フードファディズムとは?事例や問題点、解決策を解説
テレビやネットで見かける「○○を食べれば健康になれる」「○○は体に悪い」といった情報を鵜呑みにしたことはありませんか。このような現象をフードファディズムといいます。日本では、本来食べられるはずのものを捨ててしまう「食品ロス」問題が叫ばれて久しいですが、その一因と考えられているのがフードファディズムです。食に対する健康意識が高まるなか、新たな課題として浮上しているフードファディズムについて、事例をまじえながら現状や問題点、具体的な解決策を解説していきます。
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フードファディズムとは?
ファディズムという言葉はあまり聞きなれないかもしれませんが、英語で「流行かぶれ」を意味する“faddism”を音訳したものです。フードファディズムとは、科学が立証した事実に関係なく、特定の食品や栄養(フード)が健康と病気に与える影響を過大あるいは熱狂的に評価したり、信じたりすることをいいます。
たとえば、朝食に1パックの納豆を食べるのはごく普通の食行動です。しかし、テレビ番組の「納豆を食べると痩せる」という放送内容を真に受けて、毎日10パックを食べるようになれば「フードファディズム」に陥っているといえます。そこまでいかなくとも、多くの人が似たような経験をしているのではないでしょうか。
フードファディズムの歴史
フードファディズムは1950年代にアメリカで生まれた概念です。数学者・著述家であり、科学的懐疑論者であったマーティン・ガードナー氏が自身の著書「奇妙な論理(In the Name of Science)」の中で、エセ科学の一環としてフードファディズムを紹介したのが始まりとされています。日本では群馬大学名誉教授の高橋久仁子氏が、1990年代にこの言葉を紹介し、広く知られるようになりました。
食品には大きく分けて「栄養」と「おいしさ(嗜好性)」の2つの役割があります。しかしながら、飽食・美食の時代となり、健康に不安を抱える人が増えている現代では、私たちの関心は食べ物によって健康維持や病気予防を図ることに移っています。
こうした時代背景のもと、食品に含まれる「生命活動に必須の栄養素ではないものの、疾病予防や健康維持といった効果が期待される成分」が「機能性成分」としてもてはやされるようになりました。不健康な食生活を送っていても「これさえ食べれば、健康が確約される」といった錯覚に陥っている人も少なくありません。
フードファディスムの3つのタイプ
高橋氏は、フードファディスムを3つのタイプに分類しています。
健康への好影響を騙る食品の大流行
それさえ食べたり飲んだりすれば「万病が治る」もしくは「短期間で減量できる」と吹聴される食品が大流行すること。
量の無視
その食品に含まれる「有益・有害成分」の量には言及せず、単に「○に良い」「×に悪い」と主張すること。
食品に対する期待や不安の扇動
個人の状況を考慮せず、ある食品を「体に悪い」と敵視したり、別の食品を「体に良い」と賞賛して万能薬のように扱ったりすること。
参照:食生活を惑わせるジェンダーとフードファディズム(PDF)|日本家政学会誌
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フードファディズムの事例
ここでは、実際にあったフードファディズムの事例をご紹介します。みなさんの記憶に残っているトピックスもあるのではないでしょうか。
1.寒天ダイエット説
寒天とは、海藻の一種であるテングサ(天草)やオゴノリなどの煮汁を凍結・乾燥したものです。昔から日本人に好まれてきた食品ですが、2005年 6 月にテレビ番組で「寒天で健康的に痩せられる」と取り上げたことにより、爆発的な寒天ブームが到来しました。
全国各地のスーパーマーケットや食料品売り場では、寒天ゼリーの原料である棒寒天や粉寒天に加え、同じくテングサから作られるトコロテンの品切れ状態が続出。家庭科の調理実習で使う寒天を教員が購入できないという事態にまで発展しました。
寒天メーカーは大幅な需要の増加に対応するため、思い切った増産に踏み切りましたが、ブームは1年程度で収束を迎えることに。メーカーの売上は前年を下回り、その影響でしばらく苦しむことになりました。
2.白インゲン豆ダイエット説
白インゲン豆は比較的利用頻度の低い食品です。ところが、某テレビ番組において「白インゲン豆は糖質の吸収を抑えるので、ダイエットに効果的」と紹介したことで、売切れ現象を招きました。ここまではよくある話ですが、白インゲン豆の場合、放送終了後に食中毒になる人が続出してしまったのです。
その謎は、白インゲン豆に含まれる「レクチン」という糖結合たんぱく質にありました。レクチンを十分に加熱しないで食べると嘔吐や下痢などの消化器症状を起こします。十分に熱を加えれば問題ありませんが、番組では「白インゲン豆を3分ほど煎って粉末化し、ご飯にまぶして食べる」ことを推奨していました。その程度の加熱ではレクチンを無害化させられなかったため、食中毒が発生したと考えられます。
