環境

マテリアルフットプリントとは?意味やSDGsとの関係を解説

「マテリアルフットプリント」という言葉をご存じでしょうか。私たち人間の暮らしが環境に与えている負荷を把握するための指標の一つで、世界中で取り組みが広がるSDGsにも深くかかわっています。

本記事では、まずマテリアルフットプリントの意味、SDGsとの関係、世界と日本の現状を解説します。さらに、天然資源はいつまで採れるのか、持続可能な天然資源の使い方、資源の有効活用に取り組む企業の事例と、私たちにできること、マテリアルフットプリント以外の「〇〇フットプリント」についても紹介します。

 

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マテリアルフットプリントとは

マテリアルフットプリントとは、その国のニーズを満たすために採掘された天然資源の量のことです「原料」「材料」「資材」などの意味を持つマテリアル(material)と、「足跡」「占有領域」などの意味を持つフットプリント(footprint)の2つの英単語から成る言葉で、それぞれの頭文字をとって「MF」と呼ばれることもあります

マテリアルフットプリントは、金属鉱物、非金属鉱物、化石燃料、バイオマスの4種類に分けられ、これらを合計したものがその国の総マテリアルフットプリントとなります。単位は、重さのt(トン)で表されます。

 

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SDGsとマテリアルフットプリントの関係

SDGsのグローバル指標の一つに、「マテリアルフットプリント(MF)及び一人当たり、GDP当たりのMF」がありますグローバル指標とは、各国のSDGsの進捗状況を測定するためのもので、全部で247定められてます(重複を除くと231)

参考:総務省|政策統括官(統計制度担当)|持続可能な開発目標(SDGs)

前述のグローバル指標は、SDGsの目標8「働きがいも 経済成長も」のターゲット8.42030年までに、世界の消費と生産における資源効率を漸進的に改善させ、先進国主導の下、持続可能な消費と生産に関する10年計画枠組みに従い、経済成長と環境悪化の分断を図る」、及び目標12「つくる責任 つかう責任」のターゲット12.22030年までに天然資源の持続可能な管理及び効率的な利用を達成する」を測定するためのものです(グローバル指標8.4.112.2.1)。

参考:指標仮訳 | 総務省(PDF)

なぜ、SDGsにこのようなターゲットが掲げられているのでしょうか。ここで、天然資源を持続可能な形で利用しないとどうなるかを考えてみましょう。

天然資源には限りがあります。現在私たちは天然資源を消費しすぎており、このままのペースでいくと早い段階で枯渇してしまう可能性があるといわれています。さらに、資源の採掘や精錬作業により、地表の破壊、水質汚濁、大気汚染、土壌汚染、捨石・不要鉱物の発生など、環境にも大きな負荷がかかっています。

持続可能な世界を実現するためには、天然資源を適切に管理し、効率的に利用していかなければならないのです。

SDGs目標12についておさらい

ここで、持続可能な生産と消費のパターンの確保を掲げている目標12「つくる責任 つかう責任」についておさらいしておきましょう。

産業革命以降、日本を含む先進国は、大量生産・大量消費により経済を成長させ、生活の利便性を向上させてきました。しかしこれにより、環境汚染、地球温暖化、途上国の貧困・飢餓、経済格差の拡大、資源の奪い合いによる紛争など、世界でさまざまな問題が生じています。目標12は、これまでの生産と消費のあり方を見直し、これらの問題を解決することを目指しています

目標12が掲げる「持続可能な生産と消費」とは、生産と消費による環境負荷を最小化しつつ、すべての人の生活の質を向上させることを意味します。これを実現するには、生産と消費にかかわるすべての主体が目標達成に向けて取り組む必要があるのです。

目標12には、全部で11のターゲットが掲げられています。詳しくは、こちらの記事をご覧ください。

SDGs目標12「つくる責任 つかう責任」の概要と取り組みをわかりやすく解説

世界と日本の現状

資源の掘削量及び消費量は拡大し続けています。環境省の「平成29年版 環境・循環型社会・生物多様性白書」によると、世界の年間物質採掘量は、1970年の220万トンから2010年には700万トンまで増加しています

また、経済成長が著しいアジア太平洋地域の一人当たりのマテリアルフットプリントは、1990年から2010年にかけて急激に増加しています。現在マテリアルフットプリントが低い開発途上国も、発展に伴い今後は増加していくことが予想されています。

参考:環境省_平成29年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 状況第1部第1章第2節 SDGsの各ゴールの関係と世界の現状

また、国連が毎年発表しているSDGs報告書では、以下のようなデータも示されています。

持続可能な生産と消費のパターンを確保するためには、まずはマテリアルフットプリントが高い先進国が大量生産・大量消費型のライフスタイルから脱却し、そのノウハウを開発途上国にも普及させていかなければなりません

