す指標の一つにジニ係数があります。ジニ係数は、統計データさえあれば誰でも簡単に計算できるため、所得格差などを分析する際によく活用されています。ジニ係数は0から1の値をとり、係数が1に近づくほど所得格差が拡大している状態を表します。
2017年の日本のジニ係数は、当初所得で0.5594、再分配所得では0.3721でした。他の国と比較すればその拡大は緩やかではあるものの、格差が広がっているのは確かです。格差社会の根本的な解消は容易ではありません。まずは、日本や世界の所得格差の現状を正しく理解し、自分たちに何ができるのかを考えてみましょう。
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この記事を書いた人
正木友実子
福岡在住。大学を卒業後、大手食品メーカー勤務を経て、異業種のライターへ転身。求められている情報をわかりやすく伝えることがモットー