厚生労働省の発表によると、放送終了後の2006年5月6日から 22 日までに都道府県から報告された患者数は 158名に上ります。
3.納豆ダイエット説
ある人気テレビ番組で「毎日納豆を2パック食べると痩せる」と放送したことを発端にして、全国各地のスーパーマーケットや食料品売り場で納豆が完売する現象が2週間ほど続きました。しかし、この騒動をきっかけに社内調査が行われ、放送に使われた実験データに捏造があったことが発覚。番組は打ち切りとなり、納豆ブームも終焉を迎えました。
参照:発掘! あるある大事典II』でねつ造 関西テレビ,番組を打ち切り | 調査・研究結果 – 放送研究と調査(月報)メディアフォーカス | NHK放送文化研究所
4.牛乳有害説
カルシウムを多く含み、「栄養素の宝庫」とも呼ばれる牛乳。しかし「牛乳が健康に悪い」という説はたびたび取り沙汰されています。単なる噂なのか、科学的根拠に基づいているのか気になる方も多いでしょう。
この牛乳有害説がメディアで大々的に報じられるきっかけとなったのが、2005年に出版されてミリオンセラーとなった本です。医師が著書の中で「牛乳を飲むとかえって体内のカルシウムが減る」「牛乳を飲みすぎると骨粗しょう症になる」と主張したことから、注目を集めるようになりました。
これに対し北海道大学の名誉教授らが「科学的な検証がない」と反論。日本酪農乳業協会(Jミルク)も医師に公開質問状を提出するなど、大きな騒ぎとなりました。
参照:フードファディズムはなぜ食品ロスを生み出すのか(井出留美) – 個人 – Yahoo!ニュース
5.タマネギ血糖値低下説
糖尿病のラットにタマネギからSMCSを分離・抽出し経口摂取させたところ、血糖値が低下し、高脂血症が良くなったという研究報告があります。この情報だけ耳にすると「タマネギを食べると血糖値が下がる」と思いたくなるのが自然な感情です。
しかし実際は、体重50キロの人間に置き換えると、毎日タマネギを50キロ食べねばならないため、実現するには無理があります。フードファディスムにおける「量の無視」の典型的な例といえるでしょう。
参照:食品に過大な期待禁物 脱フードファディズムを 高橋久仁子さん | WEBニッポン消費者新聞
フードファディズムの影響
フードファディズムにより、特定の商品が流行すると、生産者に過度の負担を強いることになります。商品が売れれば、農産物生産者やメーカーは需要に応えようと無理をして増産しますが、ブームの多くは一時的なものです。増産体制を整えたものの、翌年には売上が大幅に減少し、経営難につながるケースもあります。
さらに、フードファディズムは食品ロス(フードロス)を引き起こす可能性があります。フードロスとは、まだ食べられるはずの食品が廃棄されている社会問題を指す言葉です。
世界では、生産されている食品の約3分の1(約13億トン)が毎年捨てられている一方で、2021年の飢餓人口は8億2,800万人となっており、世界人口のほぼ10人に1人が満足な食事をすることができずにいます。
フードファディズムが原因で、大量に生産した商品が売れ残ってしまうと、せっかく生産・製造したのに廃棄せざるを得ません。フードロスは単に食べ物を無駄にするだけでなく、焼却時に排出する温室効果ガスによる地球温暖化や埋立地の不足など、環境に大きな悪影響を及ぼします。
参照:The State of Food Security and Nutrition in the World2022 – UNICEF DATE
フードファディズムとSDGs
フードロスの削減はSDGsとの関係が深く、日本のみならず、世界中で取り組むべき課題です。SDGsとは、持続可能でよりよい未来を築くための国際社会共通の目標で、2016年から2030年の15年間で達成すべき17の目標を掲げています。
SDGsの目標12「つくる責任つかう責任」の中で、フードロスの削減に向けた具体的な目標(ターゲット)が示されています。
- ターゲット12-3“2030年までに、お店や消費者のところで捨てられる食料(一人当たりの量)を半分に減らす。また、生産者からお店への流れのなかで、食料が捨てられたり、失われたりすることを減らす。”
- ターゲット12-5“2030年までに、ごみが出ることを防いだり、減らしたり、リサイクル・リユースをして、ごみの発生する量を大きく減らす。”
フードファディスムは、私たちの健全な食の営みを阻害し、さまざまな社会・環境問題を引き起こします。SDGsの観点から考えても、フードファディズムはマイナスの影響をもたらす危険性があり、いち早く脱却することが望まれます。
参照:12. つくる責任、つかう責任 | SDGsクラブ | 日本ユニセフ協会(ユニセフ日本委員会)
なぜフードファディズムが起きるのか?