天然資源はいつまで採れるのか

私たちが普段当たり前のように消費している天然資源は、あとどれくらい地球に残されているのでしょうか。まずは、環境省の「平成23年版 環境・循環型社会・生物多様性白書」から、2009年時点のベースメタル、レアメタルの可採年数を紹介します。

 

資源名

可採年数

ベースメタル

鉄鉱石

70年

銅鉱石

35年

亜鉛鉱

18年

20年

スズ

18年

19年

20年

レアメタル

チタン

128年

マンガン

56年

クロム

15年

ニッケル

50年

コバルト

106年

ニオブ

47年

タングステン

48年

モリブデン

44年

タンタル

95年

参考:平成23年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 – 環境省

次に、経済産業省資源エネルギー庁のホームページから、化石燃料の可採年数を紹介します。

資源名

可採年数

石油

53.5年(2020年時点)

天然ガス

48.8年(2020年時点)

石炭

139年(2021年時点)

参考:第2節 一次エネルギーの動向 │ 令和3年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2022) HTML版 │ 資源エネルギー庁

なお、2009年の化石燃料の可採年数は、石油が46年、天然ガスが63年、石炭が119年でした。技術の向上や調査活動で新たに天然資源が見つかることもあります。また、生産量によっても可採年数は変わってきますが、「限りがある」ことには変わりはありません。

持続可能な天然資源の使い方とは(対策)

持続可能な生産と消費のパターンを確保するためには、「どうすれば製品のライフサイクル全体で資源とエネルギーを効率的に使えるか」という視点を持つことが重要です。

たとえば、資源利用の上流(製造、使用)では、製品のエネルギー効率やリサイクル性の向上、環境配慮設計やエコデザインといった取り組みが求められます。そして、資源利用の下流(使用後)では、廃棄物の発生抑制や、再使用、再資源化、適正処理に取り組む必要があります

また、世界全体のマテリアルフットプリントを抑えるために、拡大生産者責任(EPR)の考え方を開発途上国に普及させていくことも大切ですEPRとは、「生産者は、製品の製造・使用の段階だけでなく、使用後に廃棄物となった後まで責任を負う」という考え方です。

資源・エネルギーの有効利用に取り組む企業の事例

製品のライフサイクル全体での資源・エネルギーの消費量を減らすためには、企業の取り組みが欠かせません。ここからは、資源やエネルギーの有効利用に取り組む企業の事例を2つ紹介します。

1.キリンホールディングス株式会社

食、医療、ヘルスサイエンスと幅広い領域で事業を展開しているキリンホールディングス株式会社。「2050年までにバリューチェーン全体の温室効果ガス(GHG)排出量をネットゼロにする」という目標を掲げ、さまざまな気候変動対策に取り組んでいます。

製造工程でのエネルギー効率を高めるため、キリンビールの5つの工場の排水処理場にヒートポンプ・システムを導入しています。空気中の熱やこれまで捨てられていた排熱を、再度利用できるエネルギーに生まれ変わらせることができるシステムです。このシステムの導入により、信州ビバレッジでは年間約970トン、キリンビール岡山工場では年間約180トンのGHG排出量を削減しています。

また、2012年からは新規導入する自動販売機もヒートポンプ式に切り替えています。ヒートポンプ式自動販売機は、冷却個室からの廃熱を利用して商品を温めることができる自動販売機です。20214月時点で、設置自動販売機の85%以上が、このヒートポンプ式自動販売機となっています。

参考:気候変動の取り組み | 環境 | キリンホールディングス

2.株式会社伊藤園

清涼飲料水メーカーの株式会社伊藤園では、「お~いお茶」ブランドをはじめとする茶系飲料製品を製造する際に排出される「茶殻」のリサイクルに取り組んでいます。

株式会社伊藤園は、ずいぶん前から茶殻を堆肥や飼料として活用してきました。しかし、販売量の増加とともに茶殻の排出量も増加してきたため、これをより有効活用するために、2000年に「茶殻リサイクルシステム」を開始しました。茶殻をさまざまな基本素材に生まれ変わらせて、それを使って新たな製品をつくるという取り組みです。たとえば、茶殻入りの名刺や封筒、ボールペン、ベンチ、畳など、さまざまな茶殻配合製品が生み出されています。

また、緑茶だけでなく、むぎ茶殻やシルバースキン(コーヒー豆の薄皮)のリサイクル方法も確立するなど、資源の有効活用に取り組んでいます。

参考:茶殻に新しい生命を与えた新ビジネス|茶殻リサイクルシステム|伊藤園

3Rで限りある資源を大切に使おう

持続可能な生産と消費のパターンを確保するためには、消費者一人ひとりが行動を変えることも大切です。Reduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル)の「3R」を、暮らしの中で意識してみましょう

Reduce(リデュース)……廃棄物をできるだけ出さないようにする

  • マイバックやマイボトルを持参して無駄な包装を断る
  • 量り売りや、簡易包装のものを選ぶ
  • 「購入」ではなく、「レンタル」や「シェア」という方法を検討してみる
  • 耐久性が高い商品を選ぶ

