日本に残る差別問題とは?歴史や現状と対策について解説
世界だけでなく、日本にも歴史的に行われてきた差別問題が未だに残り続けています。すべての人が幸福に暮らせる社会を実現するためにも、差別問題は必ずなくさなければなりません。しかし、日本は差別に関する意識が世界的に低く、差別問題解消に向けた対策があまり進んでいないといわれています。
差別問題の主な原因は、「性別」「出身」「文化」などといった違いであり、その違いを理解できないことで起こるものです。差別問題を解消するためには、日本で暮らすすべての人々が差別問題の歴史や現状について学び、正しい理解を持つことが重要です。
本記事では、差別問題の歴史と現代にも残る差別問題、差別をなくすための対策事例について解説します。
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日本における差別問題の歴史
差別行為は、世界的に解決すべき社会的課題として挙げられており、未だにさまざまな人を苦しめる深刻な問題です。私たちが暮らす日本においても、差別の歴史は根深く、さまざまな理由によって差別行為が行われています。主に日本に残る差別には、以下のようなものがあります。
- 人種差別問題
- 性差別問題
- 障がい者への差別問題
- 感染症患者への差別問題
ここでは、それぞれの差別問題の歴史や現状について見ていきましょう。
人種差別問題
世界では、「人種の違い」を理由とした差別によって、さまざまな人々が被害を受けています。日本においても、以下のような「人種差別」が歴史的に存在しています。
- 部落差別(同和問題)
- アイヌ民族への差別
- 外国人への差別
世界で大きな問題となっている「人種差別」は、日本にはあまり関係がない差別問題だと思っている人も少なくないのではないでしょうか。しかし、日本においても歴史的に人種差別は行われており、他国だけの問題ではありません。
部落差別(同和問題)
日本では、食肉処理や葬儀、皮革加工などといった生物の生死に関わる仕事に就く人々を、ひとつの集落に隔離し、不当な扱いを行っていた過去があります。このような差別問題が「部落差別(同和問題)」と呼ばれている、現在もなお日本に残っている人種差別問題です。1881年、明治政府によって不当な差別的扱いを行う身分制度は廃止されましたが、差別意識は依然として残っており、特定の住所に戸籍を持っている人々は婚約時などに差別的な扱いを受けることがあります。
参考:法務省:部落差別(同和問題)を解消しましょう (moj.go.jp)
アイヌ民族への差別
アイヌ民族の人々は、北海道を中心とした地域に古くから住んでおり、独自の文化や習慣を持ち暮らしていました。しかし、明治時代に開拓が進み、多くの本土の人々が北海道に移り住むことで、当時の政府は一方的に同化政策を推し進めました。この同化政策によって、アイヌ語や狩猟の禁止、土地の強制的な取り上げなど、アイヌの人々は不当な扱いを受け、当時の差別意識が現在においても残り続けています。
参考:6 アイヌの人々の人権問題|東京都総務局人権部 じんけんのとびら (tokyo.lg.jp)
外国人への差別
日本には多くの外国人が暮らしていますが、「言語」「宗教」「習慣」などの違いから、差別的な扱いを受ける問題が増加しています。日本人ではないといった理由だけで、就職や入居、施設の利用を断られるなどの不当な扱いを受けるケースもあります。また、外国人を排斥する差別的言動(ヘイトスピーチ)も、日本における人種差別行為として、対策が求められています。
参考:日本人が知らずにしている人種差別の「正体」 | リーダーシップ・教養・資格・スキル | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)
性差別問題
日本では、男女間の不平等が古くから存在しており、今でも差別問題は解消されていません。第二次世界大戦以前は、女性の参政権が認められていなかったなど、男尊女卑社会が当然とされており、女性への性差別問題は深刻な状況にありました。現代社会においても、日本は女性差別への問題意識が低く、ジェンダーギャップ指数(※)が146カ国中116位と主要7カ国(G7)で最下位となっています。また、近年は女性差別以外にも、「男性への差別」「性的マイノリティへの差別」などが大きな問題となっており、日本はさまざまな性差別問題を抱えています。
参考:「共同参画」2022年8月号 | 内閣府男女共同参画局 (gender.go.jp)
日本における男女不平等の現状
日本における男女の不平等問題には、以下のようなものがあります。
- 男女間の賃金格差
OECDの統計によると、日本における男女間の賃金格差は24.5%と大きな差があります。この数値は、OECD諸国加盟国中ワースト2位であり、早急に改善する必要があります。
- 女性議員の割合