なぜフードファディズムが起きるのでしょうか。その理由を探っていきましょう。
1.表面的な食品の過剰供給
日本の食品自給率は、世界的にみても極めて低い38%(令和元年度、カロリーベース)です。主な先進国の自給率は、カナダが255%、オーストラリア233%、アメリカ131%、フランス130%となっており、日本がいかに低水準であるかがわかるでしょう。このように危機的な状況にありながら、世界各地からの輸入で市場に食品が溢れているため「これは良い」「あれは悪い」といった選り好みができます。こうした錯覚は、時としてフードファディズムの温床となります。
2.過度な健康志向
健康でありたいと願うのは人類共通の願いです。とりわけ超高齢社会へと突入した現代の日本では、空前の健康ブームを背景に、健康寿命を伸ばすことへの関心が高まっています。健康の維持・増進に対する意欲が高いのは基本的に好ましいことですが、その一方でメディアの食情報に熱狂しすぎる人も生み出しています。
3.食料にまつわる漠然とした不安や不信
国内に正規ルートで流通している食品は、特に危険はありません。にもかかわらず、食料の生産や製造、流通に対して漠然とした不安や不信を抱いている人は多くいます。たとえば「白砂糖は危険」「精製塩は悪い」といった話を耳にしたことはありませんか。これらの噂にはっきりした科学的根拠は見当たりません。論理の飛躍や誇張、時には嘘もまじえた「食の不安情報」は一定の人気があり、消費者の注目を集めています。
4.メディアリテラシーの低さ
テレビや新聞、インターネットを通して、さまざまな食の情報が提供されています。しかし、視聴率や販売部数アップのために、嘘やハッタリも紛れ込んでいる場合があるので注意が必要です。情報の真偽を判断する能力、すなわちメディアリテラシーが求められますが「テレビで言っていたから」「ネットニュースに書いてあった」と鵜呑みにしてしまう人も少なくありません。知りたいことが何でも検索できる便利な世の中になり、自分で考えることを放棄する人もいるようです。
参照:食生活を惑わせるジェンダーとフードファディズム(PDF)|群馬大学
フードファディズムに陥らないための対策
フードファディズムに陥らないために、どのような対策を行うといいのでしょうか。普段からできる取り組みを紹介します。
1.「食」に期待しすぎない
私たちにとって食事は健康と命を支える重要なものですが、過剰なまでの期待を寄せるのは危険です。残念ながら「これさえ食べれば病気にかからない」「これさえ食べれば痩せる」といった魔法のような食べ物は存在しません。食品が健康に与える影響を過信しないことが大切です。
健康を維持するために「バランスのとれた食生活が健康維持に役立つ」という基本を抑えたうえで、自分に合った食事を選択できるように食情報を取り入れていきましょう。
バランスのとれた食生活とは、「主食」を中心に「主菜」「副菜」を組み合わせたものをいいます。ここでいう主食とはご飯やパン、「主菜」は肉や魚、卵、大豆などのたんぱく質メインのおかず、「副菜」は野菜や海藻、きのこなどです。
1日に「何を」「どれだけ」食べればよいのか迷ったら、厚生労働省が公開している「食事バランスガイド」を参考にするといいでしょう。
2.メディアリテラシーを磨く
フードファディズムが起こる原因の一つに、健康効果をあおるメディアの偏った情報発信や、過剰な広告が挙げられます。フードファディズムに陥らないためには、メディアリテラシーを磨くことが重要です。私たち一人ひとりが氾濫する情報の中から、本物を見極める目を養う必要があります。健康に関する情報を取り入れる際は、複数のニュースと比較して内容を精査することが大切です。情報ソースはどこなのか、見方が偏っていないかをしっかりチェックしましょう。
「男は仕事、女は家庭」といった性別による役割分担意識があると、物事の状況を客観的に注意深く見る目を曇らせてしまいます。たとえば「料理は妻に任せきり」と言う男性は、自分自身の健康管理を放棄しているも同然です。老若男女問わず、誰もが食を取り巻く事柄に興味・関心を持ち、知識や理解を深め、体験することが、健康な食生活を守ることにつながります。
参照:食生活を惑わせるジェンダーとフードファディズム(PDF)|群馬大学
SDGs研修・体験型SDGsイベント
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概要
- 体験を通じてSDGsを学べる親子・子ども向けワークショップ
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特徴
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- 海の環境やゴミの分別・再利用など、参加者は身近なことからSDGsを学べる
- ファミリーが高い関心を持つテーマ性のあるイベントで集客・施設周遊を促進
まとめ
マスメディアやネットから流れる膨大な量の食情報には、フードファスディズムが満ちあふれています。「血糖値を下げる」「がんの予防に効く」「コレステロールを抑える」など、新聞やテレビで目にする謳い文句に振り回されて過剰反応するのはその一例です。
フードファディズムは健康に影響を及ぼすだけでなく、SDGsでも大きく取り上げられているフードロスの原因にもなります。フードファディズムに陥らないために、氾濫する情報の中から本物を見極める目を養いましょう。
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この記事を書いた人
正木友実子
福岡在住。大学を卒業後、大手食品メーカー勤務を経て、異業種のライターへ転身。求められている情報をわかりやすく伝えることがモットー