Reuse(リユース)……製品や部品を繰り返し使う

  • リターナブル容器に入った製品を選び、使い終わったら回収に出す。
  • 不用品はフリーマーケットに出したり、リサイクルショップに持っていったりして、次の使用者を見つける。

Recycle(リサイクル)……廃棄物を原材料やエネルギー源に生まれ変わらせる

  • 廃棄物の分別を徹底する
  • リサイクル製品を選ぶ

参考:3Rについて | リデュース・リユース・リサイクル推進協議会

他にもある「○○フットプリント」の種類

マテリアルフットプリント以外にも、近年注目を集めているフットプリントがあります。最後に、エコロジカルフットプリント、カーボンフットプリント、ウォーターフットプリントの3つの意味を紹介します。

エコロジカルフットプリント

エコロジカルフットプリントとは、人間活動により発生する二酸化炭素(CO2)を吸収するために必要な生態系サービスの総量のことです。英単語のエコロジカル(ecological)は、「生態学の」「環境にやさしい」などの意味があります。

エコロジカルフットプリントは、「人口×一人当たりの消費×生産・廃棄効率」の計算式で算出し、土地面積に変換されて、gha(グローバルヘクタール)という独自の単位で表されます

WWF(世界自然保護基金)の「生きている地球レポート2022」では、人類全体のエコロジカルフットプリントは、1970年以降バイオキャパシティ(生態系サービスの供給量)を上回り続けており、現在私たちは地球1.75個分もの資源を過剰に消費しているというデータが示されています。

参考:生きている地球レポート2022 ー ネイチャー・ポジティブな社会を構築するために ー |WWFジャパン

カーボンフットプリント

カーボンフットプリントとは、製品・サービスのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算し、製品やサービスに表示する仕組みのことです。排出量は、g(グラム)やkg(キログラム)、t(トン)などの単位で表されます

環境負荷を「見える化」することで、企業の環境問題への意識の高さを取引先や消費者にアピールすることができます。また、その情報を見た消費者が自ら低炭素な消費生活へ変革していくことも、カーボンフットプリントの狙いの一つです。

WWFとグローバル・フットプリント・ネットワーク(GFN)が共同制作した資料「地球1個分の暮らしの指標」によると、日本の一人当たりのエコロジカルフットプリントの約65%をカーボンフットプリントが占めています(2010年)。地球を守るために、一人ひとりが生活を見直していかなければなりません。

参考:地球1個分の暮らしの指標 – Global Footprint Network(PDF)

ウォーターフットプリント

ウォーターフットプリントは、製品やサービスのライフサイクル全体を通して使用される水の量のことです。単位はm3(立方メートル)やL(リットル)で表されます製品やサービスが水環境に与える影響、その国の水資源への依存度、水の汚染、枯渇のリスクの評価などに活用されている指標です。

オランダの非営利組織「ウォーターフットプリントネットワーク」(Water Footprint Network)では、ウォーターフットプリントをグリーン、ブルー、グレーの3種類に分類しています。

  • グリーンウォーター……消費された雨水(例:植物が土壌から取り込む雨水)
  • ブルーウォーター……消費された地表水、または地下水資源(例:灌漑用水)
  • グレーウォーター……水質汚濁物質を抑えるために必要な水(例:肥料や農薬による水質汚濁物質を抑えるために使う水)

参考:What is a water footprint? – Water Footprint Network

なお、ウォーターフットプリントについて詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。

ウォーターフットプリントとは?バーチャルウォーターとの違いや具体例、世界の水問題を解説

 

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まとめ

その国のニーズを満たすために採掘された天然資源の量を表す、マテリアルフットプリントについて解説しました。現在、ただでさえ先進国が資源を使いすぎている状況ですが、今後はさらに開発途上国のマテリアルフットプリントの増加が予想されています限りある資源と未来の暮らしを守るために、先進国は一刻も早く大量消費・大量生産型のライフスタイルから脱却して、持続可能な生産と消費のパターンを確保し、そのノウハウを開発途上国にも伝えていかなければなりません

本記事でもご紹介したように、マテリアルフットプリント以外にも、環境に関するさまざまなフットプリントがあります。目には見えない環境負荷を「見える化」することが、低炭素社会の実現に向けた取り組みの促進につながると期待されています。どのフットプリントも、一人ひとりが行動しなければ減らすことはできません環境問題に目を向けて、持続可能なライフスタイルに変革していきましょう

参考:SDGsゴール12をめぐって – CORE Reader(PDF)

 

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あらたこまち

この記事を書いた人

あらたこまち

雪国生まれ、関西在住のライター・ラジオパーソナリティ・イベントMC。
不動産・建設会社の事務職を長年務めたのち、フリーに転身。ラジオパーソナリティーとしては情報番組や洋楽番組を担当。
猫と音楽(特にSOUL/FUNK)をこよなく愛し、人生の生きがいとしている。好きな食べ物はトウモロコシ。

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