ハウジングファーストとは?取り組みの内容や課題について解説
最低限のプライバシーが守られる空間の確保は、人々の日常生活にとって欠かすことができないものです。しかし、日本では個人の空間を確保できず、路上で暮らしている人々もいます。憲法において「健康で文化的な最低限度の生活」を保障しているにも関わらず、なぜこのような問題が起きてしまうのでしょうか。これには、「生活保護制度」が路上生活者を救済するシステムとして、上手く機能していないことが関係しています。
そこで、これらの問題を解決するため、民間の団体では「ハウジングファースト」と呼ばれる、ホームレスの人々をサポートする新しい取り組みを進めています。
本記事では、ハウジングファーストの内容や歴史、行政の行う支援制度との違いや支援の流れ、普及に向けての課題について解説します。
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ハウジングファーストとは?
ハウジングファーストとは、「住む場所を失った人々に対して、安定した住まいの提供を最優先に行うべきである」という考え方です。日本の路上生活者は年々減少していますが、まだまだ取り残されている人々がいる状況は続いています。路上生活者の減少に向けた取り組みが進むなかで、生活保護制度からこぼれ落ちてしまった人々に対する支援活動が必要です。
そこで、路上生活者の支援に取り組む民間団体によって、「医療と福祉支援が必要な生活困難者が地域で生きていくことができる仕組みづくり・地域づくりに参加すること」を理念とした「ハウジングファースト東京プロジェクト」が始動しました。
ハウジングファーストに基づく支援活動では、無条件でのアパート提供を行ったうえで、「精神科医」「看護師」「ソーシャルワーカー」「ピアワーカー」などと連携し、対象となる人々の生活を支えていくという手法がとられています。
参考:ハウジングファースト東京プロジェクト | 国際協力NGO 世界の医療団 (mdm.or.jp)
ハウジングファーストの理念
「ハウジングファースト東京プロジェクト」によると、ハウジングファーストは以下のような考え方に基づいた取り組みであると示されています。
- 住まいは基本的人権
- すべての利用者への敬意と共感
- 本人の選択と自己決定
- 利用者との繋がり
- 地域に分散した住まい、独立したアパート
- 住まいと住まい以外の支援を分ける
- リカバリーオリエンテーション
- ハームリダクション(※)
上記の考え方からも分かるように、ハウジングファーストは、あくまでも個人の意思を尊重し、本人のペースやスタイルで安定した生活と地域社会への復帰を目指す取り組みです。他の支援制度とは違い、決められたレール上を進むだけの制度ではない点が、ハウジングファーストの大きな特徴といえるでしょう。
ハウジングファーストの歴史
ハウジングファーストは、1960年代に北欧諸国で行われていた、健常者と障がい者が同じ地域で暮らすノーマライゼーションが元になっている取り組みです。北欧での取り組み事例を参考にして、1990年代にニューヨーク市の民間組織が行った、「路上生活者に個別の住居を用意し、支援を行いながらの生活を目指す取り組み」が、最初のハウジングファーストへの取り組みであるといわれています。最初のハウジングファーストがアメリカで実施されて以降、この取り組みは諸外国に波及しました。
日本では、2010年4月に3つの民間団体によって「東京プロジェクト」と呼ばれるハウジングファーストへの取り組みが開始されました。「東京プロジェクト」は、「池袋周辺と他の地域でホームレス状態にある人の医療・保健・福祉へのアクセスの改善、そして精神状態と生活の回復」を目的としており、生活困難者が地域で生活できる仕組みづくりや、地域づくりに取り組んでいました。その後、2016年にプロジェクト名称を「ハウジングファースト東京プロジェクト」に変更し、現在は7つの団体によって、さまざまな支援活動が行われています。
参考:日本都市計画学会 都市計画論文集 No44-3 (PDF)
「行政支援」と「ハウジングファースト」の違い
日本政府が実施している路上生活者への「行政支援」と「ハウジングファースト」には、根本的に大きな違いがあります。行政が行っている路上生活者への支援では、施設などで共同生活を送り、さまざまな課題をクリアした人のみが、アパートに移り個人での生活空間を確保することが許可されます。つまり、行政の支援制度では、あくまでもスタートは共同生活であり、最終的なゴールとして個人での生活を確保できる点が特徴です。しかし、路上生活者のなかには障がいを抱えている人もおり、共同生活自体が困難であるケースもあります。行政による一律での支援では、路上生活者一人ひとりの事情に配慮することは困難な状況にあり、ドロップアウトする人が存在しています。
一方で、ハウジングファーストは個人での暮らしをスタートとしており、その後の生活に関わるサポートを行うため、共同生活が困難な人でも支援を受けることが可能です。また、行政支援では大型施設の建設などに莫大な費用が掛かりますが、ハウジングファーストは既存の空き住宅を有効活用する仕組みのため、コストを削減できるとの研究結果もあります。
