デカップリングとは?その意味や関係する用語をわかりやすく解説
経済が成長し続けている現代社会では、「エネルギー消費量の増加」や「環境への負荷」などが深刻な問題となっています。経済が伸びるにつれ、エネルギー使用量や環境に与える影響が増加することは、一見当然のように思えます。しかし、このままの状況が続けば、多くの人々が暮らす地球に深刻な悪影響を与え、さまざまな環境問題が悪化してしまうでしょう。持続可能な社会の実現が目指されている現代社会において、環境問題への対策は大きな課題と言えます。
昨今は、「エコロジー」や「サスティナブル」「エシカル」などいったキーワードを基に、環境に配慮したさまざまな取り組みやビジネスが行われています。経済成長とともに、環境問題改善への取り組みが行われている中で、大きな注目を浴びているのが「デカップリング」という考え方です。
そこで、本記事では、デカップリングの意味や関連する用語、SDGsとの関係性について解説します。
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デカップリングの意味
「デカップリング(Decoupling)」とは、経済や農業・環境などさまざまな専門分野で使われている用語で、「分離」「切り離し」といった意味を持つ言葉です。分野ごとに何と何を切り離すのかは違ってきますが、環境分野では、「経済の成長」と「天然資源の利用」「環境影響」を切り離すことを指しています。
現代社会は、資源の大量消費に支えられた急激な経済成長が進んでおり、人々の利便性が大幅に向上しています。一方で、経済成長は環境への負荷を高め、人や地球環境に悪影響を及ぼしていることも事実です。そこで、「一定の経済成長や便利さを維持しつつも、エネルギー消費を減らしていく」といった、デカップリングの考え方に注目が集まっています。
また、急激な経済成長を遂げ、豊かな社会が広がりつつありますが、まだまだ経済成長を必要としている国は存在しています。地球上に暮らす、すべての人々が安心で安全な生活を送れる「誰一人取り残さない社会」を実現するためには、「デカップリング」に基づいた経済成長が不可欠です。
引用: 循環・廃棄物の豆知識 [環環 KannKann] – 資源循環・廃棄物研究センター オンラインマガジン (nies.go.jp)
日本におけるデカップリングの現状
日本では、1970年代の高度経済成長期まで、国内総生産(GDP)よりもエネルギー消費量が伸びていました。しかし、オイルショックを境に、省エネルギーへの取り組みが急速に普及した結果、エネルギー消費を抑制しながらの経済成長に成功しています。
実質GDPとエネルギー効率(一次エネルギー供給量/実質GDP)の推移
引用:第2部 第1章 第1節 エネルギー需給の概要 │ 令和3年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2022) HTML版 │ 資源エネルギー庁 (meti.go.jp)
また、近年はエネルギー消費量削減だけでなく、「温室効果ガス排出量の削減」や「再生可能エネルギーの割合増加」などの取り組みが進んでおり、エネルギー効率の向上とともに、環境への影響も抑えられています。
温室効果ガス排出量の推移
温室効果ガスとは、二酸化炭素・メタン・一酸化二窒素・フロンガスのことを指しており、これらは経済成長とともに、大量に排出されてきました。温室効果ガス排出量が増加することで、地球の温暖化が進み、人々の暮らしや生態系にさまざまな悪影響を及ぼしています。
日本では、2050年までに温室効果ガスの実質排出量をゼロにする「カーボンニュートラル」の実現を目指し、温室効果ガス削減に取り組んでいます。日本の温室効果ガス排出量の推移を見てみると、2014年度以降は7年連続で排出量減少に成功しており、「カーボンニュートラル」に向けて一定の成果が上がっているといえるでしょう。
温室効果ガス総排出量
引用:環境省 2020年度温室効果ガス排出量(確報値)概要(PDF)
世界におけるデカップリングの現状
各国における、GDPを産出するために必要なエネルギー消費量の推移を比較した表を見ると、欧州の主要国が「デカップリング」に取り組み、省エネルギー化に成功していることがわかります。また、欧州は環境に負荷をかけない「再生可能エネルギー」への取り組みも進んでおり、エネルギー効率だけでなく、環境面でも、大きな成果を上げています。
実質GDP当たりのエネルギー消費の 主要国・地域比較(2018年)
引用:第2部 第1章 第1節 エネルギー需給の概要 │ 令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021) HTML版 │ 資源エネルギー庁 (meti.go.jp)
再生可能エネルギーの割合
再生可能エネルギーとは、「太陽光、風力その他非化石エネルギー源のうち、エネルギー源として永続的に利用することができると認められるものとして政令で定めるもの」と定義されており、経済成長と環境影響を切り離すために不可欠なエネルギーです。欧州では、再生可能エネルギーが占める割合が非常に多く、既存の化石エネルギーの代わりになりつつあります。一方、日本では再生可能エネルギー割合は18%と先進国の中では低い水準にありますが、年々割合は増加しており、2030年度には22%から24%に達すると見込まれています。
主要国の発電電力量に占める再エネ比率の比較(2018年度)