世界の議会では、女性議員の割合が増加しており、2022年は26.1%と過去最高となりました。一方、日本では、9.7%にとどまっており、世界的にも非常に低い水準にあります。
男女平等は、世界的に解決すべき社会的課題として挙げられており、特に対策が遅れている日本は、積極的に改善していく必要があります。
障がい者への差別問題
法律によって、障害を持つ人々の権利を侵害するなど、日本には障がい者への差別行為が公然と行われてきた過去があります。また、現代においても、障害を持つ人が職場で不公平な待遇を受けたり、店舗でのサービス拒否を受けたりするなどの差別行為が後を絶ちません。
旧優生保護法
旧優生保護法とは、1948年から1996年までの間に日本で施行されていた、「不良な子孫の出生の防止すること」を目的とした法律です。この法律では、障がい者本人の同意なしで強制的に不妊治療を行えるなど、人権を無視した行いが法的に認められていました。
参考:旧優生保護法ってなに? – 記事 | NHK ハートネット
感染症患者への差別問題
日本では、感染症を患った人々を差別し、隔離するなどの人権侵害行為が過去に行われていました。感染症患者への差別行為は、患者本人だけでなくその家族にも及ぶために、非常に深刻な差別問題です。
ハンセン病患者への差別問題
1907年に日本政府は、「癩予防に関する件」という法律を施行し、ハンセン病患者の強制隔離を行いました。この法律によって、ハンセン病は感染力が強く危険であるとの間違った理解が国民に広がってしまい、今でもハンセン病患者への差別意識が残っています。
参考:歴史から学ぶハンセン病とは? (mhlw.go.jp)
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差別をなくすための対策事例
日本では、国内にある差別行為をなくすために、さまざまな取り組みを実施しています。ここでは、差別問題解消に向けた日本政府の対策事例について解説します。
人種差別に関する対策
さまざまな人種差別問題の中でも、特に「部落差別(同和問題)」と「アイヌ民族への差別問題」は、日本固有の差別問題です。国民一人ひとりが歴史をしっかりと学び、正しく理解しておくことが必要です。
部落差別(同和問題)をなくすための対策
日本政府は、部落差別(同和問題)を国が解決しなければならない問題として「同和対策審議会答申」を1965年に発表しました。2016年には「部落差別の解消の推進に関する法律」(部落差別解消推進法)を施行しており、差別解消のための対策を進めています。
参考:部落差別をなくすのは私たち一人ひとり – 東京都人権啓発センター (tokyo-jinken.or.jp)
アイヌ民族への差別をなくすための対策
日本政府は、2007年に採択された「先住民族の権利に関する国際連合宣言」や、2009年に実施された「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」を踏まえて、アイヌ民族への差別を解消するための対策を推進しています。2019年には、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」を施行し、アイヌ民族であることを理由とした差別行為の禁止やアイヌ政策への支援措置に努め、アイヌの人々や文化を守るためにさまざまな対策をとっています。
参考:法務省:アイヌの人々に対する偏見や差別をなくそう (moj.go.jp)
外国人への差別をなくすための対策
日本は、2016年に「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(ヘイトスピーチ解消法)を施行しました。このヘイトスピーチ解消法では、「本邦外出身者」に対する「不当な差別的言動は許されない」と宣言しており、外国人への不当な扱いを禁止しています。
参考:法務省:ヘイトスピーチ、許さない。 (moj.go.jp)
女性差別に関する対策
日本では、性別による役割について固定意識が根強いため、女性の社会進出に向けた施策が必要です。日本政府は、「女性の力」を活かし「女性の輝く社会」を実現するために、以下のような法律の制定を行い、男女間の不平等を解消するための対策を実施しています。
男女共同参画社会基本法
「男女共同参画社会基本法」とは、性別に関係なく個性や能力を発揮できる社会の実現を目的として制定された法律で、以下の基本理念を定めています。
- 男女の人権の尊重
- 社会における制度又は慣行についての配慮
- 政策等の立案及び決定への共同参画
- 家庭生活における活動と他の活動の両立
- 国際的協調
この法律によって、あらゆる社会行動の中で性別による格差をなくし、利益や権利を平等に分かち合うことで、誰もが自由に社会活動に参加できる環境作りを推進しています。
女性活躍推進法