路上生活者の現状
2022年1月に厚生労働省が行った「ホームレスの実態に関する全国調査」によると、3,448人が路上で生活しているとの調査結果が出ています。ホームレス自体は前年から376人減っており、全体的には減少傾向にあるといえるでしょう。
出典:厚生労働省 ホームレスの実態に関する全国調査(概数調査)結果について(PDF)
しかし、日本におけるホームレスの対象は、「都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる者」とされているため、住宅を持たない人々全員を含んでいるわけではありません。ネットカフェ難民や知人宅で暮らす人など「見えないホームレス」の数は調査対象に含まれておらず、日本には調査結果以上のホームレスがいると考えられます。
また、今回の調査ではホームレスの8割弱が都市部で生活しているとの結果が出ており、国全体での施策だけではなく、都市単位でも何らかの支援活動を行っていく必要があります。
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「ハウジングファースト東京プロジェクト」による支援の流れや活動内容
「ハウジングファースト東京プロジェクト」では、参加する各団体がそれぞれの分野において支援活動の役割を担うことで、路上生活者の安定した生活へのサポートを実施しています。ここでは、「ハウジングファースト東京プロジェクト」による支援の流れや参加団体の活動内容を見ていきましょう。
支援活動の流れ
2013年より「ハウジングファースト東京プロジェクト」に参加している訪問看護ステーションKAZOCによると、以下のような流れで路上生活者への支援活動が行われています。
1. 生活相談
炊き出しや夜回りの場に医療や生活について相談を受けるブースを出すことで、「路上生活を辞めるための支援を受けたい」「路上生活が辛く、体調が悪化している」など路上生活者の思いを聞きます。
2. 生活再建
支援を希望する路上生活者に対して、各支援団体が運営しているアパートを紹介します。その後、本人が自ら選択したアパートに入居し、個人の生活空間を確保。定期的にアパートへ相談員が訪問し、生活保護の申請支援や医療機関と連絡を繋げる活動を行うことで生活の再建をサポートします。
3. 生活維持・継続
医療機関と繋がることで、訪問介護などの医療サービスが利用できるようになります。健康的な暮らしの確保は、安定した生活の維持や継続へと繋がります。
4. 日中活動
商店街や学校・企業などと連携し、ボランティアなど地域と繋がるための活動に参加できる環境づくりを行うことで、社会への復帰をサポートします。
参考:ハウジングファースト東京プロジェクト | 訪問看護ステーションKAZOC(かぞっく)
各団体の役割について
「ハウジングファースト東京プロジェクト」に参加している団体は、支援活動において、それぞれの役割を担っています。ここでは、各団体の役割について紹介します。
「世界の医療団・日本」
「世界の医療団」は、医療ボランティアの派遣活動や、医療途上国における医療人材育成や技術移転などを行っている団体です。「世界の医療団・日本」はハウジングファーストの運営全体に関わっており、以下のようなさまざまな役割を担っています。
- リハビリプログラム(日中活動):路上生活者が住居に住んだのちの居場所を確保するための活動。料理や手芸・農業体験などグループ活動の参加機会をつくり、対象者の社会性の回復を図ります。
- ファーストアプローチ(生活相談):夜回りや炊き出しなどの場で路上生活者と関わりを持ち、ニーズを聞き出す。
- ケアマネジメント(生活維持・継続):対象者が求めているサポートの内容を判断し、行政や医療につなぐ活動。
- 医療保健活動(生活維持・継続)(生活相談):医療機関での診察・訪問看護の実施や、炊き出し・夜回りの場での医療相談活動。
- アドボカシー:行政機関への働きかけや、教育機関・研究機関などでの講演による普及活動。
- 支援者支援:ハウジングファーストへの協力者を対象とした、勉強会や研修・視察や個別カウンセリングなどの実施。
世界の医療団は、さまざまな方面から路上生活者の社会復帰を目指した活動に取り組んでいます。
団体HP:国際協力NGO 世界の医療団
「TENOHASI」:夜回り・炊き出し・生活サポート
「TENOHASI」は、困っている人がいれば誰かが手を差しのべる地域社会の実現を目指し、2003年に設立された団体です。炊き出しや夜回りなどの生活相談活動や、以下のような生活応援活動を実施しています。
- シェルター運営
- 申請同行
- 医療支援
- アパートの転居手続き・訪問と生活支援
- 日中活動支援
「すべての人に安心できる居場所を」という思いをもとに、これらの支援活動を行うことで、人が生きる場所づくりに取り組んでいます。
団体HP:特定非営利活動法人 TENOHASI – 池袋で、ホームレス状態の方々と出会い、つながり、安心できる生活を取り戻すお手伝いしています。私たちのつないだ手に、あなたの「手」も添えてくださいませんか?