引用:再エネ | 日本のエネルギー 2021年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」 |広報パンフレット|資源エネルギー庁 (meti.go.jp)
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デカップリングと関連する用語
経済成長を促しつつ、エネルギー効率の向上や環境負荷軽減に取り組む「デカップリング」は、さまざまな取り組みと密接に関わっています。デカップリングを正しく理解するためにも、関連する用語について詳しく知っておくことが大切です。ここでは、「資源の消費量削減」や「環境保全」に関連する4つの用語について見ていきましょう。
1. グリーンエネルギー革命
日本では、福島での原発事故による被害を踏まえ、原発推進政策から「原発に依存しない社会の一日も早い実現」へ向けた「グリーン政策」に転換しています。原子力発電は、温室効果ガスが発生しないなどのメリットがある一方で、事故による放射線被ばくリスクなどのデメリットも存在しており、持続可能なエネルギーとはいえません。日本政府は、従来のエネルギー戦略である「3E」に、安心・安全の「S」を足した、「S+3E(※)政策」や「エネルギーミックス」を促進することで、グリーンエネルギー革命の実現に取り組んでいます。
「S+3E」についてより詳しい内容や取り組みを知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
エネルギーミックスとは?「S+3E」と日本の問題を解説
グリーンエネルギー革命を実現するための5分野
日本では、グリーンエネルギー革命を実現するため、下記の5分野に対して優先的な施策を実施しています。
- 自然の恵みの最大活用
- 世界最高水準の省エネのさらなる深化
- スマートコミュニティ等による需給一体管理・効率化
- エネルギー利用の幅を広げる蓄電池
- 世界をリードするグリーン部素材
「省エネルギー化」や「グリーンエネルギー・クリーンエネルギーの割合増加」に取り組むことで、既存の主力エネルギーである原子力や化石燃料への依存度を減らし、人や環境に優しい社会の実現を目指します。
「クリーンエネルギー」についてより詳しい内容や取り組みを知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
クリーンエネルギーとは?種類ごとの特徴、現状の課題と政府の取り組みを紹介
エネルギーミックスとは
エネルギーミックスとは、火力や原子力、再生可能エネルギーなど、さまざまな発電方法を効率的に組み合わせ発電することです。日本は、輸入資源による発電に大きく依存しており、現状の電力需給構造では安定面などにリスクを抱えています。これらの問題を解決するために、無駄なくエネルギーを生産するための仕組みである「エネルギーミックス」が必要とされています。
「エネルギーミックス」についてより詳しい内容や取り組みを知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
2030年エネルギーミックス実現に向けた政府の施策を解説
2.サーキュラーエコノミー
「サーキュラーエコノミー」とは、日本語で「循環型経済」と呼ばれており、新しい経済のシステムを指す言葉です。従来は、「製造→消費→廃棄」の一方にのみ流れる、経済システム「リニアエコノミー(直線型経済)」が主流でしたが、このシステムでは多くの資源を無駄にしてしまい、持続性を保つことができません。そこで、「製造→消費→収集→再利用→製造」のように、経済を循環させ無駄な資源の消費をなくす「サーキュラーエコノミー」に大きな注目が集まっています。
サーキュラーエコノミーは、経済が発展する中で行われてきた「大量生産・大量消費・大量廃棄」のシステムを一新し、経済成長を促しながらも「環境影響」を抑えられる、新たな経済システムとして期待されています。
引用:環境省_令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 状況第1部第2章第2節 循環経済への移行 (env.go.jp)
3.ESG投資
ESG投資とは、「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」の3つの観点に考慮し、行われる投資方法です。持続可能な社会の実現が求められる中で、企業はあらゆる方面から「環境や人に配慮した経営」が求められており、ESGを意識しないことそのものが、企業経営において大きなリスクになりつつあります。また、投資家にとっても、ESGを考慮していない企業に投資することは大きなリスクです。そのため、企業はESGに配慮していなければ、資金調達面でも大きなデメリットを負ってしまいます。
企業がESGに配慮する流れが進み、ESG投資の市場が拡大することで、経済の成長を進めながらも、「天然資源の消費量削減」や「環境負荷軽減」などへの取り組みが加速していくことが期待されています。
SDGs(持続可能な開発目標)
「SDGs」とは、2015年の国連サミットで定められた、より良い社会を実現するための国際目標です。「誰一人取り残さない」持続可能な社会の実現を目指し、17ゴールと169のターゲットから構成されています。
SDGsの達成目標には、各国間における経済の不平等を解消することや、環境問題への対策、エネルギー資源の確保など、デカップリングと関連しているものが多く存在しています。SDGsの掲げる持続可能な社会を実現するためには、経済の成長を進めながらも、環境問題やエネルギー資源枯渇問題などに取り組む「デカップリング」の普及が不可欠です。
SDGsについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
SDGs17目標(169のターゲット)をわかりやすく解説。企業や個人の取り組み事例
デカップリングのために個人ができること
経済成長とエネルギー消費削減・環境保護を両立するといった言葉だけを聞くと、国や企業による大規模な取り組みが必要なように思えます。しかし、デカップリングへの取り組みは身近なところにも存在しており、大規模なものだけではありません。ここでは、デカップリングのために、個人が始められる取り組みを紹介します。
省エネ商品を積極的に購入する
家電製品や車を買い替える際には、省エネルギー製品であるかを確認することが大切です。省エネルギー商品を購入することは、経済成長に繋がるとともに、消費エネルギーの削減にも貢献できます。また、環境に優しい素材で作られたものや、必要最低限のものを購入することも、資源の無駄な消費を減らし、環境を守ることに繋がります。何かを購入する際は、その商品の作られた背景をしっかりと理解することが大切です。
リサイクル品を活用する
常に新しいものを購入するのではなく、リサイクル品に目を向けてみることも「デカップリング」への取り組みのひとつです。本来は捨てられてしまっていたものを購入することで、無駄な資源の消費を減らすとともに、経済を循環させることができます。また、リサイクル品だけではなく、捨てられてしまう可能性のある規格外野菜の購入なども、デカップリングに繋がる取り組みです。
環境問題に取り組む企業を応援する
日常品を購入する際に、環境問題に取り組んでいる企業の商品を購入することも、デカップリングへの取り組みです。取り組みをしっかりと行っている企業に支払ったお金の一部は、環境保全活動や環境に優しい製品の開発に活用されるため、経済にも環境にも良いお金の使い方といえるでしょう。また、商品の購入だけでなく、環境問題に取り組む企業への投資も、デカップリング普及に大きな効果が見込めます。
地産地消や地元での買い物を優先する
地産地消は、商品輸送などにかかるエネルギー消費を抑えるとともに、地域経済の活性化にも繋がります。また、日常品や食品を購入する際は、可能な限りネット通販ではなく、近所での買い物を行うことも、簡単に始められる「デカップリング」への取り組みです。
SDGs研修・体験型SDGsイベント
【SDGs研修】ワールドリーダーズ(企業・労働組合向け)
概要
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特徴
- 自分達の利益を追求しつつも、世界の環境・社会・経済も気にしなければならず、ビジネス視点からSDGsを感じ、考えることができる
- チームで戦略を練り様々な可能性を話し合う必要があるため、深いチームビルディングに繋がる
- 様々な選択肢の中から取捨選択して最適解を導く考え方を身につけることができる
【親子参加型職業体験イベント】キッズタウンビルダーズ(商業施設・企業・労働組合向け)
概要
- 体験を通じてSDGs目標の「質の高い教育」を学べる親子参加型ワークショップ
- 子どもが楽しみながらも本気で学べる、複数の職業体験を実施
- 会議室やホールなど企業様のイベントとしても開催可能
特徴
- あえて「映える」職業ではなくありふれた職業を選定している
- 合計で就業人口の7割を占める上位5つの職業をピックアップし、本質的な学びが得られる職業体験
- ファミリーが高い関心を持つテーマ性のあるイベントで集客・施設周遊を促進
【親子・子ども向け地域イベント】SDGsアドベンチャー(商業施設・自治体向け)
概要
- 体験を通じてSDGsを学べる親子・子ども向けワークショップ
- 子どもが本気で楽しめる複数の体験型アクティビティを実施
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特徴
- ハッピーワールドの世界観を演出することで参加者が没入感をもって取り組める
- 海の環境やゴミの分別・再利用など、参加者は身近なことからSDGsを学べる
- ファミリーが高い関心を持つテーマ性のあるイベントで集客・施設周遊を促進
まとめ
世界には、まだまだ経済の成長を必要としている国が存在しており、経済成長と、エネルギー消費や環境への影響を切り離す「デカップリング」への取り組みを普及させていくことが必要です。多くの国や企業がデカップリングを達成するための取り組みを実施しており、日本においても少しずつデカップリングが進みつつあります。
デカップリングは、環境へ配慮した取り組みと深く関連しており、さまざまな行動がデカップリングの達成へと繋がっています。経済の成長とエネルギー消費や環境負荷は切り離せるものであることを理解し、国や企業だけでなく、個人でもデカップリングへの取り組みを、無理なく始めていくことが大切です。
SDGsのはじめの一歩を支援するSDGsイベント・研修とは?
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進めるための具体的なステップを紹介!
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この記事を書いた人
SDGsコンパス編集部
SDGsコンパスは、SDGsに踏み出したい企業や自治体様の「はじめの一歩」を後押しするメディアです。SDGsの目標やSDGsの導入方法などのお役立ち情報を発信していきます。