「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(通称「女性活躍推進法」)は、「女性自らの意思によって職業生活を営み、又は営もうとする女性の個性と能力が十分に発揮されること」を目的とした法律で、以下の3つを基本原則としています。
- 女性に対する採用、昇進等の機会の積極的な提供及びその活用と、性別による固定的役割分担等を反映した職場慣行が及ぼす影響への配慮が行われること
- 職業生活と家庭生活との両立を図るために必要な環境の整備により、職業生活と家庭生活との円滑かつ継続的な両立を可能にすること
- 女性の職業生活と家庭生活との両立に関し、本人の意思が尊重されるべきこと
また、女性活躍推進法では、労働者数101~300人以内の事業主に対して、女性が活躍できる行動計画を策定・公表するように義務づけています。
参考:【労働者数101人以上~300人以下の事業主の皆様へ】女性活躍推進法の改正について
男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法とは、働く人が性別によって差別されることを禁止し、平等に扱うよう定めた法律です。この法律では、募集・採用、配置や昇進などに関する男女の平等や、ハラスメントの禁止などの規定を示しており、事業主はこれらを遵守しなければなりません。
職場における性差別をなくすことで、女性が活躍できる社会を実現することも「男女雇用機会均等法」の目的のひとつです。
障がい者差別に関する対策
日本では、2013年に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(障害者差別解消法)を制定しました。この障害者差別解消法によって、「障害による差別を解消し、誰もが分け隔てなく共生する社会を実現すること」を目指し、「不当な差別的取扱い」の禁止、「合理的配慮の提供」及び「環境の整備」に努めています。また、2016年には法改正によって、国や自治体のみに義務付けられていた「合理的配慮」を、民間事業者にも義務付けました。
参考:障害を理由とする差別の解消の推進 – 内閣府 (cao.go.jp)
感染症患者への差別に関する対策
感染病患者への差別は、病気に対する正しい理解がされていないことが問題です。ハンセン病患者への差別では、政策により間違った理解が広まることで、差別問題を悪化させました。日本政府はこのような過ちを認め、以下のようなハンセン病患者への差別を解消する対策を立てています。
ハンセン病患者への差別をなくすための対策
2001年の熊本地方裁判所によって、国が行ってきたハンセン病対策が「誤っていた」との判決が出ました。この判決後に日本政府は、「ハンセン病療養所入所者等に対する補償金の支給等に関する法律」(ハンセン病補償法)を制定し、「金銭補償」と「名誉回復」「福祉対策の向上」を国の責任で行うと宣言しました。
また、2009年には「ハンセン病問題の解決の促進に関する法律」(ハンセン病問題基本法)が施行され、ハンセン病回復患者等が受けた被害の回復を目的として、以下のような対策が講じられています。
- 良好かつ平穏な生活を営むための基盤整備
- 偏見と差別のない社会の実現
- 福祉の増進
- 名誉の回復
国や地方公共団体は、ハンセン病回復者等が地域社会から孤立することがないよう取り組むことが明記されています。
参考:大阪府/ハンセン病問題を理解するために (ハンセン病回復者の被害と名誉の回復を目指して) (osaka.lg.jp)
差別をなくすために私たちがすべきこと
差別は、「先入観」や「偏見」「固定概念」によって生まれます。このような間違った意識をなくすためには、お互いの「違い」について正しく理解をすることが大切です。差別問題を解消するためには、個人の意識を変えていく、以下のような思考や行動が求められています。
- 差別問題について、家族や周囲の友人と話し合うなど、積極的に意見交換をする機会を作る
- 差別の歴史や現状について積極的に学ぶことで、「先入観」「偏見」「固定概念」などによった偏った考え方を改め、正しい知識を身に付ける
- 自身の差別意識をなくすだけでなく、差別問題解消に向けたアクションを起こす
一人ひとりが、差別解消に向けた行動を積極的に行うことで、多様性を認められる社会環境の実現に近づくでしょう。
まとめ
日本には歴史的に行われてきた差別問題があり、今もなお人々を苦しめています。このような差別問題を解消するために、さまざまな取り組みが実施され、少しずつ改善されてきてはいますが、差別をなくすには、まだまだ取り組みを強化する必要があります。また、法律などによる差別行為の規制は必要ですが、根本的に差別をなくすには、個人の意識を変えることが何よりも重要です。
国民一人ひとりが差別問題を解決しなければならないといった意識を持ち、差別解消に向けた行動を起こすことが、日本から差別問題をなくすきっかけとなるでしょう。
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