「訪問看護ステーションKAZOC」
「訪問看護ステーションKAZOC」は、「精神障害があっても地域で生活し続けることを支援する」を目的とし、2013年に設立された企業です。設立と同時に「ハウジングファースト東京プロジェクト」に参加しており、積極的に路上生活者支援に取り組んでいます。主に精神疾患を持つ対象者への訪問看護を実施しています。
池袋あさやけベーカリー
豊島区要町にある「池袋あさやけベーカリー」は、路上での生活を経験した方々がオープンしたパン屋です。夜回りなどで配るためのパン作りを行う役割を担っており、「パン作り」を通じてホームレスの人たちの社会復帰に貢献しています。
「一般社団法人つくろい東京ファンド」
一般社団法人つくろい東京ファンドは、「市民の力でセーフティネットのほころびを修繕しよう!」をキーワードとして、複数の支援団体が集まり設立されました。当団体は、2016年に「ハウジングファースト東京プロジェクト」に参加しており、路上生活者への住まいの提供を行っています。2014年には、東京都中野区内にあるビルを改装し、生活困窮者のための個室シェルター「つくろいハウス」を開設しました。路上生活者の安定した住まいを確保することで、地域で暮らしていけるための支援を行っています。
団体HP:つくろい東京ファンド | 市民の力でセーフティネットのほころびを修繕しよう! (tsukuroi.tokyo)
「ゆうりんクリニック」
「ゆうりんクリニック」は、世界の医療団の東京プロジェクト担当医師である、西岡誠医師が院長を務める病院で、路上生活者の診療や訪問医療・福祉相談の役割を担っています。当医院は、「使いやすい、モノが言いやすい医師・病院」を目指しており、路上生活者へのサポートだけでなく、路上生活者の支援をするソーシャルワーカーが利用しやすい病院づくりに努めています。
「ハビタット・フォー・ヒューマニティ」:住まいの修繕と管理
「ハビタット・フォー・ヒューマニティ」とは、「誰もがきちんとした場所で暮らせる世界」の実現を目指して、1976年アメリカで発足した国際NGO団体です。「東京プロジェクト」では、路上生活者向けである住まいの修繕や管理の役割を担っており、より多くの人々が安心して暮らせる環境づくりに取り組んでいます。
団体HP:ハビタット・フォー・ヒューマニティ・ジャパン (habitatjp.org)
ハウジングファーストの課題
路上生活者一人ひとりの事情に配慮し、支援活動を行う「ハウジングファースト」ですが、広く普及させるためには、以下のようなさまざまな課題が残っています。
活動資金の問題
支援団体の主な活動資金は、クラウドファンディングなどの寄付を基にしているため、資金確保が安定していません。支援団体のみでの活動には限界があるため、行政との連携が不可欠です。
ニーズの多様化
路上生活者には、それぞれの事情があり、必要としているサポートも千差万別です。ハウジングファーストでは個人の意思を尊重したサポートを行いますが、現状の団体だけでは、すべてのニーズに答える完全なサポートが難しいため、今後多くの支援団体に参加してもらう必要があります。
認知度の低さ
ハウジングファースト制度自体の認知度が低いため、制度自体を知らない路上生活者がまだまだいます。多くの路上生活を支援するため、まずは制度自体の認知度を高めていく必要があります。
空き住宅の不足
ハウジングファーストによる支援には、空き住宅の確保が不可欠です。不動産オーナーなどにハウジングファースト制度の目的や取り組み内容を理解してもらうことが、空き住宅の確保へと繋がります。
時間が必要
一人ひとりのニーズに答えるハウジングファーストでは、路上生活者が社会に復帰するために長い時間が必要です。ひとりに対して長時間を掛ける仕組みであるため、多くの支援者を確保しなければ、支援活動を成功させることは難しいでしょう。
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まとめ
路上で生活を送る人々を減らすための新しい取り組みとして、ハウジングファーストには大きな期待が寄せられています。日本では民間団体による「ハウジングファースト東京プロジェクト」が行われており、日々路上生活を支援する、さまざまな活動が行われています。しかし、このプロジェクトは寄付などによって行われているため、行政との連携や人々の理解を深めなければ継続が非常に困難です。
さまざまな環境が悪化していくなかで、今後サポートを必要とする人々は増加する可能性があり、「ハウジングファースト」の早急な普及と、取り組みの拡大は不可欠と言えるでしょう。ハウジングファーストを普及させるためには、一人ひとりが路上生活者の抱える問題に関心を寄せる必要があります。
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